桜吹雪の季節。新学年になり、「イヤだ~~」というヤツもいれば「楽しみだ~~!」というヤツもいる。
校門付近の赤レンガで毎年行われるクラス発表。阿波美佳は一緒に登校している親友と談笑しながら、八組まで貼り出されているところを見ていた。
美佳は身長が中くらいで、赤茶色の長い髪は一つに括っている。瞳は髪と同じ色だ。
髪の色のことで中学一年生の初日の時に担任に注意されたことがあるが、この色は生まれつきだと言うと、それ以降は注意されなくなった。
美佳は今年、中学二年生になる。今年は親友と同じクラスになれるのか、そのことを考えながら自分の名前を探す。
「あ、あぁ……やだ、やだイヤだぁ!! 死にたくない!!」
不意に隣で泣き叫び出し、しりもちを突く男子生徒。その男子生徒の視線の先を見てみると、まだ美佳は確認していないクラスの紙。
その紙には二年五組と書いてある。
――ああ、なるほどね……。
二年五組――この中学校に通う生徒なら誰もが知っていること。
それは、呪われた教室。
その呪いは平安時代から始まり、現在も呪いが積み重なり続けている。
去年聞いた話では、その前に殺された生徒の怨霊が出てきたらしい。
いくら祓っても、終わりが見えないクラス。去年このクラスになった生徒は全員死亡した。
だったらこの教室を使わなければいい話じゃないか、と思うがそうもいかない。毎年選ばれるのは決まって三十人だが、その人数は怨霊側からの要求らしい。生徒はこの町の陰陽師が選ぶ。その基準は――生き残る確率が高い順。
それはつまり、陰陽師やエクソシストの素質が高い者が選ばれるということだ。
美佳は視線を少し右に移すと、信じたくないものが見えた。
「…………!」
背中に冷や汗が流れた。隣でなにが起こったのか理解した親友は息を詰める。
「二年……五組…………?」
美佳は震えた声でクラスを言う。周囲の視線が痛いほど集中するが、美佳にはそれを意識できるだけの余裕はなかった――。
重い足で階段をゆっくりと、一段ずつ上がっていく。
しかし気持ちは一歩も前進できず、呆然としながら二階に着く。
親友は隣の六組になったが、美佳は五組。
登校中のあのウキウキした気持ちは、どこかでなくしてしまったようだ。
重いカバンを投げ出して逃げたい気持ちを抑えながら、教室のドアを開ける。
「ツラいことがあったら、いつでも言ってね?」
心配している親友の言葉に美佳は無言で俯きながら頷き、教室に入ってドアを閉める。
教室内の空気は重く、誰一人談笑していない。
黒板には筆で書かれた座席表が貼り出されていて、美佳の席は一番前の、列は五列あるなかの中央だった。
美佳は指定された席に座り、教室内を見渡す。
教室内にはまだきてない生徒が三人いるだけで、全員各々の席に着いている。なかには泣いている生徒もいて、教室内は負の雰囲気で満たされている。
ここでガラリ、とドアが開けられ、三人が教室に入る。これで全員集合した。
前に立つ先生は、おそらく六組の担任になっていたはずだ。
なぜここに? と思いながら、視線を右にスライドする。
そこには奇妙な服を着た人が立っていた。フフフッと笑みを漏らし、口を開く。
「全員集合だな。それでは始めるぞ」
何を? と思う間もなく突如教室が夜のように暗くなり、うしろの黒板にプロジェクターもないのに映像が映し出される。
突然の出来事に全員が驚き、席から立ち上がる。
「あぁ……!!」
うしろの生徒が何かに気付き、恐怖の声を漏らす。その視線は天井に向けられているが、美佳にはなにも見えない。
何が? と思った次の瞬間ーー教室内が一斉にざわめきだす。
やはり天井に何かあるようなので、美佳はジーっと目を凝らした。
薄く見え始めた白く、巨大なナニカ。
「…………!?」
何か解った途端、恐怖のあまりにしりもちを突く。
ニヤリと笑う顔。能面の女性。表情は変化しないはずなのに、口角を上げていくお面。
霊を見たのはこれが初めてではない。
幼い頃に、祖母の葬式で死んだはずの祖母と祖父を見たことがある。
ほかにも、人身事故が起こったことのある踏み切りで呪縛霊も見たことがある。
しかしいずれも、そこまで恐ろしいと感じたことはなかった。祖父母に会えてむしろうれしかったし、踏み切りでは黙祷もした。
曰く付きのお寺では親子の怨霊を見たし、墓参りの時はたくさんの幽霊も見た。
そう、霊が見えるのは生まれつき。ある意味ではこのクラスになるのは必然だったのかもしれない。
不意に隣から嫌な気配を感じた。
同時に、首を強く絞められる。
「この人……!」
――憑かれている。
そう続けようとしたが、声が出なかった。
美佳の首を絞めているのは、六組の担任だ。
目は寄り目になっていて、いかにも憑かれていますっていう感じだ。
一瞬で頭が真っ白になり、体が麻痺したかのように動かなくなる。
すると、美佳の口が無意識に、自然と動きだす。
「還れ。悲しき人よ」
言い終えたその刹那――教師がもがき苦しみ始める。それを見た変な服を着た人は驚いたように、感嘆の吐息を漏らした。
「すばらしい……!」
少しのあいだ拍手をしたあと、細く息をはいて謎の札を懐から取り出した。
「よく見ておけ。――怨敵退散! 急急如律令」
――ヤメロ、ヤメロォ。
「怨霊としてそこにいるほうが可哀想だと思うけどね、僕は」
――オノレェ、オンミョウジィ!
「還るべき場所へ還れ」
怨霊祓いが終わる頃には、能面の女性は涙を流していた。ありがとう、と呟いたあとにはもう、女性の姿はなかった。