GOD EATER -the last blood-   作:ポラーシュターン

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赤染の狼 -6-

 

どれほど戦ったのか。

 

自分が、あるいは仲間が危険に晒され、

それを切り抜けるという刹那がこの短時間に何度もあったせいで、

リヴィは体感時間がおかしくなっていた。

 

そしてそんな極限状態が続いたその果てに、

彼らにも疲れがあるのか、一時休戦か、はたまた、決着を確信したのか。

 

アラガミ達が攻撃の手を止め、

そうした時になってようやく、リヴィは周囲の状況が掴めるようになる。

 

 

気づけば、隣にエミールもエリナもいて、荒い息を整えている。

三人は瓦礫の山を背に、半円形に取り囲まれていた。

 

 

ごく、と喉が鳴る。

 

 

「・・・いよいよもって、という、感じだが」

 

リヴィは呼吸を整えながら呟いた。

 

盾で防ぎきれなかった砲撃や、掠めた刃がいくつも細かい傷をつけている。

もはや、これが致命傷へとつながるのも次か、その次か、というところだった。

 

エミールとエリナも同様のようで、そこには返事をする余裕もない。

 

日が沈みかけ、元から赤みがかった空がさらに紅く彩られ、

その色を地上に落としている。

 

その昏い色に照らされて赤黒く見えるラーヴァナ達も、

満身創痍の自分達ほどではないにしろ、手傷を負っている。

 

倒したのは、ガルムが一匹、ラーヴァナが一匹・・・

・・・そして、ヴァジュラテイルが十数匹。

 

さらなる増援に現れたらしい小型アラガミがいつやってきて、

いつ仕留めたのか、リヴィはまったく覚えていなかった。

 

それほど必死に戦っていたのかと思うと、他人事のように感嘆の念を抱きそうになる。

 

赤色の天地と、傷だらけの化物たち。

そしていくつもの亡骸が地に沈み、

黒い粒子となりつつあるその場を地獄と呼んで、誰も異は唱えまい、と思った。

 

 

「・・・ここが死に場所か?」

 

思わず口をついて出たリヴィの独り言に、

エリナが悔しそうな顔をするのが視界の端に映った。

 

だが、リヴィのそれは今までのように諦めたわけではなく、自問だった。

 

・・・こうしてただ物量に呑まれるだけの、つまらない最期で良いのだろうか?

 

考えながら、エミールに目配せをする。

 

最後のスタングレネードを投げるから、エリナを抱えて逃げろ。

 

その意図が伝わった彼は、一瞬何かを口にしかけたようだったが、

唇を噛み締めて、頷いた。

 

スタングレネードの後は、単身で敵の注意を引き、二人を逃がす。

 

順番に、可能性のある利を取っていくべきだ。

分の悪い賭けに、わざわざ他人の命を乗せる必要はない。

少なくともそれで、失敗した時の言い訳にはなる、とリヴィは笑う。

 

二人に逃げてもらうのが最低限。そして、自分も生き延びるのが最上だ。

 

後ろ向きの選択肢をとりながらも、リヴィはまだ諦めてはいなかった。

この程度の相手に、そんなありふれた命の使い方をするのは、

なんとなく癪だったのだ。

 

人間、死ぬ気になれば意外と出来るに違いない。

 

そう思い、こちらに狙いを定めるラーヴァナ達に向けてスタングレネードを。

 

 

・・・投げようとした、その時のことだった。

 

 

 

『グオオォォアアァァアア』

 

 

 

「!?」

 

突然響いた雄叫びに、リヴィは危うくスタングレネードを取り落とすところだった。

 

「な、なに?!」

「ここにきて新手かっ?!」

 

この場にいないアラガミから発せられたその声の主を探して、

エリナとエミールが辺りを見回す。

 

リヴィははじめ、マルドゥークがもう一度吠えたのかと思った。

 

そしてそちらを見上げ、その様子を確認しようとしたリヴィは、目を見開いた。

 

・・・目にしたのは、マルドゥークが、

廃墟の上から転げ落ちるようにして視界から消える瞬間と。

 

 

代わりにそこに立っていた、一体のアラガミ。

 

 

「――――――――」

呼吸が、止まった。

 

・・・その姿は、たった一度だけ見た事がある。

 

自分が立っている場所も、状況も忘れ、リヴィはそのアラガミの輪郭を凝視していた。

 

そんなリヴィの視線を感じ取りでもしたのか、

アラガミが・・・一瞬だけ、こちらを見た気がした。

 

そして、それはすぐにマルドゥークを追うようにして、同じ方向へと消える。

 

 

「なんだ・・・?!」

「ねえ、アラガミが・・・?!」

 

エリナとエミールの声に、リヴィははっと我に返る。

 

リヴィの視線が釘付けになっている間に、

ラーヴァナ達に襲われていてもおかしくはなかった。

 

しかし周囲にいたアラガミは皆一様に、不可解な動きを見せていた。

 

どれもリヴィたちを見ていない。

 

それどころか、アラガミ達は皆一様にこの場から走り去ろうとしていた。

 

その向かう先は、マルドゥークと謎のアラガミが落ちていった方角。

 

戸惑ううちに、ラーヴァナもガルムも、

何かに惹き寄せられるようにこの場から姿を消していた。

 

「マルドゥークが救援を呼んだのか? いやしかし、これは・・・」

 

エミールの怪訝そうな声に、リヴィはいつの間にか己も抱いていた違和感に気づく。

 

皮膚の下を血が流れるのが、いやにはっきりと感じるその異質な感覚は、

感応種の放つ力場によるもの。

 

それはマルドゥークの放つものとは異なり、そして。

あの時と、同じ感覚だった。

 

 

「助かったの・・・?」

 

エリナが呆然と呟くその声が、やけに遠く感じる。

 

「奇妙だが、しかし、今のうちに聖域まで戻るべき、だ・・・」

 

二人が話し合っている。

 

それは、水を・・・水よりも、

より粘性の高い液体を通したような、鈍く、くぐもった音のように聞こえてくる。

 

 

リヴィは自分が立っている場所が分からなくなる。

 

 

「では二人とも・・・む、どうした?」

「リヴィさん?」

 

 

目眩がする・・・吐き気がする。

 

 

この込み上げてくる戸惑いと不安は、いつ感じたものだろう。

この肺を焼く焦燥は、いつ感じただろう。

 

この、まさか、という、恐怖は。

 

 

今ではない。

 

エリナもエミールも助かり、今は安心すべき時のはずだ。

 

だから、この感覚は、

この沸き上がる感情は・・・あのアラガミを初めて目にした時の、

フラッシュバックだ。

 

 

ちょうど、今のような黄昏時・・・逢魔が時に見た、異形のアラガミ。

 

 

 

リヴィ以外のブラッド。彼らが赴いた最後の任務。

 

()()()()()()()()を聞き、その場に駆けつけたリヴィ。

 

そこで()()を貪りながら座していた影・・・

その『赤色のハンニバル』と視線が交錯したその瞬間の、記憶。

 

 

 

その時の激情が、現実と重なる。

 

 

 

視界が赤く染まって。

 

 

 

 

・・・リヴィの記憶は、そこで途切れていた。

 

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