そしてこの作品を読んでくださってる方⋯O☆MA☆TA☆SE!しました、なちょすです。
散々引っ張って引っ張って⋯この作品においては、シリアスになり切れないのが自分だな、と痛感しました。
ごゆるりと。
「私は───涼介の事好きよ。」
「お、サンキュー。」
「⋯⋯⋯。」
「⋯⋯え?」
「何よ。」
「いや、だって⋯え?友達としてでしょ?」
「⋯⋯⋯⋯⋯はぁ。」
「な、なんだよ⋯。」
「言わなきゃ分かんないかしら?手を繋ぎたい、デートをしたい、隣で笑っていたい、キスもしたいし───」
「ちょ、待って待って!ちょっと一旦止まってくれ!ひっひっふー⋯!!」
理解するのに時間がかかった⋯。だ、だって普通そうだろ?もう付き合ってる人が居るって分かってて、今幸せか?なんて聞かれて⋯その後に好きって言われて⋯。そりゃあ友達として〜とか思うに決まってる。
「⋯マジなやつ、だよな。」
「大マジよ。」
「だ、だってお前⋯俺が振られてしょげてる時⋯!」
動揺を隠せず、言葉を上手く発せず。そんな情けない部分丸出しの俺をよそに、善子は顔を上へと向ける。その横顔は、見た事のない顔⋯笑ってるのか、呆れてるのか、どうしようもなく投げ出しているのか⋯泣きたいのか。
そんな顔をしてる事に、こいつは気づいてるのか。今何を感じて、何を考えているかは分からない。ただ⋯何となく、胸が痛かった。
「⋯なんで⋯だよ。」
なんで教えてくれなかったのか。
なんでこのタイミングなのか。
なんで⋯俺の背中を押したのか。
聞きたいことは山ほどあれど、その疑問達がすんなり口から出ることは無かった。
「⋯自分でも思った。何してんだろうって。あの時、勢いに任せて全部言ってしまえば良かったって。でも⋯そんな勇気なんか無いわよ。ずっと見てきた相手が、自分の事をそういう目で見ていない。どれだけ親しくても、友達以上恋人未満の関係が変わることは無い。」
「そんな事⋯。」
「無いって言う?アンタが??」
「⋯⋯。」
「ぷっ。」
「んだよ⋯。」
「さぁ?でもね⋯涼介。」
上を向いていた善子は、俺の方へと向き直る。いつものヘラヘラした笑いでも無く、堕天使ヨハネとしてでも無く、1人の年相応の少女として微笑んでいた。
「感謝してる。」
「⋯⋯⋯。」
「あの時言った事は本当。私は、アンタに助けられた。アンタが居たから、自分で居られた。誰かを好きになる辛さも、嬉しさも、沢山教えて貰った。だから、その⋯ありがとね。」
「⋯ゴメンな。」
俺が千歌の事をずっと焦がれていたように、コイツも俺の事を見ていた。気にかけてくれていた。同じ経験をしてきた俺達の全く違う点⋯それは、好きな人が誰かに恋をしていたかどうか。
出会い方とか、過ごした時間とか⋯どこかで1つ違ってたら、俺は⋯なんて答えていただろうな。
「あっはは!何謝ってんのよらしくもない!」
「うるせぇやい⋯。」
「でも⋯一つ、約束して?」
「何だ?」
「───千歌さんにセクハラしたらぶ○殺すから。」
「切り替えの速度早すぎんだろっ!!」
振った俺にこんな事言う権利はないかもしれないけどな?
少なくともたった今好きだって言った相手にだぞ??
普通『ぶ○殺す』宣言なんか出るかっ!!!!
「はっ!こっちはとっくに振り切れてんのよ泣き虫小僧。」
「んだとこの⋯!⋯⋯ツンデレ。」
「ふふっ⋯相変わらず笑口下手なのよ、ばーか♪」
⋯言えるかよ。振り切ったとか言いながら、目に涙なんか浮かべたヤツに。
10秒だろうか、20秒だろうか、そんなコイツの顔を見てられなくて、善子が再び話しかけてくるまでの間、ほんの少しだけそっぽを向いた。
「まぁでも⋯何か分かるわ。千歌さんに惹かれる理由。」
「マジぽん?」
「マジぽん。あの人、自分は普通だってよく言うけれど⋯普通の人が自分からアイドルやるだなんて言い出さないわよ。」
「それな。何だかんだ言い出したら最後まで止まらないし、その上周りはよく見てるし⋯。」
「真顔でサラッと言えないようなことも言うし、何故かついて行っちゃうカリスマみたいなのもある。ああいう所⋯私は好きよ。」
「俺も好きだよ。」
そこまで言った時、近くの草むらから物音がした。何かが⋯いや、誰かが草むらで動いた音。
「誰?」
「っ!」
「千歌⋯?」
それは、トイレに行ったはずの恋人。その人は、こちらを向くこと無くそのまま走り出した。
「ちょっ、千歌っ!?」
声を掛けるでも無く、連絡があったわけでもなく、まるで俺達だけをこの場に残すかのように走り去ったのだ。急にどうしてしまったのかは分からない。それでも⋯それが異常だって事ぐらいはすぐに分かった。
「千歌⋯?」
「おっす、涼介。喧嘩でもしたか?」
「宗弥?いや、別にしてないけど⋯。」
「そうなのか?千歌さんすげぇ泣いてたけど⋯。」
泣い⋯てた⋯⋯?え、どうして?俺らが褒めちぎり過ぎたから?
「⋯まさかっ!」
「善子?」
「⋯⋯⋯ごめん、涼介⋯多分、不味いことになったかも⋯。」
「え⋯。」
折角涙を拭いたのに、コイツはまた泣きそうな顔で俺に全てを教えてくれた。確証なんか無い。
それでも、このタイミングで、一番あってはなら無かった事。
一番千歌を傷つけてしまうかもしれなかった事。
それが何を意味するかも知らずに、ただ彼女の後を走り出した。
歯車が既に軋んでいるのにも気付かずに。
◇
『千歌さん⋯私とアンタが両想いだって思ってる⋯。』
手当り次第、千歌の行きそうな場所を走る。息が切れても、膝が笑っても、脇腹が痛くなっても⋯走る。
善子が悪いだなんて言うつもりはさらさら無い。アイツはただ、自分がどれだけ辛くなったってケジメをつけるつもりで俺に本心をぶつけてきたんだ。
それに───
『こんな⋯つもり無かったのに⋯⋯ゴメン、涼介⋯ごめん、なさい⋯!』
あの泣き顔が頭から離れない。
人前であんなに泣く善子を見るのは初めてだった。だからこそ⋯アイツにも、千歌にも、そんな顔をさせてしまった自分に、殺意にも似た苛立ちを覚える。
誤解だとか、彼女の早とちりだとか、そんなの関係無い。
俺は千歌を悲しませた。
隣に居ると再三自分に言い聞かせたのに、彼女を⋯泣かせてしまった。
もしこの世界がゲームの様に都合の良い世界なら、いっぺん死んでセーブポイントから、っていうのを迷わず選んだのにな。
「はぁっ⋯はぁっ⋯ん?メール⋯梨子さん?」
差出し人は千歌の同級生⋯桜内 梨子さんからだった。
『涼介君、こんにちは。よっちゃんから話は聞きました。千歌ちゃん、さっき家に帰ってきてたよ。』
「家⋯か。」
十千万⋯きっとあそこには志満ねぇも美渡ねぇも居るはずだ。自分の大切な妹が恋人とデートに行って、泣きながら帰ってきた⋯あの2人が黙ってるわけない、よな⋯。
再び走り出し、十千万の前へと着く。
俺が戻ってくることを知ってたかのように、美渡ねぇが扉の横で待っていた。
「あの───」
「おかえり。」
「あ、うん⋯千歌、は⋯?」
「部屋に居る。全く⋯今度は何やらかしたのさ⋯。」
「言い訳にしか⋯聞こえないと思うけど⋯。」
それから美渡ねぇに全てを話した。善子に告白された件に関しては、アイツの名前を伏せることにした。人の気持ちを誰彼構わず言う事には抵抗があったから。
「タイミング悪いと言うかなんというか⋯まぁ、行きなよ。今の千歌に伝わるか分かんないけどね。」
「うん⋯。」
歩き出し、家の中へ入ろうとした時、美渡ねぇに腕を掴まれた。昔から喧嘩して、千歌を良く見てきた1人の優しいお姉ちゃんの目が、俺に突き刺さる。
「あんなんでも、アタシらの妹だ。分かってるな?」
「⋯うん。ゴメン、美渡ねぇ⋯。」
「志満も私も、今回ばかりは手伝えない。やるだけやってきな。」
そう言って、美渡ねぇは先に家の中へと戻っていった。やるだけやる⋯それはつまり⋯。
千歌の部屋の前に立ち、深呼吸する。気配はするけど物音はしない。それでも、この部屋にいるであろう大事な人へ言葉を掛ける。
「⋯千歌。話を、したいんだ。その⋯ごめん⋯こんな事になって⋯⋯。あ、あのさ!今回の事はちょっとした誤解というか⋯」
「───いで。」
「だ、だからさ!その事情も含めて全部説明したいんだ!本当に善子とは何も無いって言うのとか、今の状態とか⋯千歌、俺は───。」
「来ないでっ!!!!」
「え⋯ち、千歌⋯?」
「ごめんね⋯今は、会いたくない。その声も、顔も、君の全部が⋯辛いんだ⋯。あっはは⋯ダメな恋人でゴメンね⋯私には、何も、無い⋯から⋯。」
「そんな事無い!俺には千歌が必要で⋯」
「大、丈夫⋯!善子ちゃんが⋯居てくれる、から⋯。」
美渡ねぇの言葉から、きっとこうなってしまうかもしれないとは、思っていた。俺の言葉も、今の彼女には届かないと。
いや⋯俺の言葉だからこそ⋯今の千歌には、きっと届く事は無い。覚悟はしてきた⋯つもりだったのに───
「気づけなくて⋯ごめんね⋯⋯
どんな否定の言葉よりも、それは刃物のように心に突き刺さる。
どんな拒絶の言葉よりも、それは銃弾のように心に穴を開ける。
彼女が呼び方を戻した。それが意味する事は、俺達にとっては大切な事。
だって、彼女が言ってくれたんだ。
告白して、告白されて、返事を聴いて⋯恥ずかしくなりながらも、折角付き合ったんだから呼び方を変えようって⋯!
そう言ってくれたのに⋯それが戻った。
俺達は⋯もう、そういう関係では無くなってしまった。
「ごめん、りょーちゃん⋯。」
やめて⋯。
「今は、りょーちゃんの事、分かん⋯ない⋯。」
やめてくれ⋯。
「1人にして、欲しい⋯かな⋯そしたら、りょーちゃんの事、また⋯応援、出来るから⋯。」
ぽつぽつと絞り出すように、彼女は声を絞り出していた。その言葉の一つ一つが、心臓を、心を、大切な何もかもを握り潰していく。
扉の前で力無く膝を付き、口を開く。
それは言ってはいけない言葉だった。分からないはず無かったのに⋯今の彼女に、ただ追い討ちをかけるだけの言葉だって分かっていたのに⋯!
「分かっ、た⋯ごめん⋯ごめんね⋯
それだけ言って、逃げるように走り出す。
階段を駆け下りて、十千万を出て⋯行く先なんて無かったけど、それしか出来なかった。
だって⋯そうでもしないと、おかしくなりそうだったから。自分がしてしまった過ちが怖くて、辛くて、逃げて、逃げて、逃げて⋯じゃなきゃ、押し潰されると思った。
あの言葉に。
あの涙に。
階段を降りる時聞こえた、悲鳴にも似た彼女の泣き叫ぶ声に。
涙が出ないのは何故だろう。
あれほど泣き虫小僧と呼ばれていたのに⋯あれほど彼女の為に色んな事で泣いてきたのに⋯なんで⋯。
「⋯⋯メール⋯母さん?」
悩んでいた俺を他所に、海外へ出張していた母親からのメールが入る。仕事に一区切りついて日本へ帰るから、居候生活も終わりになるとの話だった。
それはつまり⋯彼女と身体的な距離も離れるという事。
会うことも⋯無いのかもしれない⋯誤解を生み続けたまま。
きっと少し前の俺ならば抗議をしたのだろう。
それでも⋯
『分かった。』
誰に相談することも無く、それが間違いだと微塵も疑いもせず、そのメールに答えを返した。
俺は、もう隣に居られないから。
それが、お互いの為だと言い聞かせて、再び当てもなく、ただただ歩き続けた。
止まったのは彼女だろうか。
止まったのは自分だろうか。
それとも───。
もう、俺達の歯車は⋯動きを止めていた。
誰が収拾つけるんですかこれ。
頭の中ではバカップルの早とちりイチャラブフィニッシュだったのに⋯なんてね。
いつだって1人じゃない。
大切な人は、そこに居るから。
次回、『泣き虫だっていいじゃない』。
お兄さんお姉さんが頑張ります。