「全くもうっ!そんな伝え方したら誰だって年配の女性だと思うに決まってるじゃないですか!」
一撃でクレスを沈めたナタリーは可愛らしくプンスカと怒っている。
クレスとしてはしっかりとナタリーのイメージを伝えたつもりだったのだが、世間的にそれは年配シスターのイメージへと繋がるらしく、未だ20代半ばのナタリーにとってはショックでしかなかったようだ。
「はい!それじゃあこれでおしまいですね?さぁさぁ、もう寝仕度をしましょう!」
手をパンパンと叩き皆を寝かせようと立ち上がると足がお土産の箱に当たった。
「・・・あら?これはまだ封が開いてませんね?」
持ち上げてみるとそこまで重さは感じない。
そこそこの大きさで軽いもの、と言えば衣類だろうか?
しかし修道服は既に受け取っている。
一体中身は何だろうと箱を開けると、そこには一着のドレスが入っていた。
ワンピースタイプのシンプルなものであるが、着る者を選びそうなワインレッドをしている。
「こ、これは・・・」
「ナタリーなら似合うと思ってよ。イツツ・・・流石に修道服だけってのは、な・・・」
クレスは頭頂部を押さえながらなんとか立ち上がる。
正直あの魔人ミレイクよりも重い一撃だった。
「き、気持ちは嬉しいですが、私はシスターですよ?こんな服貰っても着る機会なんてありません!」
第一似合いませんよぉ~、ムリムリ!なんて言って激しく首を横に振っている。
それに対してクレスもまたヤレヤレと首を横に振る。
「都会のレストランにはドレスコードってのがあるんだぜ?修道服じゃあ入れて貰えねぇよ」
「私はそんなところそもそも行きませんよ?」
こんな辺鄙な場所の孤児院に暮らしているナタリーにとって都会のレストランなど一生縁のない所だろう。
「何だ?ナタリーは一人でお留守番したいってのか?」
お留守番?彼は一体何を言っているのだろうか。
「あの、クレス・・・それはどういう・・・」
「行くんだよ、王都に、全員で」
ナタリーの思考が停止する。
きっと今ナタリーは自分史上最も間抜けな顔を晒しているだろうが、そんなことには1ミリも気が回らない。
「まぁ直ぐにとは言わねぇけどな、今は色々と物騒だし・・・」
魔人襲撃に大量のモンスター襲来と今の王都は安全とは言い難い。
貴族にも軽く喧嘩を売ってしまったし、一人でならともかく皆を連れて行くとなるともう少し間を空けたい。
「えぇぇぇっ!ほんとかよクレス兄!?」
「ボクも行けるの!?」
「あぁ行けるぞ。旨いモンも食わせてやる」
子供達は眠気を吹き飛ばして歓喜しているが、ナタリーは口をパクパクさせるだけでなかなか言葉が出てこないでいる。
「・・・わ、私は何も聞いてませんが?」
絞り出したような声でそう問いかけられたクレスは、喜ぶ子供達の顔をグルッと見回して答える。
「まぁ言ってねぇからな・・・前々から考えてはいたんだよ。こいつらも近いうちに独り立ちしていくだろ?その前に色々と見せといてやりたくてな」
ここにいるほとんどの子供達が将来の夢のためにこの孤児院を出ていってしまうだろう。
実際にクレスも復讐の為に早くして孤児院を出た。
だから知っているのだ。外で生きていくのは思っていたよりも辛く苦しいと。
冒険者だろうと料理人だろうと画家だろうと、世間から評価を受け富を得られるのは確かな力を持つ者だけ。
力なき者は世間の影に埋もれていくものなのだと。
皆がいる間に思い出を作っておいてやりたい。その気持ちも大いにある。
だが、社会に出る前の今だからこそ教えておいてやりたい。
これから子供達が挑む現実の厳しさを。
夢見る子供達には酷なことかもしれないが、本物を知っておくというのは非常に大事なことだ。
目標が具体的に定まるし意識がはっきりと変わる。
そこでやりたいことが別に出来たならそれはそれでよし。
何にしても〝そこで生きている者の姿〟を見せたいのだ。
そして出来ることならそこから何かを感じ取ってほしい。
「まぁ所謂社会見学ってやつだな」
「なんだ、そういうことですか・・・」
クレスの思いを理解しナタリーは胸を撫で下ろす。
旅の間も子供達のことを思い、将来のことまで考えてくれていたのだとつい嬉しくなる。
少々ガサツで短気なところはあるが、やはり根は優しく面倒見のいい兄貴分なのだ。
それは子供達の笑顔を見れば一目瞭然であり、クレス自身の優しいまなざしからもそれがよく感じ取れる。
「お~しお前ら、はしゃぐ気持ちも分かるがそろそろ本当に寝る準備するぞ~」
これで漸く全部のお土産を開封したので披露会はお開きだ。
クレスの号令に皆が笑顔で従い空き箱の片付けやらお土産の整理が始まる。
ナタリーは半分寝てしまっているユノを起こしながら片付けを手伝っていく。
その後自分の分のお土産を自室へと運ぶためまずは修道服を畳んでいたのだが、横に置かれているドレスが視界に入ると動きが止まってしまった。
「・・・これ、クレスが選んでくれたんですよね・・・」
ドレスを持ち上げてそう呟く。
『ナタリーなら似合うと思ってよ』
先程のクレスの言葉がもう一度脳内で再生される。
その瞬間、顔の体温がみるみる上昇していくのが分かった。
「・・・・・・・・・・・っ!!」
声にならない叫びを上げ、真っ赤になってしまっているであろう自分の顔を赤いドレスで覆い隠す。
その一連の動きを見ていたクレスは怪訝な顔をしながら横にいたクエンに尋ねてみる。
「なぁ、あれどうしちまったんだ?」
「・・・ん、きっと乙女心ってやつなの・・・」
クエンはそれだけ言うとフフッ、と笑いながら去っていってしまった。
「・・・いや分かんねぇよ!」
答えになっていないとクレスは後を追いかけていく。
周りが慌ただしく動く中、ナタリーは一人ドレスを顔に押し付けた体勢のまま動けずにいた。
「私は、シスター・・・・・でも・・・たまになら、いいですよね?」
誰にも聞き取れぬほどの声でそう呟いたナタリーの表情はドレスによって窺い知れぬが、取り敢えず嬉しいのだというのは誰の目にも明らかだった。