俺は風鳴翼の弟です   作:チョコ明太子味

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 まだ胸のあったころ(研ぎ澄まされてない)の翼さん書くの難しい。難しくない?

 それとアクシアの風聞きました。
 めっちゃいい曲っすね。



第六話

「姉さん…………」

 

 テレビを隔ててしか見たことのなかった風鳴翼がすぐそこにいる。

 いつもより早く心臓が鼓動を打つのを感じる。

 

 話したいことは考えてあったし、会ってどうするのかも考えていた。

 でもほんとうに情けのないことこのうえないが。

 実際に会ってみると、そんなものは吹き飛んでしまった。

 

「初めましてと言ったほうがいいのかもね」

 

 顔をこわばらせることさえできなかった。

 俺が三才のころには姉さんは家を出ていたはずなので、もちろん姉さんは俺の小さなころを見たことがあるはずだ。

 それとも。幼いころの思い出はすでに忘れてしまっているのだろうか。

 

 いや。

 大切なのはそこじゃなくて。

 風鳴翼は風鳴翔とは全く関係のない立場から関係を築く気なのだという事。

 

 それは俺が望んでいることではない。

 それに。

 

 そんなのあまりにも寂しいじゃないか。

 元々俺が姉さんに感じていただけのものだったかもしれない。

 でも。ここでソレを受け入れてしまえば、一生姉と弟としての関係にはなれないような気がする。

 

「いや違う。久しぶりだ、よ。姉さん。名前はもう忘れてるかもしれないけど」

 

「…………っ」

 

 俺のそんな言葉に、姉さんは僅かに苦い顔を浮かべた。

 

 なんだやっぱり忘れていないじゃないか。

 締め付けられるようだった心がわずかに緩む。

 

「風鳴翔。俺はあなたの――――」

 

「やめて。それ以上言うのなら…………」

 

 姉さんは言葉を途中で切ったけれど、言葉の続きは聞かなくても分かる。

 

「あなたのことは叔父様から何度か聞かされたことがあるわ。…………あ なた、家を出たそうね」

 

「ああ。三年前にな」

 

「お父様に言われてすぐに家を出たそうね?なぜそんな簡単に家を出るこ とができたの?」

 

「それは…………」

 

 言っていいのだろうか。俺の祖父である風鳴訃道が怖かったからだなんて。

 

「答えられないの?自分から防人の役目を放棄したのに、手前勝手にそれを拾うなんて虫が良すぎるわ」

 

「でも俺は!」

 

「あなたが背負ってるものは戦う理由としては軽すぎる」

 

「なん…………」

 

 見ている景色がまるで真っ赤に染まったようだった。

 背負ってるものが軽すぎるなんて。

 そんなわけはない。

 大事な人の命。もう会えない人との約束。

 人生で見たもの得た物の中で最も大事な二つを俺は背負っているんだ。

 

「いくら姉さんでも。それ以上俺の守るものを侮辱するようなら、俺は許 さないぞ」

 

「なら手っ取り早い方法があるわ。あなたが背負うもののほうが重いの  か、私が背負うものが重いのか。それを確かめる方法がーーーー。つい てきなさい」

 

 そう言って廊下を歩いていく姉さんの背中を黙って追いかける。

 姉さんに連れてこられたのは俺たちがいる場所からそう遠く離れていないトレーニングルームだった。

 先に入ってと言う言葉におとなしく従う。

 やけに広く、床には細かい傷がいくつも付いている。

 

 これは…………。

 

「ここは奏者用のトレーニングルームよ」

 

 そういって動きやすい服装に着替えた姉さんが渡してきたのは竹刀だった。

 なるほどそう言う事か。

 

「剣を交わせば互いになにを考えて戦っているのか分かるというもの」

 

「だけど防具はどうするんだ?俺はいいけど、姉さんの体に当たった   ら…………」

 

「あなたの刃が私に触れるとでも?」

 

 ――――にゃろう。

 そこまで言われてしまわれたら、俺も引けない。

 

「分かった。ならすぐに後悔させてやる」

 

 竹刀を正中線に構える。

 まるで写し鏡のように姉さんも竹刀を構える。

 

 合図を上げる者はいない。

 俺達だっていつ始めるか示し合わせなんかしていなかった。

 

 だけど当たり前のように構え、当たり前のように動き出し。

 いつの間にか。互いの竹刀は重なった。

 

 互いに先をとろうとした動きの初動。

 わずかに上回ったのは姉さんだった。

 水のごとく無駄のない動きで竹刀を振るい、俺の持つ竹刀を弾き飛ばそうと上段から鋭く刃を振り下ろした。

 

「づッ!」

 

 こちらが二つの動作をする頃には、姉さんは三つの動作をすでに終えている。

 俺が何とか初動をさばいたころには、まるで空気を破り裂くかのような竹刀が顔めがけて飛んできた。

 

 そうか。突きってこんなに怖いのか。

 考えてみればまともに人に向かって剣をふるうのも、振るわれるのもこれが初めてだ。

 首をひねって突き出された竹刀を避けると、姉さんはこちらが反撃に転じる前に引き戻し、別の場所へと突きを放つ。

 避けてるだけじゃダメだ!。

 

 鋭く突き出された竹刀の横腹に獲物を合わせて突きを何とかいなした。

 

「なに!?」

 

 姉さんの驚く声が聞こえる。

 とはいってもそれは突きがいなされたことにではない。

 突きを繰り出されているのに俺が前に出たことに驚いたのだ。

 

 相手の鍔が三張節を叩くよりも早く、竹刀を押しのけるようにしてどかす。

 

 取ったッ!

 

 わずかに隙を見せた姉さんに向かって弧を描くように竹刀をふるった。

 

 だけど俺の竹刀はさっきまで姉さんの体があったところを通り過ぎた。

 

 それを認識した瞬間。

 足に衝撃を感じて、俺は背中から崩れ落ちた。

 視界の下の方には片手でバランスをとりながら足払いの動作をしている姿が見受けられる。

 武器の方に集中しすぎたッ!

 

 倒れる俺の体を押さえようとする姉さんに抗うようにして。

 地面をけり後ろへと動く。

 無論。そんな体制から俺が受け身をとることなどできるわけもなく。

 ゴロゴロと何度か転がってやっとのことで体制を整えた。

 

 …………この動きができるようになるまで。

 姉さんは何人の人を守ったのだろう。

 何人のノイズを倒したのだろう。

 一体、どれほどの苦境を潜り抜けたのだろう。

 

「もう終わり、ではないのでしょう?」

 

「あっ、たりまえだ」

 

 かつては何も乗っていなかったこの剣。

 振るうには軽すぎて、振るうという行為ですべてが閉じていた。

 

 だが今は思いを帯びている。

 故に剣は鋭く。重く。吹きすさぶ。

 

    ●

 

「ざぁッ!」

 

 体制を整えて、目の前の男は竹刀を振るう。

 人と刃を交えたことなどほとんどしてこなかったのだろう。

 狙いは甘く、有効的な攻撃を放てているわけではない。

 

「はぁッ!」

 

「ぐッ!」

 

 今だって。

 刃を交える回数が増えるごとに私の動きをさばききれなくなっている。

 

「…………ァッ!」

 

 だのに。

 なぜこの男の振るうものの重さは失われないのか。

 

 技術は私のほうが上。

 目の前の男が背負っているものが私より上だと思えるものではない、はずだ。

 しかし男が振るう剣は抗うように。

 自分では届かないものにさえ切っ先を触れさせる。

 

私の弟であることを意固地になって主張し続けるこの男は。

 なぜ無理のその先に向かおうとするのだろう。

 

 奏…………。

 彼の中にわずかにあなたを感じる気がする。

 

 彼が振るう竹刀と自分の竹刀を重ねてみて思う。

 …………まあ。

 それとこの試合に負けるかどうかとは別だけど。

 

    ●

 

「痛いなぁ」

 

 結局。

 終わりを告げたのは、頬にもろに入った姉さんの一太刀だった。

 熱を帯びる頬に触れるとぴりりとした痛みが走る。

 

 そういえば。

 これが初めての姉弟げんかになるのかな。

 

「何を笑ってるの」

 

 不気味そうにそういう声が頭上から聞こえてきた。

 どうやら俺はあおむけになったまま笑みを浮かべてしまっていたらしい。

 ひざをおって俺の顔を覗き込む姉さんはとても怪訝そうな顔を浮かべている。

 

「姉さんって強いんだな」

 

「当たり前のことは言わなくていいわ。私がノイズと何度戦ったと…………」

 

「うん。剣の腕もそうだけどさ」

 

 微妙に濁した俺の言葉の意味を僅かの間探った姉さんは、否定するように首を振った。

 

「私はまだ弱い。剣としてまだまだ磨くものだってたくさんある」

 

「じゃあ俺もそうか。剣と言うにはあまりにもなまくらにすぎるけど」

 

 剣として戦う。

 その意味は分かっている。

 でもその考えは俺には否定できない。

 だって俺だって律の為ならば…………。

 

「ほら」

 

「え、一人で立てるからいいって」

 

 差し出された手を取らずとも立ち上がろうとしたけれど。

 あぁ、うん。

 

「やっぱ一人では立てないや。ちょっと甘えることにするよ」

 

 姉さんの手を取って立ち上がる。

 

「あなたが戦場で戦う事ができないと言うのは変わらないわ。シンフォギアの有無やノイズとは関係なしにね」

 

「姉さんと立ち会って分かったよ。まだ俺はやらなきゃいけないことがあ るんだって」

 

「だから…………まあ、あなたが手合わせをしたいって言うなら時間のあ る時にしてあげてもいいわよ」

 

「へ?」

 

 姉さんの言っている意味が分かるまで数秒。

 なぜこういう言い方をしたか分かるまで十秒ほどの時間がかかった。

 

「ああなるほど。あはは、不器用なんだな姉さんって」

 

「何を言ってるの。どうせ貴方も器用ではないでしょう?翔」

 

「んなことない。姉さんよりはマシだ」

 

そんなことを言い合いながらトレーニングルームから出ようとする俺たちの前には見覚えのある人影が立っていた。

 

「うむ。仲直りは大いに結構。お前らの叔父としてもとてもうれしく思う が…………二人には少し小言が必要みたいだな」

 

「…………」

 

「げ…………」

 

    ●

 

「え!?翔この家を出るつもりなの?どうしてそんな急に…………」

 

「いや、元々この家にずっと住むつもりもなかったし…………。引っ越しするのだって中学を卒業したらだからもうちょっといるつもりだぞ?」

 

「でも…………だったらすぐに翔に会えないじゃん」

 

 ようやく元気も取り戻し、学校にも行きだした律の顔がわずかに歪む。

 そんな顔をずっと見ているのも穏やかな気分ではない。

 だから特にもったいぶらずに事の詳細を律にいう事にした。

 

「その点は大丈夫だ。律ってリディアン音楽院の推薦もらってただろ?数週間前に」

 

「うんうん。でもそれと何の関係があるの?」

 

「うん。そこって俺の父親の知り合いが運営の深いところに関わってて さ。高校になってバイトするならってことでそこの雑用の仕事を手伝うことになったんだ」

 

嘘が一割。間違ったことではないことが八割。本当の事が一割くらいの割合で混ざった話を彼女にする。

まあ書類上はそう言う事なのだ。

 

「あ、あそこ女子高だよ!?」

 

「うん、なにか問題でもあるか?」

 

「ある!翔が女の子に囲まれて何が起こるか分からないし!」

 

「俺、女の子に手を上げるぐらい物騒な人間に見えるのか?」

 

「そういう事じゃないんだけど…………ね」

 

「じゃあ、律は俺に中々会えなくなってもいいのか?このバイトをやらなかったら会うことは難しいと思うけど」

 

「ぐ…………その言い方はとてもずるい…………」

 

そのあとも、獣の唸り声みたいな声を上げていた律だったが、あきらめたように息を吐いた。

 

「私がいつもこうやって一歩引くことになるのね。これから私苦労しそう…………」

 

「ということで、決まりだな。大丈夫。変なことはしないって」

 

「翔はそりゃあしないだろうけどねぇ…………」

 

 それからもうだうだ言い続けていた律をなだめすかしてこの日は気絶するように寝たのだった。

 

 そして時間はあっという間にすぎるものらしい。

 あの日から一年とその半分ぐらいの時間が過ぎて、地球何度目かの春が来た

 




やだ。この姉弟、同じ地雷をつついてけんかしてる(小並感)

本当は三、四話で修めるつもりだった前語りは完結して、いよいよ一期に物語は進みます。

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