「えっと…………これって…………」
不安そうな顔でこちらに助けを求めるような視線をよこす響。
そのまま視線をそらしてしまいたい気持ちをこらえる。
こちらとしても彼女になんて答えればいいのか分からないのだ。
なにせ目の前の彼女がガングニールのシンフォギアを纏っているところをモニターを通して見てしまったのだから。
彼女の纏ったのがシンフォギアではないなどという事はありえない。
ノイズの炭素分解を無視して行動していたのだ。
ノイズの炭素分解を無効化できるバリアコーティング機能を備えているのはシンフォギアだけなのだ。
「今は君の置かれている状況について教えてくれるところに向かってるんだ。今ここで説明するってのは…………さすがにまずいからな」
「は、はひ」
ガチガチになってしまっている彼女から視線を離し、薄く黒がかった窓から外の風景へと移した。
全く。了子さんには感謝しないといけない。
『どうにも落ち着かないようだから貴方も着いていきなさい』なんていつも通り見透かすような事を言ってくれなかったら、ここについてこれなかっただろうから。
研究室にいたとしても仕事は手に着かなかっただろうから、それに見かねての事。なのかもしれないけれど。
なぜと言う言葉が俺の頭の中で飛び跳ねる。
疑問や理解不能な事が脳髄をグラグラ揺らしてくるようで、なんだか頭が痛くなってくる。
というよりも、彼女はどういう処置を受けるのだろうか。
乱暴な事をされる可能性はないが、口留めとして書類にサイン?
いやいや、シンフォギアを纏ってしまったのだからそれも無理があるか。
うーん?
●
「ようこそ人類守護の砦。特異災害対策機動部二課へ!」
パンパン!と断続的にクラッカーの音が鼓膜をゆらし、紙吹雪やカラーテープが宙を舞う。
俺の横にいるガングニールの少女はもちろん呆気にとられている。
彼女からしてみればどんなことをされるのか不安な状況でのこれに訳が分からないと言ったところなのだろう。
いや、訳の分からないのは一緒に来た俺や姉さんも同じだが。
緒川さんも困ったように笑っている辺り知らされていなかったのだろう。
というかパーティグッズを掴んでる面々には現場にいた職員も混ざっているのだが。
大きな文字で立花響様とかかれた色とりどりの看板を見上げて、意味のない笑いが漏れそうになってしまった。
「あ、あの!なんで初対面の私の名前を皆さんが知ってるんですか⁉」
了子さんの二人での自撮りから逃れながら、響さんは叔父さんに当然の質問をぶつけた。
「我々二課は大戦時に創設された特務機関。調査などお手の物というわけだ」
そう嘯く叔父さんの横で学生カバンを持った了子さんが満面の笑みを浮かべる。
まあ響さんはリディアンの生徒なのだからカバンの中身を調べなくてもすぐに調べることはできたと思うけれど、しかし茶目っ気がありすぎではなかろうか。
しかし、なんというか張っていた気はなんだかものの見事に抜けてしまった。
かけられた手錠を緒川さんに外してもらっている響さんを後目に姉さんの様子を伺う。
少し下を向いたまま目を閉じているせいで何を考えているのかは俺にも分からないが、姉さんの心中は複雑な物だろう。きっと俺やここの職員の人たちよりもずっと。
「あ、あの!」
「ん?」
少しの間考え事をしていると、響さんは俺の近くによって声をかけてきていた。
あ、いや。確かに考え事はしていたけれど叔父さんたちの会話はしっかりと聞いていた。
つまり、彼女は叔父さんや了子さんの自己紹介の流れから一度顔を合わせたことのある俺の名前を聞きたいのだろう。
「ああ、うん。俺は風鳴翔。学院のほうで雑用のバイトもしてるけど…………ここでの雑用もしてるんだ。まあ、最近は了子さんの手伝いをしてることがほとんどだけどね」
「えっと、うん?風鳴?」
「まあその辺りを説明するとちょこっと長くなるから…………その前にやることがあるみたいだし」
「そうそう!響ちゃん。まずは…………服を脱いでもらわないとね」
「えぇ⁉」
と、その時。再び懐の携帯が僅かに震えた。
今度はメールじゃなくて電話らしい。件名を見るとそこには見慣れた文字が画面を踊っていた。
「と、すいません。少し席を外します。――――ついでに響さんの検査の方も終わらせてくれたら幸いです」
「あら?思春期の翔君としては女子の裸を見るのは恥ずかしいのかしら?」
「俺が恥ずかしいとか恥ずかしくないにかかわらず、響さんが嫌でしょ。普通に」
「冗談冗談」
カラカラと手をふる了子さんをやんわりと睨みつけてその場から離れて、人のいない場所にすばやく移動する。
「もしもし。ごめん、出るの遅くなった」
『本当に。その分だと夕方に送ったメールも見てないでしょ』
「え、あー。うん」
『そうだろうと思った。頑張って送った茶目っ気たっぷりのメールだったのに見てくれないなんてひどーい』
「悪かった悪かった。まあその分だと二年生になった記念のなんたらかんたらってやつだろ?時間のある時にまたこっちから連絡するよ」
『やった♪話が早いんだから』
上機嫌になった律の声に思わずほほが緩んだ。
なんというか、こうして異常事態に関わる事ばかりしているとこういった何気ない会話や学校での生活がとても楽しく思えるのだ。尊いと言ってもいいかもしれない。
『あ、今笑ったでしょ。なんだか少し機嫌が悪そうだったから』
「いや、機嫌が悪いとかじゃなくて変に気が抜けてただけだ。特段心配してくれるようなことは何もないよ。俺は、だけど」
『――――ふーん。まあそう言うならそうなんだと思う事にするけれど、あんまり無理をしないでね。バイト頑張るのもいいけれど早く寝ないと』
「それはお前もだ。早く寝ちまえよ歌手の卵」
そのまま二人で笑いあった後、どちらからか電話を切った。
しかし研究室にそのまま言ったのではちょっと都合が悪い。
遠回りがてらに自販機によって暖かいものでも了子さんに買っていくことにしよう。
●
「それでは先日のメディカルチェックの、結果発表~!」
パチパチパチ、と自らの口で言いながら了子さんはモニターに響さんの診断結果を映し出しす。
俺は響さんのデータを分かりやすいようにまとめたところで帰された(というよりも普通に法に触れる時間帯になった)ので最終的な響さんの状況は知らない。
だが、モニターの心拍数。血液内の白血球の量。その他の身体的な能力について異常はないようだった。
「結論を言うと、響ちゃんの体にはほとんど異変はなかったわ」
「ほとんど…………ですか」
「あの。だったらあれは何で?」
「そうね。じゃあ翔くん説明諸々頼めるかしら?」
「え、俺がするんですか?」
「伊達に私の手伝いをしてないでしょ?試験のつもりで気軽にどうぞ」
「試験って気軽に受けるもんじゃないと思うんですが」
藤尭さんのいう事はもっともだが、了子さんにそう言われたのなら仕方ない。
「じゃあ粗末だけどできるだけ簡単に。聖遺物ってのは伝承。伝説に登場する現代では再現することのできない異端技術の結晶…………たとえば絶対に折れない剣とかそんな感じの物だ。経年劣化などで状態が悪くなった状態で発掘されたりするから完全な状態の聖遺物は、そうそうないけどな」
「おっけー!完璧ね翔君」
「ま、まあ伊達に資料と顔を突き合わせてないんで」
「聖遺物についてはこんな所。そしてこの私はその聖遺物を利用してノイズに対抗するものを作り出したのよん」
「翼の持つペンダント。あれには第一号聖遺物天羽々斬の欠片が仕込まれている」
「その欠片に残ったわずかな力を増幅させることができるのは歌…………つまりは特定振幅の波動。つまりは歌、というわけね」
「歌…………。あ!確かにあの時、歌が浮かんできました!」
「その歌の力で活性化した聖遺物の力を鎧の形で再構成したものが安置ノイズプロテクターであるシンフォギアなのよ」
「だからとて!どんな歌誰の歌でも聖遺物を起動させる力があるわけではない!」
事情を知ってるものからすれば悲鳴のようにも聞こえた叫びはその場を冷たく駆け抜けた。
「そういった聖遺物を起動させる力を持ったもの達を俺たちは適合者と呼んでいる」
「で、でも。私はそんなペンダントのようなものを持っていません…………」
「そうね。これを見てもらえるかしら」
了子さんは次のスライドをモニターに映し出した。
「この欠片が何なのか、響ちゃんには分かるかしら」
「あ、はい。二年前の傷です。あのライブ会場に私もいたんです」
まさかの言葉に思わず息が詰まった。
彼女もあのコンサート会場にいたなんて…………。
「分析の結果、この欠片は第三号聖遺物。奏ちゃんが纏っていたガングニールの欠片だという事が分かったわ」
あれ。というのはもちろんシンフォギアのことだろう。
「奏の…………ッ!」
彼女が纏ってるのは正真正銘奏さんのギア、ということか。
姉さんも心中穏やかではいられないのだろう。一度断りを入れて部屋から出て行ってしまった。
「ちょっと、おれも行ってきます」
もうそろそろ戦闘描写挟みたい。挟みたくない?