GOD EATER -the last blood- 作:ポラーシュターン
どれほど戦ったのか。
自分が、あるいは仲間が危険に晒され、
それを切り抜けるという刹那がこの短時間に何度もあったせいで、
リヴィは体感時間がおかしくなっていた。
そしてそんな極限状態が続いたその果てに、
彼らにも疲れがあるのか、一時休戦か、はたまた、決着を確信したのか。
アラガミ達が攻撃の手を止め、
そうした時になってようやく、リヴィは周囲の状況が掴めるようになる。
気づけば、隣にエミールもエリナもいて、荒い息を整えている。
三人は瓦礫の山を背に、半円形に取り囲まれていた。
ごく、と喉が鳴る。
「・・・いよいよもって、という、感じだが」
リヴィは呼吸を整えながら呟いた。
盾で防ぎきれなかった砲撃や、掠めた刃がいくつも細かい傷をつけている。
もはや、これが致命傷へとつながるのも次か、その次か、というところだった。
エミールとエリナも同様のようで、そこには返事をする余裕もない。
日が沈みかけ、元から赤みがかった空がさらに紅く彩られ、
その色を地上に落としている。
その昏い色に照らされて赤黒く見えるラーヴァナ達も、
満身創痍の自分達ほどではないにしろ、手傷を負っている。
倒したのは、ガルムが一匹、ラーヴァナが一匹・・・
・・・そして、ヴァジュラテイルが十数匹。
さらなる増援に現れたらしい小型アラガミがいつやってきて、
いつ仕留めたのか、リヴィはまったく覚えていなかった。
それほど必死に戦っていたのかと思うと、他人事のように感嘆の念を抱きそうになる。
赤色の天地と、傷だらけの化物たち。
そしていくつもの亡骸が地に沈み、
黒い粒子となりつつあるその場を地獄と呼んで、誰も異は唱えまい、と思った。
「・・・ここが死に場所か?」
思わず口をついて出たリヴィの独り言に、
エリナが悔しそうな顔をするのが視界の端に映った。
だが、リヴィのそれは今までのように諦めたわけではなく、自問だった。
・・・こうしてただ物量に呑まれるだけの、つまらない最期で良いのだろうか?
考えながら、エミールに目配せをする。
最後のスタングレネードを投げるから、エリナを抱えて逃げろ。
その意図が伝わった彼は、一瞬何かを口にしかけたようだったが、
唇を噛み締めて、頷いた。
スタングレネードの後は、単身で敵の注意を引き、二人を逃がす。
順番に、可能性のある利を取っていくべきだ。
分の悪い賭けに、わざわざ他人の命を乗せる必要はない。
少なくともそれで、失敗した時の言い訳にはなる、とリヴィは笑う。
二人に逃げてもらうのが最低限。そして、自分も生き延びるのが最上だ。
後ろ向きの選択肢をとりながらも、リヴィはまだ諦めてはいなかった。
この程度の相手に、そんなありふれた命の使い方をするのは、
なんとなく癪だったのだ。
人間、死ぬ気になれば意外と出来るに違いない。
そう思い、こちらに狙いを定めるラーヴァナ達に向けてスタングレネードを。
・・・投げようとした、その時のことだった。
『グオオォォアアァァアア』
「!?」
突然響いた雄叫びに、リヴィは危うくスタングレネードを取り落とすところだった。
「な、なに?!」
「ここにきて新手かっ?!」
この場にいないアラガミから発せられたその声の主を探して、
エリナとエミールが辺りを見回す。
リヴィははじめ、マルドゥークがもう一度吠えたのかと思った。
そしてそちらを見上げ、その様子を確認しようとしたリヴィは、目を見開いた。
・・・目にしたのは、マルドゥークが、
廃墟の上から転げ落ちるようにして視界から消える瞬間と。
代わりにそこに立っていた、一体のアラガミ。
「――――――――」
呼吸が、止まった。
・・・その姿は、たった一度だけ見た事がある。
自分が立っている場所も、状況も忘れ、リヴィはそのアラガミの輪郭を凝視していた。
そんなリヴィの視線を感じ取りでもしたのか、
アラガミが・・・一瞬だけ、こちらを見た気がした。
そして、それはすぐにマルドゥークを追うようにして、同じ方向へと消える。
「なんだ・・・?!」
「ねえ、アラガミが・・・?!」
エリナとエミールの声に、リヴィははっと我に返る。
リヴィの視線が釘付けになっている間に、
ラーヴァナ達に襲われていてもおかしくはなかった。
しかし周囲にいたアラガミは皆一様に、不可解な動きを見せていた。
どれもリヴィたちを見ていない。
それどころか、アラガミ達は皆一様にこの場から走り去ろうとしていた。
その向かう先は、マルドゥークと謎のアラガミが落ちていった方角。
戸惑ううちに、ラーヴァナもガルムも、
何かに惹き寄せられるようにこの場から姿を消していた。
「マルドゥークが救援を呼んだのか? いやしかし、これは・・・」
エミールの怪訝そうな声に、リヴィはいつの間にか己も抱いていた違和感に気づく。
皮膚の下を血が流れるのが、いやにはっきりと感じるその異質な感覚は、
感応種の放つ力場によるもの。
それはマルドゥークの放つものとは異なり、そして。
あの時と、同じ感覚だった。
「助かったの・・・?」
エリナが呆然と呟くその声が、やけに遠く感じる。
「奇妙だが、しかし、今のうちに聖域まで戻るべき、だ・・・」
二人が話し合っている。
それは、水を・・・水よりも、
より粘性の高い液体を通したような、鈍く、くぐもった音のように聞こえてくる。
リヴィは自分が立っている場所が分からなくなる。
「では二人とも・・・む、どうした?」
「リヴィさん?」
目眩がする・・・吐き気がする。
この込み上げてくる戸惑いと不安は、いつ感じたものだろう。
この肺を焼く焦燥は、いつ感じただろう。
この、まさか、という、恐怖は。
今ではない。
エリナもエミールも助かり、今は安心すべき時のはずだ。
だから、この感覚は、
この沸き上がる感情は・・・あのアラガミを初めて目にした時の、
フラッシュバックだ。
ちょうど、今のような黄昏時・・・逢魔が時に見た、異形のアラガミ。
リヴィ以外のブラッド。彼らが赴いた最後の任務。
そこで
その『赤色のハンニバル』と視線が交錯したその瞬間の、記憶。
その時の激情が、現実と重なる。
視界が赤く染まって。
・・・リヴィの記憶は、そこで途切れていた。