GOD EATER -the last blood-   作:ポラーシュターン

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帰りついた旅の途

我慢できずに叫んでしまった、という風に、

エリナは目を合わせるや、ばつが悪そうな顔をしていた。

 

しかしそれでも、肩をわなわなと震わせ、彼女はリヴィをはっきりと睨みつけている。

 

今の謝罪が、燻っていたエリナの憤りに火をつけたことは明らかだった。

 

しかし、リヴィにはそれが何故なのか分からない。

 

その潤んだ眼は、リヴィの言い訳に怒ったという風ではなかったのだ。

 

 

そして、彼女の口からは、やがて堰を切ったようにその感情が飛び出していた。

 

「わたしはっ・・・わたしは! 自分が危なくなるのなんかどうでもいい! 

わたしが納得いかないのはっ・・・なんでリヴィさんはっ・・・」

 

途中、溢れた思いが言葉を詰まらせたのか、

口元を歪め、苦しそうに眉を寄せるエリナ。

 

リヴィは、そこまで彼女を悩ませていたことに戸惑い、

そんなエリナの剣幕にただ、気圧されていた。

 

エリナの眼は、

アラガミの傍でへたり込むリヴィを見下ろし叱咤した時と、同じ色に揺れていた。

 

 

「リヴィさんは・・・どうしたいの?」

 

まるでその瞬間からの続きのように、エリナが問いかけてくる。

 

漠然とした問い。

 

しかし、リヴィは何を訊かれたのか正しく理解した。

 

そして、それを彼女が解せないのも当然だと思う。

 

何故なら、そう訊かれた途端に笑ってしまうほど、リヴィの心は空っぽだったからだ。

 

「・・・私にも、分からない」

 

それを聞いたエリナは口をつぐんで、ぐっ、と言葉を飲み込んでいた。

 

そして悔しそうに、悲しそうに目を逸らして、言う。

 

「わたし、リヴィさんのそういうとこ・・・見てられない」

 

リヴィは、目を伏せて「すまない」と呟くしかない。

 

 

しかし、エリナは強く首を振って、言う。

「違う・・・ちがうの。わたし、本当は分かってる・・・

リヴィさんがどうしたいのか・・・」

 

途方にくれた、という響きを含んだ呟きを耳にして、嗚呼、とリヴィは頷いた。

 

 

リヴィも、本当は分かっている。

ハルオミに言われずとも、分かっている。

そしてエリナも、きっとエミールもそれを知っている。

ただ、それを口にしたくないだけだ。

 

 

・・・血を分けた。文字通りに同じ血を分かち合った、家族とすら思っていた人達。

 

そんな彼らが先に行ったのだから、自分が今更いなくなっても誰も困るまい。

 

そういう想いに囚われていることを、他ならぬ自分が、誰よりも分かっていた。

 

今、自分は自分がここにいる理由を見失っている。

 

そんな宙ぶらりんのままアラガミと戦うことなど出来はしないと、

誰もがいつも、その眼で言っていた。

 

リヴィは自分が死線をくぐる度に、

まるでそれを惜しむかのようにその瞬間を数えていた理由を、なんとなく知った。

 

 

・・・今の自分はきっと、死ぬために戦っているのだ。

 

 

足元に淀む、夜霧のように仄暗い破滅願望。

リヴィはそんな灰色の感情に塗りつぶされている。

 

そんな人を見ていて、エリナのような子が心穏やかでいられるはずがないのだ。

 

 

「リヴィさんが間違ってるとは思ってない・・・でも、正しいなんて思いたくない」

 

「ああ・・・私も、そう思う」

心から出た同意を受けて、エリナは悲しそうに眉を下げる。

 

しかし彼女は次に、意地を張るかのように、

口元をきつく引き結んで顔を上げ、毅然とリヴィを見据えた。

 

「でも、これだけは言わせてください」

 

リヴィは何の感慨もなく頷いて、エリナの言葉を待つ。

 

何を言われようと、今の自分は苦笑して頷き、謝ることしかできないだろう。

 

正直に言って、そんな諦念があった。

 

しかし、彼女は言った。

 

「そのときは笑顔で死んで下さい」

 

そのエリナらしからぬ台詞に、リヴィは面食らった。

 

そしてそれ故に、その言葉には、

リヴィの心を確かに揺らすだけの力が込められていた。

 

「・・・今のリヴィさんに、生きてとか、立ち直ってとか、

言っても傷つけるだけだって、分かってますから」

 

そこまで言われて、やっとリヴィは思い至る。

 

エリナも、数年前に家族を喪っていると聞いていた。

 

・・・彼女にも、今のリヴィと同じではなくとも、

似た想いを抱いて過ごした時があったのだろう。

 

だからエリナも、リヴィの不甲斐ない様を見て怒るのではなく、

同じ苦しみを思い、案じてくれているのだ。

 

「だからせめて、死ぬ時は笑って、

全部満足した上で死んでくださいって・・・それだけ言っておきます」

 

あえて淡々とした言葉だけを、彼女は口にする。

 

「そうしないと誰も報われません。リヴィさんも・・・私たちも・・・それに」

 

エリナはそこでこらえきれなかったかのように目を伏せ、前髪でその顔を隠した。

 

その唇が微かに動き、声なく言葉を紡いだのを、リヴィは見てしまった。

 

せんぱいも。

 

「・・・」

 

「だから・・・あんな風になあなあで終わろうとするのはナシです。

急にいなくなったりしたら絶対許しませんから」

 

あんな風、とは、

マグナガウェインに貫かれようとした時のことを言っているのだろう。

 

確かにあの時、自分は己の愚かさに笑ってはいたが、

満足できる結果かどうかなど考えていたわけではない。

 

ただ流されるままに、漫然とそれを受け入れようとしていただけだ。

 

 

「・・・ああ、分かった」

リヴィは、そう答えていた。

 

乾き、ささくれていた心に、雫が落ちたような感覚だった。

 

せめて死に方を選べ。

 

後輩に言われる言葉にしては、とても剣呑で、辛辣に過ぎた。

しかしそれ故に、あまりにも的確だったのだ。

 

「努力しよう。それまでもう少し・・・一緒に戦って欲しい」

 

「もちろん、嫌だって言ってもついていきますから」

 

あえて生意気そうな言い方で応じたエリナに、

リヴィはようやく素直に笑い返すことができたのだった。

 

 

それまでのやり取りが嘘のように、

他の仲間達のところへ戻ろうと歩くリヴィとエリナは隣り合って会話していた。

 

言いたいことを言い合って、二人にはもはや何のわだかまりも存在していない。

 

そもそもが相手を思ってのすれ違いだったのだから、

それが解決した今、何を憂う事もなかった。

 

 

あとでハルオミに謝らねばならない。

 

エミールにも改めて礼を告げる必要があるだろう。

 

 

リヴィの時間は、やっと動くことを思い出していた。

 

 

ゆるやかに終わることを求め、立ち止まっていただけのリヴィ。

 

しかし今リヴィは、その終わり方を探すという、

極めて後ろ向きではあっても、それでも前へと進むようにと背を押されたのだ。

 

殺伐とした望みではあったが、エリナにある意味肯定されたそれを考えるのは、

ことのほか胸を躍らせることだった。

 

少なくとも、生きた屍のようだとハルオミに言われた顔より、

今の方がマシだろうと思える。

 

 

リヴィは頭の片隅で、それを夢想する。

 

 

エリナを庇い、最後に微笑んで死ねるだろうか?

 

それもいい。

 

エミールと一緒に戦い、互いを讃えながら死ねるだろうか?

 

悪くはない。

 

傷を負い、ハルオミの腕に抱かれながら死ぬのだろうか?

 

良いかはさておき、笑えはするだろう。

 

 

それとも。

 

 

・・・そこまで思った時、ざわり、と。

 

聖域の中で眠っているはずの偏食因子・・・ゴッドイーターの血が、

身体の奥でうごめいたのをリヴィは感じた。

 

その感覚に惹かれるように、リヴィは、ふと視線を聖域の外へと向けていた。

 

 

 

ああ、それとも、死ぬ前に。

 

 

 

・・・あのハンニバルを、殺せるならば。

 

 

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