GOD EATER -the last blood-   作:ポラーシュターン

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1.赤染の狼
赤染の狼 -1-


「――――エリナ、こっちだ!」

「・・・了解!」

 

リヴィの声に応じて、エリナがこちらに駆けてくる。

 

そしてそのすぐ後ろに、

大型アラガミ・・・2体のガルムが、地響きと共にエリナを追っている。

 

 

リヴィたちは何日かに一度の頻度で、

極東支部周辺のアラガミの数を減らすために出撃していた。

 

その目的は、同じ頻度で行われる資源回収をやりやすくするための露払いと、

その資源が極東支部からなくなってしまうことを防ぐためだ。

 

リヴィたちが一度に運べる資源の量には限界があり、

この地には未だ、多くのものが残されている。

 

そこは今まで、アラガミを絶対に近づかせなかった不可侵の領域だった。

 

つまり・・・彼らにとっても、

この跡地は「滅多に食べられない御馳走」で満ちている。

 

 

 

「・・・っ!」

 

リヴィはエリナと連携の合図を視線で交わし、己の神機を構える。

 

まだエリナも遠く、その向こうにいるガルムには、

ただ神機を振っただけでは絶対に届かない距離。

 

しかしリヴィはその手の赤い鎌を、大きく後ろに回してから、素早く真横に振るった。

 

ずあ、と湿った音がして、その刀身が柄から離れ、一瞬にして伸びる。

 

ヴァリアントサイズ型神機の最大の特徴、咬刃展開形態。

 

リーチを数倍にも伸長させ、

その刀身と基部を繋ぐ生体部分にさらにいくつもの刃を生やした鎌は、

軌道上にエリナをも巻き込んで、横薙ぎにガルムを狙う。

 

と、タイミングを見計らい、エリナがすっと身を屈めた。

 

エリナの頭の上を咬刃が通り過ぎ、最も巨大な刀身部分がガルムの一匹を捉えた。

 

エリナに集中して全力で駆けていたガルムは、

不意打ち気味に前脚を裂かれ、そのまま横薙ぎにされたことで転倒する。

 

リヴィは二匹とも巻き込むつもりだったが、

もう片方の個体は転んだ同胞を避けて素早く横に跳躍し、難を逃れていた。

 

 

反転したエリナが止めを刺そうと、

倒れたガルムにチャージスピアを突き込もうとするが、寸前。

 

「エリナ!」

「っ・・・ああ、もおっ!」

 

と、エリナが悔しそうに足を退く。

避けた個体が、転んだ個体とエリナとの間に割って入るように前脚を叩き込み、

その追撃を遮ってきたのだ。

 

やむなくエリナは銃形態に切り替え、散弾で牽制しながら距離を取る。

 

ガルムは鬱陶しそうに吠え、両前脚のガントレットから炎を迸らせるが、

それが攻撃に転ずるのをエリナの間断ない射撃が防いでいる。

 

エリナはいまのところ安全に立ち回りながらガルム2体の注意を引いている。

 

その隙を突くべく、リヴィは展開状態のままにしていた鎌を持ち直し、

今度は大上段から垂直に振り下ろした。

 

その狙いはエリナの前に立ちはだかるガルムのみならず、

その向こうの倒れた一匹にも届く、確実な一撃のはずだった。

 

しかし、今度もガルムは予想外の動きを見せた。

 

エリナの前で散弾を受けていた一匹が、両前脚の発熱器官で地面を爆裂させ、

起き上がりかけていたガルムを半ば突き飛ばすようにしてその場から飛び退ったのだ。

 

少なくとも倒れていた一体を地面に縫い止めるはずだった鎌は、

直前まで巨体があった空間を素通りして、溶解した地面に突き刺さる。

 

強引な回避方法をとった個体はもちろん、

炎に耐性を持つガルムは至近距離で爆炎を浴びても大した傷を負う事なく、

吹き飛ばされたもう一方の個体も既に姿勢を取り直していた。

 

 

エリナがリヴィの隣まで後退してきて、

二人は同じく並んだ二体のガルムと睨み合うようにして相対する。

 

 

「・・・もう、なんなのこいつら!」

エリナが苛立ったようにそんな恨み言を口にしていた。

 

「強いというより、賢いな・・・この連携は・・・」

リヴィも油断なく相手を見据えていたが、

攻めあぐねる現状に未だ、突破口を見出せずにいた。

 

 

ほとんどのアラガミがとる行動は、

突き詰めれば「効率よく食べること」というたった一つの習性に集約している。

 

牙や爪はもちろん、ガルムが持つ、岩を溶融させるほどの熱を放出する器官も、

効率よく獲物を仕留め、捕食するために得た機能である。

 

それどころか、いくつかの種が持つ強固な外皮、外殻ですら、

己の身を守るためではなく、「食べられにくい分だけ食べやすい」という、

極めて原始的な論理に基づいて獲得されたものであると考えられている。

 

そんな彼らは、集団で襲い掛かるという目的でなら群れることはあっても、

連携して戦い、お互いの身を守るなどという行動原理はそもそも頭にないはずなのだ。

 

 

しかし明らかに、今自分達が戦っている相手にはそうした行動を見せている。

こうして出方を窺っているその眼には、

その意志に基づいた「戦術」のようなものさえちらついているように見える。

 

 

長い膠着の中、エリナが焦れたように槍の穂先を揺らすが、

ガルムはそれに挑発されるようなことはないようだった。

 

むしろ、その焦りが致命的な隙となる瞬間を、耽々と待っているようにすら見える。

 

リヴィは気を張り詰め、視線を動かさないままエリナに問いかける。

「・・・エミールは?」

 

「わかんない、こいつらに邪魔されて見失った・・・早く合流しないと・・・っ!」

 

その方針が間違っているわけではない。

自分達を分断したこと自体がガルム達の狙いの内ならば、

一刻も早くエミールの無事を確かめねばならない。

 

しかし、そういう焦燥こそが一瞬の判断ミスを招き得ることを、

連中は知っているようにしか見えない。

 

能動的に状況を動かそうとせず、

一歩引いた間合いでただこちらを待ち続けているのがその根拠だ。

 

 

エリナもリヴィも銃器はショットガンで、この距離からでは有効打は与えられない。

 

戦うにはこちらから突っ込まねばならないが、

先程のような予想のつかない動きを見せた二体の大型アラガミ相手に、

五分の状況から無傷の勝利を得られるだろうか。

 

エリナに同調して逸りそうになる心を落ち着かせるために、

リヴィは意識と思考を一度切り離して、呟いた。

 

「・・・狼というのは、

仲間に犠牲が出ないように慎重に狩りをする生き物だったらしいが」

 

「・・・え?はい?」

 

「フェンリルとガルム・・・そこは、似ているな」

 

二対二の状況、お互いに数が減ることのないよう睨み合っているせいで

膠着しているこの場に居て、単純にそう思った。

 

が、エリナは、

どう反応したらいいやらという曖昧な表情で「いや、あの・・・」と呻いていた。

 

その様にちょっと笑ってしまう。

 

もしかしたら、エリナは突っ込むべきか迷ったのかもしれない。

 

 

あのジュリウスみたいなことを言うな、と。

 

そう思い至っても心に黒が滲まないのは、やはりエリナのおかげなのだろうと思った。

 

 

おかげで気持ちが綺麗に切り替わったリヴィは、エリナに声をかげる。

 

「・・・よし、行くぞ、エミールの所に向かう!」

「え、あっ、はい!」

 

ハルオミがリヴィにそうさせたように、

一度思考を空転させることで、

焦っていたエリナも普段通りの姿勢を取り戻せたようだった。

 

クリアな視界を得て、気合を入れなおし、神機を構えて突撃の準備をする。

 

ガルム二頭もその気迫を感じ取ったか、

それを迎え撃とうとするように前傾姿勢をとる。

 

 

・・・そして、その火蓋が切って落とされる、その寸前の時だった。

 

「心配ご無用!!」

その一声と共に、上から金色が降ってきた。

 

ガルムが二頭とも素早く反応し、その場から一気に飛び退き、金色を避ける。

その直後、ずどん、とハンマーが地面にめり込む激しい音と共に、エミールが。

 

 

「世の悪は滅びねど、しかして騎士も不滅なり・・・

そこに悪在らば、騎士ここに在り!!」

 

・・・エミール・フォン・シュトラスブルクが、戦場の中心に舞い降りた。

 

 

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