GOD EATER -the last blood-   作:ポラーシュターン

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凍てついた心の灯

 

「む・・・おお、やあ、コレット嬢!元気そうで何よりだ!」

 

「・・・その呼び方はやめてくれといつも言ってる」

 

両手を広げて大袈裟な歓迎の意を示すエミールに、リヴィは辟易して固い口調を返す。

 

リヴィでいい、と皆には繰り返し告げているのだが、よくてエリナの「さん」付けで、

彼らは何故か、誰も希望通りにリヴィを呼ぼうとしないのだ。

 

「いいところに来てくれた。見るといい、この瑞々しい、赤き宝石が如き輝きを!」

エミールはリヴィの言葉を全く意に介さず、

そんな口上を述べながら片手をずいと差し出す。

 

リヴィが目を向けると、その掌の上には、真っ赤な果実が乗っていた。

 

「・・・トマトか」

 

「そうとも!極東のファクトリーでは、

味気ない小さなものしか生産されていなかったが、どうだ、この迫力!

トマトとは本来これほど巨大になるのだそうだ!」

 

あれは元から小粒の品種だったはずだが、という突っ込みをするのも面倒なので、

リヴィは頷くに留める。

 

「食べてみないか?」と差し出されたが、丁重に断っておく。

 

味は嫌いではないが、その赤くて水っぽい見た目と食感が、

リヴィはあまり好きではないのだ。

そうか、とエミールは頷くや、自分でそれにかぶりついていた。

 

「この土地で栽培できる作物も増えてきたとのことだ・・・。

くっ・・・僕は感動している。

これが自然の味・・・・・・とても、すっぱいじゃないか・・・!!」

 

 

大袈裟に悶えているエミールに嘆息してから、リヴィはその畑に目を向けた。

 

 

聖域ではアラガミ出現以前の古い手法での農業、畜産業が再開されていた。

 

ここに避難した人々にとって、そこから採れる食糧は文字通りの生命線となっている。

 

まだ規模がずっと小さく、生産量が絶対的に足りていないため、

リヴィたちはフェンリル支部跡地に残っている保存食などを

日々回収する必要に迫られているが、

やがてはそれだけで生活していければと思っている。

 

もちろん問題は山積みで、

この聖域の安寧が、明日には崩れ去るという可能性さえゼロではない。

 

しかしここにそんな命のサイクルを生み、最初の作物を実らせたのは、

他ならぬリヴィと。

 

・・・彼ら、ブラッドだったのだ。

 

 

「・・・エリナのことなら心配ご無用!」

 

「え?」

急にそんなことを言われ、リヴィはぽかんとした顔でエミールの方を向いてしまう。

 

「なに、確かにエリナは少々君に思う所があったようだが、

彼女ももう流石に子供ではない。

君の気持ちも少しは分かっているはずだ・・・君が気に病む必要はない」

と、遠くに見える畑を見ながらエミールはそう言う。

 

それでリヴィはようやく、自分が先程まで視線を向けていた畑の中に、

ぽつんとエリナが佇んでいることに気がついた。

 

・・・どうやら、また要らぬ感傷に浸っていたのを、違う意味に取られたようだった。

 

しかしあながち的外れでもなく、リヴィは複雑な気持ちでそれに応じる。

「前の遠征で、私が連携を乱した・・・いや、いつも乱しているのは事実だ。

エリナは怒って当然だ」

 

マグナガウェインとの戦闘から離脱した後、聖域に戻るまで、

エリナは一言も口を利かなかった。

 

リヴィもなんとなく話す気になれず、ずっと黙っていたので、

エミールが空気を読まずに・・・あるいはむしろ読んでいたのかもしれないが、

ずっと一人で喋り続けていた。

 

最も戦闘経験が豊富なリヴィが腑抜け、足を引っ張っている現状を、

当然、エリナは快く思っていないのだ。

 

 

「いや、彼女は君に怒っているのではない。自分に怒っている」

「え?」

リヴィは困惑して顔を上げる。

 

しばしエミールは彼らしくもなく黙って、

遠いエリナの小さな背中を見つめているようだった。

 

その横顔にあるのはどこか、先程のハルオミにも似た表情。

 

見守り、憂いて、案ずる。

そんな表情だった。

 

しかしエミールは突然ふっ、と笑い、その色を打ち消す。

 

そして前髪を、ふぁっさあ、とかき上げて、

「人は誰しもその心に闇を抱いている・・・

それに呑まれぬよう支えることも、騎士の務めだ!」

 

急に、したり顔でそんなことを声高に言い始めた。

 

「・・・」

「どうだ、話してみる気はないか?

今ならば僕の黄金の輝きが、君の心の闇を払うだろう!

・・・それとも、無闇に理解しようとされる方が苛立つだろうか? 

ならば殴るといい、気が晴れるかもしれない! さあ、殴ってみろ!」

 

なぜそうなる、というテンションについていけなくなりつつ、

リヴィは自分の口端に笑みが浮かんだことに気がついた。

 

なるほど、それも彼なりの騎士の振る舞いなのだろう、と思った。

 

「・・・ありがとう」

リヴィは久しぶりに口にしたような気がするお礼を告げ、

そんな温かい気持ちが残っているうちにやるべきことがある、と、

その場を立ち去ることにした。

 

 

・・・頬っぺたを突き出しているエミールを、そのままにして。

 

 

 

エリナはできたばかりのトマト畑の中にしゃがみ込み、

その葉をいじっているようだった。

 

年相応の仕草を微笑ましく思ったリヴィは少し気が晴れ、

先程よりは幾分軽い足取りでそこまで向かうことができた。

 

「・・・何か用ですか」

リヴィに気づいたエリナは、そんな言い方をした。

 

近くも遠くもない距離で立ち止まったリヴィは、

自分でも下手くそだと思っている愛想笑いを浮かべて言う。

 

「ああ、うん・・・特に用ってほどの事はないんだ」

「そうですか」

 

そうとだけ言って、エリナは視線を戻す。

 

追い返すでもなく、自分が立ち去るでもなく。

 

先程まで弄っていた葉に指を乗せたまま動かなくなったエリナと、

それを見つめるリヴィ。

 

しばらく沈黙が続いたが、リヴィは意を決して、ぽつりと言葉を置いた。

 

「エリナは」

「・・・」

 

少し肩が強張ったが、エリナは次の言葉を待っている。

 

口を利きたくない、という風ではなかったので、リヴィは少し安堵する。

 

ただ、話す内容をまとめる前に名前を呼んでしまったリヴィは間抜けにも、

その段になってから内心、はて、どう喋ったものかと考えていた。

 

やがて、じれったそうにエリナがちらちらとこちらを盗み見てくるようになる。

 

その様が少し面白くて、リヴィは少し口端を上げてしまう。

「な、なに笑ってるんですか」

「いや、すまない・・・うん、ああ、違うな。

もっと謝らなければいけないことがあった」

 

怪訝そうに眉をしかめたエリナに向けて、リヴィは頭を下げた。

 

「すまなかった」

「・・・何がですか」

 

「・・・私のせいで、エリナ達を危険に晒している」

その途端、何か口をついて出るのを防ごうとするように、エリナは下唇をかんでいた。

 

リヴィは年下の女の子にそんな思いをさせていること自分に呆れ、

自嘲の笑みを浮かべながら、それを口にする。

「何か、言いたいことがあれば言って欲しい。

私は・・・時々、どうしても動きが鈍ることがある」

 

ふとした時、リヴィは考え事をするようになった。

 

たとえそれが戦っている時であってもだ。

 

そして時にはエリナ達に庇われ、そのたびに迷惑をかけている。

 

それを謝らずにいたことを、リヴィは反省していると口にする。

 

「君達の連携に邪魔になっているのは自覚している。

・・・私の為に危ない目に遭う必要はないんだ。

どうしようもないときは、置いていってくれても」

 

 

「ばっかじゃないの!!」

 

突然の声に、リヴィは顔を上げていた。

 

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