フェアリル・ランド   作:バハーム

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エピソード12 昼食とドレスアップと悪戯と

家に帰ったからといって、特に何かをするわけではなく、青年はリビングの椅子に座りながらこれまでの事を思い出していた。

 

ラポとルーの二人は先度から庭へと出て、精霊たちと何かを話している。先にも書いたように、精霊たちの声は彼には届かないので、会話の内容は分からない。

 

「……ふぅ」

 

彼はため息を一つつくと、体を上へと伸ばした。緊張で凝り固まっていた上半身が、小さな音を立てる。

 

結局、街の住人からじろじろ見られた彼は、生きた心地が全くしなかった。いくら顔を隠していたとしても、女王からあのような事を言われた後なら、嫌でも目立ってしまう。

 

青年はハンガーに似たものに干されているフードを横目に見ながら「今度からはもっと気を付けないとな……」と小さく呟いた。

 

やがて話が終わったのか、二人が青年のもとへと歩いてきた。

 

「大体の事は分かったわ。報告によると、どうやらガラスが割られたのは夜。内部からの可能性が高いそうよ」

 

「その時間帯は、もう兵隊さんたちは寝静まっちゃってるから、誰も気づかなかったのかな?」

 

「それは分からないわ。少なくとも巡回の兵士はいたはずだし、気づかないことは無いと思うのだけど」

 

「よっぽどお間抜けさんだったとか?」

 

「ルー、さっきから辛辣(しんらつ)よ。……何かに衛兵に恨みでもあるの?」

 

ラポは妹の発言に、冷や汗を垂らしながら聞いた。

 

「前はカッコいいと思ってたけど、今はならず者みたいだもん」

 

「それは同感ね。略奪とかも絶えないし。全く、あいつらに騎士としての誇りはないのかしら」

 

青年は少女たちの会話にどう口をはさんでいいのか分からず、黙ったままだった。

 

「あっ、ごめんなさい。二人だけで盛り上がちゃって」

 

「いや、良いよ。何だか大変そうだね」

 

「えぇ。女王陛下に招待されたのは光栄だけど、何か裏がありそうで怖いわ」

 

「お姉ちゃん、さっき余裕とか言ってなかった?」

 

「うーるーさーいー!」

 

ルーの発言に、彼女は顔を真っ赤にしながら、妹の両頬を引っ張った。

 

「痛い痛い痛い!止めてー!」

 

痛みからようやく解放されたルーは壁にもたれかけながら、「もうお嫁にいけない……」とウソ泣きをしてわざとしょげた。

 

「因果応報よ。全く」

 

 

ラポはため息をついて、机に体を伸ばした。

「この服じゃダメよね?やっぱりドレスを着るのかしら……?」

 

ラポは心底嫌だという顔をした。それに対してルーはドレスを着ると聞いて、顔をほころばせた。

 

「可愛いのが良いな~。お母さん、どんなのを用意してくれるのかな~?」

 

「僕も何か着ないといけないよね?どうしようかな」

 

青年のスーツは、シュタールたちの攻撃によって無残な姿になってしまったので、彼には今、正装が無い状態だ。

 

だからといって騎士に変装するわけにはいかないので、どうしようか困っているのである。

 

「あんたの場合は、心配いらないわ。ママがモーニングコートを用意してくれるから」

 

ラポは青年の気持ちを察したように言った。

 

「そっか。有難いな。いつか恩返しをしないとね」

 

「気にしないで。見返りなんか求めてないし」

 

ラポの言葉に青年はうなり声をあげた。気にするなと言われれば気にしてしまうのが、彼の性格なのである。

 

「ドレスって身動きが取れないから、嫌いなのよね……。何かあったとき、すぐに対処できないし」

 

「そうやって何でも被害妄想に走るのは、お姉ちゃんの悪い癖だよ?」

 

「妄想じゃなくて、想定よ。最悪なパターンを常に考えておかないと」

 

「お姉ちゃん、頑ーい」

 

「あんたが楽観的すぎるから、警告してるの!」

 

二人が口論になりかけたところをダウメが仲介する。

 

「はいはい。おしゃべりはそこまでにして、ご飯にしましょう?……お昼、まだだったでしょう?」

 

その一言で、場の空気が一気に暖かくなる。

 

「市場で色々買えたから、良かったわ。……お店の人は元気が無かったけど」

 

ダウメはテーブルに次々に料理を置いていく。

 

「ダウメさん、これは?」

 

「滷(ルー)肉(ロウ)飯(ファン)よ。豚肉を使ったレシピで、私たちの国の家庭料理。美味しいわよ」

 

「いっただっきまーす!」

 

ルーが料理に目を輝かせて、食べようとしたがラポに止められた。

 

「もう、何?私お腹すきすぎて、死にそうなんだけど……」

 

「お祈りがまだでしょうが……!」

 

「お兄さんの歓迎会の時にも、しなかったのに……」

 

「うるさい。決まりを破ったことは、女神様に懺悔したわよ」

 

「いつ?私知らないよ?」

 

「あんたがいびきかいて寝た後」

 

「……分かったよ~」

 

ルーは頬を膨らませてぶうぶう言っていたが、ラポはそれを無視して、両手を組んで目を閉じる。

 

「……全能なる女神イシュー。今日もこうして食卓を囲むことができる事を、感謝致します。……全ての生ある物に、女神のご加護を」

 

彼女がそう言うと、ダウメもルーも「女神のご加護を」と言って彼女の真似をした。

青年も真似をしてから一緒に食べ始める。

 

 「美味しいですね。さすがはダウメさんです」

 

「人間君。それを食べ終わったら、改めて身体を採寸させてくれないかしら?明日までにあなたのモーニングコートを作りたいの」

 

「……分かりました」

 

青年は何故か笑ったダウメが少し怖く感じた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

食事が終わり、青年はダウメの部屋で、上半身を脱がされた状態で立っていた。ダウメは何故か赤のドレスに白色のサテンの手袋をつけている。

 

「あの……ダウメさん?そのお姿は?」

 

「これ?女王に謁見するときの衣装よ。……似合ってる?」

 

ダウメはにやにや笑って、その場で一周回ってみせる。

 

「……お綺麗です」

 

「ありがとう。さあ、始めるわよ。良い?動かないでね~?」

 

巻き尺を持ったダウメが、彼の胴体をゆっくりと測っていく。

 

「あん、動かないで?……くすぐったいの?」

 

「は、はい……」

 

青年は何とも情けない声を出していた。彼女の指が肌を移動するとき、どうしても我慢できなくなるのだ。

 

するとダウメがいきなり、巻き尺をテーブルに置くと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

そして彼胴体に指を這わせてきた。くすぐり始めたのだ。

 

「こちょこちょちょこちょ~!」

 

「ちょっと、あははははは!な、何にするんですか!?」

 

青年は笑いながら抗議するが、彼女には何の効果もない。

 

「こちょこちょこちょ!あなた、こうされるのが夢だったりした?」

 

ダウメはくすぐる指のスピードを速めながら悪戯っぽく聞いた。

 

「はい!?な、何を!あははははははは!」

 

「やっぱりね!最初にあなたの気持ちを読み取ったときに感じたけれど、自分の趣味に嘘は吐けないでしょ?体は正直ね。こちょこちょこちょ!」

 

「そ、そんな事……!あははははははは!」

 

「良い事聞いちゃった!あはは!」

 

ダウメは一人満足した顔をすると、真面目に採寸をし始めた。

 

「はい、終わり。あなた、本当にくすぐったがり屋さんなのね?」

 

ダウメはおかしそうにくすくす笑った。

 

「ど、どうかあのお二人には内密に……」

 

「どうかしらね?もう聞かれちゃってるかも」

 

「ええっ!?」

 

「ママ、採寸は終わった?私たちも着替えさせてほしいんだけど……」

 

外からノックとともに、ラポの声がした。

 

「分かったわ。……じゃあ、後でね」

 

ダウメはウインクして彼に服を着せてから、自分の部屋から出した。

 

彼女の悪戯から解放された青年は大きくため息を吐いた。

 

「……その様子だと、絶対、何かされたわね?」

 

ラポは冷や汗を垂らしながら青年に問いかけた。

 

「……自分の性癖が嫌になった」

 

「はあっ?」

 

青年の意味不明な発言に、彼女たちは困惑するしかなかった。

 

 

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