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「何ですかー?」
「鐘の音…?」
ミッドナイトがゆっくりと立ち上るのを合図に、ゴーンと辺りに何度も鐘の音が響き渡る。
「真夜中を知らせる鐘さ…そして、真夜中に僕の歪みは極限状態になるんだ!っハハハハ…ッ!」
「……(なるほど…)」
「何だこれは…ッ」
三人の目の前でミッドナイトの姿がどんどん変化していく。
そして、見る見るうちに身の丈は元の姿の何倍にもなり、最早人間と呼べる姿ではなくなった。
これはもう怪物だ。
「もゥどうなっても知らナいよォ?」
「っ、はあぁぁ!」
「……フン…」
「、!?…うあァッ」
「うああアァ…ッ!」
薙刀を構え直し、怪物と化したミッドナイトに向かうエルザ。
だが、ミッドナイトが両手に溜めた黒い球体がエルザを、フランを、ジェラールを吹っ飛ばした。
「ぐ…何だ…この魔法、は…ッ!接収(テイクオーバー)でもない…感じたことのない魔力だ…ッ!」
「くっ…」
「ジェらァーるゥゥ?」
「っ、うわあァアァッ!」
ジェラールの悲鳴に、エルザとフランは痛む体を起こし、ミッドナイトに目を向ける。
するとそこには巨大な手で鷲掴みにされ、必死にもがくジェラールの姿があった。
「フフフ…君の支配は偽りだったねェ?楽園の塔に自由はなかった…!」
何もできないまま、二人の目の前でジェラールがミッドナイトに呑み込まれる。
「あの暴動の後も、僕は毎日怖くて眠れなかったよ」
「何、だと…?――――……、そう…か…!お前たちもあの塔に…!」
ハッとするエルザ。
……そう、ミッドナイトを含む、六魔将軍のほとんどがあの楽園の塔にいたのだ。
そして、エルザやジェラール同様奴隷として働かされていた、
「コブラが言っていたのはそのことか…!」
「君も同罪だ!妖精女王…!」
「ぐっ」
全体重を乗せたミッドナイトの攻撃がエルザに向けられる。
エルザは薙刀を両手で持ち、必死に攻撃を受け止めるが、あまりの重さにその足がどんどん地面に減り込んでいく。
「君は八年間も仲間たちの苦しみから目を背け、挙句の果てに君はその苦しみの根源だったはずのジェラールといる!」
フランの耳にジェラールの苦痛の叫びが届く。
ミッドナイトの体内でどんな苦しみを与えられているのか…
「君のために命を落とした奴らにとっては、それこそ悪夢だよ!……そう思うだろゥ?」
「、ぁ…ぁぁ…っ」
エルザの顔に恐怖が浮かぶ。
その視線の先には、土色をし、空洞の目をした二人の男。
「ロブおじいちゃん…!シモン…!」
「ハッハッハ…!それは君の罪だ!彼らの悪夢は君だよ!」
「っ貴様ぁ!」
エルザがミッドナイトを斬り付ける。
だが、薙刀が斬り裂いたのはロブとシモン。
「おっと、」
驚きに目を見開くフランの目の前にいるのは、ボロボロの服に身を包んだ幼いエルザ。
「酷いなァ?仲間を手に掛けちゃったねェ?」
「このォっ!」
挑発的な物言いに、幼いエルザはキッとし、再度ミッドナイトに斬り掛かる。
「っうあッ…!」
「ジェラールさんー。」
「な、に…?」
しかし、斬り裂かれたのはミッドナイトではなくジェラール。
「そう、それでいいんだ。君の手でジェラールを葬れ」
「っおのれェェ!」
エルザは再度薙刀を構え、今度は突き刺すようにミッドナイトへ刀身を押し込んだ。
…だが、
「、…ぁ…!…そん、な…ッ!」
ごふっと空気が口から漏れる音。
確かにその刀身は体に突き刺さり、背中へと貫通した。
―――――……ミッドナイトではなく、フランの体に。
「はぁ…はぁ…」
「そ、そんな…」
ミッドナイトの笑い声が響き渡る中、エルザの顔が恐怖と絶望に歪む。
「ぅ…」
「、!」
フランの体がぐらりと揺らぎ、エルザに力なく凭れ掛かった。
ズルッと、薙刀の刀身が更にフランの体に食い込む。
『「…ェ、…ザ…」
薙刀を放し、必死に体を支えるエルザの耳元で、フランの血に染まった口が僅かに動く。
そして何かを呟いた後、力尽きたようにフランの体が崩れ落ち、まるで闇に溶ける様に消えて行った。
「、フラン…?」
「ハハハッ!そう、そうだよエルザァ!フランにもジェラールと同じ血が流れている!」
茫然とするエルザにミッドナイトが可笑しそうに語りかける。
これでジェラールも落ち、フランも力尽き、エルザの心が壊れた。
ミッドナイトが完全なる勝利を確信したその時、
「―――――…だから何ですかー。」
「ッ!」
突如響いたフランの声にミッドナイトが息を呑む。
周りを見渡してもその姿は確認できない。
"今は自分が優位"のはずだ。なのに、何で…?
「何でって…知ってるでしょー?ミーは幻竜、闇に住む幻覚な竜。闇を喰らい、強くなりますー。」
「な、…!」
心を読まれたことに驚くミッドナイトだが、闇から現れたものに更に驚くことになった。
闇の中からゆっくりと、巨大なミッドナイトにも退け劣らぬ黒い竜が現れたのだ。
その目は赤々と輝き、口からは禍々しい色を帯びた魔力が溢れ出している。
頭を抱え、振り払う様に首を振るミッドナイト。
「幻覚は、真夜中は、…闇は…」
「っ馬鹿な!そんな馬鹿なあぁァあァ!」
「…ミーの縄張りですー。」
黒い竜の咆哮が闇に木霊し、ミッドナイトが耳を塞ぎながら叫び声を上げる。
と同時に、スパンッと空間が斬り裂かれた。
鐘の音が辺りに鳴り響いている。
一瞬、刻(とき)が止まった。