ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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もう四月ですね

今月でこの話の区切りが出来たらな~と考えたり

感想的なものなどよろしくお願いしますね


第二十五話

 

 

 

 

 カラリと乾いた空気を切り裂いて神崎は飛ぶ。

 

 軽快なエンジン音を唸らせる零式艦上戦闘脚。新しいこの機体は以前の物と同様に自分の意のままに動いてくれる。

 

(ハンナの気持ちも・・・少しは分かるな)

 

 Bf109F-4/Tropを愛でるマルセイユ。そんな彼女に少し共感しながらも神崎は飛行を続けた。

 鋭い目線で目標を見定める。体を捻らせて手に持った銃を構えると、おもむろに引き金を引いた。

 短い銃声と共に放たれる無数の弾丸。

 それらが目標、標的用バルーンを穴だらけにしたのを確認すると素早くレシーバーを前後させて次弾を装填、再び引き金を引く。

 それを5回繰り返し全弾が目標に当たったのを確認すると、神崎は小さく頷いて基地上空でループした。

 

(空を飛べたことも・・・いいことだったな・・・)

 

 足に響く振動。

 流れていく風景。

 全身に当たる風圧。

 その中で自由に動ける体。

 零式での久しぶりなそれらの感覚を神崎は楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 統合戦闘飛行隊「アフリカ」基地

 

 

 

 

 

「神崎少尉が宙返りしましたね」

「本当ね。珍しい」

「そうなんですか?」

「玄太郎は余計なことはあまりしないのよ」

 

 加東と竹井は揃って双眼鏡を覗き込み神崎の飛行を観察していた。

 

「ユニットは今のところは大丈夫そうね・・・炎は使ってないから何とも言えないけど・・・」

 

 加東は彼の動きを目で追いながら心配そうに呟く。

 

 魔力特性のせいで神崎のユニットが熱暴走を起こしやすくなっているのは氷野曹長から報告を受けていた。今回の飛行は試作兵器の実験もあるが、通常の機動でもユニットが熱暴走を起こさないかの確認でもあった。

 加東はインカムを通して神崎に話しかける。

 

「玄太郎?調子はどう?」

 

『問題ないです。・・・強いて言えば、もう少し装弾数と射程を増やして欲しいです』

 

「そっちじゃないわ。あなたとあなたのユニットよ」

 

『・・・そっちも大丈夫です』

 

「そう。ならいいわ」

 

『では、出力を全開まで上げての戦闘機動を始めます』

 

「分かったわ」

 

 通信が終わるのと同時に上空の神崎の動きが激変した。零式の機動性を存分に生かし、水を得た魚ように空中を縦横無尽に駆け回る。その動きは以前零式を使っていた時よりも洗練されていつように思えた。

 加東も最初はユニットが爆発しないかとハラハラして見ていたが、次第にその動きに目が奪われていく。

 

(すごい・・・。でも、何処かで見たような・・・)

 

 加東が感心しつつも頭を捻りながら空を眺める横で、竹井は静かな目で双眼鏡を覗いていた。傍から見れば別段変わりないが、神崎の飛行を見たその胸中は、昨日のこともあり複雑だった。

 

 神崎は自分に責任はないと言ってくれたが、彼が飛ぶ姿を見ているとやはり自分を責めてしまう。だが同時に、彼と一緒に飛びたいという願望と彼が魔法使い(ウィザード)になってよかったという思いも湧き上がってくる。そして自分を許してくれた彼への思いも。それは以前の兄妹みたいなものではなく、婚約者としての・・・。

 

(私って・・・嫌な女ね・・・)

 

 今更そんな事を思っていいのだろうか?自分の気持ちを素直に受け入れられず思い悩む竹井。神崎が再び宙返りするのを見て、彼女は知らず知らずの内に唇を噛み締めていた。

 

 

 

 

 

 神崎は滑走路に着陸するとユニットをケージに繋いで待機していた。

 零式の調子は上々だった。固有魔法は使わなかったので正確なことは分からなかったが、少なくとも固有魔法なしの全力機動では熱暴走は起こらないことは確認できた。

 神崎はその結果に満足しながら整備兵が差し入れてくれた水を飲む。そして先程使っていた試作兵器を眺めた。

 

 ヰ式散弾銃・改。

 扶桑皇国陸軍がリベリオンの企業ウィンチェルタ社が製造した散弾銃、ウィンチェルタM1912を輸入し空戦仕様に改造した物だ。格闘戦時、接近した敵機に効果的な打撃を与えることを目的としている。本来は陸軍である加東や稲垣が使うべきなのだが、加東の計らいで神崎が使っていた。

 

(まぁ、なかなか使える・・・のか?)

 

 撃った時の衝撃を思い出しながら神崎は思った。実戦で使用してはないので確信は持てないが、感触はよかった。装弾数の少なさと再装填に時間がかかってしまうことが難点だが・・・。

 

(それに銃身ももう少し短くした方がいいか・・・)

 

 パシャリ!

 

「玄太郎、お疲れ」

 

 ヰ式散弾銃を弄りまわしながら神崎が改良点を洗い出していると、シャッター音と共に加東と竹井がやって来た。二人の姿を見た神崎は近くの整備兵に零式の整備を頼んで彼女達に近づく。

 

「下から見てどうでしたか?」

 

「前よりも良くなってた。でも、何処かで見たような感じがしたんだけど?」

 

「・・・多分、ハンナの動きだと思います。メッサーシャルフを使っていた時はあいつの動きを参考にしていたので」

 

「あ、そういうことね」

 

 納得がいったのか加東はカラカラと笑い、それに釣られて神崎も微笑む。二人の間にいい雰囲気が流れるが、彼女の後ろにいる浮かない顔の竹井を見て神崎は首を捻った。

 

「どうしました?竹井中尉」

「あ!・・・なんでもないわ」

 

 神崎に声をかけられると一瞬嬉しそうな表情をするが、周りの目を気にしたのかすぐにいつもの優しそうな表情に戻った。

 

「それにしても神崎少尉の空戦技術は見事だったわ。『アフリカの太陽』という別名は伊達じゃないわね」

 

「・・・中尉もそれを知ってるんですか?」

 

「ここに来る途中のロマーニャで聞いたの。結構広まっているみたいよ?」

 

 冗談めかした彼女の言葉に、神崎は露骨に顔をしかめた。

 

「ハンナと被っててむず痒いですがね・・・」

 

「兄妹みたいね」

 

「・・・そうですね。手のかかる妹です。・・・誰かさんみたいに」

 

 最後の一言はボソリと呟いたものだったが、どうやら竹井には聞こえていたらしく顔を赤くしていた。

 ちょっとやり過ぎたか・・・と少し後悔神崎だが、あるもの見てしまい更に後悔することになった。

 今のやり取りを、特に竹井が顔を赤くしたところを見て、面白くなさそうにしている加東。なぜ彼女がそんな風になってしまったかはそれとなく察する神崎だが、竹井との関係が知られれば十中八九面倒くさいことになるのでここはシラを切ることにした。

 

「ケイさん、どうかしましたか?」

 

「・・・別に?次は別の兵器の実験よ。話してばっかりいないで、さっさと準備する!」

 

「・・・了解」

 

 これ以上彼女の機嫌を損なわないようにと神崎はそそくさと零式へと戻っていく。その後ろ姿を加東は不満そうに睨んでいた。そんな彼女に竹井は恐る恐る話しかける。

 

「か、加東大尉?」

「醇子ちゃんと玄太郎って、どんな関係?」

 

 加東は先程まで神崎の背中に向けていた目をそのまま竹井に向けた。どうやら今のやり取りで二人の関係に疑問を持ったらしい。

 

「か、関係と言うと?」

 

「だから、玄太郎とは・・・」

 

『こちら神崎。離陸します』

 

 竹井には絶妙な、加東には悪いタイミングでの神崎からの通信。加東は竹井から目を離してインカムに手を当てたがった。

 

「無理はしないでね」

 

『了解』

 

 通信が終わるのと同時に零式のエンジン音が鳴り響き、滑らかな挙動で神崎が空に上がっていった。それを見送った加東は今までの空気を一変させるように大きめの声で言った。

 

「・・・この話はなし!気にしなくていいわ。ごめんね」

 

「は、はぁ・・・」

 

「じゃ、私は仕事があるから天幕に戻るわね。一人で大丈夫?」

 

「はい。大丈夫です」

 

「なら良かった。じゃね」

 

 加東はにこやかに手を振りながら竹井のもとを離れて行った。天幕に入るまではにこやかに歩いていたが、入った途端に疲れたように顔をしかめ額を押さえた。

 

「醇子ちゃんにあんな態度とるなんて・・・最悪」

 

 深々と溜め息をついてドサリと椅子に座り込むと、天井を見上げて呟く。

 

「信介とライーサの空気にあてられちゃったかな」

 

 信介許すまじ、偵察から帰ってきたら文句の一つでも言ってやろう。加東はそう心に決めて書類を片付けるべくペンを取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 加東が書類仕事を始めたその頃・・・

 

「ヘックション!!」

 

『Gesundheit』

 

「何だ、それ?」

 

『カールスラントではくしゃみをした人にこう言うの。大丈夫?』

 

「大丈夫、大丈夫」

 

 島岡とライーサは二人揃って哨戒任務(デート)に勤しんでいた。

 コックピット越しのために直接話すことは出来ないが、右翼の根元に腰掛けたライーサとは無線で話すことは出来る。この状態は翼に余計な重量がかかり、機体バランスが崩れて操縦が難しいのだが、そこは天才的な操縦センスを持つ島岡。彼女と一緒にいる為ならそんなことは苦もなくこなしてしまう。

 

「う~ん、誰か俺の噂をしてるのか?」

 

『噂?』

 

「扶桑じゃ噂された人はくしゃみするって言われてるんだよ」

 

『面白いね』

 

 楽しそうに会話する二人だが、その目はしっかりと周りに向けられ敵影がいないかと逐一警戒していた。大切な人が隣にいる分、その集中力は最大限に高められている。以前加東が言っていたように付き合い始めた二人はいい方向に成長していた。

 

『ねぇ、今度釣りに行こうよ』

 

「いいのか?」

 

『うん。神崎さんから聞いたんだけど、シンスケの釣りの腕は凄いんでしょ?一度見てみたくて』

 

「そんなことなら簡単だ。んじゃ、次の非番の時でいいか?」

『うん!』

 

 当の本人達は気付いてないのだが・・・。

 今日も今日とて、二人は一緒にいられる幸せを噛み締めて空を飛ぶのだった。

 

『敵影確認・・・!』

 

「うし!行くぞ、ライーサ!」

 

『任せて、シンスケ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神崎は今日一日を飛行訓練と試作兵器の実験に費やした。飛行訓練の方では零式の仕上がりを確認でき、神崎自身も零式の感覚を取り戻すことができた。

 が、試作兵器の方は散々だった。

 試作兵器は多種多用だったがまともに扱えたのは最初のヰ式散弾銃だけで、他の物にいたっては明らかに持って飛べない物などもあり、休憩中の整備兵にはちょうどいい見せ物になっていた。

 

 そんなこんなで夕方。

 

 いつもならこれから夕食というところだが、今日は少し違った。

 

「ゴホンッ・・・。え~、では!扶桑からやって来た仲間に乾杯!!」

 

「「「乾杯!!!」」」

 

「・・・乾杯」

 

「か、かんぱ・・・い?」

 

 ある意味いつもと同じかもしれないが・・・。

 

 

 

 マイルズやシャーロットといったブリタニアとカールスラントの陸戦魔女(ウィッチ)や一般兵士、何故かロンメル将軍までも来ている久しぶりの宴会。皆が盛り上がっている中、神崎はまたか・・・と呆れて、竹井は状況が飲み込めず困惑していた。

 今回の宴会の主役は竹井。

 つい先日視察に来た竹井だが明日には扶桑に帰ることになっていた。というのも、彼女は半ば強引に今回の視察役を引き受けたらしく、扶桑本国で教官として任につかなければならないらしい。

 そして、そのことがマルセイユの耳に入りこの宴会が開かれることになった。

 

「なんと言うか、凄い光景ね」

 

 沢山の人との話しを終えた竹井は、オレンジジュースの入ったコップ(彼女も未成年ということで酒は断った)を片手に感慨深げに言う。

 彼女の目の前には楽しそうに飲み食いし談笑する沢山の魔女(ウィッチ)と軍人達。アフリカの主力が集まっていると言えるこの光景はここでは見慣れているが彼女には壮観だろう。隣に座っている神崎は、テーブルに盛られた料理をつつきながら懐かしむように言う。

 

「自分も最初はそうおもいましたが、もう慣れました」

 

「・・・慣れるほど頻繁に行っているの?」

 

「・・・そこは黙秘で」

 

 自分の口で言うのと言わないのとじゃ訳が違う。酒を飲んでいる訳じゃないので黙っておく事にしよう・・・と、疑い深い目で見てくる竹井から目を逸らし続けている神崎。さらに問い詰めようと竹井が再び話しかけようとした時、先んじて神崎に話しかける人がいた。

 

「こんばんは。『アフリカの太陽』さん」

 

「マイルズ少佐・・・ムズ痒いのでその名はやめてください」

 

 ニコニコしながら話しかけてくるマイルズ。その頬は既に酒が入っているせいか、ほんのりと赤く

なっていた。

 

「もう!こんな時は普通でいいって言ってるでしょ?」

 

「そうだったな、すまん」

 

 マイルズの咎める声に神崎が素直に謝ると、上機嫌で彼の向かい側に腰を下ろした。

 

「この前の買い物は楽しかったわ」

 

「迷惑をかけた埋め合わせだったからな。楽しんでくれて何よりだ」

 

「また今度も行きましょ?」

 

「時間が合えばな」

 

 トントン拍子に進んでいく二人の会話に竹井は呆気にとられていた。全く入っていけない話に竹井が目を白黒させて混乱していると、そんな彼女にマイルズがやっと気付いた。

 

「あ・・・。すみません、竹井中尉。こっちだけで話進めちゃって」

 

「い、いえ!お気になさらず・・・」

 

 遠慮がちにそう言う竹井だが、横目では神崎を睨んでいた。要らぬ疑いをかけられてはたまったもんじゃない・・・と神崎は軽く首をすくめて自分が何もしてないことを示す。その間にマイルズは運ばれてきたジョッキビールを美味しそうに飲んでいた。

 

「プハァ・・・美味しい。あなたたちも飲めばいいのに」

 

「何度も言っているが、俺は・・・」

 

「飲まないんでしょ?分かってるわよ。竹井中尉は?」

「・・・私はこのオレンジジュースで」

 

「あら、そう。それは残念」

 

 その言葉とは裏腹にたいして残念そうに見えないマイルズは、もう一口ビールを飲むと首をかしげて交互に二人を見た。

 

「さっきから見てたけど、あなたたちってどんな関係?」

「っ!?」

「どんな関係と言われてもな・・・」

 

 息を呑む竹井を横目に見ながら、正直に言うわけにもいかないので神崎が答えるのを渋っていると、痺れを切らしたのかマイルズはいきなり立ち上がり彼の隣に座った。

 

「セシリア?」

「な~んか、仲良さげよね?」

 

 酔いが回り始めたのか神崎の腕にしなだれ、上目遣いに睨めつけるマイルズ。上気した顔と相まってその表情は非常に魅力的で神崎は自分の心拍数が上がるのを感じた。

 

「・・・同じ海軍だしな」

「本当にそれだけ?」

 

 当たり障りのない答えではマイルズが納得する訳もなく、さらに疑いを深めて迫ってくる。神崎が弱っていると左腕に鋭い痛みを感じた。顔をしかめてそちらの方を見れば、腕をつねってマイルズと同じようにこちらを睨みつける竹井。違う意味で心拍数が上がる。

 

「・・・どうかしましたか?中尉?」

 

「・・・私には敬語なのに」

 

 神崎にしか聞こえない程小さな声でボソリと呟く竹井。顔が赤くなっているように思えるのは気のせいだろうか?何を今更・・・と頭を押さえるがそこでふと彼女が持つジュースに目がいった。

 

「おい、そのオレンジジュースは・・・」

 

「おお!ゲンタロー!楽しそうだな」

 

「本当、両手に華・・・ね」

 

 竹井をなだめようとした時、マルセイユと加東が神崎の目の前に座った。マルセイユはからかうようにニヤニヤしているが、加東は笑顔だったが目は笑っていなかった。異様に据わった目で見てくる彼女に戦慄を覚えながらも恐る恐る神崎は尋ねた。

 

「ケ、ケイさん・・・、な、何か?」

「うん?左右に上官を侍らせていいご身分だなって思っただけよ?」

 

 加東はニコリと笑いかけてくるが神崎には恐怖でしかない。しかも左右からも圧力が掛かってくるこの状況。

 少しでも打開するきっかけをマルセイユに竹井が飲んでいたオレンジジュースを見せた。

 

「おい、ハンナ。このオレンジジュースは・・・」

 

「む?・・・これはこの前お前に飲ませた酒入りのやつだな。誰かが間違えて置いたらしいな」

 

 コップのオレンジジュースを一口飲んだマルセイユは、この前神崎に飲ました時のことを思い出したのかバツの悪い表情を浮かべる。そんな彼女に神崎は、気にするな・・・と言いつつも竹井が持っていたコップをやんわりと取り上げる。これでお茶を濁そうとした神崎だが彼女たちはそう甘くわなかった。

 

「そんなことはどうでもいいわ。で、どうなの?神崎さん?」

 

「私も聞きたいけどね?玄太郎?」

 

「・・・」

 

 加東とマイルズは神崎に詰め寄り、竹井は無言で睨みつけている。

 唯一外野のマルセイユはニヤニヤしてばかりで手助けする気もない。

 本当の事を言うわけにもいかず、神崎がどうにも弱っていると思わず所から助け舟がきた。

 

「おい!ゲン!お前、何か歌えよ!」

 

 四人には目もくれずに上機嫌で近づいてきた島岡が突如言ったこの言葉に神崎は呆れるしかなかったが、かろうじて返事をした。

 

「・・・どうしてそうなった?」

 

「いや~、あっちで俺達のこと色々と訊かれてよ。それでお前の趣味が歌が好きだと言ったら皆が聴きたがってんだよ」

 

 島岡が示す方向を見れば、ライーサやマイルズの部下のソフィ、カールスラントのシャーロットやフレデリカ、そしてミハイルをはじめとした一般兵士、さらにはロンメル将軍まで期待を込めた目で神崎を見ていた。普通なら遠慮している神崎だが、この状況を抜け出すべくスクッと立ち上がると竹井から取り上げた酒入りオレンジジュースを一息で飲み干した。その行動に驚いたのは、一番神崎に飲ませたがっていたマルセイユだった。

 

「ゲ、ゲンタローが自分から酒を飲んだ!?」

「・・・素面でこんな事ができるか」

 

 

 神崎は呆気にとられる三人を置いて移動すると、アルコールで熱くなった頭を抱えて期待の視線の前に立った。

 

「あ~。まず最初に言っておくが、俺は人前でちゃんと歌ったことはない。聞き苦しかったらすまん」

 

 そう一言告げると、目を閉じて深呼吸を一つする。その様子に周りがしんっと静まると、おもむろに音を紡ぎ始めた。

 

 まず歌始めたのはカールスラントの軍歌。

 まるで本物のカールスラント人のような流暢なカールスラント語と重厚な低音の歌声は聞いている者達に不思議な安心感を与えた。

 続けてブリタニア、ロマーニャ軍歌。

 これらもそれぞれ流暢なブリタニア語とロマーニャ語で歌いあげた。

 曲と曲の合間で喉を潤す為に酒を飲んで気分が良くなったのか、続けて歌ったのはリズムのいいリベリオンの流行歌。いつもの神崎の雰囲気とはかけ離れた明るく歌う様子に一同は最初は驚きつつも最後の方は楽しんでいた。

 そして最後は扶桑の歌。朗々と、そして少し物悲しく響く神崎の歌声に皆が聞き惚れ、そして静かな余韻を残して神崎は口を閉じた。

 

 

「お粗末さま・・・か?」

 

 神崎が自嘲気味に微笑むと、一斉に拍手や口笛が鳴り響いた。まさかここまで喜ばれるとは思ってもいなかった神崎は、驚いて後ずさり取り乱しながら何かゴニョゴニョ言うと逃げるように自分の天幕へと小走りに戻っていった。拍手はしばらく鳴り止まなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら神崎は興奮冷めやらぬままベッドで寝てしまっていたらしい。

 宴会から抜け出した竹井はアルコールで少し痛む頭を押さえて神崎の天幕に訪れていた。同居人である島岡は宴会会場で酔いつぶれていたので今は神崎と竹井の二人きり。

 

「相変わらず散らかってる・・・」

 

 寝ている神崎の隣に腰掛けて、竹井は微笑んだ。初めて彼の自室に入った時の衝撃は今でも忘れられない。ベッドの上に転がっていた弾丸を掌の上で遊ばせながら彼の寝顔を眺める。その表情は昔の面影が色濃く残っていた。

 

「私はゲン君のことが好きなのかな・・・」

 

 自分のことを許してくれたからだろうか?励ましてくれたから?それとも・・・。

 多分違う。

 最初は憧れだったんだと思う。神崎玄太郎は気が弱くて何もできない自分とは正反対の存在だったから。けど、自分は本当に彼が好きなのだろうか?憧れからなにも変わっていないのではないか?

 

(加東大尉もマイルズ少佐もゲン君のことが好きなんだろうなぁ・・・)

 

 少しだけしか話していないが、竹井には確信があった。この自分の中途半端な思いは彼女達にも失礼ではないか?

 

「やっぱり・・・でも・・・」

 

 頭の中で考えがグルグルと巡ってしまい答えが見つからない。そんな頭に反するように彼女の体は神崎に近づいていった。それが彼女の意思なのかアルコールのせいなのか・・・。

 すぐ近くに神崎の顔がある。少しお酒の匂いが香る彼の寝息を浴び、竹井は自分の顔が熱くなるのを感じる。

 

「ゲン・・・君・・・」

 

「・・・なんだ?」

 

「!?!?!?!?」

 

 心臓が飛び出るほどの衝撃を受けて竹井は声にならない悲鳴をあげた。正確には、あげようとしたが血相を変えた神崎が口を塞いだので彼女の悲鳴が基地中に響き渡ることはなかった。

 

「ふぅ・・・。悲鳴をあげたら俺が殺される。・・・大丈夫か?」

 

「・・・(コクコクコク)」

 

 潤んだ目でしきりに頷く竹井に、神崎はゆっくりと塞いでいた手を離した。寝ている体勢から身を起こすと、竹井は落ち込んだように座っていた。雨に濡れた子犬に見えなくもない。

 

「あ~・・・。何をしていたかは聞かないほうがいいか?」

 

「・・・うん。お願い」

 

 か細い声で答える彼女の姿に、神崎はため息をついた。

 

「・・・何かあったか?」

 

「・・・」

 

 質問に沈黙で答える竹井。神崎も無理には聞かず、ただ黙って隣に座る。少し経つと竹井はポツリと言った。

 

「私ってゲン君のことを・・・」

 

「昨日も言ったが・・・。婚約者がお前でよかった。これが今の俺の本心だ。お前の気持ちは分からないが・・・」

 

「っ!?!?もしかしてさっきの・・・!」

 

「聞こえていた。・・・俺からは何も言えないが。すまんな」

 

 そう言って神崎は彼女の頭を強めに撫でた。竹井はただ黙って首を振り撫でられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 「アフリカ」の面々はトブルクの軍港にやってきていた。目的は勿論竹井の見送り。予測では今日は敵の襲撃ないので全員で来たのだ。ちなみに神崎は竹井の荷物を持ち彼女の後ろに付いている。今は別れの最中だ。

 

「皆さん、お世話になりました」

 

「本国でも頑張ってね」

 

「今度はジュンコが飛ぶのを見たいな」

 

「ご武運をお祈りしています!」

 

 代表して加東、マルセイユ、稲垣が声をかけた。竹井は嬉しそうに頷くと入港していた輸送船に歩いていき、神崎も荷物を携えて彼女の後に続く。輸送船に乗り込み荷物も渡した時、竹井が何かを思い出した。

 

「そういえば、神崎少尉に渡すものがあったの」

 

 慌てたようにバッグを漁ると中から一つの封筒を取り出した。

 

「これは?」

 

「・・・佳代ちゃんと千代ちゃんからよ」

 

「・・・そうか」

 

 神崎は何も言わず封筒をポケットにしまう。そして何もなかったように竹井を見ると、少し表情を緩めた。

 

「・・・死ぬなよ」

 

「あなたもね」

 

 竹井も神崎に釣られて顔をほころばせる。その笑顔を見届けて神崎が輸送船から降りようとすると、その背中に竹井が言葉を投げかけた。

 

「・・・私もゲン君が婚約者でよかった」

 

「・・・そうか」

 

 チラリと振り返って小さく笑みを浮かべる神崎。それ以上は何も言わず「アフリカ」の皆のところへ歩いて行った。

 

 

 

 

 

「神崎さん、これもお願いしますね」

 

「・・・分かった」

 

「ゲン、これも頼む」

 

「真美はともかく、シン、お前は自分で持て」

 

 真美から渡された食材の袋を抱えながら神崎は島岡に鋭い視線を飛ばす。島岡は苦い顔をして自分の荷物を抱えるのだった。

 

 軍港からの帰り。

 神崎、島岡、稲垣の三人は食料調達に勤しんでいた。

 昨日の宴会で基地の食材を使い過ぎてしまった為、出撃予定のなかったこの三人がトブルクの店で買い物を担当することになった。主に島岡と稲垣が買い付けを行い、神崎は荷物持ちである。

 何件かの店を周り店を移動した時、リベリオン軍の警備部隊とすれ違った。

 

「ヘイ!!そこのお嬢さん!『アフリカ』の魔女(ウィッチ)かい?」

 

「そこの扶桑人は『アフリカの太陽』じゃないか!」

 

「ということは、こっちは『ゼロファイター』か!?こりゃすげーや!」

 

 陽気なリベリオン軍人らしく、気軽に声かけてくる。少し驚いた稲垣に代わって島岡が前に出た。

 

「おう。俺が『ゼロファイター』の島岡だけど、おめぇらどっかで会ったっけ?」

 

「俺達はこの前の戦闘でお前らに助けられたんだよ」

 

「ゼロで陸戦ネウロイをぶっ潰した時は最高だったぜ!」

 

「あぁ、あん時の部隊か!」

 

 人当たりのいい島岡らしく、すぐにリベリオン軍人達と打ち解けて談笑し始めた。稲垣は近くの店で商品を物色し、神崎は特に何もすることなく穏やかな表情で島岡と稲垣の様子を見守っている。平和な商店街に似つかわしい雰囲気だった。

 

 

 

「『アフリカの太陽』・・・。お前が魔法使い(ウィザード)だな」

 

 

 

 自分を呼ぶ声に神崎は振り返った。そこには顔にスカーフを巻いた男。その手には手斧。

 

 

 

「貴様は我々の障害だ。消えてもらう」

 

 

 

 スカーフを巻いた男は目にも止まらぬ速さで神崎に近づくと手斧を神崎の脳天に振り下ろした。

 




ヰ式散弾銃は空想の産物です。ググっても出てきません(笑)
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