私の恋には貴女の死をもって   作:梨善

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〜前回のあらすじ〜
ダイヤの暴走。
果南の大怪我。
Aqoursは1つの決断をする。


episode7

ダイヤと果南の大怪我と入院。

2人の怪我は小原家が裏から手を回し、事故として処理された。そして、この出来事はAqoursを大きく動かした。

 

「・・・消すよ」

 

2人を除き、Aqoursのメンバー7人は部室のPCの前でラブライブの特設ページを見ていた。画面に映し出されているのは登録削除画面。

2人の怪我は酷く、ラブライブ決勝までには完治しない。

メンバーの意見は9人揃わないと意味が無い、との声が多く解散を決意したのだった。

学院の生徒も納得してはいたものの、言葉の裏には棘があった。

 

マウスを握る千歌はカーソルを削除に重ねる。

 

「本当にいいんだよね・・・?」

「みんなで決めたこと、だから・・・」

 

千歌の確認に鞠莉が頷く。

カチッ、とクリックを押すとあっけなく、サイトからAqoursは消えてしまった。

ルビィは耐えきれず、涙を流す。他のメンバーの顔も晴れず、俯くだけだ。

 

「千歌ちゃん・・・」

 

曜は千歌の名前を呼ぶ。

 

「みんな・・・」

 

千歌は立ち上がり、全員へ向き直る。

 

「ありがとう。こんな普通なチカに着いてきてくれて。チカに輝きをくれて。忘れないよ!みんなで輝きを追いかけた時間!」

 

千歌はそう言うと部室を走って出て行く。

 

「千歌ちゃん!」

 

その千歌を追いかけようと曜は走り出そうとするが、鞠莉が止める。

 

「・・・今は1人にさせてあげなさい」

「・・・うん」

 

今のAqoursには時間が必要だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時とは早く過ぎ去るもので閉校祭当日。

前日から浦の星女学院の生徒たちは泊まり込みで設営励んだおかげで会場の出来は上々だ。

出し物も繁盛し、生徒たちはこの場所での最後の思い出作りをして行った。

 

Aqoursのメンバーも何とか気持ちに折合いを付けきれたようで、閉校祭を楽しんでいる。

 

日がくれ始めるも学院中の賑わいは収まりそうにない。

そんな中、曜は校門に立っていた。

 

「あっ。来た」

 

校門に来たのは黒塗りの高級車。

それは黒澤家の所有車で、曜も1度乗ったことがあるものだ。

 

車から男が降り、車椅子をトランクから降ろす。

後部座席の扉が開き、ダイヤの姿が見える。

男はダイヤを抱え、車椅子に座らせる。

そのダイヤなのだが、頭に包帯を巻いていた。

 

「ダイヤちゃん」

 

曜は車椅子に座ったダイヤに歩み寄る。

 

「ありがとうございます、曜ちゃん。わざわざすみません」

 

数日前に退院はしたものの、ダイヤの頭の傷は完治していない。車椅子に座っているのもできるだけ傷が開かないようにするためだ。

 

曜はせめて終わりのキャンプファイヤーで校舎内に人がいなくなった時だけでも、このイベントをダイヤに見てほしい、と鞠莉に頼んでいたのだった。

 

「いいよ。言ったでしょ?ダイヤちゃんが忘れられない最高のものを用意するって」

 

曜はダイヤの車椅子を押しながら、笑顔で話す。

ダイヤもその笑顔を見て、細く微笑む。

 

「果南ちゃんはまだ病院から出れないから写真いっぱい撮ってあげないとね」

 

曜が何気なく言った言葉でダイヤの表情は暗くなる。

 

「・・・わたくしのせい、なのですよね」

 

そこで曜ははっ、とする。

ダイヤは膝に置いた手をぐっ、と握りしめていた。

 

「わたくしが果南さんをあんな風に・・・」

 

次第に体も震え初め、ダイヤの呼吸は速まり、過呼吸気味になっていく。

 

「ダイヤちゃん!」

 

曜は人からは見えにくい校門の物陰に移動する。

後ろからダイヤを抱きしめ、そっ、と髪を撫でる。

 

「違うよ。ダイヤちゃんのせいじゃない。落ち着いて」

 

優しく抱きしめている曜の腕をダイヤは掴む。

 

「ネイブ、という方から聞きました。『ID』のことを。わたくしもしばらくすると彼の施設へ行くことになりました」

「うん・・・。私もそう聞いてる」

「表向きは治療、という話ですが、わたくしは暴走しましたから。処理されるかもしれせん・・・」

「処理って・・・。そんなことさせない!」

 

ダイヤと果南の身はしばらくネイブが預かっていた。

そこでダイヤはこの病を聞き、自分の処遇を考えたのだろう。

 

「曜ちゃんも『ID』なら分かりますわよね?いつ大切な人を自らの手で殺めてしまうかもしれない、という恐怖が」

 

曜は黙ったまま、ダイヤの話を聞く。

 

「・・・わたくしは楽になりたい。大切な友人をこの手で傷つけてしまった。この恐怖と罪悪感から解放されたいのです」

 

ダイヤらしからぬ言葉。その言葉だけでダイヤがいかに追い込まれていたのか。曜は嫌でも分かってしまう。

 

「それにまたいつ、ああなってしまうのか分かりません。だから。・・・曜ちゃん。わたくしを殺してくれませんか?」

 

優しい声。

優しい表情。

しかし、そこには初めて見せるダイヤの弱さと絶望が見えていた。

 

「・・・」

「お願いします、曜ちゃん。鞠莉さんや果南さんとはまた違う、初めての友達の貴女に幕を降ろしてもらえるのなら悔いはありませんわ」

「・・・嫌だ」

「曜ちゃん・・・。分かって?」

「嫌だ」

 

曜は優しく訴えかけるダイヤの言葉を否定する。

 

「そうやって逃げちゃダメだよ。ダイヤちゃんがいなくなったらみんな悲しむ。ルビィちゃんも鞠莉ちゃんも果南ちゃんも。それに私も。・・・それに罪悪感を感じてるなら余計にだよ。償わないと。逃げたら負けなんだよ。黒澤家に敗北の2文字はないんでしょ?」

 

曜はポツリ、と言葉を紡いでいく。

 

「ふふっ。確かにそうですわね。わたくしとしたことが。曜ちゃん、さっきの言葉は忘れてください」

 

口に手を当て微笑むダイヤ。

その微笑みは先程とは違い、活力に満ちていた。

 

「ダイヤちゃん・・・!」

「不思議なものですね。貴女の言葉には心を動かされます」

「私はそんなことできないよ。ダイヤちゃん自身が本心に気づいたんだよ」

「曜ちゃんらしいですわ。さて、校舎を見て回りましょう。エスコートお願いできますか?」

「任せて!それじゃあ、行くよ!全速前進〜」

 

「「ヨーソロー!」」

 

2人の笑い声が静かな校門に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗に装飾してありますわね」

 

教室を1つ1つ見て周り、そこで何をしていた、何があったかを曜は楽しそうにダイヤに説明する。

 

「ここはね。スクールアイドルクイズ選手権の会場になってたんだよ。ルビィちゃんが司会と出題をやってたんだけど、分からない問題ばっかりで、結局問題を用意したルビィちゃんが優勝したんだよ!」

「ふふっ。そうなのですね。流石我が妹」

 

ダイヤは少し誇らしげに笑う。

 

「・・・やっぱりダイヤちゃんてシスコンだよね」

「そんなことありませんわ!わたくしの妹なら当然という意味です」

「それがシスコンなんだと思うよ・・・」

 

曜は苦笑いを浮かべる。

対してダイヤは顎に手を当て、首を傾げながら悩む。

 

すると、曜のスマホから電話の着信音が流れる。

 

「あ、ごめん」

「いいえ。お気にならさず」

 

曜は一言断りを入れて、電話に出る。

相手は千歌だ。

 

「もしもし?」

『あ、よーちゃん。今どこ?』

「今はダイヤちゃんと一緒に教室を見て回ってるよ」

『あ、そっか・・・。どーしよ・・・』

 

不安げな声の千歌。

曜は話を聞いてみることにした。

 

「何かあったの?」

『それがね。ルビィちゃんと花丸ちゃんがどこにもいなくて。よーちゃんにも探すの手伝ってもらおうかと思ったけど・・・。ダイヤさんいるもんね』

 

千歌なりに気を使っているようだが、逆に曜は千歌に頼られて嬉しかった。申し出を断るという選択肢はなかった。

 

「いいよ。私たちは校舎内探してみるよ」

『ホント!?よーちゃん、ありがとー』

「ううん!また後でね!」

 

通話を切り、ダイヤに今の話を説明する。

 

「ルビィと花丸さんが?」

「うん。ダメ?」

「いいえ。そんなことは。2人を見つけたら4人で回りましょう。この殺意を抑える訓練もしたいので。もしもの時は曜ちゃんがいますものね」

 

ダイヤは笑いながら不謹慎なことを言う。

 

「え?わ、笑えないんだけど・・・」

 

「うふふっ。頼りにしていますわよ」

「えぇー!?」

 

ダイヤは1人で車輪を転がし、教室を出ようとする。

 

「置いていきますわよ」

「もう!待ってよ!」

 

曜は笑顔でダイヤを追いかける。

ダイヤに追いつくと、車椅子を再び押し始める。

 

「ねぇ、ダイヤちゃん」

「何でしょう?」

「楽しいね」

「はい。とても」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この階にはいなかったね」

 

ルビィと花丸を探しながら教室を回っていったものの、2人は見つからなかった。

 

「そうですわね。どこにいるのでしょう」

「うーん。やっぱり、あの2人だから図書室かな」

「その可能性は高いでしょうね」

 

曜の推測にダイヤも同意見のようだ。

 

「じゃあ、階段登るから捕まっててね」

 

曜は車椅子に座るダイヤをお姫様抱っこで持ち上げ、階段を登っていく。

階段を登りきり、ダイヤをゆっくり立たせる。

 

「ちょっと待っててね」

 

曜はパタパタと階段を降り、車椅子を持ち上げ、走って駆け上がる。

 

「お待たせ!」

 

そう言うと曜は手を差し出す。

ダイヤには曜の意図が読み取れず、首を傾げる。

 

「お手をどうぞ」

 

曜はウィンクをし、ダイヤを見つめる。

 

「まぁ。では、お願いします」

 

曜の手を取るダイヤ。

紳士のようにダイヤを車椅子に座らせる。

曜がいつ、どこでそのような作法を覚えたのかは謎だが、それは完璧なものだった。

 

「このような事、いつ覚えたのですか?」

「えっと、執事服作った時かなー」

「まあ、そんな気はしていました」

 

ふと、ダイヤは窓から校庭を見つめる。

 

「始まったみたいですよ」

 

曜も校庭を見る。

 

「わっ、すごい人」

 

校庭ではキャンプファイヤーが始まっていた。

この内浦に住む人が、歳も関係なく集まっている。

 

「・・・本当に悔しい。こんなにも愛されているこの学校が廃校になってしまうのは・・・」

 

ダイヤはポツリと呟く。

 

「わたくしたちには、何が足りなかったのでしょう?努力も怠っていません。PRだって機会を見つけては行ってきました。何が・・・」

 

涙を零すダイヤ。

きっと廃校が確定して何度も何度も涙を堪えてきたのだろう。

だが、人には決して弱さを見せない。

凛と振る舞い、人の先頭に立ち、模範になる。

それが黒澤ダイヤという人間。

 

曜もこの少女に憧れを持った。

この人の強さはどこから来るのだろう、と何度も考えてきた。

まだその答えは見つかってはいないが、ダイヤが涙を流すその姿は、小説やドキュメンタリー番組よりも強く心を締め付ける。

 

「皆さんとの大切な思い出がここにはあるのです・・・。辛かったこと、悲しかったこと。それを乗り越え、笑い、手を取って共に歩んできた時間が」

 

ダイヤは溜め込んでいたものを全て出し切るかのように話し続ける。

曜はただただ黙って聞くことしかできない。

 

「ごめんなさい。こんなことを話して・・・」

 

手で涙を拭いながら、ダイヤは謝罪する。

 

「ううん。いいよ。ダイヤちゃんはもっと私たちに甘えてよ」

「・・・ええ。ありがとう・・・。ありがとうございます・・・」

「さ、行こう。2人を見つけて私たちもキャンプファイヤーをゆっくり見ようよ」

「そうですわね。最も、わたくしはあまり人混みに居てはいけませんがね」

 

ダイヤはいつもの調子で呟く。

 

「そ、そんな事言わないでよ・・・」

「ちょっとしたジョークですわ」

「ダイヤちゃんのジョークはジョークに聞こえないよ・・・」

 

曜はため息をつきながら車椅子を押す。

だがこんな時間もいい、と思いながら微笑むのだった。




時は進む。
楽しい時間も悲しい時間も置き去りにして。
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