GOD EATER -the last blood- 作:ポラーシュターン
前面のラーヴァナ。後門のガルム。
最早面影はどこにもないが、
ラーヴァナが虎に似たヴァジュラから進化した種であることを考えると、
出来過ぎだな、と思わなくもない。
ラーヴァナ神融種は、従来種や他の獣型アラガミのように唸り声を上げたりはせず、
ただ淡々とその砲塔をこちらに向け、次の砲撃のための構えに入っている。
・・・その動作はどこまでも機械的で、生き物の気配を感じさせない。
兵器ばかりを喰らって進化したというラーヴァナが、
最終的に神機を取り込むのは自然なことのようにも思える。
だが不思議と神融種に共通する「死」を思わせるその姿に、
リヴィは気味の悪い感覚を覚える。
「リヴィさん、来ます!」
はっとして、リヴィはエリナと共に左右へ飛び退いた。
真っ白に見えるほど圧縮されたオラクルの奔流が、二人のいた場所を通り過ぎる。
避けてしまってから、後ろにいたエミールに当たるのではと一瞬危惧したが、
「とぅあ!」という間の抜けた掛け声が聞こえたので、
幸い彼も同じように避けたようだった。
「・・・属性は変わっているようだが、基本は同じはずだ。
神機を使った攻撃に気をつけろ!」
意気込み、リヴィはそんな指示を飛ばしてから突撃する。
遠距離砲撃に特化したラーヴァナ相手には、まず間合いを詰める必要がある。
対して、ラーヴァナは砲塔を畳み、
身動きしやすい姿勢に移行しつつ、その背のオラクル核を輝かせる。
そこから放たれたのは、雨のようなオラクルの弾幕だ。
リヴィは小さく舌打ちをして、盾を構える。
集束させた砲撃と、広範囲への牽制射撃。
鬱陶しいところも、元となったアラガミから全く変わっていない。
しかしリヴィを足止めした弾幕の外を回り込むように、
エリナとエミールが接近している。
「喰らうがいい!正義の!鉄槌!」
ブースターで一気に間合いを詰めたエミールが、
そんな掛け声と共にハンマーを振り下ろした。
ラーヴァナはすぐさま反応し、得意の跳躍で距離を取る。
エミールの攻撃は地面を叩くが・・・その避けた先に、エリナが回り込んでいる。
「やあっ!」
携えた神機、オスカーの鋭い一撃は、ラーヴァナを確かに捉えていた。
しかし。
「か、硬っ・・・!?」
エリナが驚愕の表情で槍を引っ込めるのが見える。
ラーヴァナはその攻撃に大して怯んだ素振りも見せず、
その顔なき顔をエリナに向けていた。
神融種となって、
ラーヴァナのただでさえ強固だった外殻はさらにその硬度を増しているらしい。
厄介極まりない、とリヴィは下唇を噛む。
本来弱点である頭部も、骸骨じみた意匠のパーツに覆われ、
ダメージは通りそうにない。
それは斬撃主体の鎌も同様だろう。
「・・・倒すのは無理か」
時間をかけてこの一匹と戦えるならあるいは、とも思うが、状況はそう易しくない。
どうにか撒いて、マルドゥークを倒すことを優先しなければならない。
・・・と、リヴィはラーヴァナの横顔に目がいく。
顔の横から伸びるロングブレードを角のように振り回し、
ラーヴァナはエリナを近寄らせまいとしている。
その根元を見て、リヴィは勝機を見出した。
「・・・二人とも、そのまま足止めしてくれ!」
駆け出しながら、指示を飛ばす。
少しでもダメージを与えて、隙を見てこの場を離脱する必要がある。
「了解っ・・・エミール、挟み撃ち、後ろから!」
「背中を狙うなど騎士道に反「だーもういいから早く!」「ええい致し方無い!」
緊迫した状況でも慣れた調子でそんなやり取りをしている二人と、
それを振り払おうとするラーヴァナ。
その巨体がぐるんと横に回転すると、
肩と頭部から伸びるロングブレードが二人の攻撃の邪魔をする。
しかし度々跳躍しようとするラーヴァナに対し、
二人がすかさず脚に衝撃を与え、遠距離戦に持ち込まれるのを阻んでいる。
いける、とリヴィは確信してその眼前に接近した。
兜に覆われたその頭部に、刺突や斬撃は通らない。
だが如何に装甲が厚くとも、関節部分や、首元はその限りでない。
神機を構えて、狙うべき箇所を見据える。
同様にこちらに顔を向けたラーヴァナと、
一瞬、仮面の奥で眼が合ったような気がする。
もはやお互いは目と鼻の先。
喉元を狙った鎌が、ラーヴァナの顔の下に滑り込もうとし、そして。
――――リヴィの神機が届く前に、ラーヴァナの神機が火を吹いた。
顔の両脇にあったロングブレードは角度を変え・・・
そこから根本に内蔵されていた、銃口が覗いていた。
その仕込み銃から瞬時に放出されたオラクルが爆発を起こし、前方を灼いたのだ。
「リヴィさっ・・・?!」
リヴィのいた空間が突如として焼き払われ、エリナが叫びかけた。
しかし。
そこにリヴィはおらず、かといって吹き飛ばされたわけでもなく。
「そんなことだろうと思ったよ」
リヴィは、跳んでいた。
インパルスエッジという隠し玉があること。リヴィはそれを予測していた。
神融種は、その身に宿す神機を用いた新たな能力を得る。
そう思うと、砲撃を得意とするラーヴァナに近接型神機というのは、
なんとなく、不釣り合いだと思ったのだ。
何故ロングブレード型なのか。
そういう目で見れば、どんな事が出来るのかは想像がついた。
爆風がつま先を炙ったが、その上をリヴィは舞う。
神機から咬刃が伸び、無防備になったラーヴァナの顎に、
下から掬い上げるように刃が食い込む。
そしてそれは深紅に輝くや、一気にリヴィの手元まで戻り、その間を引き裂いた。
『ガアアアアッ』
初めて耳にする神融種の声が響いた。
見れば、その兜は下半分が砕け、大きく切り裂かれた口元が覗いている。
リヴィが着地する頃、ラーヴァナは苦しそうな呻き声を上げ、地面に崩れ落ちていた。
「やった!」
「見事だ!」
左右から二人の歓声が聞こえる。
リヴィは一瞬微笑んでから、すぐに気を引き締める。
地に伏せたラーヴァナの背・・・霊魂のように揺らめくオラクル核の燐光は、
まだ消えていない。
「・・・今のうちだ、マルドゥークの所へ向かう!」
トドメを刺したいのは山々だが、時間がない。
それに、頭部の結合崩壊によって一時的に無力化はできたが、
これが同じことを繰り返して撃破できるほど楽な相手とは思えなかった。
エミールとエリナも同意見だったのだろう、迷うことなく頷いてみせる。
三人は倒れたラーヴァナを置いて、マルドゥークの方へ向かおうとする。
誰も油断はしていない。
この場を切り抜けるため、最適な選択肢をとり続けていた。
・・・だというのに。
リヴィが見たのは、駆け出そうとした三人の行く手を遮るように現れた影だった。
「・・・きっつ」
なるべく弱音に聞こえないようにと配慮したらしい、エリナの呟きが耳に届く。
「・・・逆境でこそ騎士は輝くものだ!」
そして相変わらずのエミール。
最後にリヴィも笑い、頷きながら、口端を、僅かに引きつらせていた。
・・・さらに2体のラーヴァナ。
それも今しがた倒したのと同じ、禍々しい滅紫に彩られた神融の個体が、
こちらに冷たい殺意を向けていた。