GOD EATER -the last blood-   作:ポラーシュターン

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0.生き残りの死神
錆びついた血の色


死が身体を掠めていく。

 

そんな感覚を何度味わったのか。

 

リヴィは今日のこの時を最後に、それを数えるのをやめよう、と思った。

 

それはいつしか自分が、目前に迫った死に恐怖も焦りも全く抱かない、

当たり前のこととして捉えてしまっている事に気がついたからだった。

 

ヒュン、と風鳴り音を響かせて、

数瞬前まで自身の首があった場所を刃が通り抜けていく。

 

致死の一撃を避けたリヴィは、その得物の持ち主を見る。

 

相対する敵は、背中に生えた長い剛腕から、

さらに長大な仕込み刃を繰り出す、巨大なアラガミだ。

 

体勢を立て直し、リヴィは無造作に己の神機を振るい、

その伸びきった腕の関節を狙う。

 

すると相手はすぐさま腕を返し、手の甲でその鎌を受けた。

 

そこには堅い外皮にさらに癒着するようにして、

シールド型の神機パーツが埋め込まれている。

 

顔に髑髏のような仮面をつけ、身体の一部に神機を融合させているのが、

神融種に共通する特徴である。

 

このマグナガウェインは、それ以外の外見がほぼ同じであるアラガミ、

クロムガウェインの神融種だ。

 

リヴィは鎌と盾の接触面から視線を外し、

自分を殺そうとしている異形の獣の顔を見つめる。

 

しかし、一手間違えればその爪か刃に切り裂かれるという状況で、

リヴィはそんな命のやり取りとは全く関係のない、何の益体もないことを考えていた。

 

 

・・・あの無機質な仮面の下には、ちゃんとクロムガウェインの顔があるのだろうか。

 

 

あったとして、どちらにせよ凶悪な面構えだ。

 

しかし、そのアラガミに初めて遭遇した時のことを思い出して、

凍てついていたリヴィの心に、ざわ、と小波が立つ。

 

・・・あの時、共に戦ってくれたのは彼だった。

 

あの頃の自分は、一体どんなことを考え、どんな思いで戦っていただろうか。

 

そんな感傷に一瞬気が逸れたリヴィは、

自分の鎌を防いだシールドが目の前でわずかに振動したことに、気づくのが遅れた。

 

 

腕の装甲パーツを利用した、元の種のクロムガウェインにない能力、

・・・全方位へのオラクルの放出。

 

「うっ・・・」

 

至近距離でそれを浴びてしまったリヴィは後ろに吹き飛ばされ、数メートルを転がる。

 

狡猾であり、俊敏でもあるアラガミを相手に、その隙は取返しのつかないものだった。

 

起き上がるよりも早く、マグナガウェインは咆哮と共に、

両腕を振り上げて飛びかかってくる。

 

小柄なリヴィを覆うように巨大な影が落ち、そこへ振り下ろされようとする鋼の腕。

 

 

リヴィはその掌の孔から、自分の体ほどもある刃が突き出されてくるのを、

何の反応もせず、茫然と見上げていた。

 

 

・・・今すぐ横に転がれば、あるいは神機の装甲を構えれば。

 

この死はまた自分を捉え損ねるのだろうか。

 

 

それは何度目だろう、と機械的に数えようとして、

それはついさっきやめたんだった、と思い出す。

 

ふ、と自嘲の笑みを浮かべ、場違いな感傷に浸っている愚かな自分に、

また笑いそうになる。

 

危機に直面したゴッドイーターの研ぎ澄まされた感覚が、

なおもその一瞬を引き延ばしていたが、そんな逡巡のうちに、

今更動いてももはや避け切れないところまで時間は進んでしまっていた。

 

 

・・・嗚呼、それならば、こんなことならば。

もっと、彼らのことを思い出しておけばよかった。

 

そんなことを考えているうちに、巨大な鋼刃が目と鼻の先に迫って――――。

 

 

「騎士道ォオッ!!」

 

 

雄叫びと共に視界の端から飛んできた黄金のブーストハンマーが、

マグナガウェインの腕を横から打ち据えた。

 

リヴィの上半身を丸ごと抉るはずだった仕込み刃は、

すんでのところで逸れ、頬を半ば切り裂いてからすぐ傍の地面に突き刺さっていた。

 

大質量が足元に激突した衝撃によって、リヴィは横に吹き飛ばされる。

 

忘我の状態にあったリヴィは、そのまま人形のように宙を舞う。

 

しかし再び地面に叩きつけられる前に、

その身体は空中で何者かに抱き留められていた。

 

「リヴィさん!!」

「・・・エリナ」

 

リヴィは自分を抱きかかえていた、背丈が同じくらいの少女を見上げる。

 

そのままぼんやりとしていたリヴィは、

不意に訪れたエリナの着地に合わせることができず、へたり込んでしまった。

 

身体の感覚が、うまく戻らない。

 

「早く立って下さい!逃げますよ!」

 

必死の形相でエリナが叫ぶ。

 

向こうではエミールが踏ん張りの声を口にしながら、

激昂したマグナガウェインの振るう爪を防いでいる。

 

「ぬおお、守ることこそ騎士道の本懐ッ・・・!」

 

そうだ・・・守らなければ。

 

エミールの言葉を聞いたリヴィは、その漠然とした想いに衝き動かされるようにして、

何度も飛ばされながらもずっと握っていた神機を、半ば反射的に構えようとしていた。

 

直後、エリナの厳しい声が耳を叩いた。

 

「なんで逃げないんですかっ?!」

 

 

リヴィは、そこでようやく我に返った。

 

そうだ。彼らは今守っているのはリヴィだ。自分が守られているだけだ。

 

 

これは、ただの陽動作戦のはずだった。

 

資源回収中のエリナたちに危険が及ばないよう、

付近にいたアラガミを適当にあしらうだけで良かったのだ。

 

単独では厳しい相手に対し、逃げて戦いを避けることも、救援を呼ぶこともなく、

その身を危険に晒していたことをエリナは叱責しているのだ。

 

「ほら、立って・・・立ってください!!」

強引にリヴィを立たせ、手を引くエリナ。

 

リヴィは連れられるままに駆け出して、エリアを撤退していく。

 

後ろを振り向くと、マグナガウェインを振り切るため、

エミールがスタングレネードを叩きつけるところだった。

 

「仲間を守る為ならば、惜しむことなく使おうこの力を・・・

それこそが他ならぬ、我が騎士道となるのだ!食らうがいい、正義の光を!!」

 

どんなに余裕がなくとも、そんな口上を叫んでのける彼を、リヴィは不思議に思う。

 

ふと視線を上げると、ひび割れたアラガミ装甲壁が見える。

 

至る所で崩落が見られるその壁は、もはや壁の役割を果たしていない。

 

 

・・・自分達は今、その外側へ逃げ出そうとしている。

 

 

あのマグナガウェインは壁を破って侵入してきたのではない。

 

自分達の方が、壁の内側にいた相手に遭遇したのだ。

 

そして壁の向こう側には、無残な光景が広がっている。

 

 

フェンリル極東支部はもうない。

 

世界で最も平和に近いと言われていたその土地は、見る影もなくなっていた。

 

 

自分が守るべきものなど、もう何もないのだ。

 

 

・・・なら、どうして戦っていたのだろう。

 

リヴィは手を引かれながら、ただぼんやりとした頭で、それを考えていた。

 

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