泣き虫小僧はミカンがお好き   作:なちょす

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皆さん、こんにチカ。
調子が戻りました、NEWなちょすです。
相変わらず運は散々ですがね!
今回から3話に及んで、バカップルが旅に出ますよ。
家出?まさか。
愛の逃避行?とんでもない。
モブ含め色んな人物を巻き込んでいく、王道からズレた旅行話をごゆるりと⋯。


2泊3日のLove Travel (1日目)

爽やかな風が電車の窓から入ってくる。

外では秋の訪れを知らせてくれるかのような真っ赤な紅葉が咲き誇り、まるで別世界なんじゃないかって⋯そう、思ってしまう。

所謂ローカル線という電車に乗って、俺達は目的地へと揺られていた。

 

「りょーくん!すっごい綺麗だね!!♪」

「うん、そうだね千歌ねぇ。」

 

隣で腕を組みながら、子供のようにキャッキャとはしゃぐ彼女。

俺達は今デート⋯とは違うか。2人きりの旅行に来ている。

事の発端は一週間前⋯。

 

 

 

「ねぇ涼君?」

「ん、どうしたの志満ねぇ?」

「最近千歌ちゃんとはどう?」

「どうと言うか⋯いつも通り幸せな日々を過ごしてるよ。」

「あらあら♪良いわねぇ、青春⋯そんな2人にちょっとしたプレゼントなんだけど⋯。」

「え?」

「はい、これ。商店街の福引きで当たっちゃった☆」

「1等、『2泊3日の温泉旅行ペアチケット』⋯マジで!?」

「丁度練習も空いてるみたいだし旅館もシーズンオフでお客さんもそんなに居ないから、2人で行っておいで。あ!大人の階段登ったら早めに連絡ちょうだいね?」

「ぶっ!?無い無い!絶対無いからっ!!」

 

 

 

とまぁ、こんな風に志満ねぇからのご厚意ということでチケットを貰ったわけ。

なのだが⋯!

女の子とどこかへ旅行なんてしたことないぞ!どうすりゃいいんだよ!?

と、とにかく変な事を言わず変な発言をせず⋯いつも通り⋯いつも通りでいいんだぞ、俺。

 

「りょーくん?どうしたの?なんかボケ〜っとしてるけど⋯。」

「な、何でもないよ!どんな旅になるのか楽しみでしょうがなくてさ!」

「そうだね!まずは美味しいもの食べるでしょ?それから食べ歩きして旅館でご飯食べて〜⋯。」

「ははは!千歌ねぇ食べてばっか。」

「えへへ⋯だってワクワクしてるんだもん♪う〜、早くつかないかなぁ!!」

 

そう言いながらみかんを頬張る千歌ねぇ。ほっぺたが膨れるぐらい口に入ってる姿は、この時期冬眠に入る小動物の様になっている。

はい、可愛いです。

思わず顔がニヤけるのを堪えて目をそらす。

ヤバイな⋯俺はこの3日間、命をすり減らして過ごさなければならないらしい。

持ってくれよ、俺の理性。

 

なんやかんやあって俺達がやってきたのは、長野県の阿智村。昼神温泉郷と呼ばれる一帯だ。

ここは有数の温泉地で村の中にもいくつか足湯があったり、大小様々な温泉旅館が立ち並んでいる。他にも呼び名があるんだけど⋯まぁそれは後にするか。

適当に駄べりながらブラブラしてると、一つの足湯が目の前に現れた。先客として、1組の夫婦だろうか⋯40代くらいの男女が足をつけてゆったりしている。

 

「千歌ねぇ、足湯あるけど入っていく?」

「入る入る!」

「すみません、この席に座っても大丈夫ですか?」

「あぁ、気にしないでも良いよ?」

 

優しそうな女性だ。隣の男性はパッと見目つきが鋭いが、うんうんと頷いてくれている。

 

「じゃあお言葉に甘えて⋯んっふぅ〜⋯。」

「あはは、りょーくん変な声〜!」

「いやいや、気持ちよすぎて出るから!ちょっと入ってみなよ!」

「千歌はそんなことないもんね〜!⋯んっふぅ〜⋯あっ。」

「ほら見たことか。」

「う、うるさい!///」

 

立てたフラグを見事に回収していくスタイル。

実に微笑ましいですなぁ⋯。

 

「あらあら、仲良しなのね♪」

「あ、すみません騒がしくしちゃって⋯。」

「良いのよ、ウチの主人は何も喋らないから貴方達ぐらい賑やかな方がおばさん楽しいわ。2人は観光?」

「はい!温泉旅行なんですよ〜♪」

「あらそうなの?それじゃあゆっくりしていかないとね!それにしても思い出すわね〜⋯この人と初めて出会ったのもこの足湯だったから⋯。」

「え、そうなんですか?」

「そう、ずっと昔だけどね?最初はぶっきらぼうな人だなって思ってたけど⋯そこに惹かれちゃったから何も言えないわね。」

 

そう言って静かに微笑む女性。隣で主人だと言われた男性は、何も話さないが目をキョロキョロさせている。結構動揺してるのかな?

にしてもこの2人の空気はなんというか、凄く心地良い。お互いがお互いの事を知ってるからこそ、そんなに会話もしなくていいのかもしれない。

ただの自分の想像だけど、正直そういうのは憧れる。

 

「お2人は仲良しなんですね!」

「それはもう!ふふ、不思議よね。全く対照的なのに喧嘩したことないのよ?」

「⋯その⋯コツとかってあるんですか?」

「コツなんて呼べるものじゃないけど⋯信じてるからね、この人の事。そうじゃない?あなた♪」

 

男性は明らかに目を逸らし出した。

あれは僕にも分かるぞ。照れてる。

言葉には出さないけど、きっとこの人は凄い奥さん想いなんだなぁ⋯。

 

「⋯俺も、そう⋯なれるかな。」

「り、りょーくん⋯それって⋯///」

「え?あっ⋯。」

 

思わず口をついて出た言葉。

ほとんど無自覚で言ってしまったけど、これって思いっきり結婚してる前提じゃないか⋯!ぬぉぉぉぉぉ!!恥ずかしいぃぃ!!

体温が高いのは足から伝わってくるお湯の温かみだけじゃない。

千歌ねぇの顔がどんどん赤くなるに連れて俺の顔も熱くなってくるから、思わず目をそらしてしまった。

 

「まぁ!初々しいのおばさんホント大好き!2人なら大丈夫よ、きっと♪」

 

そうして俺達は足湯と素敵な2人に別れを告げて、次の目的地へと向かった。

千歌ねぇのご要望で、美味しいものが食べたいと言うことだったから昼食がわりに軽く何か食べることにした。

阿智村の名物といえば⋯蕎麦。

これを食べるのを楽しみにしてたのは千歌ねぇだけじゃない。事前に調べまくった俺の情報網が役立つ時がきた!

 

「まずはここ!蕎麦屋の『兼平(かねひら)』さん!!」

「いぇ〜い!!」

「腹も減ったし何食おうかな⋯やっぱざる蕎麦かな?」

「私ぶっかけ!」

 

5分ぐらいしてほぼ同時に料理が運ばれてきた。

あまりこういうしっかりした店で蕎麦を食べた覚えが無いから、楽しみで楽しみでしょうがない。

 

「ではでは⋯!」

『頂きま〜す!!』

「ん〜♪美味しい!!」

「本当に美味い⋯生きててよがった⋯!」

「あ!りょーくんまた泣いてる!!」

 

これはしょうがないよ⋯幸せだもん。

足湯に入って静かな山間で蕎麦を食べる。そして好きな人と温泉旅行⋯。

志満ねぇ、本当にありがとう⋯圧倒的感謝⋯!!

 

本格蕎麦を満喫した俺達は、更に食べた。旅の目的が温泉旅行なのか食べ歩きツアーなのか分かんなくなってきちゃったけどもう気にすることは無かった。

だってさ⋯。

 

「えへへ⋯幸せだなぁ⋯♡」

 

隣でこの人が笑ってくれている。

それだけでも、充分すぎるくらい幸せなんだから。

 

「オレンジジュースは美味しいですか〜?」

「『みかん』ジュース!も〜、さっきからわざとでしょ?」

「ははは、ごめんごめん!でもそんなに美味しい?」

「勿論!みかんは正義なんだよ!果実の極みなんだよ!!」

「じゃあ1口頂きます。」

「へ?」

 

そう言って千歌ねぇの持っていた『みかん』ジュースを1口貰った。うん、確かに美味い。

油断したら泣きそうになるぐらいには。

お礼を言おうとしたら、何やら赤くなった顔で口をパクパクさせている。

 

「⋯魚の真似??」

「なわけないでしょ!///りょーくんのニブチン!!///」

 

二、ニブチン⋯?この感受性豊かなことで知られる泣き虫小僧のりょーすけがニブチン??

なにやらご機嫌を損ねるようなことをしてしまっただろうか⋯。

 

「か、かかか⋯間接⋯///」

「間接?あ、あ〜⋯なるほど。」

「無自覚なの!?」

「いや〜、普段あんまり気にしてなかったから⋯。あ、トイレ行ってきていい?」

「む〜⋯///どうぞ!!」

 

ほっぺたをぷく〜っとさせてそっぽを向いてしまった。トイレから戻ってきたら何とか許してもらおう。足早に少し離れたトイレへと向かう。

 

けどこの時の俺は知らなかった⋯。

まさか戻ってきたらあんなことになってるなんて⋯。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「⋯りょーくんの馬鹿///」

 

トイレに行った年下の彼氏にそう独りごちる。

無自覚間接キス⋯うぅ、飲めない⋯///

だってさ!これに口を付けたら私がりょーくんとって事だよね⋯?

うむむ⋯どうしたものか⋯。

 

「あれ、可愛いお嬢さんだね〜。」

「今1人なの〜?」

「え?」

 

1人で頭を捻ってる私に声をかけてきたのは2人組の男の子達。なんかこう⋯フランク?って言うのか分かんないけど⋯。

 

「ねぇねぇ!今って暇してるの??」

「えっ、あ、いや⋯。」

「これから俺ら喫茶店に行くんだけどさ。一緒にどう?」

「あ、あの!私⋯今人を待ってて⋯。」

「え〜?大丈夫だって!なんならその友達?にも連絡して来てもらってさ!」

「そうそう!俺らそんな悪い人間じゃないって!」

 

そう言って距離を詰めてくる2人。

流石にここまで来たら馬鹿な私でも分かる。

これ、ヤバイやつだ⋯。

 

「あ、あの⋯でも⋯。」

 

りょーくんお願い、早く帰ってきて⋯!!

 

「ねね、その『オレンジ』ジュースも持っていっていいからさ!」

「⋯え?」

「そうそう!好きなら俺らも『オレンジ』ジュース奢るし!!」

 

『オレンジ』⋯ジュース?

さっきまで散々りょーくんに言ってたのに⋯これは⋯『みかん』ジュースだって⋯!なんか思い出したらムカムカしてきた⋯!!

 

「⋯⋯いざして⋯。」

「え?」

「そこに正座してっ!!!!」

 

 

 

 

*

 

 

 

 

トイレが綺麗だった。

なんかこう⋯凄く居心地が良かった⋯。 それしか言葉が見つからない。

ほんの1、2分だったけど良かったなぁ。

 

「いやいや、こんなアホな事考えてる場合かよ俺。早く戻って千歌ねぇに機嫌直してもらわない⋯と⋯。」

 

トイレを出たら、さっきまで2人で居た通りは直線的だからすぐに千歌ねぇが見えた。

千歌ねぇに言いよる男の2人組も。彼女は今にも泣き出しそうな顔をしている。

何も考える暇なんか無い。

気がつくと俺は全速力で駆け出していた。

俺が離れた隙に千歌ねぇにあんな顔をさせてしまった。こんな事なら離れなければ良かった。傍にいるって言ったのに俺は何してんだ⋯!

 

「千歌っ!!」

「そこに正座してっ!!!!」

 

その一声で立ちすくむ。

一括したのは他でもない⋯さっきまで怯えていた千歌だ。

 

「え、いや⋯せ、正座?」

「早くしなさいっ!!」

『は、はいぃぃっ!!』

「全くも〜!ぜんっぜん分かってないよ!これは『オレンジ』じゃなくて『みかん』なの!!」

「ち、千歌⋯?」

「⋯りょーくん。」

 

激昴した表情から優しく微笑む千歌。

そんな彼女が俺にかける言葉は⋯。

 

「りょーくんも正座して?」

「⋯はい。」

 

傍から見たらなんとも奇天烈な光景だろう。ジュースを片手にした女の子に正座させられて説教を受ける男3人衆。人通りの少ない所で良かった、なんて思う日が来るなんてな⋯。

5分かな⋯10分かな⋯それはもう熱い熱いみかん講義が始まったよ。

 

「だからこそ!みかんは最上級なの!分かった!?」

『はいっ!』

「分かったなら良し!はい、解散!!」

『ありがとうございました、先生!』

「もう、手のかかる生徒達だよ!」

「⋯千歌。」

「あ、りょーくん⋯ごめんね、私ヒートアップしちゃって⋯うわぁっ!?」

 

手を取って抱き締めた。

 

「ごめん、千歌⋯。俺、傍に居るって言ったのに肝心な時に近くにいれなかった。千歌を⋯不安にさせた⋯。」

「りょー⋯くん⋯。」

 

あの時の泣きそうな彼女の顔が忘れられない。あれは俺の失態だ。

たった一つの約束も⋯守れなかった。

 

「⋯大丈夫だよ、りょーくん。りょーくんが気にすることなんて無いんだよ。ほら、結果的に何も無かったし、何だかんだあの2人もそんなに悪い人達じゃなかったし⋯ね?」

「でも⋯。」

「確かに、ちょっと怖かったけど⋯でもりょーくん、来てくれたよね?普段『千歌ねぇ』って呼んでるのに呼び捨てで呼んでくれて⋯走って来てくれたの、ちゃんと見えてたよ!ありがと、りょーくん♪」

 

そう言って抱きしめてくれる千歌。

強くならなきゃ。

この人の傍で、自信を持って立つために。

 

「もう絶対離れない。俺は千歌の⋯彼氏だから!」

「りょーくん⋯あんまりストレートに言われるのはまだ慣れないかな〜⋯///」

「⋯良いなぁ、青春。俺もあんな恋がしたいなぁ⋯。」

「だから言ったろ?したことも無いのにナンパなんて上手くいかないって⋯。怖がらせちゃったから、後で美味い店紹介しなきゃな。」

「そうする⋯。もうナンパなんてしない⋯。」

「こらぁっ!問題児達!!///早く帰りなさーーーーい!!///」

『ご、ごめんなさ〜いっ!!』

「あっはは⋯。」

 

色々あったけど、自分がどうあるべきか分かった気がする。

それからは2人で旅館へと向かい、目一杯寛いだ。少し早い入浴を済ませ山の幸尽くしの夕食を食べ⋯1日の疲れを癒すにはお釣りが出るぐらいだよ。

夕食を食べ終えた時に、女将さんが部屋の中へ入ってきた。

 

「失礼します。お布団の準備が整いましたので、お部屋にご案内を致します。」

「あ、ありがとうございま⋯す⋯。」

「あ〜〜〜!!足湯にいた⋯!」

「あら!今日のお客様って貴方達だったのね!!」

 

この旅館の女将さんは、足湯にいた優しい女性だった。

ってことはあのご主人は⋯。

 

「ここってまさかお2人の⋯?」

「そうなの!私が女将で主人が料理長!ふふっ、ほんの少しの出会いがこうしてまた会えるなんて⋯あの人もきっと喜ぶわ。」

「奇跡だよ〜!!」

「それじゃあ、お部屋に案内するから付いてきてもらえますか、素敵なお客様方?♪」

 

女将さんに案内された部屋からは阿智村の景色が一望出来た。山間の村で時間帯も夜だから、都会から見るような夜景とは程遠い。チラホラと街灯の明かりが見えるぐらいだ。

それでも車の音や喧騒が聞こえない静かな世界。

代わりに聞こえてくるのは、流れる川の音と季節を告げる虫の合唱だけだ。

 

「良い部屋だね⋯。」

 

気づいたら隣に座っていた彼女が静かにそう呟く。

いつもは結んでいる髪を下ろして、浴衣に身を包む彼女を見るのは何だか新鮮だ。

 

「そう、だね。」

「明日からどうしようか⋯楽しみで⋯寝れ、ない⋯かも⋯⋯。」

 

そう言って俺の肩に寄り添うように頭を乗せる千歌。

スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。

 

「はは、言ってるそばから眠っちゃってるよ⋯。」

 

本当に色々あった。初めての事だらけでよっぽど疲れたんだろうな。かくいう俺も実は眠気がやばいんだけどさ。

彼女を抱えて布団へと運ぶ。

 

「⋯明日からまた宜しくね。お休み、千歌。」

 

部屋の電気を消し、川のせせらぎと虫たちの声を聞きながら、俺も眠りにつく事にした。

明日から始まる、楽しい時間の為に。




短編じゃないぞって?
これが旅ですから⋯。素敵な出会いに乾杯。
ちなみに泣き虫小僧についての補足⋯とは違うか。お知らせが活動報告にありますので、気が向いた時にご覧下さい。

【注】旅館と足湯は本当にありますが、作中の蕎麦屋さんはフィクションなので間違っても探さないでくださいね。なちょすが訪れて確認したので間違いないです。
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