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Noside
「…」
不安げな面持ちのまま、黒い光の柱を目指して黙々と樹海を駆け抜けるエルザ。
―――――…ジェラールが生きていた。
スッと目を伏せれば、鮮明に浮かぶジェラールの姿。
「エルザ」
「エルザ、この世界に自由などない」
「エルザを放せ!!」
幼い頃、泣いてばかりの自分に手を差し伸べてくれたジェラール。
冷たく凍りつく様な目でエルザの心に刻み込むようにゆっくりと語ったジェラール。
傷ついた自分を身を挺して守ってくれたジェラール。
楽園の塔での非道な行い、裏切られた想い。
湧き上がってくるのは、怒り、悲しみ、憎しみ……
しかし、幼いときのジェラールの笑顔が全てを中和する。
黒い光の柱に近づくにつれ、柱から発生する風が土を巻き上げ、視界を狭める。
「く…」
腕を顔の前に持っていき砂が目に入るのを防ぎながらエルザは前進していた。
竜の様に渦巻く風を抜けると、遂に辿り着いた柱の根本。
「…!」
驚くエルザの視線の先には、黒いコートと碧の髪をバサバサと靡かせこちらに背を向けている男―――――ジェラールがゆっくりとエルザを振り返る。
「…」
「…」
何を考えているのかわからない目がエルザを捉える。
エルザはただただ驚き見つめ返すしかできなかった。
「ジェラール…」
やっと言葉を発することが出来たエルザ。
どれくらいそうしていたのだろう。
それは凄く短い時間だったかもしれないがエルザには酷く長く感じられた。
「…エルザ」
何の感情も籠っていない声。
エルザは震える拳をグッと握り疑問を投げかける。
「お、お前…どうしてここに…」
「……わから、ない…」
エルザの問いに震えた声で答えるジェラール。
その様子はどこか弱々しく何かを恐れているかのようだ。
「エルザ……エル、ザ…」
「、!」
ジェラールは、まるで譫言のようにエルザの名を何度も呟く。
エルザの頬を冷や汗が伝った。
「エルザ………その言葉しか、覚えてないんだ…」
「ぇ、…」
信じられない、という顔をするエルザを差し置きジェラールは震える腕で頭を抱える。
「教えてくれないか…ッ…俺は誰なんだ…君は俺を知っているのか…?」
「…、」
「エルザとは誰なんだ…?何も、思い出せないんだ…ッ」
悲痛な表情で訴えてくるジェラールを見、エルザの瞳に涙が溜まる。
覚えていない…思い出せない―――――…
「…、」
エルザは必死にジェラールの言葉を整理しようとしていた。
覚えている言葉はエルザの名前。
「…」
「…」
二人は無言で見つめ合う。
…いや、ジェラールは無言になったのではなく話せなくなってしまったのだ。
何も覚えていない今、話せることなどない。
ジェラールは、自分の問いに目の前の人物が答えてくれるのを待つしかないのだ。
「…ジェラール」
「っ!来るなッ!!」
エルザはただ問いに答えるのではなく名をゆっくりと呼びながら、ジェラールに近づいた。
だが、その行動にジェラールはビクッと肩を震わせそれ以上近づくなとエルザに向けて光線を放った。
直撃した光線はエルザの肌を傷つけ、つぅと赤を伝わせた。
しかし、それでもエルザは表情を変えずその場に立ち止まってジェラールを見据える。
「…」
「く、来るな…」
弱々しくなっていく語尾。
ジェラールの顔には恐れが浮かんでいた。
そんなジェラールを見てエルザはキッと表情を引き締める。
「ならば、お前が来い。私がエルザだ。…ここまで来い!!」
「、…」
「お前の名はジェラール。…私のかつての仲間だ」
「…なか、ま……」
目を見開き、エルザの言葉を復唱するジェラール。
エルザはそんなジェラールに構わず言葉を続ける。
「乱心したお前は死者を冒涜し、仲間を傷付け、評議院さえも破壊し……シモンを、殺した」
「っ、…」
「それを…それを忘れたというつもりならッ!!心に剣を突き立てて刻み込んでやる!!ここに来い!!私の前に来いッ!!」
「…っ…俺が…仲間、をッ、そんな…ッ…」
遂に零れ落ちる涙。
ジェラールは己の顔を押さえ嗚咽を上げる。
「…、ッ俺は…何ということを…ッ…俺は…俺はどうしたらッ……く、ぅ…ッ」
「…」
見たことのないジェラールの姿にエルザは眉を寄せ俯く。
「(これが…あのジェラール……)」
「っ…く……ぅッ…」
人々を裏切り悪逆を尽くしていたジェラールの姿は今や見る影もなくエルザの目の前には、己の犯した罪に怯え弱々しく肩を振るわせるジェラールしかいなかった。
あれから互いに俯き続け風の音しか聞こえぬ静寂の時が流れた。
しかし、それを唐突に破る者がいた。
「―――――テメェの記憶がねぇのはよくわかった。道理で心の声が聞こえねぇわけだ」
「、…!」
「っ六魔将軍…!」
エルザの振り返った先にいたのは、キュベリオスを従わせ不機嫌そうな顔をしたコブラ。
「どうやってここまで来た。…で、何故ニルヴァーナの封印を解いた?」
「……眠っているときに、誰かの声が聞こえた」
シャーッと威嚇をするキュベリオスと怒気を含んだコブラの声に、ジェラールは少し躊躇いを見せながらもゆっくりと答える。
「ニルヴァーナを手に入れると。微かにその魔法と、隠し場所は覚えていた。…これは危険な魔法だ。誰の手にも渡してはいけない…」
「…」
「…、」
「――――――…だから、完全に破壊するために封印を解いた」
「っな…!?」
「ニルヴァーナを破壊する、だと…!?」
驚きに目を見開くエルザとコブラ。
そんな二人をジェラールは静かに見据え淡々と言葉を口にする。
「自立崩壊魔法陣は既に組み込んである。ニルヴァーナは間も無く自ら消滅するだろう」
その言葉を合図に黒い光の柱に不思議な形の魔法陣が広がっていく。
自立崩壊魔法陣。
これは魔法陣を組み込んだものを自ら消滅させてしまう破壊魔法だ。
「くっ…」
コブラは急いで光の柱に駆け寄り魔法陣の解除を試みる。
だが、ジェラールが組み込んだ魔法陣はあまりにも高度なもので、あの六魔将軍でさえも解けぬものであった。
「このままじゃ…っニルヴァーナが崩壊するッ!!ジェラール!!解除コードを吐きやがれ!!」
「……っぐ…」
「「、!?」」
焦ったコブラがジェラールに詰め寄り自立崩壊魔法陣の解除コードを聞き出そうとしたときだった。
突然胸を押さえ苦しみだすジェラール。
その顔には汗が吹き出し、頬を伝い落ちている。
エルザとコブラは何が起きたのか理解できず唖然とジェラールを見つめることしかできない。
「エルザ…、その名前からは、優しさを感じる…」
「…」
「っ…、明るくて、優しくて……温かさを感じる…」
苦しげに顔を歪めながら、ジェラールは目の前のエルザに目を向ける。
「きっと君は俺を憎み続ける…それは仕方ない、当然のことだ…」
「、…」
「しかし憎しみは…心の自由を奪い、君自身を蝕む…ッハ、ハ…」
「お前…、!!」
そこでエルザはジェラールの胸に広がるものに気が付く。
ニルヴァーナに広がっているものと同じ――――――自立崩壊魔法陣。
「俺はそこまで行けない…君の前には…行け、ない…ッ」
「こいつ…!!自らの身体にも自立崩壊魔法陣を…ッ!!」
荒い息をしつつジェラールはふ、と何かを思い出したように苦笑を溢す。
ぐらりとジェラールの身体が後ろに揺らぐ。
エルザの目の前でジェラールの身体がゆっくりと倒れていく。
「…ジェラール、から……解放、されるんだッ…」
「……」
「君の憎しみも…、悲しみも……俺が、連れて逝く…」
「……」
「君は……自由だ…!!」
フランの技募集とこの小説のヒロイン募集をしたいと思います。一応はヒロインはウェンディとなっていますが皆さんにも決めて欲しいと思いアンケートにしました。技に関しては作者は余り作れないので皆さんの知恵をお貸しください。お願い致します。
(ヒロイン1ウェンディ
ヒロイン2メルディ
ヒロイン3シェリア
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