ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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今回でアフリカ編は一区切りとなります

あと、筆者が慣れない筆を頑張って動かして書いた恋愛シーン(?)も多めです

感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします
感想は気軽にどうぞ?


第二十九話

 

 カラリと乾いた空気が頬を撫でる。灼熱の太陽がジリジリと肌を焦がしていく。

 アフリカではありふれた光景。しかし、今の神崎にはこの光景にどこか故郷に似た雰囲気を感じていた。

 白いストライカーユニット、零式艦上戦闘脚を纏い、武装を施した神崎は漂うように飛んでいく。ここアフリカの景色を目に焼き付けるように。数日後にはここを離れる身。そして・・・帰ってこれる保証はない。どうしても記憶の中に留めておきたかった。

 

『そろそろいいか?ゲンタロー?』

 

「・・・ああ」

 

 インカム越しのマルセイユの声に神崎は頭を切り替える。漂うような飛行を止めて、右手に銃を構える。今ではすっかり手に馴染んだMG34。その薬室に弾丸を送り込んでいると、マルセイユが華麗な動きで同高度まで上がってきた。

 

「急に模擬戦を頼んですまなかったな」

「他ならぬゲンタローの頼みだ。扶桑の言葉なら・・・お安いご用、とでも言うのか?」

 

 とぼけたように首を傾げるマルセイユに神崎は目を細める。そして、おもむろに銃を構えて告げた。

 

「ああ。じゃあ・・・始めるか」

 

「フフン、また負けたら面目が立たないぞ?」

 

「そうだな・・・」

 

 この言葉を最後に二人は距離を取った。すでに二人の表情は実戦の時のように引き締められている。

 

「最後だ・・・俺の全てを出しきる」

 

 目線の先で紡がれるマルセイユの茶色の軌跡。独り呟いた神崎はその軌跡なぞるように手をかざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリタニア陸軍第8軍団総司令部

 

 

 

 司令部には件の襲撃跡が色濃く残っていた。まだ日があまり経っていないせいか、目立つところでは破れかけたフェンスや壁や地面の弾痕や爆発跡、隠れたところには血痕まで残っている始末。今、この基地は厳重な警戒の中で急ピッチの復旧作業が行われていた。

 だが、この部屋には作業の喧騒は届かない。いや、届いてはいるがまるで意味をなしていなかった。それほどまでにこの部屋、基地司令室は異質な雰囲気を醸し出していた。この部屋の主、モントゴメリーは至って普通の表情でソファに座り、ティーカップに口を着けていた。そして、テーブルを挟んだモントゴメリーの向かい側には加東がいた。彼女もモントゴメリーと同じ様に何食わぬ顔で紅茶を口に運んでいたが、時折見せる視線は殺気に似たものがある。異質な雰囲気の原因はここにあった。

 モントゴメリーが優雅ともいえる動作でカップを置くと、それを見計らっていたのか加東もカップを置きモントゴメリーを見据えて口を開いた。

 

「将軍、今回の命令は納得できません」

 

「君の納得は必要ない、大尉」

 

 一言のもとにはねのけるモントゴメリーだが、加東は諦めずに食い下がった。

 

「今のアフリカには神崎少尉と島岡特務少尉は必要不可欠です。彼らがいなければアフリカの空は守れません」

 

「それは君が判断することではない。こちらでは二人が抜けても十分だと判断したからこその命令だ」

 

「将軍らしくもない現場の意見を無視した判断ですね」

 

 両者とも睨み合ったまま一歩も引かない。睨み合ったまま時間が過ぎ、テーブルのカップからは虚しく湯気が立っていた。湯気が立たなくなった頃、モントゴメリーはやってられないとばかりにため息をついた。

 

「この命令は扶桑海軍から発せられたものだ。我々がとやかく言ってもどうにもならない」

 

「ですが・・・」

 

「そのことが理解できないほど君は愚かではないはずだが?」

 

「・・・しかし、戦力的に不安が生じるのは事実です。もしネウロイの戦力が増せば・・・」

 

 加東は苦し紛れのように言葉を絞り出したが、自分でも説得力が薄いのが分かっているのか先ほどに比べ弱弱しいものだった。

 

「確かにそうだ。しかし、それは何もここだけという話ではない。予測だけで貴重な戦力を遊ばす余裕は人類にはない」

 

「それは・・・そうですが・・・」

 

 反論できない加東は悔しそうに眼を伏せた。それを合図として、話は終わりだと言わんばかりにモンドゴメリーは立ち上がった。

 

「すでに扶桑から出発した艦隊の一部がトブルクに寄港することが決まっている。話はこれで終わりだ。君は自分の任務に戻りたまえ。・・・少なくともここの脅威はネウロイだけだ」

 

 最後の一言に疑問を残しながらも加東は黙って出ていくことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、島岡とライーサは釣りをしていた。

 

「こ、これ、ど、どうすればいいの!?」

 

「落ち着けって。焦らずにゆっくりとリールを巻いて・・・」

 

「な、なんかすごい動いてる!?」

 

「随分と活きがいいやつだな」

 

 トブルクの街外れ、静かな沿岸部。

 島岡とライーサは空いた時間を利用して前々から話していた釣りデートと洒落込んでいた。

 

「ん?小さいな。こいつは放すか」

 

 ライーサの釣竿にかかった魚を見て島岡が残念そうに言うと、手早く釣り針から魚を外して海に放った。

 

「あれ?放しちゃうの?」

 

「まだ子供だったからな。・・・ほら、餌を付けたからもう一度糸を垂らしな」

 

「うん。ありがと」

 

 二人並んで座り、潮風を浴びる。穏やかな時間が流れる中、時折聞こえるウミネコの鳴き声と魚が跳ねる音が聞こえていた。

 

「・・・あまり驚かねぇんだな」

 

 島岡がポツリと呟くとライーサは辛そうに目を伏せた。

 

「・・・うん。覚悟はしていたから。私たちは軍人だし・・・いつか転属命令が出て離れ離れになるかもって」

 

「そうか。そりゃそうだよな」

 

「だから・・・今は出来る限り一緒に居たいの。だから・・・」

 

「俺も一緒にいてぇよ。できるならずっとな」

 

 ライーサが島岡に寄り添い、彼の肩に頭を預ける。島岡も彼女の頭に顔を埋めた。島岡の釣り竿がピクリと震え、ウキが沈む。だが、島岡はそれに気付くことなく、ライーサの香りを胸一杯に吸い込んだ。

 

「この前も言ったが、俺はお前を残して死ぬ気はさらさらねぇ。たとえ、ここじゃなくてスオムスでもな」

 

「うん・・・信じてる。シンスケ?」

 

「うん?」

 

 ライーサの問い掛けに島岡は顔を上げた。見上げてくるライーサの碧い瞳が島岡を射抜く。

 

「私、シンスケと会えてよかった」

 

「俺もだよ」

 

「シンスケ・・・愛してる」

 

「っ!?お、おう!」

 

 扶桑では滅多に聞くことのない、いきなりのこの言葉に島岡はどぎまぎしてしまう。育ってきた文化が違うせいか、こんな時でも島岡は慣れないでいた。そのことを重々承知しているのか、ライーサはからかうようにクスリと笑った。

 

「シンスケ・・・かわいい」

 

「ち、ちくしょう・・・でもな?」

 

「え?・・・んっ!?」

 

 島岡は笑い続けるライーサの隙をついて、いきなり彼女の唇を奪った。程なくして、先ほどとは逆に顔を真っ赤にして目を白黒させているライーサに島岡は笑いかけた。

 

「お前の方が可愛いに決まってんだろ?」

 

「・・・シンスケがこんな事するなんて」

 

「まぁ、からかわれるままは嫌だしよ。多少はな?その・・・嫌だったか?」

 

「そんなことないよ・・・!でも、我儘言うならもっと前からして欲しかったかな?」

 

「・・・すまねぇ」

 

「なら、もう一度して?」

 

「おう」

 

 魚が食らいついているであろう釣り竿を横に置き、ライーサを力いっぱい抱き締めて唇を重ねる。

 いまこの二人を見守るのは物言わぬ岩と海、そして数匹のウミネコだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背後から放たれる銃弾をすんでのところで回避し、今の自分が持ちうる空戦技術をフルに活かして回り込もうとする。

 だが、相手はそれを許すほど甘くはない。一度背後を取り返して攻撃できたかと思えば、こちらの攻撃が銃撃であろうとも炎であろうとも完全に見切っているかのように回避し、すぐさま自分の背後に回り込んで銃撃を浴びせられる。

 ただただ必死に避けるか、シールドで防ぐしかなかった。

 

「くっ・・・!」

 

 もう何度背後に回り込まれたか覚えていない。神崎は自分のシールドにペイント弾が当たるのを歯噛みして見ていた。自分の実力は上がっているのだろう。以前なら背後へ何度目かに回り込まれた時点で負けていたはずだ。

 しかし、それでもマルセイユには及ばない。

 

『なかなか当たらないな・・・!』

 

「負けたくはないからな・・・!」

 

 もはや意地の領域かもしれない。神崎は無理やり体を捻ってMG34を背後に向けると碌な照準もせずに引き金を引き絞った。やたらめったらにペイント弾はうまい具合にマルセイユへの牽制となり、一時彼女を引きはがすことに成功する。神崎は全速力で距離を取ると、一旦仕切り直しとばかりに空中に滞空した。

 

「ふう・・・」

 

 乱れた呼吸を整えつつ、構えていたMG34の銃口を下げる。そしてこちらに向かってくる茶の機影に左手をかざした。

 

「受け取れ・・・!!」

 

 左手に魔法力を収束させる。収束された魔法力は熱を帯び、そして炎を生み出す。そして・・・その炎は一気に膨れ上がった。

 

「行け・・・!!!」

 

 鋭く振られた左手。その軌跡から放たれる数多の炎。その数、30余り。それらが一斉にこちらに迫りくるマルセイユに襲い掛かった。

 

『そう来なくちゃ面白くないな!』

 

 インカムから聞こえるマルセイユの声は非常に嬉しそうだった。そして、その声を体現するように傍から見ても楽しんでいるのが分かるぐらい活き活きと動きだした。マルセイユが放つ弾丸は高速で動いているはずの炎をいとも容易く撃ち抜いていき、爆発させていく。みるみるうちに炎は数を減らしていくが落ち込んでいる暇はない。

 

「これで終わるつもりは・・・ない」

 

 神崎は次の行動へと移った。

 

 

 

 マルセイユは空中に舞って視界を遮る爆炎を眺めて言った。

 

「この攻撃はゲンタローのいつもの手だ。ということは・・・上だな!」

 

 私は何度も見てきているぞ・・・とマルセイユはほくそ笑んで自ら爆炎の中に突っ込んだ。爆炎の中に入ってしまえば神崎はこちらの動きを捕捉できない。こちらを攪乱させるために煙幕を逆に利用させてもらった。マルセイユは爆炎の中で身を翻すと第六感ともいえる正確な予測で上方に銃を向けた。

 程なくして爆炎が風に流されて晴れる。マルセイユが銃口を向けた先には予測通り神崎がいた。

 しかし・・・。

 

「距離が近すぎる!?」

 

 神崎がいた位置が彼女の想像以上に近かった。何故かは分からないが、どうやら神崎のスピードは自分の予測よりも上昇しているらしい。

 

「だが、まだ狙える距離だ!」

 

 いくら近いといってもまだ十分に狙える。驚きはしつつも気を取り直して銃を構えなおす。

 しかし、そこではたと何かに気付いた。こちらに突っ込んでくる神崎の手は・・・銃を握っていない。

 

「・・・?」

 

 一瞬気を取られるも構わず引き金に指をかけた。神崎が唇を歪めた。マルセイユが引き金を引こうとしたのと同時に神崎が両手を突き出す。

 そして・・・神崎の姿が消えた。

 

「・・・これは!?」

 

 マルセイユが驚きで目を見開く。

 が、体は無意識のうちに動いていた。

 

「それは一度見ているぞ!」

 

 その動きは神崎と初めて戦った時に見たもの。

 

「その程度で私を出し抜けると思うなよ!」

 

 神崎が移動したであろう方向にほとんど勘で銃を向ければ案の定そこにいた。

 

「終わりだ・・・!」

 

 勝利を確信して、マルセイユは引き金を引く。放たれたペイント弾は神崎に吸い込まれ・・・なかった。

 再び、神崎の姿が消えた。

 

「馬鹿な!?」

 

 撃った直後は銃の反動で体は満足に動かないが、眼だけは彼を追った。その先には鋭い眼孔でこちらを狙う神崎。

 その手には・・・拳銃。

 

「・・・やられた」

 

 マルセイユが自嘲気味に呟くのと、胸にオレンジの花が咲いたのは同時だった。

 

 

 

 以前、初めて彼女と摸擬戦をした時にも使用した機動。しかし、今回はもう一段階進ませたものだった。その機動にはMG34の重量でさえも余計な負荷になるだろう。炎を放った後の神崎の行動はマルセイユの予想通りのものだった。

 炎を放ち、急上昇。次いで、逆落としよる一撃離脱。

 このアフリカで何度も繰り返してきた戦術だ。神崎自身この戦術と今から行う機動を組み合わせて使うのには一抹の不安があった。

 まず、零式艦上戦闘脚。

 これからの機動は膨大な量の炎を消費する。となれば、零式の魔導エンジンには熱を帯びた多量の魔法力の負荷がかかってしまい、熱暴走を起こす可能性が非常に高くなってしまう。

 更にはマルセイユ。

 彼女のことだ。おそらく自分がどのように動いてくるかは容易に読んでくるだろう。戦術を変えるのは容易い。しかし、それでは意味がない。自分が一番習熟した物でなければこの機動は成功しないだろうし、そして何より彼女の意表を突くことができない。

 故に・・・。

 神崎はマルセイユの視界を爆炎で遮った時点でMG34を手放した。

 

 そのまま急上昇し、爆炎が広がる空域を見下ろしてマルセイユに狙いを定める。

 

(ここからが正念場・・・)

 

 何も持っていない両手を一度だけ開閉する。精神を集中させるための一瞬の間。その直後、神崎は両手に魔法力を収束させた。今、自分が用いることが出来る最大限の魔法力。やがて、熱を帯び始めるが、神崎は炎を放つことはしなかった。

 

「ッ!!」

 

 零式に魔法力を注ぎ込み、マルセイユへ逆落としを仕掛ける。零式がガタガタと不気味な震動を起こし始めるが、敢えて無視した。

 青い空に白い一直線が描かれいく。

 あと少しで肉薄できるというところで爆炎が晴れた。その中から現れるマルセイユはこちらの動きを見透かしていたかのようにまっすぐ銃口を向けている。

 

(さすが、ハンナ。こっちの動きを読んでいたな)

 

 だが、そうでなければ意味がない。俺はその読みの上をいくのだから・・・。

 神崎は無意識のうちにニヤリと笑っていた。マルセイユから放たれる殺気を敏感に感じとり、撃ってくるタイミングを探る。

 

(まだ、まだ、まだ・・・。・・・ここか!)

 

 右手に収束させていた魔法力を一気に解放。

 “放つ”のではなく”噴出“させた。前方に噴出された炎は前方への推進力を打ち消し、神崎の速度を0にする。その一瞬後に重力に引かれ自由落下した。おそらくマルセイユから見れば、目の前にいた神崎がいきなり消えたように見えるだろう。代償として、零式の魔導エンジンには予想通りの負荷が、そして体には猛烈なGがかかった。

 だが、これは以前にも見せた機動。神崎にはこれで引き離せるという甘い考えはなかった。現にマルセイユの殺気は消えることなく、銃口と共にこちらに注がれ続けている。今は先ほどの炎で推進力が無くなって動こうにも動けない状態。絶体絶命だ。だからこそ意表を突くしかなら今しかない。

 神崎はマルセイユが引き金を引こうとするのを見ながら左手を動かした。

 

(二連続・・・本当にいけるか?いや、やるしかない)

 

 先ほどの急制動で体が軋んでいる。零式からは不気味な震動に加えて悲鳴に似た不協和音が聞こえてきた。この状況では舜巡も生まれるのも当然だ。

 だが、ここで諦めたら意味が無くなる。いままで仲間と共に戦ったアフリカでの意味が。

 だから・・・。

 全てを無視して神崎は左手の炎を噴出させた。

 MG34を捨ててまで重量を軽くした神崎は噴出された炎の推進力により移動した。炎による急加速は神崎の体をより軋ませるが、すんでのところで放たれたペイント弾を回避。マルセイユの真下に潜り込んだ。その間、流れるような動作で右手で腰の拳銃C96を抜いて構える。驚愕の表情でこちらを見るマルセイユと視線が刹那に交差する。

 二度の急制動。

 神崎の体と零式はその無茶の代償として少なくないダメージを受けている。だが、その代償を払ったかいがあった。

 

「・・・俺の勝ちだ」

 

 神崎は呟きながら引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

「負けたぁ~!!」

 

「・・・よし」

 

 地上に戻った途端、マルセイユは頭を抱えて悔しがり、神崎は満更でもない表情で頷いていた。模擬戦自体はすでに何十回とも行っていたが、神崎の連戦連敗。

 今回が初の勝利だった。

 マルセイユは自分の敗北に納得できないのか、神崎の勝利の証である自分の胸に付いたペイントを忌々しそうに見つめると、神崎に指を突き付けて叫ぶ。

 

「この前までの勝負じゃ、あの炎を使った急制動は使わなかったくせに!」

 

「あの技は負担が大きい。零式にも俺自身の体にもな。・・・おいそれと使える訳じゃない」

 

 数人の整備兵に囲まれて滑走路から運ばれていく零式を眺めながら神崎は言う。しかし、それでもマルセイユは納得し切れないらしく唇を尖らせた。

 

「なら、どうして今日は使ったんだ?」

 

「・・・お前に勝つためだ、ハンナ。自分の持っている全ての力を駆使して一度でも・・・。俺の体が壊れても、零式が爆発してもな」

 

「・・・。どうして今回はそんなにまで勝ちに拘る?なんというか・・・ゲンタローらしくない気がする」

 

 マルセイユが知る限り、神崎が今回のように勝ちに拘ることはほとんどなかった。無論彼がいままで手を抜いていた訳ではない。ただ、今回のように過度な負担をかけてまでの激しい戦闘は行ってこなかった。この彼女の指摘に神崎は表情を暗くした。

 

「もうお前とは当分模擬戦を行うことはない。・・・悔いは残したくなかった」

 

「ゲンタロー・・・」

 

 釣られるようにしてマルセイユの表情も曇る。重苦しい雰囲気が漂い始めるが、それを吹き飛ばすかのように、それに・・・と神崎は冗談めかすように続けた。

 

「いやしくも『アフリカの太陽』という、お前と同じで『アフリカ』の名前を背負うことになったんだ。『太陽』が『星』に負けっぱなしじゃ恰好がつかないだろう?」

 

「・・・フフン。だとしてもまだ一勝だ。この私には到底かなわないな」

 

「今は・・・な」

 

 そう言うとどちらからともなく笑みが零れる。二人はしばらく笑いあった。

 

 

 

 

 

 アフリカから出発するまでの時間は短かった。神崎、島岡が抜けることによる戦力低下への対策や仕事の引き継ぎ、さらには私物の整理等やるべき仕事は山ほどあった。二人は忙しく働き続けた。

 

 そして・・・出発の日。トブルクの軍港には扶桑皇国海軍が誇る空母『翔鶴』とそれを護衛する巡洋艦、駆逐艦数隻が寄港していた。島岡の零式艦上戦闘機と神崎の零式艦上戦闘脚、そして補給物資の積み込み作業が行われている中、最後の別れが行われていた。

 

「君たちを手放すのは実に惜しいな」

 

 そう言うのはロンメル将軍だった。二人の手を握りながら惜しい惜しいとしきりに口にしている。神崎と島岡はそんな将軍の様子に苦笑いしながらも頭を下げていた。

 

「将軍のご厚意には感謝しています」

 

「お世話になりました」

 

 

 

カールスラント陸軍ティーガー隊の面々も来ていた。

 

「カンザキ少尉・・・」

 

「シャーロットか・・・。見送りにきてくれたのか?」

 

「うん。将軍が許可をくれた・・・」

 

 そう言うシャルロットの後ろにはフレデリカとミハイルも居た。

 

「カンザキ少尉。私、分かった気がする。自分が何をすべきなのか・・・。私が何をしたいのかが・・・」

 

 二人を振り返って見ながらシャーロットは言った。その様子に神崎は目を細める。

 

「・・・シャーロットは強い。お互いに頑張っていこう」

 

「・・・はい!」

 

 神崎が伸ばした手をシャーロットが握る。神崎は何か満ち足りた心地がした。

 

 

 

「おう!坊主!」

 

「親父さん方!来てくれたんすか!?」

 

「当たり前だ!俺たちが天塩をかけて整備した零戦とお前が旅立つんだからな!隊長さんも許してくれたぜ!」

 

 統合戦闘飛行隊『アフリカ』の整備兵の面々。島岡は囲み、肩や背中を叩いたりして荒っぽく激励をしていた。

 

「お前はとびきり腕がいいが、操縦は荒っぽいからな!もう少し機体を労われよ?」

 

「それは重々承知してますけど、保障はできないっすね」

 

「そりゃそうだ!」

 

 皆でガハハと笑いあう。砂漠で共に戦った絆がそこには確かにあった。

 

 

 

 見送りの場にマイルズはいなかった。

 

「行かなくていいんですか?隊長?」

 

「さっきからいいって言っているでしょう」

 

 軍港から少し離れた堤防でマイルズと副官のソフィは翔鶴を眺めていた。どこか憂鬱げな眼差しで翔鶴を見つめるマイルズをソフィはしきりに気にしていた。

 

「でも、隊長は神崎少尉のことを・・・」

 

「・・・私は彼が傷ついていた時、なにもしてあげられなかった。それどころか彼に恐怖を覚えた」

 

 彼が血塗れでトラックから降りてきた時、彼が怖かった。何か人じゃないような気がして・・・。

 

「そんな私があそこに行く資格なんてない」

 

(隊長・・・)

 

 ソフィはマイルズの気持ちを思んばかり、顔を曇らせた。本心では絶対にそうは思ってないはずだ。だったら、こんなところに来て彼の旅立ちを見送るわけがない。いたたまれない気持ちになり、ソフィも翔鶴の方を眺める。

 

 そこで気づいた。

 

「た、隊長!あれ・・・!」

 

「・・・え?」

 

 ソフィが慌てた様子で指を指す。マイルズの目が見開かれた。彼女の眼にはこちらに大きく手を振る神崎の姿が・・・。

 

「あ・・・」

 

 思わず、マイルズの目から涙が零れる。

 

「・・・気づいてたんだ」

 

 後から後から涙が零れてくる。

 

「・・・ありがとう、神崎さん」

 

 マイルズは小さく呟いて、大きく手を振りかえした。

 

 

 

 二人が乗り込んだ翔鶴は時間通りに出航した。

 甲板に並んで座り、段々と離れていくトブルクの街並みを眺める。

 

「俺らはどのくらいアフリカにいたんだ?」

 

「約9ヶ月といったところだ」

 

「思ったより短かったな・・・」

 

 二人に強めの潮風が当たり、アフリカの強い日差しが照らしていく。二人は何となく太陽を仰ぎ見る。目を細めて見る太陽の光。そこにふっと黒い影が通り過ぎた。

 

「ん・・・?」

 

「お・・・?」

 

 段々と大きくなっていく黒い影に二人の表情は明るくなっていった。綺麗なダイヤモンド編隊を組んで飛行する四人の航空魔女(ウィッチ)。マルセイユ、ライーサ、加東、稲垣だ。四人は速度を落としつつこちらに近づき、甲板スレスレを飛行する。

 

「ゲンタロー、次は負けないからな!」

 

「ああ・・・!」

 

 神崎に指を突き付けるマルセイユ。その後ろを飛びながらで加東が複雑な表情で神崎に言った。

 

「玄太郎、無事でいてね・・・!」

 

「ケイさん・・・!本当にお世話になりました・・・!!」

 

 続いて涙目の稲垣が。

 

「神崎さん・・・!いままでありがとうございました!」

 

「がんばれよ・・・!」

 

 その隣では島岡とライーサが別れを惜しんでいた。目に涙を溜めたライーサはギリギリまで翔鶴に近づき、島岡に向かって手を伸ばす。島岡も精一杯手を伸ばし、彼女の手をしっかりと掴んだ。

 

「また・・・また、会おうね!!」

 

「ああ!!絶対にだ!絶対だ!!」

 

「シンスケ・・・!愛してる!!」

 

「ライーサ!俺も愛してるからな!」

 

 別れを惜しみ、涙を流す二人。そして二人は手を離した。翔鶴から離れていく四人を見送り、神崎は呟いた。

 

「生きて帰らなきゃな・・・」

 

「ああ。絶対に・・・だ」

 

 島岡の手を力強く握り締める。

 神崎は自分の思いを確かめるように目を閉じて、空を仰ぎ見た。

 

 

 

 




次はスオムス編・・・といきたいんですが、少し番外編を挟みたいと思います

どんな話になるかは楽しみにしていてください!

あと、空母が翔鶴なのは筆者の趣味です(笑)
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