文字数の関係で、「小説家になろう」様に投稿してた物に、オマケを付け足して投稿。
いけない、とは思ったのに。
気付いたら、家を飛び出していた。
駅で、氷雨ちゃんを待つ間も。
何度も、やっぱり帰ろう、と思った。
だって、おかしいもの。
高校生の娘が、野外活動に行ったことが寂しくて、やっと会えると思ったら、いてもたってもいられなくなって、迎えに来てしまうお母さん、なんて。
きっと、ぜったい、おかしいもの。
――でも。
『母さん!?』
私を呼ぶ、氷雨ちゃんの声を聞いた瞬間。
一瞬だけ、だけど。
嬉しい、以外の感情が、頭から飛んで行ってしまった。
――……ほんと、どうかしてる。
どうかしてる、から。
「母さん」
――……拒めない。
「氷雨ちゃん……」
リビングのソファーで。
氷雨ちゃんの膝の上に向かい合わせで座らされて、隙間もないくらい密着した状態で、抱きしめられている。
「……んっ」
氷雨ちゃんは、先程家に帰ってきてからずっと、片手で私を抱き寄せたまま、頭、頬、肩、背中、腰、等々、いろんな場所を、味わうように、ゆっくりと撫でていて。
やめるように、言わなければ、と。
そうは、思うのだけど。
私のことを見詰める、潤んだ瞳。
口元は、だらしないくらいゆるんでいて。
――可愛い、なあ。
自然と、そう感じてしまうから。
正直、ヤバいのではないだろうか、と、思う。
「母さん」
声から溢れる愛情に、背筋が震えた。
「きゃ……っ!」
頬に、柔らかな唇の感触。
至近距離で、氷雨ちゃんが笑う。
「……っ」
なにも言えないでいる間に、また唇が降ってきた。
今度は、鼻の頭。
顎に、首に、好き勝手に口付けて。
「母さん」
でも、氷雨ちゃんは。
「大好きだよ」
――唇には、触れない。
ねえ、それだって。
私のことが『大好き』だからだって、知っているけれど。
妙に、大人っぽくふるまったりもするくせに。
大人には絶対に出来ない、子供が『宝物』に向けるような笑顔が、眩しい。
氷雨ちゃんは、私の耳たぶに口付けた後、胸に顔を埋めて、深呼吸をした。
満足そうに吐かれた息に、ちょっぴり、腹がたったので。
頭を軽く、小突いてやった。
いっそ、貴女が汚い『大人』になってくれたなら、なんて。
そんな、それこそ汚い気持ちには、今日も、気付かないふりをした。
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オマケ:その日の夜
随分と久しぶりに感じる二人での晩御飯を終えて。
お先にどうぞ、と氷雨ちゃんにお風呂を譲った。
皿洗いも終えて、一息ついていると、氷雨ちゃんがお風呂から上がったので、入れ替わりに私も浴室に向かう。
そして、脱衣場で衣服を脱ぎ、洗濯かごに入れようとしたところで。
「……あ」
あることに気が付いて、固まった。
「これ、って……っ」
カァッ、と。
耳まで、熱くなっていく。
洗濯かごの中には、数着の衣服。
ショーツは、4枚入っていた。
その内3枚は、旅行中に氷雨ちゃんが使用した物だろう。
だから、通常であれば。
残りの1枚は、昨日私が籠に入れた物であるはずなのだ。
でも。
昨日、私が履いていたショーツは、ピンクのレースで。
今、この籠の中にあるのは、白のレースだ。
そう、これは。
氷雨ちゃんのベッドの下に隠されていた、あのショーツである。
「……ッ」
思わず、喉を鳴らし。
震える指先で、それを摘み上げて。
少しだけ、顔に近付ける。
――……それは、私のショーツのはずなのに。
「氷雨ちゃんの、匂いがする……」
数瞬後。
正気に戻った私は、慌ててそれを洗濯かごに戻して。
急いで浴室に入り、頭から冷水をぶっかけた。
「あ、母さん。お風呂長かったね」
のぼせなかった? なんて言いながら、冷たい麦茶を用意してくれた氷雨ちゃん。
私は、そんな氷雨ちゃんの顎に、軽く頭突きをした。
「あいてっ! え、なあに?」
どうしたの? って。
顔を覗き込んできた氷雨ちゃんから、目を逸らしながら。
「……氷雨ちゃんの、ばかっ」
結局、言えたのはそれだけだった。