フェアリル・ランド   作:バハーム

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続きです。今回のサブタイトルは怒られるかもしれない…。


エピソード11 初来の王都

ラポたちが住んでいるところから、王都と呼ばれる場所へは船で向かうことが出来るそうだ。だが、そう簡単に船を出してくれるところはないという。

 

理由としては『バグに船は出せない。もし船を出せば、自分も仲間だと思われて商売にならないから』という、とんでもないものだった。

 

ダウメ一家はそれを防ぐため、大きな買い物がある時は、魔法で自分の姿を変えたりして、しのいでいるらしい。

 

ラポは魔法で髪色を黒にして、長さを肩まで伸ばし、薄化粧をし、声色まで変えて花瓶の花に耳を当てて電話を始めた。

 

「もしもし、船頭さん?悪いんやけど、王都までお願いしたいんやけど…」

 

関西弁に似た方言で、お淑やかに話しているラポ。

 

そんな彼女を、青年はハラハラしながら見守った。もし、バレてしまったら大変なことになる…と。

 

一方、ルーはまるで旅行にでも行くかのように、うきうきした気分を抑えきれずにいた。

 

「ほな、よろしゅう頼みます。…はーい」

 

ラポは電話を終えると、魔法でフード付きの服を出し「着替えなさい」と言葉をフェアリル語に戻して青年に命令した。

 

「あっ…はい」静かに言った彼は、すぐにフードをかぶった。

 

「これで、あんたは周りの連中からは、顔を認識されなくなるわ。少しの間だけ、我慢して」

 

「心配してくれてありがとう」青年は優しく笑った。

 

「なっ!?…し、心配なんかしてないわよ!あんた、私より強そううだし!?そりゃ、怪我でもされたら困るけど!」

 

いきなり顔を赤らめて、ゴニョゴニョ言っている彼女を、青年は不思議そうに眺めた。

 

「ほ、ほら!早くしなさい!」ラポに急かされ、家を出るとダウメが心配そうに見つめていた。

 

「…どうしても行くの?」

 

「うん。…お願い、ママ」

 

「駄目!…って言っても行くのが、貴女なのよね。私もついていくわ。危なくなったら、助けるから」

 

「ありがとう、ママ」

 

「親が子を守るのは当たり前よ」ダウメは静かに笑った。

 

雲一つない青空だ。木漏れ日がとても美しい。森からしばらく歩くと、目の前に大きな川があり、その傍に船着き場がある。

 

「おーい、お客はあんたらかい?」船着き場で男が、手を振りながら呼んでいる。あれが船頭だろうか?

 

がっちりとした体形で黒の半袖トレーナーに眼帯を付けた茶髪の男。髪をオールバックにまとめてカチューシャを付け、藍色のズボンの膝部分には、動物に襲われた時に出来たとされる傷があった。耳がとがっていて、エルフだと分かる。

 

「船頭さん!そうやで~!」ラポは嬉しそうに走り出した。

 

「うちら、王都は初めてやから、案内よろしゅう頼むな」と可愛く微笑むラポ。

 

「お、おう!任せときな!」

 

ラポの素なのか、それとも演技か分からない笑顔にすっかり魅了された男は、意気揚々と船を動かした。

 

「なあなあ、船頭さん。王城のステンドグラスが壊されたって話、もう聞いてはる?」

 

ラポは何か情報を聞き出そうと話を聞いた。

 

「あぁ。知ってるさ。というか、朝からその話題で王都はごった返しさ。俺たちの女神様を傷つけるとは、罰当たりなやつがいたもんだぜ」

 

船頭はやれやれと呟いてため息をついた。

 

「今まででこんなん、無かったやんなぁ」

 

「当たり前さ。全く、これで客が来なくなったら、商売あがったりだぜ…ったっく」

 

船頭は舌打ちした。

 

「ホンマやなぁ」

 

「お嬢さん方、ここらじゃ見掛けねぇな。乗せてて何だが、今の王都は、観光にはお勧めできねえよ。バグが現れたからな…」

 

「また、その話かいな…」

 

ラポは、本当にうんざりした声を出した。

 

「邪神の使い魔なんざ、この国にはいらねぇよ…」船頭はそれきり何も言わなくなった。

 

これがこの世界の現実…。青年は唇をかみしめた。

 

川から北上した船は海へと出て、幅が一気に広くなった。街並みも小さくだが見えている。川沿いに高い建物が見える。旗のようなものもあり、何かの店なのだろうか?

 

「着きましたぜ、お嬢さん方。ここがフェアリル・ランドの心臓部でさぁ」

 

青年は顔を上げた。船着き場の入り口に大きな門が見えた。

 

ラポは礼を言って、金を倍以上渡し、船頭を驚かせた。

 

「い、良いのか!?こんなに!?」

 

「楽しませてくれたお礼や。お・れ・い」

 

ラポがウインクすると、船頭は感激して戻って行った。

 

「さぁ、行きましょうか」

 

横一列に門前に立って見上げる四人に、ラポは静かに言うのであった。

 

 

 

                    ※※※

 

 

 時間は大体午前11時くらいだった。門は常に開いていて、ルーが言ったとおり、様々な種族が行き来していた。市場が両隣にたくさん並んではいるが、客も店主も全員が沈んだ表情をしていて、生気が感じられなかった。

 

「何というか、皆暗いね」青年はラポに向かって話した。

 

「皆、ステンドグラスが壊されたことが、ショックなのよ。早まった行動をしないと良いんだけれど。とにかく、少しでも情報を集めるわよ。ステンドグラスが壊された日と、その時誰か怪しい奴がいなかったか、徹底的に聞きこむの。良いわね?」

 

ラポの号令に他の三人は「了解」と答えた。

三人は少しでも情報がないか、手掛かりを探すため、買い物をしながら聞き込みをして回った。

 

しかし、有益な情報は出てこなかった。人が集まる酒場で話を聞けば、女に飢えているのであろう客の男たちに、三人が口説かれそうになったり、体目当ての別の男に、ラポがドロップキックをかまして、青年がそれを止めたりと大変だった。

 

市場で金を渡されて買い物をしていた青年は、情報を聞き出そうとしたが、顔が分からない奴に売る物と話すことは無いと追い返され続けた。

 

「なかなか上手くいかないね…」

 

「まだまだこれからよ」ラポは拳を握り締めた。

 

すると建物の中から叫び声と同時に、男が一人彼らの目の前に飛び出してきた。

 

「な、何!?どうしたの!?」

 

ラポが声をかけると、彼は震えて彼女の足にしがみついて、「た、助けてくれ!殺される!」と叫んだ。

 

「殺される?誰に?」

 

ラポは男に尋ねた。彼は震える人差し指で、今自分が飛び出してきた玄関を指した。

 

促されて彼らも見てみると、足を引きずる音がして、ステッキを持った女性が、ニタニタ笑いながら顔を出した。

 

「あんたね、彼が嫌がってるわよ。何があったか知らないけど、止めなさいよ」

 

ラポは冷静に言った。しかし、女性は聞く耳を持たず、彼女に向かって突っ込んでくる。

 

「ラポちゃん!危ないっ!」

 

青年が叫ぶと同時に、ラポはステッキを引き抜いて、彼女の喉に向けて刃を見せた。

 

同じように、女性もラポの喉に刃を見せて、威嚇している。まさに相打ちだった。

 

「貴女…邪魔するつもり?」女性が初めて口を開いた。

 

「こんな大通りで、そんな物チラつかせちゃダメよ。何があったか、話してみなさい。出来る限り協力するわ」

 

「…バグが私にお説教?面白いこと言うのね?」

 

「冗談を言ったつもりは、毛頭無いわ」

 

二人はどちらも引くことなく、にらみ合いを続けていたが、どこからか笛の音が聞こえると、女性の方が刃をステッキに収め、ため息をついた。

 

銀色の鎧を付けた男が馬にまたがり、部下を引き連れながらこちらに歩いてきた。

 

「先程、女性二人が喧嘩をしていると通報があったが、そなた達か?」

 

馬上からそう聞いた彼に対して、女性は態度をがらりと変えた。

 

「喧嘩だなんて、とんでもありませんわ。騎士様。私の夫が不貞を働きましたので、咎めていた所、言い争いになってしまって。それをこの方がお止め下さったのです。…お嬢さん。失礼ですが、お名前は?」

 

ラポは彼女の態度の急変に腹を立て、心の中で舌打ちしながらも、こう答えた。

 

「…別に。名乗るほどの者じゃないわ。この男の人があまりにも怯えていたから、声をかけただけよ」

 

「怯えていた?何かあったのか?」

 

騎士はまだラポにしがみ付いている男に対して聞くと、彼は震えながら言った。

 

「け、今朝ステンドグラスが壊されたって聞いた途端、『一緒に死んでくれ』って言うから怖くて…」

 

「何だと?貴様もか?」騎士は不思議そうな顔をした。

 

「これで8件目だ。全く、何がどうなってる」

 

「騎士様。ご無礼を承知でお尋ねしますが、8件目とは…?」ラポは騎士に聞いた。

 

「今朝から、このような通報ばかりなのだ。今度は女か。さっきは一気に六人家族が同じようになったのだ」

 

騎士はとにかく二人に話が聞きたい、という理由で彼らを連行していく。その途中で、女性が去り際に言った言葉が、ラポの耳に残った。

 

「お嬢さん、今度街を歩く時は、何か香水をつけることをお勧めいたしますわ」

 

「はぁ?どうして?」

 

「貴女の体から、特に感じますの。…血の香りが」

 

女性は妖しく微笑んで、連れていかれた。

 

「…私ってそんなに臭う?」

「いいや」

 

「全然」

 

「良い匂いよ」

 

三人は、必死に袖の匂いを嗅ぐラポに苦笑いした。

 

「そう。まぁ、良いわ。王城に急ぎましょう。もう見えてるけどね」ラポはそう言って、前方を軽く見上げた。

 

300メートル前方に赤を基調とした西洋式の建物が見えた。大通りをまっすぐ抜けると、城まで一直線に伸びた橋があり、その前に広場がある。

 

しかし、規制線のようなものが貼られていて、それ以上進む事ができなかった。周りには野次馬がたくさんいて、呆然と立ちすくむ者、指を絡ませて拝む者、泣き崩れる者など様々だった。

 

「これは…!」青年は思わず言葉を失った。

 

二階のバルコニーのすぐ真上にある窓、そこに描かれていたであろう女神のステンドグラスが、丁度顔を割るように壊されていた。

 

「一体、誰がこんなことを…!」

 

「バグだ!バグやったに違いない!」

 

「バグを殺せ!」

 

野次馬が口々に叫ぶ。それがまるで合図になったかのように「殺せ!殺せ!」と合唱する。憎しみや悲しみが混ざり合った声。その大きさに青年は思わず耳をふさいだ。

 

やがて、民衆の声が聞こえたのか、一人の女性が姿を現した。途端に合唱は無くなり、しんと静まり返る。

 

「国民の皆さん、どうか落ち着いてください。今、我が国の様々な権威の者を集め、調査をしているところです。もうしばらくお待ちになってください」

 

優しい声だ。まるで母親が子供に言い聞かせているように聞こえる。金髪のロングヘアが太陽に反射して輝き、そよ風になびいている。青色の目はどこか悲しげだ。

 

(あれが、女王陛下…なのか?)

 

不謹慎だが、青年は彼女の美しさに見惚れた。もしかすると、女神と呼ばれるのは、彼女がふさわしいのではないかと思った。

 

「ふんっ!」ラポは右足で青年の足勢いよく踏んだ。

 

「いいっ!?」

 

激痛が足から脳に伝わるが、ここで抑えるわけにもいかず、何とか耐えた。

 

「私だって同じ髪色でしょうが…!」

 

「誤解だ…!」

 

青年とラポは小さい声で言い合った。

 

やがて野次馬はいなくなり、広場は四人だけとなった。だが、女王と思われる女性はバルコニーから動かず、外を見つめていた。やがて四人に気づいたのか、視線をこちらに向けた。慌てて三人は女性に跪いて頭を下げた。

 

青年がきょとんとしていると、ラポが小さく言った。

 

「アンタもやりなさい。それがこの国の、目上の者に対する挨拶よ」

 

青年は慌てて同じように跪いて頭を下げた。女性は驚きの表情を見せた後、慌てて部屋へと戻って行った。

 

「まずいわ!怪しまれたかも!」

 

ラポは逃げ出すように走り、全員が慌てて後を追った。

 

 

 

                    ※※※

 

 

「危なかった!怪しまれたかと思ったわ」

 

女性が去ってからいきなり走り出したラポは大通りで止まり、息を切らした。

 

「でも、挨拶もしたし、大丈夫だと思うけど…」

 

「馬鹿。陛下はともかく、その取り巻きは一度疑ったら、止まらないような連中よ。捕まったら何をされるか、分かったもんじゃないわ」

 

ラポは、ああ、恐ろしいと言いながら、自分の身体を震わせた。その様子がおかしいのか、ルーはくすくすと笑った。

 

「…何よ?」

 

「ううん。お姉ちゃんにも、怖いものがあるんだなぁって思って」

 

「はぁ!?怖いわけないでしょ!余裕よ、余裕!」

 

「お兄さん、どうだった?女王様、綺麗だったでしょ?」

 

ルーが青年に急に話を振ったので、彼は一瞬応えるタイミングを外した。

 

「あぁ、うん。何ていうか、女神ってあの人の事じゃないのかなって思ったよ」

 

「そうだよねぇ。おまけにとっても優しいんだよ」

 

「お話したことあるの?」

 

「まさか!恐れ多くてできないよ!」ルーは慌てて言った。

 

その時、馬のひづめの音がかすかに聞こえて来た。

 

一行が慌てて道を開けると、ちょうど馬車は青年の前で止まった。

 

「女王陛下のおなーり!」

 

騎士の一人が宣言すると、人々は慌てて跪いた。

 

先程の女性がピンクのドレスに着替え、ゆっくりと降りてきた。

 

「そこの貴方…顔を上げなさい」

 

女性は先ほどと同じように優しい声を青年にかけた。それだけでも周りからどよめきがある。

 

「はっ…」

 

青年がゆっくりと顔を上げると、「女王陛下の御前であるぞ!顔を良く見せろ!」と部下が怒鳴った。

 

しかし彼女は「良いのです」と言って、フードを取ろうとする彼の手を、白絹の手袋越しに止めた。何かを察してくれたのか黙って首を横に振った。

 

女性はクスリと笑って「ログが言ったとおり、優しい声をしていますのね」と言った。

 

「め、滅相もございません」

 

綺麗な女性からそんな事を言われて、照れない男はいないだろう。事実、周りの男たちから、嫉妬の声や舌打ちが聞こえる。

 

「ログから『面白い男がいる』と報告があり、一度お会いしてみたかったのです。…私の知らないところで、ずいぶんとご苦労もされたようですね」

 

「…いいえ」

 

「昨日起こったことについても、ログから報告を受けています。この度は誠に申し訳ありませんでした。そして、国の宝である大事な民を守ってくださり、女王として心よりお礼申し上げます」

 

彼女は両手でスカートを少しだけ広げて頭を下げた。

 

「い、いえ!滅相もございません。どうか頭をお上げください!」

 

青年が慌ててそう言うと、周りからヤジが飛ぶ。

 

「貴様、恐れ多くも女王陛下に頭を下げさせるとは。何者だ!」と騎士からヤジが飛べば、「俺だってお褒めの言葉をもらったことがないのにお前は一体誰だ!」と民衆からも声がする。

 

「顔を出せ!」

 

「顔を見せろ!」

 

口々に飛ぶ声に女性が一喝する。

 

「お黙りなさい!後日改めて、お城に招待したいと思っています。ぜひ、お越しくださいね。ダウメ、あなた方もともに来るように。…宜しいですね?」

 

「はっ…。かしこまりました」

 

跪いていたダウメは頷いて言った。

 

女性はダウメに対して、待っていますよ、と声をかけると馬車に乗り込んだ。

 

「お立ーちー!」騎士が声を上げると、馬車は方向転換して、城へと戻って行った。

 

「こいつ…一体何者だ…?」

 

「まさか初対面の者にもお声を掛けられるなんて…。慈悲深いお方だ」

 

人々はそんなことを言い合っていた。

 

「…今日は聞き込みは無理ね…。帰りましょうか」

 

ラポの一言に一行は頷いて、そのまま自宅へと帰宅した。

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