ユノと町に朝食を買いに行ってから2時間、軽くお茶をしたりしながら時間を潰して帰ってきた。
短い時間ではあったが皆それなりに眠れたようだ。
クマも大分薄れ顔色も良くなっていた。
「ったく面倒かけやがって・・・ほら、飯にすんぞ!」
皆が起きてくる間に買ってきた朝食をテーブルに並べておいたので後はもう食べるだけだ。
テーブルの上に並んでいるのは手軽に食べられるサンドイッチにヨーグルトソースが決め手のサラダ、さっぱりとしたオレンジの果汁水といういかにも健康志向なメニューである。
昨晩は肉をたらふく食べたので今朝は野菜多めにしてみた。
オーリーは嫌な顔をしているが別に好きでサラダなんてチョイスしたわけではない。
本当はパンに肉を挟んだバーガーやポテトフライといったジャンクなものにしたかったのだが、残念ながらブルムの町にはそういった店がなかったのだ。
◇◇◇◇◇
食事を終え、アンダーソン司祭の墓参りへ行く準備を始める。
さっぱりした朝食は寝起きには丁度よかったようで皆綺麗に完食していた。
「遅れてんだから急げよー」
まだ午前中とはいえ昨日の作業の続きも残っているので早めに向かいたい。
遅れがちなオーリーやユノを急かして先に孤児院を出る。
アンダーソン司祭の墓は教会である孤児院から少し歩いた所にある。
孤児院の裏手から数百メートル、山へと入る手前の木の陰に小さな十字架の墓石がポツンとひとつ建っている。
大した汚れもなく辺りの雑草も処理されているのはナタリー達が定期的に手入れをしているからだろう。
幾つか花が供えられており、既にアンダーソン司祭を参った人達がいるようだ。
なんだかんだで人徳があった彼を慕う人は未だ結構いるようで、墓の手入れにくると誰が参ったのかよく花が供えられているらしい。
「今年も来たぜ、じっちゃん・・・」
持ってきた花を墓石の前に供え皆で黙祷を捧げる。
クレスは孤児院で過ごした日々を思い出していた。
母が殺され悲しみと絶望に包まれていた自分を救ってくれた恩人。
自分を本当の家族のように接し、叱り、育ててくれた。
年はかなり離れているが、いつしか彼を父と思い慕うようにまでなっていた。
いや、きっと自分だけではないだろう。
ナタリーもテイラーも、ひょっとしたらユノさえもそう思っているかもしれない。
「・・・また来年来るぜ・・・・・」
去り際に墓石に手を当てもう一度冥福を祈る。
今彼が目の前にいるのならどんな言葉をかけられるだろうか。
体を大切に。皆をしっかり守ってやれ。きっと優しくそう言ってくれるだろう。
だが一番ではない。
きっと一番最初に言われるのは『馬鹿者!』だろう。
孤児院で過ごす間も旅に出てからも、最後まで復讐に生きることに反対し続けていた人だ。
帰ってくる度によく殴られていたものだが、決して見放そうとはしなかった。
司祭としてではなく一人の人間として心配してくれた彼を思えば、今の自分の生き方は親不孝と言われても仕方ない。
だが
だから・・・・・・・
「
そう笑いながら呟くクレスの横顔は少し寂しそうだった。
◇◇◇◇◇
トレス王国北東、国境に程近い街『ロドン』
真っ昼間だというのに辺りは随分と薄暗い。
空を見上げれば一面をどんよりとした分厚い雲が覆い太陽の光を遮っていた。
一雨降りそうな天気のなか、黒いマントに黒いフードを被った男が一人門を潜って街へと入っていく。
「残るはこの街だけだな・・・」
男は何かを探しているのか辺りをキョロキョロと見渡す。
「何か探し物かしら?」
そばを通りかかった白衣の女性が男へ声をかける。
振り向けば細い手足に豊満な胸、艶やかな黒い長髪に赤いメガネをかけたセクシー美女がこちらに微笑んでいる。
「物じゃなくて人だけどな」
「どんな人かしら?」
「いや、それが女ってことしか分かってねぇんだ」
参った参ったと両手を大袈裟に横に広げて見せる。
「あら、訳ありってやつなのね・・・・・それで?いったいどんな〝種族〟をお探しなのかしら?」
男の言動から普通の人間を探しているのではないと理解した女は、少し踏み込んだ質問を投げ掛ける。
「そこまで理解してて知りたがるとは・・・あんたやっぱただもんじゃねぇな」
「嫌ね、私はただの町医者よ」
被っていたフードを外し鋭い目を向けるが、女の笑顔はまったく崩れない。
動揺する素振りすら見せないということは余程自分の腕に自信があるということか。
お互いがお互いの思惑を探るように睨み合う。
「・・・・・まぁいいわ。こんなところで道草食ってるほど私も暇じゃないし」
このまま膠着状態が続くかと思われたが、そう言うなり美女は男に背中を向けスタスタと歩き出した。
「患者は増やさないでね~」
背中越しにヒラヒラと手を振りながら去っていく。
やがて路地を曲がり完全に見えなくなった。
不思議な女だった。
医者だと言う割には常人離れした高い魔力を秘めていた。
本人的にはギリギリまで抑えて完璧に隠せていると思っていたようだが、見る者が見れば分かる。
しかし敵意は感じられなかった。
警戒心だけは高かったところを見るに彼女もまた素性を隠さねばならぬ存在なのかもしれない。
だが自分が探している人物でないことは確かだ。
〝アレ〟は会えば直ぐに分かる。
「こんな所で、何をしようってんだ?・・・なぁ、魔人さんよ・・・・・」
誰に問うでもないその呟きは、灰色の空に虚しく吸い込まれていった。