曜とダイヤは校庭にいないルビィと花丸を探す。
そして、悲劇が始まる。
行ってない部屋が図書室だけとなった曜とダイヤ。
ここに2人が居なければ既に校庭に行っているのかもしれない。
「ここに来るまでの部屋には居なかったね」
「やはりここなのでしょう。2人にとって特別な場所らしいので」
「そうらしいね。でも、せっかくのイベントに室内に篭ってるのも勿体無いよね」
階段を登り、遠くに図書室が見える。
「そうですわね。ですが、電気がついていませんわ」
ダイヤの言葉で曜もそのことに気づく。
「本当だ・・・。なんでだろ・・・」
「ま、まさか!?この中で破廉恥な行為を!?」
思考が飛躍しておかしなことになっているダイヤ。
「いやいやいや。学校じゃやらないでしょ・・・」
「分かりませんわよ!?雰囲気に呑まれ、2人は・・・。あぁ・・・!いけませんわ!曜ちゃん、急ぎましょう!」
1人で盛り上がり始めたダイヤに急かされる。
「はいはい。ほら、落ち着いて」
曜は笑いながら車椅子を押ていく。
ダイヤの小言を聞きながら図書室の前で車椅子を止める。
「図書室、道狭いから私が行って覗いてくるよ」
「はい。お願いします」
1人で図書室に入っていく曜。外も中も真っ暗で不気味だ。
「電気、電気っと」
手探りで壁についている照明のスイッチを探す。
パチッ、という音と共に図書室内に光が灯る。
「ルビィちゃーん、花丸ちゃーん。いるー?」
声をかけても返事は帰ってこない。
「おーい。いるのー?」
何度か呼びかけてみるが、曜の声が反響するだけだ。
「ここにもいないのか・・・」
「誰ずら?」
曜が頭をかきながら図書室から出ようとした時、声が聞こえた。
それは花丸のものだ。
「あっ。花丸ちゃんいたんなら返事してよー」
「曜ちゃん?」
花丸は姿を見せずに曜の名前を呼ぶ。
「そうだよ。キャンプファイヤー、始まったんだよ。早く行こ」
花丸はなかなか姿を見せない。
その花丸の姿が見えず、曜は図書室全体を見渡す。しかし、花丸の姿は見えない。
「うん・・・。もう少しだけ待って」
「また読書?こんな時にもなんて、本当に好きだね」
口ではできるだけ明るく振る舞うが、嫌な雰囲気が漂う。
そして何より、この空間の異質で気持ちの悪い匂い。
ゆっくり。ゆっくりと花丸がいつも座っているカウンターに曜は視線を運んでいく。
(嘘だよね・・・。嘘だと言って・・・)
カウンターの裏で座っている花丸。その彼女の足元に広がっているのは血の池。
「花丸・・・ちゃん・・・」
「ねぇ、曜ちゃん。おかしいんだよ?ルビィちゃん、さっきまでお喋りできてたのに、急に話さなくなったずら」
血まみれの花丸。その彼女が見つめる先にはルビィが。いや、ルビィだったモノが横たわっている。彼女の腹部はグチャグチャに引きちぎられるように開いて、中の内蔵、骨が見える。
あのかわいらしい姿と表情はどこにもなく、苦痛と絶望で顔を歪ませたまま息絶えていた。
「なんでかな?ちょっと前はお腹を触るとお話できたんだよ?」
躊躇なく花丸は肉と血の塊へ手を突っ込む。
グチョグチョ、と肉の音が静かな部屋に響く。
「ルビィちゃーん。ほら、お話しよ?」
「それ・・・。花丸ちゃんがやったの?」
曜は掠れた声で花丸に問いかける。
答えは聞かなくても分かってる。
そして、彼女は・・・。彼女も『ID』にかかっている。
「そうずら。だって、こうするとルビィちゃんかわいいんだよ?大きな声でマルの名前何度も呼んでくれたよ?」
「花丸ちゃん・・・」
曜は静かに拳をぐっ、と握る。
(止めなくちゃ。もう手遅れかもしれないけど、もしかしたらまだ花丸ちゃんだけは助けられるかもしれない。・・・ああ、それにしても)
「気持ち悪い」
まだ肉をまさぐり続ける花丸。
曜の目は完全に花丸を標的として見定めていた。
「全く。何をしていますの?2人はいたんですか?」
待ちきれなくなったダイヤがゆっくりと車椅子を運転しながら入ってきたのだ。その声にハッ、とした曜。
いけない、お思い、意識を振り払い、一瞬で花丸を、標的としての興味を失った。
「ダ、ダイヤちゃん!?ダメ!来ちゃダメ!」
それよりも今の有様をダイヤに見せるわけにはいかない。
「はぁ?あら、花丸さんはいるじゃないですか」
「見ちゃダメ!」
曜の必死の叫びも虚しく、ダイヤは花丸とルビィだったものを視界に入れてしまう。
「ル、ビィ・・・?」
力のない声で呟くダイヤ。
元々白いダイヤの肌は更に色を薄れさせ、青白くなっていく。
ギリッ、と大きな歯ぎしりの音。
曜の立っている位置からだと、俯いているダイヤの表情は分からない。だが、悲しみと怒りが湧き上がってあるのは容易に分かる。
彼女はゆっくりと立ち上がると、カウンターを周り、花丸の正面に立つ。
「貴女がやりましたの?」
「あ、ダイヤさん!来てたんだね!」
「貴女がやったのか、と聞いているんです」
声は怒りが籠っていた。
花丸はダイヤの物言いに顔をしかめる。
「・・・そうずらよ。だってルビィちゃんがマルの名前を何回も呼んでくれるのが嬉しかったから」
「貴女はっ!!」
ダイヤは花丸の胸ぐらを掴みあげ、壁に押し付ける。
「ダイヤちゃん!」
曜はダイヤに止めるように叫ぶが無視される。
「貴女は自分が何をしたか分かっていますの!?大切な友に何をしたのか!!」
怒りのままに叫ぶダイヤ。
自らもその過ちを犯してしまったこともあるため、言葉の重さは彼女自身が最も分かっている。
「な、なんで?なんでマルが怒られるの?」
「花丸さん!!」
「だってそうずら。マルは悪いことしてないもん。悪いのは返事をしないルビィちゃんずら!」
「・・・そこまで壊れてしまったのですね・・・」
ダイヤは花丸を床に叩きつけるように投げる。
「あぅっ・・・!」
「これ以上、貴女が過ちを犯さないために、わたくしが引導を渡します」
ダイヤは花丸に馬乗りし、彼女の額と細い首に手をかける。
「嘘でしょ・・・。やめて、ダイヤちゃん・・・」
曜の足は動かない。今の光景に怖気づいたのか、諦めてしまったのか。それは本人にも分からない。
「花丸さん、あちらでルビィを頼みます」
「やめて!!」
てこの原理を利用し、ダイヤは花丸の首を曲げる。
ポキン、と軽いモノが折れる音。
花丸の首は可動域を越え、あらぬ方向へ曲がる。
ダイヤは優しく花丸の亡骸を静かに横たわらせ、立ち上がる。
「ルビィ・・・」
見つめるのは彼女の妹だった肉塊。
かろうじて頭だけは綺麗だ。
ダイヤはフラフラとルビィに歩み寄り、血など全く気にせずその場にしゃがみこむ。
「ルビィ・・・。痛かったでしょう。怖かったでしょう。ごめんなさい。不甲斐ない姉を許して」
かろうじて繋がっているルビィの体をダイヤは抱きしめる。
「ルビィ・・・。ルビィ・・・」
ダイヤは涙を流しながら何度も名前を呼ぶ。
「ダイヤちゃん・・・」
「分かっています!分かっていますとも・・・。ですが、そう簡単に受け入れられると思いますか?」
「・・・」
「これは夢だと信じたい。でも違うのです」
「・・・分かってるよ。でも・・・」
曜が何か言う資格はないのかもしれない。
だが。
「・・・花丸ちゃんを殺す必要はなかったと思う。まだ花丸ちゃんなら助けられたんじゃ・・・」
「そうかも知れません。しかし、たった1人の妹を殺させたのです。許せるわけありません・・・」
曜は黙り込んでしまう。
「ルビィ。安らかに眠って下さい」
ルビィの顔を撫で、瞳を閉じさせる。
「・・・鞠莉さんに連絡しましょう。わたくしたちにできることはありません・・・」
「・・・うん」
連絡すると鞠莉はすぐ図書室に来てくれた。
鞠莉はこの惨状を見て、口を抑え、涙を流す。
「ルビィ・・・、花丸・・・!」
しかし、鞠莉はすぐに涙を拭い、ダイヤに問いかける。
「本当にこうするしかなかったの?」
「・・・わたくしはそう思いました」
「そう・・・。分かったわ」
鞠莉はどこかへ素早く連絡し、曜とダイヤに向き直る。
「2人には面倒をかけたわね」
「ううん・・・」
「いえ、そんなことは・・・」
「よくないことが起き続けるかもね」
鞠莉は俯いて呟く。
「・・・私の感が外れるといいのだけれど」
閉校祭は終わる。
血と悲しみを残したまま。
悲劇が始まった。
この悲しみを乗り越えられるのか?