泣き虫小僧はミカンがお好き   作:なちょす

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皆さん、こんにチカ。
なちょすです。稀にシリアスとは?
ウジウジする主人公って好き嫌い分かれそうですけど、泣き虫小僧の特権だと思います。
千歌っち⋯尊み⋯。


好きなら好きと言いなさい

『ごめんねりょーちゃん⋯今は、一人にして欲しい、かな⋯。』

 

 

 

 

東京から帰ってきた千歌ねぇの顔は見たことも無いぐらい暗い表情だった。

何があったか、どう言葉をかけたらいいか分からなくて⋯励まそうとしたって上手く言えなかった俺に千歌ねぇが言った言葉。

 

一人にして欲しい。

 

生まれて初めて、千歌ねぇ自身から『突き放された』。

それだけで、何も出来なかった自分が⋯許せなかった。

せめて何があったのか知りたくて、俺は善子に電話をかけることに。

 

『もしもし?』

「あ、もしもし。善子、東京ライブお疲れ様。ちょっと聞きたいことがあるんだけど⋯いいか?」

『えぇ。』

「帰ってきてから千歌ねぇの様子が変なんだけど⋯向こうで何があったんだ?」

『そう⋯何も聞いてないのね。』

「あぁ。今は一人にして欲しいって⋯。」

『無理もないわ。あんな結果だもの⋯。』

「結果?」

『今回のライブは、会場からの投票制だったのよ。それでAqoursの順位は30位。30組中30位よ。』

「それって最下位って事じゃ⋯得票は!?」

 

 

『0よ。』

 

 

「⋯は?」

 

『0。私達に票を入れた人は⋯一人も居なかった。』

 

 

何だそれ⋯おかしいだろ。だって皆あんなに頑張って⋯ライブのPVだって感動するくらいの出来だった!

それが、0⋯?

 

『言っておくけど、誰もミスなんてしてなかったわよ。私達は今出せる全力を出してこの結果だった⋯。そもそものレベルが違ったのよ。』

「けど⋯けどさ⋯!」

『こればっかりは、どう言ったって変わらないの。』

 

それから何を話したかは、余り覚えていない。

ただ一言。

善子が最後に言った言葉だけがずっと繰り返されていた。

 

 

『あの人はね⋯1度も泣いてないのよ。』

 

 

それから2日経ち、千歌ねぇの様子はまだ変わっていない。家の中で会っても元気の無いまま⋯学校へ行き、ご飯を食べて部屋へ戻る。そのサイクルだ。

 

「⋯何やってんだろうな、俺。」

 

あの人に少しでも近づきたくて、沢山貰ったものを少しでも返そうとして自分を変えてきた。

それなのに⋯ここに居るのは大好きな人の傍に居ることさえ出来ない、臆病で泣き虫なあの頃の俺だ。

 

「よ、涼介。こんな所で何してんだ?」

「宗弥か。ちょっと考え事をな。」

「Aqoursの事だろ?」

「やっぱり分かるか?」

「当然。善子も全然元気無いし、やっぱり東京ライブが響いたんだろうな⋯。」

「⋯何かに夢中になって、初めて挫折を食らうってどんな気持ちなんだろうな。」

「さあ、な。でもそれを俺達が理解しようとしたって無理な話だ。それは彼女達だけの悔しさなんだから。」

「そういう⋯もんなのかな⋯。」

 

今の俺に何が出来るだろうか。

どれだけ考えても、頭の中はモヤモヤするばかり。

何か掴もうと手を伸ばしても、その手に掴めるのは空ばかり。

それから段々と千歌ねぇとの会話も減ってきていた。あのじゃれてくる姿を見たのも、随分昔に感じる⋯。

家に帰り、美渡ねぇに様子を聞いた。

 

「美渡ねぇ、千歌ねぇは?」

「まだダメだな⋯あいつが人生で初めて味わう本気の挫折だ。千歌なりに色々考えてるんだろうさ。リーダーとして⋯。」

 

次の日の早朝⋯携帯の着信音で目を覚ました俺は、私服に着替えて朝の内浦を歩いていた。

着信画面に表示された名前は⋯『津島 善子』。

電話で話したい事があると言われ、俺は待ち合わせ場所に足を運ぶ。

 

町の中はまだ眠っている。早朝のランニングで走る人や、漁に出る漁師の人がチラホラと見えるぐらいだ。

待ち合わせ場所が近づいた時、見知った姿が目に入る。

 

「よ。元気か?」

「あるように見える?」

「⋯ごめん。」

「アンタに謝られると調子狂うからそのままでいいわよ。⋯ねぇ、ちょっと歩かない?」

 

静かな町を2人で歩く。

そういえばコイツと2人きりで歩くなんて、初めてかもな。

 

「千歌さん、まだ調子戻ってないの?」

「あぁ⋯ここ数日ずっと変わってない⋯。」

「そう⋯。曜さんと梨子さんも色々話してるけど、上の空みたいよ。」

「そっか⋯俺なんかに、何か出来ることがあるのかな⋯。千歌ねぇの為に変わろうって思いながら、今だってただ見てる事しか出来ない⋯馬鹿で、ちっぽけで、泣き虫で⋯!結局何も変わっちゃいない⋯。」

「涼介⋯。」

 

自分が許せなかった。自分が大嫌いだった。口先だけならなんとでも言って、いざ目の前にすると何も出来やしない⋯泣き虫小僧のままだ。

 

 

「⋯それでも、私は救われた。」

 

 

善子が静かに口を開く。

 

 

「ねぇ、覚えてる?あんたが私の所に来て弟子入りさせてくれって言ったこと。あの時はびっくりしたわ⋯コイツは何を言ってるんだろうって。けどそれから宗弥が来て3人で遊ぶ仲になって⋯毎日が楽しかった。かけがえの無い私の宝物よ。だってそうじゃなかったら、きっと私は独りぼっちだったもの。あんたが最初に言葉を掛けてくれた⋯涼介が、私を助けてくれたの。」

「⋯過大評価だよ。俺は⋯今だって、何も⋯!」

「涼介、こっち向きなさい。」

「え?」

 

その瞬間、頬に激しい痛みが走った。

何が起きたか分からない。

だけど⋯。

 

 

「いい加減にしなさいよ!!」

 

 

善子の方を向くと、彼女は泣いていた。

目から零れ落ちる涙が、1つ⋯また1つと地面へ落ちていく。

 

「いつまでそうやってウジウジしてんのよ⋯!あの人を支えられるのは、もうあんたしかいないの!!千歌さんの為に変わったんでしょ!?貰ったものを返したいんでしょ!?あの人があんたの『初恋』だって言うなら、ちゃんと気持ち伝えなさいよ!ここまできて言わないなんて、私が許さないから!!何が出来るかなんて考える前に、どうしたいか考えなさい!あんたがしたい事は⋯1番伝えたい事は何!?」

 

ハッキリ怒りを含んだ口調で、善子が俺に言葉をぶつける。

そうだ⋯⋯俺、決めたじゃないか⋯。

沢山の幸せを貰ったあの日々から、必ず恩返ししようって。

今度こそ言うんだってそう決めたのは、他でもない俺じゃないか⋯!

 

「⋯あの人の傍に居たい。あの人にお礼が言いたい。好きだって伝えたい⋯!」

「だったら⋯こんな所でイジケてる場合じゃないでしょ?」

「あぁ⋯今更気づくなんて馬鹿だな、俺。」

「あんたが馬鹿なのは昔からよ。」

「はは、それもそうか⋯にしてもお前、グーかよ⋯。」

「ウジウジしてる方が悪い。」

 

でもおかげで目が覚めた。俺がすべき事。

俺がしたい事。

全部思い出したよ。

 

「確かにな⋯ありがとう。」

「いいから早く行きなさい。この期に及んで言わないとかだったらマジで嫌うからね?」

「もう大丈夫だ!行ってくる!!」

 

何が出来るかじゃなくて何がしたいか⋯それをあいつは思い出させてくれた。俺の為に泣いて、叱ってくれた。

あいつが背中を押してくれた分、もう迷いなんて無い!

俺は全力で駆け出した。大好きなあの人の元へ向かう為に。

 

 

 

 

 

「⋯⋯頑張りなさい、『私の初恋(リトルデーモン)』。」

 

 

 

 

 

携帯で時間を確認する。

十千万に着く頃には、もう6時になっていた。

いつも通りならそろそろ千歌ねぇが起きるはずだ。

はずなんだけど⋯何やらおかしい。あの人の部屋の窓は空いているのに、何の物音もしない。居ないのか?

代わりに聞こえるのは、砂浜を波がさざめく音だけだ。

どこだ⋯どこにいる?

辺りをざっと見渡すと、丁度十千万の正面の砂浜に、その人は居た。

海に入って立ち尽くしている。

もうなりふり構ってられなかった。震えた足を意地でも前に進め、名前を叫ぶ。

 

「千歌ねぇっ!!」

「⋯りょーちゃん。」

 

彼女は既に海に腰まで使っていた。全身はずぶ濡れで、ひょっとしたら1回海に入ったのかもしれない。

 

「どうしたのさ、こんな所で。」

「何かが見えるかなって思ったんだ⋯私が憧れた輝き⋯でも見えなかった。」

「そっか⋯スクールアイドル、続けるの?」

「続けるよ。だってまだ0だもん!これが私達のスタートなんだから、頑張らないといけないよ。」

 

そう言葉を続ける彼女の横顔は、必死に何かを我慢しているみたいで、弱々しくて⋯すぐにでも壊れてしまうんじゃないかって気さえした。

 

「皆もまた練習しようって言ってくれてるし、私ももう大丈夫⋯」

「千歌ねぇ。」

 

彼女の頭を優しく掴み、胸元へ抱き寄せる。

 

「りょー⋯ちゃん?」

「俺が泣いてる時、辛かった時⋯千歌ねぇはいつもこうしてくれたよね。」

「⋯うん。」

「もう、泣いていいんだよ。」

「っ⋯で、でも⋯私が、リーダー⋯だから⋯私が泣いちゃったら、みんなも落ち込むでしょ⋯?」

「なんでそんなに我慢するんだよ⋯なんでそこまで耐えようとするんだよ⋯!千歌ねぇ1人で背負う必要なんて無いんだ。曜さんもいる⋯梨子さんもいる!Aqoursの皆だっている!⋯俺も、ずっと傍にいるよ。」

「うっ⋯ひっく⋯。」

「悔しいんでしょ?」

「悔しい⋯悔しいよぉ⋯!あれだけ皆で頑張って、一生懸命皆に良い歌を届けようってやったのに⋯なのに0だったんだよ!!」

 

悲痛な叫びも、胸を濡らしていく涙も⋯ずっと外に出るのを待っていたかのように吐き出される。

俺は泣いちゃいけない。この涙も、悔しさも⋯全部この人のものだ。だから全部受け止める。

そう決めたから。

暫くそうして、千歌ねぇが大人しくなった。

目を真っ赤に腫らして⋯それでも、『もう大丈夫』と笑ってくれるこの人が愛おしい。

空元気なんかじゃない、本当の笑顔。

 

「千歌ねぇ、話したいことがあるんだ。」

「なに?」

「俺は、ずっと千歌ねぇに守られてきた。沢山の思い出も貰った。だから、今度は俺が守ってあげたい。沢山の思い出を作っていきたい。1番近くで一緒に笑って、1番近くで一緒に泣きたい。」

 

まだ幼かったあの日から。

何も言えなかったあの日から。

ずっと思い続けてきた、たった1つの気持ち。

 

 

 

 

 

「千歌ねぇ。俺は、貴方の事が大好きです。俺と付き合って下さい!!」

 




やりました。(確信)
みなまで言わずとも、皆さんが言いたい事は分かっております⋯。

言うほどシリアスかこれ?

涼介の運命はまた次回。もちろんサブヒロインの堕天使だってこのまま終わらせたりは致しません。
だって⋯これじゃああんまりじゃないですか先生⋯。
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