資格試験も終わったので通常通りのんびりと更新していこうと思います。
第一話
「翔!今日〇〇とゲーセン行くんだけど、お前も来ないか?」
「ん、いや。今日はちょっとバイトがあるんだ」
「マジ?今日半ドンだぜ?」
「半ドンだからだよ。俺がどこでバイトしてるのか知ってるだろ?」
「あ、そっか大変だよなお前も」
からからと笑ったその友人はまた違う生徒に声をかけて教室から出て行った。
さあ、友人に用事があるのだと言った手前急がなくちゃ駄目だな。
俺の通う公立の学校ではすでに授業が始まっているが、私立リディアン音学院では今日が始業式なのだから、表の仕事も山積みであるはずだ。
黒板消しを握った、当番であるらしい女子生徒に軽く声をかけて教室を出る。
やや急ぎ足でバス停のある裏門に向かえば、足元を風と共にいくつかの桜の花びらが通り過ぎた。
こうして春を迎えてみれば、あの日からもう一年がたったのかと言う感じだ。
少しばかり握った手に力がこもる。
あの日から俺はどこか変わっただろうか。
錆びた刀を握っているような感覚。
一年ほど前からまとわりついて離れないその感覚は日増しに強くなっていくような気がする。
握った獲物の感覚は確かに重く感じるのだけど…………。
「分かってる。まだ遠いってことだよな」
身近な人を守れる強さを手に入れる。
その目的は変わっていない。
ならばこの刀身がまことに輝くまで、俺は芯を育て続ければいいのだ。
「小さなことからコツコツ、と今やるべきなのは…………」
遠くのほうにとまったバスに乗り遅れることなくリディアンに着くこと、だ。
●
「はぁ~あ」
顔にしょぼんとした顔を貼り付けて、立花響はリディアン音楽院の廊下を歩いていた。
いつもそばにいてくれている小日向未来は先生に呼び止められたのでそばにはいない。
だから慰めてくれる誰かがいるわけもなく、響は再び溜息をこぼしたのだった。
そもそも、彼女が落ち込んでいるのは自分が尊敬している……というよりもファンである風鳴翼に恥ずかしいところを見せてしまったからである。
彼女としてはほかの何かに八つ当たりするのも何か違う、というものだったのだ。
(こ、こうなったら今日出た翼さんの新曲を含めたメドレーを寮で聞くしかない!まあ、未来にはすこぉーしだけ文句言われるかもだけど……)
そんな風に考え事をしていたせいか、彼女は角から曲がってきた人を避けることができずにまともにぶつかってしまったのだった。
「おわわ……」
ふわりと漂うのりの匂いを感じながら、響はかろうじて足を大きく開いて踏ん張った。
「す、すいませ…………ん?」
謝ってる最中に、自分の顔に影がかかっていることに気が付いた響は首を持ち上げる。
そんな彼女の視界に広がったのは紙の塔だった。
さすがに天井までとはいかないがかなりの高さまで積みあがった紙が僅かに揺れる。
「ああ、怪我はなかった?」
「か、紙のお化け?」
だから思わずそんな言葉を口走ったのも、まあしょうがないことではある。
「いやいや。ちゃんとした人間だって。ほら」
そういって紙の束が少し横にずれて、紙を持ち上げている人が姿を現した。
「おおーっ、力持ちなんですねぇ。あれ、えーっと女の人?」
「いや、多少線は細いかもだけどそうは見えないだろ」
「ですよね、たはは。えーっと、じゃあ教師の人?」
「残念。俺はただの雑用のアルバイトだよ」
「学校でアルバイト?」
「用務員見習いとでも思ってくれたらいいよ。将来は世界一の用務員、とか」
「ほえ、頑張ってください」
「いやいや冗談だって。大真面目にそう言われると、茶化した自分が恥ずかしくなってくるな」
困り顔でそう言いながら、少年は持っている荷物を持ちやすいように微調整する。
そのたびにゆさゆさと彼がかかえている紙の束は揺れるのだが、紙は一向に落ちてくる気配がない。
「じゃあ、俺は急いで荷物を先生のところまで届けないといけないからこれで。週に何度かここに通ってるからまた顔を合わせることもあるかもな」
「は、はい。ご迷惑をおかけして申し訳ありません…………」
「迷惑なんてかけられてないよ。じゃ、今度また」
そう言って、少年は響が歩いてきた廊下を通って、姿を消してしまった。
「あ、そういえば名前聞いてなかった」
ならばせめてどんな顔をしていたかだけ、と頭の中に青年の顔を思い返す。
少しだけ色素の薄い青色の髪に、少し気の強そうな目。
「あれ、なんだか誰かに似ているような?」
響が得た疑問は、しかし答えを得ることなくくすぶり続けた。
響の割と適当な部類の脳では、無色のパズルピースをつなげるのは難しかったのだ。
「ま、いいか。それよりも翼さんの新曲だよね!」
そうして少女は得た疑問を放り投げて、目的に向かってひたすらに走ったのだった。
●
「あ、翔君ちょっと待ってくれ」
「はい?」
オペレータールームからのモニタリング資料を受け取り終えた時、朔也さんが俺を呼び止めた。
「なにか話でもあるんですか?」
「うん、まあ完全に私事なんだけどさ、これについてどう思う?」
片手に持っていたコーヒーを置いて、朔也さんは個人用のモニターに画像を映し出した。
「これって…………日本じゃないですね」
「ああ。アイルランドで発掘されたもので、現代には存在しない物質で作られた金属の破片、らしい」
「それが何かまでは分からないんですか」
「残念ながら全く。分かるのは明日のニュース記事に乗るだろうそれくらいの情報で、これ以上を調べようと思ったら…………ちょっとした国際問題になるだろうね」
「でもアイルランドって言ったら英国圏でしょう?それが日本も含めた周辺国に報道規制をするってことは…………」
「おそらく異端技術に関する何か…………ってことかな」
「んで、その金属片をネタに短い休憩時間を消費しようって腹ですか?」
「げ、ばれたか」
「いくら了子さんが俺に情報を漏らしてるからって、そういうのを勝手に言うのはよくないと思いますよ」
「いやいや。黙ってても明日の朝のニュースを見れば分かることだからね」
了子さんと同じ場所で働いていると、愚痴やなんてことはない世間話から、他言無用の機密情報まで入ってくるのだからタチが悪い。
いくら了子さん預かりだからとはいえ、それを耳に挟んでしまうこっちとしてはそういう話に多少の警戒はせざるを得ないのである。
「まあ了子さんもそれだけ君の事を信頼してるってことなんだろう。ぶっちゃけた話、了子さんの研究について一番理解してるのは君だろうからね」
「俺としてはそんな実感はないですよ。ただ了子さんが書いた論文とか、そういうのに目を通したりする時間が人より多いだけで…………」
「そりゃあ君より賢い人ならいるだろうけどさ、了子さんの研究の傍にいれるってのは多分そこらの天才の努力の積み重ねよりも上だと思うんだ。あ、これは個人的な考えね」
「そう言われたら余計に頑張らないといけないですね」
「うんうん。いつか君がいないとダメだって思える日が来るのを待ってるよ」
そんな軽口を言っていれば、ズボンのポケットに入っている携帯電話が僅かに震えた。
もうそろそろ研究室に戻らなければいけないころだ。
どうやらメールの様だろうし、急ぎの要件ではないだろうからとりあえずは資料を研究室に持ち帰ることを優先することにしよう。
「じゃあ、俺はこれで――――」
と、その時。電源の落ちていたメインモニターが起動を始め、けたたましい警戒音を鳴らし始めた。
「ノイズ――――!」
「翔君!君は研究室に戻って警戒時の仕事に戻ってくれ!」
「分かりました!」
館内放送で職員に呼びかけたのち、情報をモニター上に出す朔也さんと他のオペレーターにこの場は任せ、了子さんのいる研究室へと向かう。
「了子さん!」
「こっちもシンフォギアのモニタリングの準備はばっちりよん」
あらかじめ予見していたかのような手際のよさに思わず舌を巻く。
「姉さんはもうすでに?」
「ええ。でも少し遠いみたい。ノイズの出現位置に到着するまでは六分以上かかるみたいね」
研究室で取得した情報とオペレータールームの情報は同期しており、回線もつながっている。
『ノイズは人の少ない工場地帯に出現しているようです。しかし…………』
『いかんせん数が多いな』
モニター上にはっきり出ているものだけでも数は二十。そしてさらに少しずつ増えている。
ノイズがこの地域からあふれるようにして出てしまえば、被害はより大きなものになるだろう。
『ッ!?ノイズ発生地域に新たな熱源を感知しました!』
「エネルギー反応を照合して、こちらから情報を送ります!」
エネルギー反応は聖遺物が発生するアウフヴァッヘン波形と一致。
二課データーサーバー内の同波形と類似するものを自動的に照合してくれるツールを使って、熱源を特定する。
その結果をオペレータールームに送りながらもモニタ内にでた結果に動揺を隠せない。
二度、三度、とツールを起動させるも結果は変わらない。一致率はそもそも最初から99%の値を下回ることなく、画面上に簡素に映し出されている。
『こ、これは!?アウフヴァッヘン波形の解析結果をメインモニターに出します!』
『ガングニールだとぉ⁉』
かつて失われたはずの槍が再びよみがえったのだ、と。
現実はそう教えていた。
戦記絶唱シンフォギア編の始まりです。