ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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中途半端ですが、あしからず

感想待ってますよ~



第二十六話

 

 

 戦時中とはいえ、トブルクはアフリカで一番と言っていいほどに賑わう町だ。そして、昼飯時ともなればその賑わいは一段と大きくなる。

 

 だが、今日は違った。

 

 人々が平和を謳歌する喧騒とは真逆の血生臭い狂想曲。今まさに死と隣り合わせのカーチェイスが繰り広げられていた。

 

「シン!そこの路地を左だ!あと、少し揺れを抑えて走れ!」

 

「うるせぇ!!んなこたぁ分かってるよ!お前はさっさと撃ち返せ!」

 

 弾痕だらけのトラックに乗っているのは血まみれの神崎と島岡、土で汚れた稲垣の三人。そして、それに追いすがる複数の自動車。どの車からも激しく銃撃されていた。

 

「揺れが酷くて再装填しずらいんだ!」

 

「モ式にしてた結果がこれだよ!?だからバレッタに変えろつったんだ!」

 

「そんな言葉、初耳だが!?」

 

「こんな時にケンカしないでください!!!」

 

 荷台の神崎と運転席の島岡の怒鳴り合いに業を煮やしたのか、助手席の稲垣がヒステリック気味に叫ぶ。すると、それが合図になったのか追走してくる車から更に苛烈な銃撃が浴びせられた。神崎は咄嗟にシールドを張ってそれを防ぎ、島岡は隣の真美の頭を無理矢理下げさせると自身も身を屈めた。

 

「畜生・・・!」

 

 銃撃が過ぎ去ると、神崎はやっとのことでC96の再装填を終わらせ、なけなしの反撃を試みる。

 

(こんなことになるとはな・・・)

 

 腕に走る拳銃の衝撃を感じながら神崎は朧気にこうなった経緯を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前にギラリと光る手斧の刃。

 その奥にはスカーフの間から覗く血走った目。

 そして・・・殺気。

 

「っ・・・!?」

 

 神崎は咄嗟に抱えていた荷物を手放し、両手を突き出す。恐ろしい速度で振り落とされる手斧の内側に体を滑り込ませると、すんでのところで相手の手首を掴み、かろうじて受け止めた。だが・・・

 

「何者だ・・・!」

 

「貴様らが邪魔な者だよ!」

 

 相手は神崎よりも頭一つ分大きく体格も彼を上回っている。結果、力任せに押し込まれた神崎は魔法力を発動させる暇もなく体勢を崩されてしまった。

 

「クッ・・・!?」

 

「死ね!我らが同志の為に!」

 

 地面に倒れた神崎に男は再度手斧を降り下ろそうとする。

 が・・・。

 

「食らえぇ!!」

 

「グハッ!?」

 

 その直前に島岡の飛び蹴りが男の顔面に炸裂した。男はもんどりうって地面に転がり、神崎はやっと体の自由を手に入れる。

 

「神崎さん、大丈夫ですか!?」

 

「ああ・・・」

 

 駆け寄ってきた稲垣の手を借りて起き上がると、さっきまで島岡と話していたリベリオン軍警邏隊の数名が男を取り押さえようとしていた。残りの兵士も緊張した様子で周辺を警戒したり、司令部に連絡しようと通信機を弄ったりしている。

 一気に街中がザワザワと騒がしくなった。

 

「ふぅ・・・。ゲン、大丈夫だよな?」

「ああ。助かった」

 

 

 島岡も駆け寄ってくるが神崎は返事はしつつもその目は拘束から逃れようともがく男を注視していた。一瞬、神崎の鋭い視線とスカーフの隙間から覗く男の視線が交差する。

 男がニヤリと笑った。

 

「!!シン!伏せろ!」

 

 男から放たれる凄まじい殺気に似た何か。

 神崎が叫びながら近くにいた稲垣を抱き締めて地面に伏せたのと、男が拘束の一瞬の隙を突いて懐から柄付手榴弾を取り出したのはほぼ同時だった。

 

ドンッ・・・!!!

くぐもった爆発。

ドサッ・・・

何かが地面に倒れた音。

ビシャッ・・・。

身体に降りかかる暖かく鉄臭い液体。

 

「な・・・んだよ。これ・・・」

 

 近くからは島岡の呻く声。神崎はゆっくりと体を起こし、周りを見渡し、表情を凍りつかせた。

 

「・・・酷い」

 

 そう呟く神崎の目の前は一面に広がる血の池。爆心地であろう場所にはあの男のであろう下半身とスカーフ。そして辺りに散らばる人の四肢と管状の何かなにかナニカ・・・。

 

「オエェ・・・」

 

 隣では島岡が地面に手を付き嘔吐していた。運悪く巻き込まれた市民が悲鳴をあげて逃げ惑い、リベリオンの兵士達は更なる敵襲に備えて緊張を高めている。神崎も胃の中の物がこみ上げてくるが、それを必死にこらえる。

 

「か、神崎さん・・・。い、一体何が・・・?」

 

 抱き締められたままの稲垣が困惑した声で問いかけてくる。これを見せてはいけない・・・、神崎は表情を歪めると抱き締める腕に更に力を込めた。

 

「・・・気にするな。・・・それより早くここを離れた方が・・・」

 

 行動を起こそうとした途端だった。

 パァン・・・!といういきなりの銃声。

 神崎と稲垣の前方にいた兵士が倒れた。

 

「敵襲!11時の方向!屋根の上!」

 

 リベリオン兵が反応し、すぐさま撃ち始めた。その銃声に急かされるように神崎は稲垣を抱き抱えて車の影に滑り込む。少し遅れて島岡も転がり込んできた。

 

「大丈夫だな・・・!?」

 

「なんで確認なんだよ!?」

 

 神崎の問いかけに島岡は怒鳴り声で言い返すが、その顔は青白かった。神崎から離れた稲垣は二人が血塗れなのにギョッとした。

 

「お、お二人共、血が!?」

 

「俺らのじゃねぇ・・・よ」

 

 取り乱した稲垣を安心させるように島岡は言うが、途中あの光景がフラッシュバックしたのか最後の方は青い顔をして言い淀んでしまう。神崎も自分の体から漂う血の匂いと相まって脳裏に先程に光景がチラついた。一瞬気が遠くなってしまうが、後ろの車から伝わる衝撃がギリギリのところで気を引き止めた。

 頭を振って気持ちを切り替えると、腰からC96を抜く。横を見れば島岡もバレッタM1934を抜いていた。車の陰から少しだけ頭を出して様子を伺うと、建物の屋根の上、さらにはすぐ向かいの道路にも武装した敵がこちらに銃撃を加えていた。その数は段々と増えてきている。

 

「どうするよ?」

 

「・・・ここから離脱する。可及的速やかにだ」

 

「で、でも、そんなことできるんですか?」

 

 数多の銃声にあてられて涙目になった稲垣は縋り付くように神崎に尋ねるが、神崎自身明確な答えがある訳ではなかった。今はリベリオン兵達が食い止めてくれているが、ここで動けなければジリ貧になるだけ。

 

(どうする・・・どうする・・・)

 

 島岡が隣で拳銃を撃ち、稲垣は神崎の服を掴み力なくこちらを見上げている。

 

(・・・どうする!)

 

「おい!『アフリカの太陽』!!」

 

「!?」

 

 突如かけられた声が神崎の堂々巡りの思考を断ち切った。声がした方を向けば額から血を流したリベリオン兵が。

 

「ここは俺達が食い止める!お前達は逃げろ!」

 

「っ!!」

 

「連絡は取れている!この先のブリタニア(トミー)の基地だ!」

 

「だが・・・!?」

 

 食い止めるとは言っているが、敵は以前増えるばかり。つまり・・・十中八九彼らは死ぬ。だから、神崎はその提案を受け入れるのに躊躇していた。その逡巡を断ち切るようにリベリオン兵が叫ぶ。

 

「お前達がいなければアフリカは死ぬ!絶対にお前たちを死なす訳にはいかない!」

 

「・・・。・・・了解した」

 

 彼の悲痛な声を聞いた神崎は唇を噛み締めて頷いた。彼らの思いを無下にする訳にはいかない。

 

「これを持っていけ!あっちに停めてある!」

 

 投げて寄越したのは車のキーだった。神崎が受け取ったのを確認すると、リベリオン兵はニカッと笑いかけそして銃を構えた。

 

「野郎ども!暴れてやろうぜ!!」

 

「「「おう!」」」

 

「ロックンロォォォオオオオル!!!」

 

 リベリオン兵達が一斉射撃を開始しするのに合わせて、神崎達も行動を開始した。

 

「シン!先導しろ!真美!後に続け!俺が殿を務める!」

 

「ッ!?分かった!」

 

「は、はい!」

 

 島岡が拳銃を撃ちながら飛び出し、稲垣が泣きそうになりながらそれに続き、最後に神崎が二人を庇うように走り出した。敵はリベリオン兵に釘付けでこちらに手を回すことはできない。襲撃に合うこともなく三人はリベリオンのトラックにたどり着き、トラックに乗り込む。

 

「早くしろ!」

 

 いち早く荷台に乗り込んだ神崎が後ろを見て叫んだ。既に追手が迫ってきている。神崎が足止めの為にC96を撃つ。その間に島岡は運転席に飛び込むと、前もって受け取っていたキーで慌ててエンジンをかけた。ついで稲垣も助手席に飛び込む。

 

「出すぞ!!」

 

 島岡が力強くアクセルを踏み込み、トラックは急発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「曲がるぞ!!」

 

 島岡の怒鳴り声で神崎の思考は引き戻された。車体を軋ませるほどの強引なカーブに、荷台の神崎は堪らず倒れてしまう。

 

「無茶な運転だな・・・!」

 

 毒づきながらも転がった姿勢のままでC96を撃ちまくが、一向に衰えない敵の銃撃に神崎は泡を食って伏せる。

 

(なんでこんなことをしなければならない・・・!?)

 

 まじかでの跳弾音を聞きながら神崎は思った。戦うべき相手はネウロイであるはずなのに、なぜ関係のない市民までも巻き込んだカーチェイスをしなければならないのか。

 なぜ人間同士で殺し合わなければならないのか。

 

なぜ・・・?

 

なぜ・・!?

 

なぜ!?

 

 

 

「畜生・・・!!!」

 

 神崎は左手に魔力を集中し始める。

 

 なぜ、こうなったのかは全くわからない。

 しかし、死は間近に近づいてくる。

 俺だけでなく、シンも真美も死ぬ。

 時間はない。

 だから・・・。

 神崎は考えるのをやめた。

 

 

 神崎のフソウオオカミの尾が猛々しく膨れ始める。

 

「・・・いけぇえええ!!!」

 

 いつもの神崎からは考えられない血を吐くような絶叫。

 その絶叫と共に神崎の何かが変わった。

 放たれた炎は寸分違わず追手の車に直撃した。巻き上がる炎と爆音。そして響き渡る悲鳴。

 神崎は虚ろな目でその光景を見ていた。

 だが、それもほんの一瞬。

 すぐに頭を振ると危なげな足取りで運転席に近づいた。

 

「・・・後ろは片付けた。さっさとブリタニア軍の基地に行くぞ」

 

「お、おう。大丈夫か?」

 

「・・・ああ。真美は?」

 

「は、はい・・・」

 

 神崎の質問に稲垣もなんとか返事をするが、自分で自分の体を抱き締めてガタガタと震えていた。いくらいつもは戦場で戦っている魔女(ウィッチ)だといっても相手はネウロイ。このような人間同士の殺し合いは経験したことはないだろう。そのえもいわれぬ恐怖に神崎も島岡も確実し精神的に削られている。二人よりも幼い稲垣なら尚更だった。

 

「・・・急ぐぞ」

「おう・・・」

 

 

 神崎は一度だけ稲垣に視線を投げ掛けると、再び虚ろな目で荷台に座り込み新な追跡者が現れるのを警戒し始めた。

 

 

 

 

 

 この襲撃は神崎ら三人だけの問題ではなかった。

 トブルク各地で同時多発的に同じような襲撃が発生していたのだ。

 

「状況はどうなっておるのだ!?」

 

 大声が飛び交うブリタニア軍司令部で青筋を立てるモントゴメリー。なにせトブルクのいたる所から襲撃が報告されるのだ。しかも完全なる不意打ちの襲撃にどの部隊も対応に遅れ情報も錯綜する始末。混沌(カオス)とはまさにこの事だろう。

 

「こちらから襲撃を受けている部隊に増援を送っていますが・・・」

 

「敵の実態が掴めない限りは厳しいことに変わりない!」

 

 副官の控えめな言葉にモントゴメリーは怒鳴り返す。実態が分からない敵ほど怖い物はない。そう・・・ネウロイのように。

 

「リベリオンの第三警邏小隊から入電!統合戦闘飛行隊『アフリカ』の魔女(ウィッチ)及び魔法使い(ウィザード)を含めた三名が襲撃を受けた模様!現在、こちらに向け移動中だそうです!」

 

「さらに入電!各部隊への襲撃の勢いが衰え始めた模様!敵が何処かへ移動を始めたようです!」

 

 この報告にモントゴメリーははたと何かに気付いた。

 

「敵が移動している方向は!?」

 

 この質問に部下達が迅速に動く。報告された情報を元に地図と照合。いくつもの走り書きをされた地図は一つの結論を導き出した。

 

「恐らく、この基地かと・・・!」

 

 この部屋にいる者全員に緊張が走る。だが、モントゴメリーだけは違った。

 

「いや、ここに逃げ込む『アフリカ』の者達だ。敵の目的は航空魔女(ウィッチ)の抹殺か・・・!」

 

 その言葉には言い表せない程の重さがあった。

 今、ここアフリカがネウロイの手から逃れられているのは、言わずもがな、マルセイユを始めとした『アフリカ』の力が大きい。ここで三人も戦力を失うことになれば、アフリカは堕ちたのも同然となる。

 モントゴメリーは即断した。

 

「『アフリカ』が来るであろう方向に防衛線を敷く!市街に出ている部隊は敵を駆逐しつつ基地へ後退!彼らを絶対に死なせるな!」

 

 この命令の元に周りは一気に騒がしくなった。モントゴメリーはその喧騒の間を縫って副官に耳打ちをした。

 

「『(シュランゲ)』へ連絡だ。ロンメルとパットンにも一言入れておけ」

「了解しました」

 

 早足で離れていく副官には目もくれずモントゴメリーは顔の前に手を組んだ。

 

「ここでけりをつけようか・・・」

 

 誰にも聞こえない程に小さな言葉。その顔は笑っていた。

 

 

 

 

 

 このモントゴメリーの機転は上手く働き、神崎、島岡、稲垣の三人はあれ以上襲撃を受けることなくブルタニア基地に辿り着いた。依然街では戦闘は続いており、基地にも前線基地並みの防衛態勢が敷かれていた。

 その防衛部隊の中にマイルズ率いるC中隊もいた。陸戦ユニットを履いた彼女らは皆一様に不安そうな顔をしている。そんな中で副長のソフィが正面門からぼろぼろのトラックが入ってくるのに気付いた。

 

「隊長!あれは・・・!」

「・・・!どうやら攻撃を受けたみたいね」

 

 マイルズが自らを落ち着かせようとして暗い表情で言った。だが、トラックが止まり中から人が出てきた時は落ち着いていられなかった。

 

「ッ!?神崎さん・・・!?」

 

 トラックの荷台から血塗れで降りてきた神崎。その姿を見たマイルズはいてもたってもいられず、ソフィの制止の声を振り切って駆け出した。

 

「神崎さん!?大丈夫で・・・ッ!?」

 

 マイルズの声に神崎が振り返り彼と目が合った瞬間、彼女の表情が凍りついた。何の生気も感じられないがらんどうの瞳。マイルズはなんと声をかければいいか分からなかった。

 

「この血は俺のじゃない。敵のだ」

 

 瞳と同じように、淡々と告げる彼にも生気を感じられない。

 

「すまないが、どこか休める場所はないか?俺も二人も消耗している」

 

 そう言って彼が指し示した先には明らかに苛ついている島岡と震えている稲垣が。その姿を見てマイルズはやっと我に帰った。

 

「あ・・・。とりあえず基地に入って。休める場所はすぐ手配する。それに・・・シャワーも浴びた方がいいわね」

 

「助かる」

 

 神崎はそれ以上はなにも言わず、稲垣に手を貸しながら基地へ歩いて言った。マイルズはただ見送ることしかできなかった。

 

 

 

     




活動報告でも書きましたが、最近忙しいためなかなか投稿出来なくなります
一ヶ月ペースになるかもしれません

気長に待っていてください

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