GOD EATER -the last blood-   作:ポラーシュターン

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赤染の狼 -2-

前髪をかき上げる仕草と共に、彼は言った。

 

「救助に向かおうという、その仲間想い、その心意気に感謝する!

だが、心配はいらない・・・騎士とは助ける者。助けられる者ではないからだ!」

 

「今まさに助けないといけない状況なんですけどこの馬鹿!!」

 

よりによってど真ん中に着地したエミールをガルムが狙いかねなかったため、

エリナが慌てて前へ出て、優雅に謳い上げているエミールに罵声を浴びせていた。

 

 

幸い、突然の奇襲への驚きと、数的不利を鑑みてか、

ガルムはさらに距離を取ってこちらを警戒していた。

 

リヴィも二人の傍に駆け寄り、エミールの無事を喜ぶ。

 

「良かった。ケガもないか」

 

「ああ・・・はぐれた時は僕も一瞬ひやりとしたが、

どちらかと言うと、あの二体の方が本命だったようだ」

 

エミールが神機をブラストに変形させながらそう言う。

 

つまり、奴らが本気で狙ったのは小柄なエリナの方で、

エミールはひたすらに足止めを食っていたらしい。

 

むしろリヴィがエリナの援護に当たってくれたので事なきを得たと、

エミールは感謝の言葉を口にした。

 

「そうと気づいてからは此方が気を揉んでいた。エリナが無事で良かった」

「な・・・エ、エミールのくせに生意気言わないっ!」

 

きりっとしたエミールの真面目な顔に、エリナがぶっきらぼうな言葉をぶつけていた。

 

リヴィはそんなやり取りにくすりとしてから、

エミールが一転して悔しそうな顔を浮かべたのに気がつく。

 

「どうした?」

「無事に合流できたのは良い・・・だが、あい済まない、

情けないことに悪の親玉を、取り逃した・・・!」

 

エミールはくっ、と大袈裟に拳を握り締めたポーズでそう言った。

 

「・・・親玉?」

 

リヴィとエリナは顔を見合わせる。

 

するとエミールは顔を上げ、

「決まっているだろう・・・闇の波動を放ち、

彼奴らを束ねる、あの雄々しくも忌々しいアラガミ・・・!」

 

そんな若干過剰な表現と共に、

エミールが先程まで戦っていたらしいエリアの方角を睨みつけた。

 

と、そこに見える、朽ちかけた建造物の上に。

その悪の親玉が姿を現した。

 

「・・・あいつ!」

エリナが、憎々しげに叫んだ。

 

リヴィもその姿を見て自然と、神機を握る手に力を込めてしまっていた。

 

 

「・・・・・・マルドゥーク・・・」

 

 

ガルム神属、感応種。

 

・・・そのアラガミと、リヴィ個人の間には、直接の因縁は無い。

 

しかしリヴィが関わった人たちにとって、

あれは忘れ得ぬ宿命の敵といっていい相手だった。

 

ロミオを殺したアラガミ。

 

それを聞いた時の衝撃はリヴィにとって、

決して、なかったことにしていい記憶ではない。

 

 

その白い狼は、遠く離れた、戦場が見渡せる高い場所から、

悠然とこちらの様子を眺めていた。

 

特有の触手のような器官が、夕日に照らされて一際赤く輝いている。

 

「こいつらの動きはあれのせいか・・・」

リヴィはガルム達に目をやって、一人呟く。

 

マルドゥークは、その感応能力によって周囲のアラガミを統率する。

 

このガルム2体はあの感応種に使役され、それ故に高度な連携を可能にしているのだ。

 

 

「・・・二人とも、神機の調子は?」

リヴィは二人に問いかける。

 

感応種の傍では、血の力を持たないゴッドイーターの神機は正常に動作しない。

 

極東支部では既にその対策は施されていたが、

今もそれが有効であるか、はっきりと確かめる術はない。

 

・・・その対策に欠かせなかった『喚起』の力の持ち主のことを連想してしまい、

微かにリヴィの手が震える。

 

「・・・オスカー、いける?」

「ポラーシュターンよ、その力を見せる時だ!」

 

そんなリヴィの傍らで、

それぞれ自らの神機に名付けた愛称を口にして語りかける、エリナとエミール。

 

そして、まるでそれに呼応するかのように。

 

オスカーは槍の穂先から、ポラーシュターンは背面の噴射機構から、

力強い駆動音を響かせた。

 

「・・・大丈夫そうだな」

 

安堵する二人の顔を見て、リヴィの口元にも微笑が浮かんだ。

 

ならば、何も憂いることはない。

 

 

「あのガルムたち・・・いや、

あのマルドゥークは、私たちを逃がすつもりはなさそうだ」

 

「縄張り意識ってやつ? 人の土地で好き勝手しといて・・・

・・・っていうか、あの位置、腹立つんだけど」

 

夕日を背にしてこちらを見下ろす影を見やりながら、エリナがそんな悪態をつく。

 

エミールを襲いながらも時間稼ぎに終始していたらしいことからも、

積極的に戦闘に参加する意志があれにないことは明らかだった。

 

その距離は遠く、隙あらばガルムに加勢しにくる、というような位置ですらない。

 

自分は司令塔のように見物を決め込み、手下に任せるつもりらしい。

 

「ふ、まだいつぞや見た奴の方が気概があったというものだ!」

 

「いや、アラガミに個体差があるかどうかは・・・」

 

と言いかけたその時。

・・・件の狼が、動いた。

 

天を仰ぎ、一拍を置いてから、大口を開け・・・遠吠え。

 

アォオォオオ・・・という細かく空気を震わせる音が、

リヴィたちに届き、鼓膜を、臓腑を揺らす。

 

見れば、配下のガルムたちも呼応して吠えている。

 

そしてその共鳴に乗るようにして、

肌が粟立つような違和感が身体を通り抜けていくのをリヴィは感じた。

 

それは感応種を前にした時に独特の、恐れと、寒気と、

そして僅かばかりの親近感を伴う、奇妙な感覚だった。

 

「・・・まずくない?」

 

残響を払うように頭を振ってから、エリナが苦い顔をして言うのが聞こえた。

 

リヴィも、遠吠えを終えたマルドゥークの様子を見ながら応じる。

 

「ああ・・・まずいな」

 

ガルムが、ゆっくりとこちらに近づき始めていた。

 

もはや、数的不利はなくなったのだ。

 

・・・マルドゥークとエミールで三対三、ではない。

 

マルドゥークは未だに参戦する様子はない。

 

周囲の空気は変わっていた。

 

マルドゥークの感応種としての力は、

他のアラガミを呼び寄せ、活性化させ、統率する偏食場パルスの発振。

 

その波が増幅され、遠吠えと共に拡散するのをリヴィは感じ取っていた。

 

あの個体の能力によって、

この周辺一帯のアラガミがここに集結しようとしているのだ。

 

「エミールの言った通りかもしれない」

今や、劣勢なのはリヴィたちの方だった。

 

手に汗が滲むのを感じながら、リヴィは遠くの狼と、眼前の二頭を見据え、構える。

 

「確かにあのマルドゥークは、今までの個体より、狡猾で用心深い・・・」

 

そう言いかけてから、リヴィは「いや」と、それを打ち消し、言い直した。

 

「・・・陰湿で、腰抜けのアラガミのようだ」

 

強い敵を、ただ強い、と言うのでは面白くない。

 

エリナとエミールがそれを聞いて、

リヴィと同じように不敵な笑みを浮かべたのが見えた。

 

どうにも逃げ場はない。

 

他にどんなアラガミがいつ襲ってくるのか、

報せてくれるオペレーターのサポートもない。

 

支部跡地でわずかばかり回収できる、携行品の所持数も心もとない。

 

 

だが、まだ仲間はいる。

 

 

死ぬにはまだ早い、とリヴィは結論付けた。

 

飛びかかってくるガルムに、三人分の砲火が重なった。

 

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