と、言うわけで第四十二話です
感想、アドバイス、ミスの指摘等よろしくお願いします!
では、どうぞ!
「いやいや、お待たせしました~。扶桑皇国海軍スオムス派遣分隊の隊長してます、鷹守勝己です。あっ、技術大尉です」
『いきなりの通信、申し訳ありません。私はヴィープリ基地所属43戦隊隊長カリラ・コリン大尉です』
「どうもどうも~。それで今回はどのような用件で?」
『先日、ヴィープリに侵攻してきたネウロイをそちらが迎撃してくれたということで、お礼をと思いまして』
「それはそれは。こちらも任務だったので、そんなに気にしなくても」
『気にはなります。単機で迎撃し、しかも短時間で撃破するなんて、とても強い
「・・・。うん。彼は強いよ」
『「アフリカの太陽」でしたか?多くのネウロイを殺してきたのでしょうね』
「そうだけど、それが?」
『いえ、彼が殺してきたのは本当にネウロイだけだったのかなと?』
「彼が、いや僕達の相手は人類の仇名すモノ・・・。君も同じじゃないのかな?」
『・・・そうですね。では、挨拶が済みましたので今回はこれで・・・』
「あ、そうそう!少し世間話に付き合ってくれないかな?」
『何でしょう?』
「ついさっき、格納庫に大きなネズミが沢山紛れ込んでね。本当にびっくりしたよ」
『・・・それで?』
「ま、一匹残らず駆除したけどね。そっちにも出るかもしれないから気をつけた方がいいと思うよ?」
『・・・ご忠告ありがとうございます。それでは』
「うん、ばいばい~」
襲撃があったのが夜中であっても、日が昇れば再び1日の仕事が始まる。
神崎は、雪が日の出の光を反射してキラキラと輝く光景をゴーグルを通して見つめていた。
今まで見た事もない美しい風景に見蕩れボゥと立ち尽くしていると、ドンッと雑嚢越しに背中に衝撃が奔り、スキーを履いていた神崎はバランスを崩し危うく転びそうになってしまった。神崎は泡を食って手に持つストックを地面に突き刺してバランスを保つと、背後をジロリと睨んだ。
「・・・おい」
「少尉がいきなり止まるからですよ。ほら、あっちで隊長が早く来いって言ってますよ」
シーナは神崎の睨みを涼しい顔で受け流すと、先程神崎の背中を押したストックで進行方向を指し示した。神崎が不承不承とそちらに視線を向けると、確かに彼女のストックが示す方向には、肩に短機関銃KP/-31を下げたアウロラが右手のスコップを振り回していた。
それを確認した神崎は黙って着慣れないスオムス陸軍の防寒服を纏った体を動かしスキーを滑らせた。背中に背負うMG34をいつもよりも重く感じていると、
「ほら。早くしないと置いていっちゃいますよ?」
「・・・初対面の時と対応が違いすぎないか?」
「少尉が言ったんですよ。畏まらなくていいって」
「だとしても変わりすぎな気がするが・・・」
「隊長も普通でいいって言ってたので」
「・・・そうか」
神崎は諦めてスキーを滑らせることに集中した。すると、シーナは軽々と前進し瞬く間に追い越していった。
(どうしてこうなったのか・・・)
みるみる小さくなっていくシーナの背中を見送り、神崎は心中そっと溜息を吐いた。
時間は数時間前に遡る。
「え~。2人に残念なお知らせがあるんだよね」
ヴィープリからの通信を終えた鷹守は格納庫に着くなり神崎と島岡を呼んで、開口一番にそう言った。
「さっきの襲撃のせいで神崎君の零式と島岡君の零戦がこわれてしまったので飛べません!残念でした!」
「はぁ!?」
「まぁ・・・察しは付いていたが・・・」
島岡は目を向いて驚いていたが、神崎は諦めたように納得していた。いきなりの襲撃で格納庫中に銃弾が飛び回った状況で、機体が無事であるとは考えられなかった。それよりも問題なのは修理にどれくらい時間がかかるかである。
「部品の予備は無事だったから、機材はスオムス陸軍から借りるとして、まぁ、丸1日あれば大丈夫じゃないかな?」
「つうことは・・・1日暇になったつうことか?」
鷹守の言葉に島岡の表情が少し明るくなる。零戦が破壊されたことへの怒りと休みで釣りが出来るかもしれないという喜びで愛憎半ばといったところか・・・。
しかし、そうは問屋が卸さない。
「残念だが、それはないな」
「はぁ!?」
鷹守とは別の声が島岡の予想を否定した。島岡がその方向に向くと、腕を組み不適に笑うアウロラが。
「扶桑の言葉であるだろう?『働かざる者食うべからず』だ。お前達2人は今日うちの部隊で働いてもらおう」
「なんでだよ!?」
「お前達の隊長さんとの交換条件だ。襲撃の後始末をこっちが受け持ったんだから文句は言えまい?」
「あの野郎勝手に決めやがって!?」
「腐っても上官なんだ。諦めろ、シン」
島岡の喚き声を神崎は肩をすくめて諌めた。もっとも彼自身その時は、他国の軍を働かせるとしても大したことはさせないだろうと、どこか高をくくっていたのだが。
「随分と時間がかかったな、少尉。そんなんじゃこの先苦労するぞ?」
「スキーは長らく使ってなかったもので・・・」
やっとの思いでアウロラとシーナに追いつき、神崎は安堵と疲れから軽い溜息を吐いた。シーナはそんな神崎を不思議そうに見て言う。
「そんなに疲れますか?というか、扶桑って雪は降らないんですか?」
「降る地方もあるが、俺の故郷はスキーが出来る程積もらなかった」
シーナの問いかけに律儀に答えつつも、神崎は高を括っていた数時間前の自分を恨めしく思っていた。スキーなど軍に入る前に数回ぐらいしかしたことがないのだ。にも関わらず、雪中の偵察任務に駆り出されてしまい、既に疲労が体に響き始めていた。
「少尉、分かるか?あっちがソルタヴァラ基地方面になる。つまり、ネウロイの予想侵攻路だな」
アウロラがスコップで指し示す方向には背の高い木々が生い茂る森があった。ネウロイの侵攻の跡なのか、所々に何も生えていない部分があった。
「奴らが水気を嫌うのは知っての通り。雪は問題ないようだが、湖を避けて森を通ってくるのがほとんどだ。そのせいで段々と森の木が少なくなってきているが」
少し前まではもっと木々が生えていたらしいが、正直なところ神崎はどうも関心が持てなかった。それよりも、何故自分がこの偵察任務に同行させられたのか、その理由が知りたかった。
しかし、アウロラとシーナは神崎の思いを露とも知らず二人で会話を進めていた。
「新しく破壊されている部分もありませんし、襲撃はまだみたいですね」
「いつものパターンを考えれば、まだ少し余裕があるな。だが、このパターンほど信用がないものは無い」
「そうですね。・・・さすがにこの先を『視る』ことはできません」
「お前の魔眼を無駄使いするな。さぁ、次に行こう。行くぞ、少尉」
神崎が反応する間も無く、移動を開始する2人。気を抜けば遥か彼方に行ってしまう2人に遅れないようにと、神崎は唇を噛み、ストックを握り締めた。
島岡は集中していた。
手にはナイフ。相当使い込まれていたのだろう。磨き上げられた刃は日の光を反射して煌き、柄も年季を感じさせる飴色に光っていた。
島岡はナイフの感触を確かめるように握りなおした。もう何度そうしているか分からない。
(緊張してんのか?んな訳ねぇだろ)
浮かんだ弱気な考えを鼻で笑い一蹴する。いつもは零戦でネウロイと死闘を演じるのだ。たかがナイフ1本で事足りる相手に何を恐れる必要がある。
「・・・いくぜ!」
ナイフを軽く振り、挑みかかる。相手は丸腰のうえ微動だにしない。すでに相手は自分の掌の上にいるのも当然。負けるわけにはいかない!
余裕の笑みを浮かべて島岡は意気揚々とナイフを更に滑らせた。
「なんだこれは。皮と一緒に身を削りすぎだ。しかも時間がかかり過ぎ。お前のジャガイモの皮むきが私達の腹の満たし具合を決めるんだ。腹が減って気の立った兵士は怖いぞ?」
「・・・ウッス」
「アハハ!シマオカって私より全然下手だね!ほらほら、私のほうが先に全部剥き終わっちゃうよ?」
「シェルパ。まだ皮が残っているのが沢山あるよ。やり直し」
「ハイ・・・」
神崎が偵察任務に駆り出されている一方、島岡は第6中隊の
この仕事は常に料理が出来る人物、神崎や稲垣、ライーサが居たために全く料理をしなかった島岡にとって非常に厳しいものだった。現に、ジャガイモを1つ剥き終わるたびにマユルトに苦言を入れられ、シェルパにからかわれて、気持ちとしては既に戦闘よりも疲れていた。
「こんなのパイロットの仕事じゃねぇだろ・・・」
「うだうだ言うな。与えられた仕事は確実にこなす。パイロットである前に軍人として当然だろう」
グチグチと呟く島岡を他所に士官であるはずのマルユトもナイフを動かし見事な手際で皮を剥いていた。相当手馴れており、島岡が苦労して1つ剥き終わる頃には既に4つは向き終わっていた。
「私達はよく皮むきしてるんだよ!当番制でね!」
「シマオカさんは以前の任地ではこのようなお仕事はなかったんですか?あと、シェルパ、それにはまだ芽が残ってるから、ちゃんと取って」
「ハイ・・・」
「う~ん、アフリカじゃ全然こんなことしなかったな。飯は他の奴が作ってたし、ほとんど哨戒とか邀撃にむけて待機してた」
リタの質問に島岡はアフリカを思い出しつつ言った。アフリカの食事事情は、今考えれば随分と優遇されていたように思える。やはり稲垣の和食は最高だった。
「ふむ。アフリカでもここと同じようなことをしていたのか」
「まぁ、あとは爆装して対地攻撃とかもしてましたけど、やっぱりさっきの2つが主っすね」
「それだよ!それ!」
「おわっと!?」
マルユトの質問に答えていたはずが、シェルパが突然大きな声を上げたので、驚いた島岡はナイフで自分の手を剥く羽目になりかけた。
「あぶね~。いきなりどうした?」
「いやいやいや!今までサラッと言ってたけど、シマオカって何で普通の戦闘機でネウロイを倒してるの?」
「それは・・・私も不思議に思ってました」
シェルパは乗り出して問い詰めてきており、島岡は若干引き気味で少し後ろに体をずらした。先程まではストッパーとなっていたリタも今回は止めるつもりはないらしく、期待するように島岡の顔を見てくるだけ。2人の視線に晒され、結局島岡は口を開いた。
「俺が乗ってる零戦は火力と機動性に優れているから、小型のネウロイなら撃墜できるんだよ。さすがに中型以上なら、爆装とかじゃねぇときついけど」
「へ~。そうなんだ!」
「シェルパは絶対に彼の凄さを分かってないね・・・」
「どれくらいのネウロイを墜としたんだ?」
「あんまり覚えてないすっけど・・・十数体ぐらいすかね?」
マルユトの質問に答えると、皆は驚きの目で島岡を見た。
「ほぉ・・・すごいな」
「シマオカさんは凄いエースパイロットですね」
「ま、まぁな・・・」
称賛の言葉がどうにもむず痒く、島岡は言葉を濁し逃げるようにジャガイモの皮むきを再開した。
2時間ほどの偵察をこなした後、アウロラ、シーナ、神崎の3人は休憩を取っていた。
その間、スキーで各地点を移動しつつ、陸戦ネウロイが出現予想ポイントや自分達の予定侵攻経路、戦場となるであろう地点を確認していった。
時刻は丁度正午に近く、昼食を兼ねて長めの休憩である。
森の中に僅かに露出した地面に神崎の炎で焚き火を設け、その熱さを分け合うように3人は輪になって腰を下ろしていた。
「この前も言いましたけど、神崎少尉の固有魔法は便利ですね。偵察任務中に温かいコーヒーが飲めるなんて夢みたいです」
シーナは焚き火で沸かした湯で作った即席のコーヒーを両手で持ちつつ言った。熱が伝わったせいか彼女の頬はほんのりと紅く染まっており、表情も柔らかかった。一方のアウロラはどこか残念そうに呟いた。
「こいいう時こそ、温めたブランデーが最高に美味いんだが・・・。ん?そんな信じられないような目で私を見るな、少尉。任務に支障がでる程の度数の高い酒は持って来てないぞ?」
そんなことを言いつつ、アウロラは携帯用ボトルを取り出していた。シーナとは別の意味で頬が赤くなるのも時間の問題だろう。そんな2人の向かい側で神崎はキンキンに冷えた乾パンとトナカイの干し肉を炙っていた。
「俺の炎が便利になるのはこんな環境ぐらいだがな。あと、もう自分は何も言いませんよ、アウロラ大尉」
「何だ、つまらん。お前も飲めるんだろう?飲まないか?」
「・・・シーナ、大尉の分の食事も食べるか?」
「あ、はい。いただき・・・」
神崎にとっては珍しくアウロラが僅かに焦った表情を浮かべた。
「待て、何故そうなる?」
「いえ、大尉は酒で十分だろうと・・・」
「そんな訳ないだろう!さぁ、私の分を寄越せ」
「・・・どうぞ」
これ以上長引かせても面倒になるだけだと感じた神崎は、おとなしく乾パンと干し肉を入れた飯盒を手渡した。その際に、アウロラが勝ち誇ったような顔を向けてきたが、それは無視した。
食事はたいした時間はかからず、出発の時間までは休憩を続けることになった。そこで、神崎は何故自分をこの偵察任務に同行させたのかを尋ねることにした。
「ん?大した理由はないさ」
神崎が尋ねた時、手帳に鉛筆で何かを書き込んでいたアウロラは事も無げに言った。
「もし、お前が対地攻撃をしたり、はたまた墜落した時に地形をある程度把握していれば、何かと役に立つだろう?」
大した理由はないといいつつも、それなりにしっかりと考えていたようだ。神崎はアウロラへの印象を少し改めた。神崎の心情を代弁するかのようにシーナが言った。
「そういうところはしっかりと考えているんですよね、隊長って」
「当たり前だ。確かな情報が無ければ作戦の立てようがないからな」
まぁ、あとは・・・とアウロラはパタンと手帳を閉じると神崎の目を見て言葉を続けた。
「お前の人となりを見極めたかったのもあるな。
神崎がこの彼女の言葉に含みのあると感じたのは間違いではないだろう。「
心の中を見透そうとするようなアウロラの目を神崎はジィと見つめ返した。
「それで・・・分かりましたか?」
「大体な。背中はともかく頭の上は守ってくれそうだ」
「・・・恐縮です」
「背中はシーナに守ってもらうさ」
「隊長は守ってもらう必要はないでしょうに」
「今までは、な。これからは分からん」
「?まぁ、任せて下さい」
アウロラの言葉にシーナは首を傾げるもすぐに満更でもない表情を浮かべた。長い年月と厳しい戦場を共に過ごした2人には、それ相応の堅い絆があった。
・・・それでもシーナに「
「さて!腹も満たしたし、温まったな!残りの地点を確認したら、そのまま帰るぞ!いいな、シーナ?
食事を終えたアウロラが立ち上がって言った。その元気のいい声に神崎とシーナは思わず顔を見合わせ、神崎は小さな、シーナは困ったような、それぞれの笑みを浮かべて、揃って立ち上がった。
使用した道具と焚き火の後始末の後、装備を整えた神崎はスキーを履きストックを握る。一足先に出発準備を終えて待っている2人に追い着くべく、ストックを地面に突き刺し雪を蹴った。
日が暮れ始めた頃、3人はラドガ湖の自陣に帰還した。
「じゃあ、私は偵察の結果を纏めるから、2人は解散して後は自由にしていてくれ」
アウロラはそう言い残し、ひと足先に指揮所の方へと行ってしまった。残された神崎とシーナは少し話し合った後に夕食へ行くことに決めた。夕食の前に神崎が借りていたスオムス陸軍の装備を返却して、2人並んで糧食班の所へと向かった。
慣れないスキーをずっと使用していた為に足に相当な疲労が溜まり足取りが重たかった。そんな神崎に気付いたシーナが気遣うように声をかけた。
「お疲れみたいですね。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。・・・確かに疲れたがな」
「でも、今回の仕事は割りと短い方ですよ?そんなんじゃ、次の偵察は厳しいんじゃないですか?」
「・・・俺は
歩きながらどこかずれた会話をして歩く2人。少しすると、美味しそうな匂いが2人の鼻をくすぐった。それに釣られるように糧食班のスペースに到着すると、大人数が既に各々のテーブルに座り食事を始めていた。
「今日はシチューみたいですよ」
シーナは近くのテーブルを覗いて言った。匂いの内容が分かった途端、神崎は猛烈に空腹を感じグルリと腹が鳴った。シーナが可笑しそうに微笑むのを視て、神崎は少し憮然とした態度になってしまった。
「・・・早く食べよう。いい加減腹が減った」
「そうですね」
下士官用、士官用とは別れていないらしく、2人は一緒に配膳を受ける列に並んだが問題が1つ。列が膨大であり、2人が夕食を受け取った時には既にテーブルの空きがなくなっていた。どうしたものかと立ち尽くす2人に、どこかからか声がかかった。
「お~い!シーナ!カンザキ少尉!」
底抜けに明るい声に視線を向けると、そこには席を立ち大きく手を振るシェルパの姿が。彼女が居るテーブルには、リタ、マルユト、そして島岡の姿も見えた。これ幸いと2人がテーブルに着くと、シェルパが神崎に楽しそうに話しかけた。無視する訳にもいかず、神崎はスプーンを取りかけた手を止める。
「カンザキ少尉。雪の中の偵察はどうだった?疲れたんじゃない?私もよく行くから分かるんだよね~」
「ああ。スキーも慣れてなかったから、苦労した」
「えぇ!?スキーが苦手!?嘘!?なんで!?」
「シェルパ。少尉の故郷はあまり雪が降らないんだって。だから、スキーも慣れてないんだよ」
「そうか~。そういえば、前の任地はアフリカだったんだよね。じゃあ、スキーは出来ないか!」
「そうだな」
シェルパのお喋りに神崎が律儀に返事をしていると、今まで沈黙を保っていたマルユトが口を開いた。
「おい、シェルパ。カンザキ少尉が食事が出来ないだろう?少し黙っておけ」
「ハイ・・・。カンザキ少尉、ごめん」
「・・・気にするな」
シェルパが黙り、やっとスプーンを取ってシチューを一口食べることが出来た。寒さに耐えうるエネルギーを作り出す為か、味はとても濃く具材も多かった。特にジャガイモに至っては量が他の具材に比べ3割増しで多かった。美味しいことには変わりないが。
「ふぅ・・・」
神崎は自然と満足げな溜息を吐くと、シチューと共に受け取ったパンを千切り口に入れた。モグモグと咀嚼して飲み込むと、チラリと島岡が目に入った。いつもの彼ならシェルパと同調して騒いでも可笑しくないのだが、今日は黙ったままゆっくりとシチューを食べている。神崎は首を傾げて声をかけた。
「シン、どうかしたのか?」
「疲れたんだよ・・・。延々と続くジャガイモの皮むき・・・。飛ぶより疲れた」
釣りの時でも調理は神崎に任せて魚の確保にだけ専念する島岡だが、慣れない調理をしただけで、こんなにも消耗するものだろうか?頻繁に包丁を握る神崎にはいまいち分からなかった。
「このシチューのジャガイモは全部私達が準備したんですよ?」
リタが控えめな声で言った。シチューの量から察するに相当量のジャガイモを手がけたことになる。神崎は島岡の疲れ具合に少し納得した。神崎はスプーンを動かしながら、リタとの会話を続けた。
「『私達』というのは、君とシンと・・・」
「シェルパとマルユト中尉です。野菜の皮むきとかの下準備は量が多いので部隊で当番制なんですよ。本当は士官のマルユト中尉はしなくてもいいんですけど・・・お好きなようで」
どこか遠慮がちに話すのは食事の邪魔をして悪いと思っているのか、それとも神崎に馴れない為か。まだ会ってからそんなに時間も経ってないのでは仕方ないだろう。まだしっかりと会話を行える分良い方だった。
「島岡とシェルパがあまり上手じゃなかったですけど」
「まぁ・・・シンは食料調達専門だったからな」
「島岡さんもそう言ってました」
リタはぎこちないながらも笑みを浮かべ、神崎も小さく笑った。他の面々もそれぞれ会話をしながら食事をしているようだった。
穏やかな時間。この日、まだ日が昇り始める前に血みどろの殺し合いをしていたとは思えない。
「・・・?」
神崎は視界が一瞬赤く染まった気がした。
本当に一瞬で、目をしばたかせば普通の視界が戻った。だが、どうも違和感が拭えない。
「どうかしましたか?」
「いや・・・」
「ねぇ!神崎少尉もリタも一緒に話そうよ!」
違和感の原因を探る間も無く、神埼はシェルパの明るく強引な誘いで皆での会話に参加させれれてしまった。
結局、神崎はこの違和感の正体を掴むことが出来なかった。
こんなにスオムスのことを書いていると実際にフィンランドに行きたくなりますね
お金が溜まったらいこう