私の恋には貴女の死をもって   作:梨善

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〜前回のあらすじ〜
梨子と善子の間に生まれた絆。
曜はいつか『ID』が治せる日が来ると信じ、ダイヤたちに協力する。


episode10

次の日から善子は学校に登校するようになった。

何がきっかけになったのかは曜は知らないが、友達が再び前に進み始めたことを喜んでいた。

 

最初の1ヶ月程は休み時間と昼休みの度に、曜たちの元へやって来ていた善子だが、自然とその回数も減り、週に1度、昼食を共にするかしないかになっていた。

どうやらクラスメイトと上手くいっているようだ。

 

「最近、善子ちゃん来ないから寂しいねー」

 

放課後の帰り道。

曜と千歌は2人で帰っていると、千歌がポツリ、と呟く。

 

「そうだね。4人で帰ることも減って寂しいかな」

 

初めの頃は梨子と善子を含め、4人で下校していたが、この数日間2人で帰ることが増えた。

 

「善子ちゃんはともかく、梨子ちゃんは何だろうね?」

「さあ?」

 

帰りを誘うも何かと理由をつけて断る最近の梨子。

そんな彼女に千歌は疑問を持っているようだ。

 

「うーん。彼氏とか?」

「梨子ちゃんが!?・・・ありえる・・・」

 

曜の言葉に一瞬千歌は驚くもすぐに納得した。

 

「よーちゃんは何か知らないの?」

「私は何も・・・」

「そっかー。気になる・・・」

「あはは・・・。そっ、としといてあげようよ」

「そうだね」

 

すると、曜のスマホに着信が入る。

 

「あ、電話だ。ごめんね」

「いいよー」

 

曜は千歌に一言断りを入れて、少し離れ、電話に出る。

もしかしたらまた、『バイト』の電話かもしれない。

 

曜はスマホの画面を見るとそこに表示されていたのは善子の名前。

 

「善子ちゃん?何かあったのかな・・・」

 

曜は通話を開始し、スマホを耳に当てる。

 

「もしもし?」

『曜?いきなりゴメンなさい。今1人?』

 

善子の問いかけに、不穏な空気を感じた曜は千歌を1度見る。

千歌はこちらを気にする様子はなく、狩野川を見つめている。

 

「うん。1人だよ」

『そう。いきなりで悪いんだけど、うちに来れる?』

「・・・行くよ。つく頃に連絡するよ」

『ありがとう』

 

通話を切り、曜は千歌の元へ駆け寄る。

 

「千歌ちゃーん!」

「んー?」

 

曜に呼ばれた千歌は変な声を出しながら振り向く。

 

「ちょっとママにお使い頼まれちゃって・・・」

「そうなんだ。チカも行こうか?」

「大丈夫だよ!調味料を少し買うだけだから!じゃあ、またね!」

 

千歌の申し出を断わり、走り出す。

目指すのは善子の家だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

善子の住むマンションの近くで曜は彼女にメールを送る。

すぐに返信が届き、マンションの下の小さな社で待つように言われる。

 

待つこと数分。

何か思いつめたような顔をした善子がやって来た。

 

「どうしたの?善子ちゃん」

「だからヨハ・・・。・・・聞きたいことがあるの」

 

いつもの訂正を途中で止めてしまった善子。

Aqoursがなくなり、浦の星女学院もなくなり、その中で善子の『ヨハネ』の価値観が変わっていているのかもしれない。

 

「聞きたいこと?」

「ええ。最近のリリーなんだけど」

「梨子ちゃん?」

 

曜はてっきり今の環境になかなか慣れない、といったものかと思っていた。

 

「なんで梨子ちゃん?」

「何でもいいじゃない」

「まさか、好きなの?」

「はあ!?なんでそうなるのよ!」

 

顔を真っ赤にした善子は叫ぶ。

 

「お?まさか図星?へー、なんで好きになったの?」

 

曜はイタズラっ子の様な笑みを浮かべ、善子に近寄る。

 

「い、今はそんなことどうでもいいじゃない・・・!」

「おーおー。照れちゃって!可愛いなぁ、もう!」

 

いつもの様に善子をからう曜。

 

「あーもう!今はいいのよ!それで話なんだけど」

「はいはい。よーちゃん先輩がお話に乗りますよー」

「千歌のことでは相変わらずの癖に・・・」

「うっ」

 

善子に痛いところを突かれる。

しかし、今の曜のことを考えると仕方ない、と言った面も多い。

 

「もう、私のことはいいから。それで?」

「最近のリリー、なんだか怖いなって」

「梨子ちゃんのどこが?」

 

曜の見ている限り、梨子にそんな印象はない。

確かにスクールアイドルをやっていた頃、歌詞の提出が遅い千歌に対して怒ることはあったが、怖いと思ったことはなかった。

 

「2人で遊ぶことが増えたんだけど」

「え?まさか付き合って・・・」

「話を逸らさない!・・・んんっ」

 

善子は1度咳払いをし、話を再開する。

 

「たまにね目が変わるというか、じっ、と私を観察してるというか。リリーの雰囲気が変わることがあるの。声をかけるとはっ、として胸を抑えたり、ブツブツ呟いて何かを堪えてるし・・・。曜、何か心当たりない?」

「・・・ないかな・・・」

 

曜の返答に善子はため息をつく。

 

「そうよね・・・。もしかしたら私の勘違いかもしれないわ。ありがと、話を聞いてくれて」

「ううん。こっちこそ。話してくれてありがとう。何か分かったら教えるよ」

「ええ。じゃあ、おやすみ」

 

自分の家に帰っていく善子を見送り、曜はスマホを取り出す。

電話をかける相手はダイヤと鞠莉だ。

 

『ハロー!曜!どうかした?』

『鞠莉さん!もう少し声量を抑えてください!耳が痛いですわ!』

 

グループ通話だったが、2人ともすぐに出てくれた。

 

「あのね、あまりいい話じゃないんだけど・・・」

 

曜は今、善子から聞いた話を2人にもする。

 

「と、言う訳なんだけど・・・。多分、感染してるよね・・・」

『ふむ・・・』

 

一通り話し終わると鞠莉は重い声を出す。

 

『怪しいわね。梨子も感染してる疑いがあるわ』

『ええ。善子さんの話が本当なら可能性は高いですわね』

「だよね・・・」

 

3人の意見は一致した。

フェーズは低いが恐らく梨子は『ID』に感染している。

対象も善子で間違いないだろう。

 

『曜はできるだけ梨子に気をつけて。自分の殺意を抑えるので必死だと思うけど、頑張って』

「うん」

 

鞠莉の指示に二つ返事で頷く。

 

『では、わたくしもできるだけ曜ちゃんたちの学校の近くで張っていることにしましょう。いざと言う時は人手があった方がいいでしょう』

『ええ。ダイヤもお願いね』

 

鞠莉の言葉を最後に通話は終わる。

とにかく今できることは梨子を監視し、『ID』かどうかを確かめること。

 

「・・・やっぱり私が原因なのかな・・・」

 

『ID』という病はその感染者と接触することで発病すると言われているが、それもまだ確定していない。トリガーが必要とも言われているが、そのトリガーも不明だ。

 

「考えても無駄無駄。帰ろっ」

 

曜は駆け足で帰路につく。

その彼女の後ろ姿を物陰から見つめる影が1つ。その事に曜は気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「特に変わったところは無さそう・・・」

 

早速次の日から自分の席に座りながら梨子を監視するが、いつもの彼女と変わりない。

 

「よ、よーちゃん?」

「何?千歌ちゃん」

「なんでそんなに梨子ちゃん見てるの?」

「見てないよ」

「どこが!?丸わかりだよ!」

「見てないもん」

 

千歌の言葉に曜は淡々と答える。

 

「むー。もー!よーちゃーん!」

 

曜の反応が気に入らない千歌は曜の背中に抱きつく。

 

ドクン!

 

千歌に触れられ、曜の殺意が湧き出す。

 

(ダメだ!絶対に殺意を抑えないと・・・)

 

曜は体を震わせながら必死に殺意を抑える。

 

「離して!」

「わっ!」

 

曜は椅子から立ち上がり、千歌を振り払う。

 

教室中の視線も自然と2人に集まる。

 

「あっ・・・」

「ごめんね、よーちゃん」

「千歌ちゃ・・・」

「ひっ・・・」

 

倒れた千歌へ近寄ると、彼女は怯えた目で曜を見る。

 

「え・・・」

「あっ・・・。ごめん・・・!」

 

千歌は教室から走って出ていく。

まるで逃げるように。

 

「待って!千歌ちゃん!」

 

慌てて曜も千歌を追う。

 

「待って!千歌ちゃん!待ってよ!」

 

曜へ振り向かず、必死に逃げる千歌。

このまま逃がすわけにはいかない、と思った曜はスピードを上げ、あっさり千歌を捕まえる。

 

「やっ!ごめんなさい!」

「千歌ちゃん!なんで逃げるの!?」

 

曜の質問に千歌は顔を背ける。

 

「ね?教えて」

「怖かった・・・」

「え?」

「さっきのよーちゃんの顔、怖かった・・・。チカ、殺されるんじゃないかって・・・」

 

曜は言葉を失くす。

無意識のうちに殺意の一部が漏れていたのかもしれない。

そして、千歌は言葉を続ける。

 

「ホントは・・・。よーちゃんはチカのことが嫌いなんでしょ・・・?」

「そんなことない!」

「知ってるよ。チカが周りからなんて呼ばれてるか。周りの人がウザがってることも」

「ないよ・・・。そんなことあるわけないよ!何言ってるの、千歌ちゃん!」

 

なおも顔を青くし、訳の分からないことを話し続ける千歌。

実際に千歌の話していることは全て虚言なのだ。

 

「千歌ちゃん、聞いて!」

 

曜は千歌の肩を掴み、まっすぐ目を見る。

 

(言う。言うんだ。殺意がなんだ。今まで千歌ちゃんに隠してた気持ちを。好きです、って言うんだ!)

 

気持ちを伝えようと覚悟を決める度に曜の殺意は高まる。殺意を抑え、戸惑っている千歌へ告げる。

 

「私は!千歌ちゃんのことが・・・。千歌ちゃんを・・・!」

 

千歌も曜から目をそらさずに最後の言葉を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

好きだよ(殺したい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ・・・、あぁ・・・」

 

千歌はか細い声を出しながら震えだす。

そして、曜は自分の言葉が無意識にすり変わっていた事に気がついた。

 

「違うの・・・。今のは違う・・・」

「い、いやっ・・・。離して・・・」

「お願い、聞いてよ」

「ヤダっ。殺さないで・・・」

「・・・ち、かちゃ・・・ん・・・」

 

曜は手を離してしまう。

そして千歌は逃げ出す。

 

「行かないで・・・」

 

曜の体は動かない。

ただ千歌の背中を見つめることしかできなかった。




告げてしまった言ってはいけない一言。
そして曜を拒絶してしまった千歌。
曜は前に進むことができるのだろうか。
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