Empty of the story   作:うえすぎけんしん

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第99話 銀髪の少女

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 男は町医者を名乗る美女と別れてから街中をブラブラと歩いていた。

 すれ違う人々が目的の魔人であるかどうか確認しながらゆっくりと進んでいく。

 成果がないまましばらく歩いているとあることに気付いた。

 他の街に比べて圧倒的に他種族が多いのだ。

 ドワーフにエルフ、海人族に獣人族とトレス王国と国交のある種族が粗方揃っている。

 それ自体は大した問題ではない。が気にはなる。

 いくらトレス王国と国交があるとはいえ決して友好国と言える仲ではない。

 それなのに都会で商業に励むでもなく冒険者として成り上がるでもなく、こんな辺鄙な街に居を構えているのは些か不可解である。

 いや、こんな辺鄙な街であるからだろうか。

 多くの国と国交を結び多くの国の文化を取り入れているトレス王国では、同じ分だけ他種族の受け入れも意欲的に取り組んでいる。

 国民と同じように向かい入れ国民と同じように権利を与えている。

 その甲斐あって王都は大変賑わっているし、騎士団も大幅な戦力強化に成功した。

 その一方で問題視されているのが迫害だ。

 他種族というだけで蔑視し、気味悪がり、恐れる。

 その結果居場所を追いやられる者は少なくない。

 肉体的精神的問わず暴力に訴えかけるのだ。

 ここにいるのはそういった理不尽をその身に受けた者達なのかもしれない。

 そういえばどことなく皆の顔色が暗い気がする。

 先日王都で見てきた活気とはえらい差である。

 

「・・・っと、いかんいかん。早く魔人を探さねぇと・・・」

 

 ここに暮らす人達の背景に寄っていた思考を戻すと、いつの間にか広い空間に出ていた。

 市場のようで、広場のなかに小さなテントの店が沢山並んでいる。

 飲食店も多いようでそこかしこからいい匂いが漂ってくる。

 

「これは美味しそうだ。一ついただこうご主人」

 

 何の肉かは分からないが、香ばしい匂いの串焼きを買っている少女。

 フードを目深に被っているため何の種族かは分からないが、言葉遣いから育ちの良さが感じられる。

 

「ありがとよ、また来てくんな」

 

 店主から包みを受け取った少女は店を後にして歩き出した。

 しかしその時、少女の手元からお金が一枚落ちてしまったが当の少女に気付いた様子はない。

 少額ではあるがお金はお金、落とし主もはっきりしているので拾ってあげることにした。

 

「おい嬢ちゃん、落としたぜ」

「む?私のことか?」

 

 硬貨を拾い声をかけると少女は何かを落としたという自覚がないようで首をかしげている。

 

「ほい・・・お金の管理には気を付けろよ?」

「えっ?・・・・・あっ!こ、これは申し訳ない!」

 

 差し出された硬貨を見て、羽織っているマントの内部をゴソゴソとまさぐり漸く自分が落としたのだと理解したようだ。

 

「どうもありがとうございました」

 

 硬貨を受け取るとひとつ咳払いをし、礼と共に深々と頭を下げた。

 

「では」

「あぁ、気を付けて帰れよ」

 

 再び歩き出した少女の背にヒラヒラと手を振って見送る。

 

「さて・・・」

 

 男の顔が真剣味を帯びる。

 少し溜めた後串焼き屋の店主の方をバッと振り向くと・・・

 

「串焼き一本頼む」

「へいよっ!」

 

 注文を頼んだ。

 美味しそうな匂いと空腹にとても我慢できなかったのだ。

 

「さて、と・・・今度こそ行きますか」

 

 ジューシーな串焼きを食べ終えた男は串を楊枝代わりにチッチッチッと鳴らすと少女の去った方へと歩き出した。

 結局食べてみても何の肉だったのかは分からなかったが美味しかったことだけは間違いない。

 通りの向こう側に先程の少女が小さく見える。

 

◇◇◇◇◇

 

 市場から少し離れれば人通りは一気に少なくなる。

 そこから細い路地に入れば更に人はいなくなり、十字路を二つ三つ曲がれば自分の足音以外に人の存在を示すものは一切なくなった。

 一応後ろを振り返り、誰も後をついてきていないことを確認してからひとつの家に入る。

 家と言うよりは倉庫のような内装であるこの家は所々ボロがきており、とても人が住んでいるような様子ではない。

 屋根にも床にも穴が空いており全体的に埃っぽい。

 そんな状態を気にする素振りすらなく少女は奥の部屋へと進んでいく。

 

「みんな、ただいま」

 

 紙袋を机の上に置きフードを脱ぐと、その下から美しい銀色の髪をたなびかせるメガネ美少女が現れた。

 良家の令嬢と言われても違和感がないその美貌にはどこか気品を感じさせる。

 

「姫!お一人での外出はお控えください。買い物なら私が行って参ります」

「シュバルツよ、心配しすぎじゃ・・・アナスタシアとて息抜きのひとつくらいしたかろうて」

「アステリオス殿、それは分かっておりますが・・・」

 

 奥から出てきたのは頭にターバンを巻いているシュバルツと呼ばれる若い男と、屈強な体に髭を蓄えた角が二本生えているアステリオスと呼ばれる老人の二人。

 肌は灰色、真っ赤な瞳に赤い魔紋(マナクレスト)、明らかに人ではないその姿は魔人族だ。

 腰に差した二振りの剣と両手斧といった武器を携帯している魔人二人に対して少女は丸腰、端から見れば凄い修羅場というか絶体絶命、本気(マジ)で殺される5秒前である。

 しかしその場には殺意や敵意は欠片もなく、ただアナスタシアと呼ばれる少女を気遣う優しい空気だけが流れていた。

 どうやら先程の〝ただいま〟はこの二人に向けて発せられた言葉のようだ。

 

「ありがとう、でもいいのよアステリオス、シュバルツの考えは尤もだもの・・・」

 

 そう言いながらメガネを外すと、透き通るような白い肌は灰色に、水晶のように輝く水色の瞳は真っ赤にと、魔人族特有の姿へみるみる変わっていく。

 額に現れた赤い魔紋は菱形が組み合わさって出来た花のような形である。

 地毛なのか、メガネを取っても変わらない美しい銀髪を揺らしながらアナスタシアはにっこりと笑って言う。

 

「次からはシュバルツに荷物持ちをしてもらうことにするわ」

「姫!?いえ、そういうことではなくて!」

「ワッハッハッ!そうせいそうせい!そうすれば肉も魚も好きなだけ買って来れようて!」

「アステリオス殿も煽らないで下さい!」

 

 シュバルツをからかい楽しげに笑うアナスタシアとアステリオス。

 ランプによる灯りもない薄暗い部屋が明るい雰囲気に包まれる。

 

「まったくお二人は・・・・・・・───っ!誰だっ!?」

 

 突如シュバルツは腰に差した二振りの剣を抜き臨戦態勢をとって隣の部屋の扉に向かって叫んだ。

 突然のシュバルツの行動に驚く二人だったが、それが侵入者の来訪を告げるものだと理解し、ワンテンポ遅れながらも扉から離れ臨戦態勢をとる。

 アナスタシアとアステリオスに侵入者の気配は感じとれなかった。

 この中でそれを感じとったのはシュバルツだけ、なので今この瞬間も隣の部屋に侵入者がいるというのはどうもアナスタシアには実感が湧かないでいる。

 

 沈黙が場を支配する。

 聞こえてくるのは鼓動する自分の心臓と呼吸の音だけ。

 本当は誰もいないのでは?きっとネズミか何かと間違えたに違いないと口を開こうとしたその時、扉が開いた。

 

「・・・よぉ、初めまして、だな・・・・・」

 

 黒いマントを身に纏い、腰には刀を一振り差し、長い竹串を口に咥え不適に笑う男がそこにはいた。

 

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