ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

53 / 99
気付いたら2ヶ月ぶりの更新となってました
色々と忙しく、小説書く気力体力が残ってなかったり、オリョクってたり、ヴェノムでスニークしてたりしてたせいです。しょうがないね

と、言うわけで第四十五話です
感想、アドバイス、ミスの指摘などなどよろしくお願いします


第四十五話

 

 

 

 

 

 

 黒い巨大な影が静まり返った海面を進んでいく。

 扶桑皇国海軍が誇る、試作潜水艦「伊399」は欧州へ続く航路を着々と進んでいた。

 現在、この潜水艦が進んでいる航路は船舶が通常使用するものとは異なっている。部隊と任務の機密上、例え同じ軍であっても、この潜水艦の存在を知られる訳にはいかないからだ。その為、通常の航海ではあり得ない頻度で潜行する必要があり、その分の航海の遅れをネウロイの勢力範囲にあたる海域を航路に選ぶことで補っていた。

 

 海中にネウロイが現れるのはまずありえないので、艦内に緊張した雰囲気はさほど無かった。司令官である才谷は自身にあてがわれている部屋の小さな机で報告書を読んでいた。

 その報告書は才谷が潜水艦に乗り込む直前に届けられたもので、各国が集めた共生派に関する情報をまとめたもの。未だ正式に発足できていない「(シュランゲ)」の地固めの意味合いも強い。

 非常に狭い、しかし潜水艦にとっては非常に貴重なプライベートの空間にコツ・・・コツ・・・という小さな硬い音がリズムカルに響いている。才谷が報告書を読んでいる間、無意識の内に床を踏んでリズムを取っていたのだ。

 それは何かの音楽の符丁で・・・そして唐突に途切れた。

 リズムが途切れるのとほぼ同時にコンコンッとドアがノックさる。才谷は報告書を机の上に裏返して置くと眼帯をしていない左目をゆくっりとドアへ向けた。

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

 ドアを開き現れたのは水兵のセーラー服を纏った女性兵士。ピンッと背筋を伸ばして敬礼する姿は、彼女がよく訓練されていることを感じさせた。

 

「艦長がお呼びです」

 

「分かった」

 

 伝令の役目を終えた女性兵士が下がると、才谷は机の上に置いていた報告書を鍵付きの引き出しにしまい、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

「ご足労感謝します、司令官」

 

「いいえ、艦長。状況は?」

 

 艦橋に到着した才谷は艦長の日上の敬礼に応えつつ、あてがわれている席に着いた。日上は彼女の傍らに立ち、口を開く。

 

「先程、モールス信号により通信がありました。通信元はスオムスです」

 

「鷹守から・・・」

 

 スオムスに先行した部下達と、彼らと共に居るであろう懐かしい顔を思い出し、才谷は差し出された電文を綴った紙片を受け取った。書かれた文は数行の短いものだったが、内容は才谷の眉を顰めるのに十分すぎるものだった。

 

『テキノウゴキハヤシ

ゾウエンノヨウアリ』

 

 才谷の決断は早かった。

 

「艦長、航路のルートを変更する。可及的速やかに、目的地へ向かう必要ができた」

 

「そうなれば海上での運航を増やす必要があります。勿論、ネウロイに発見される可能性も」

 

「多少の危険は構わない」

 

「了解しました」

 

 日上が航海士を引き連れていくのを見送り、才谷は再度電文を見た。

 スオムスの現状報告は受けていない。いや、受けられない。この潜水艦の存在を秘匿すべく、通信は必要最低限となっているからだ。

 そのことは鷹守自身重々承知しているはず。それでも、この通信が送られてきたということは状況が切迫してきているのかもしれない。

 不安はある。だが、それは信頼が揺らぐ物ではない。彼らは自分達の任務を完遂するだろう。それがどんな形であれ・・・だ。

 

「司令官。航路の選定が終わりました。これより浮上します」

 

 いつの間にか戻ってきていた日上の言葉で才谷は思考を元に戻した。時間的に今は深夜。危険は少ないだろう。

 

(間に合えばいいけど・・・)

 

 にわかに騒がしくなった「伊399」の艦橋で才谷は憂鬱げに思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔導エンジンの音が響き渡り、鋼鉄の翼が風を切り裂く。

 幾筋もの軌跡が絡み合い、炎が空を焦がす。

 大地に身を沈めていた雪が爆発で舞い上がった。そして・・・

 

「いくぞ!!ここで奴らを殲滅する!!」

 

 アウロラの鬨の声と共に雪煙を突き破って、多数の陸戦魔女(ウィッチ)が躍り出た。

 その数10両。

 雪原に溶け込むような純白の雪原用ギリースーツに身を包み、2列縦隊となって針葉樹が散在し起伏が激しい雪原を高速で駆け抜けていく。彼女達が向かうその先には・・・。

 

 地面を埋め尽くさんばかりの多数の陸戦ネウロイが進軍していた。数はこちらの5倍以上にもなる。中型以上がいなのがせめてもの救いだが・・・これを彼女達は殲滅しなければならない。ここを抜けれてしまえばスオムスは一気に侵略されることになる。

 だが、状況は厳しかった。頼りとなる航空支援が使えないからだ。

 

『こちら神崎・・・!敵の数が多すぎる!抑えるだけで限界だ。すまないが、援護に回れない・・・!』

 

『チッ・・・!また来やがった!背後に回ってんぞ!!』

 

『援護する!!・・・すまない!』

 

 上空では激しい航空戦が繰り広げられていた。いつもならば申し訳程度のヒエラクス数体のみのはずが、今回の侵攻で数が大幅に増えていた。

 本来ならばアウロラ達の近接航空支援を担うはずだった神崎と島岡は、自分達の何倍もの数を相手にしなければならず、戦闘開始早々に増槽と爆弾を放棄して戦闘に望まざるを得なかった。

 

 アウロラはチラリと背後を振り返り、自分に追随する部下達を見た。圧倒的な戦力差があるにも関わらず、彼女達の表情は明るかった。余裕を滲ませ、笑みまで浮かべている。そんな部下達の頼もしさに応え、アウロラもニヤリと笑い指示を出した。

 

「1小隊は私に、2小隊はマルユトに続け!左右に展開して『モッティ』をしかけるぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

「散開!」

 

 アウロラの合図で2列だった縦隊は1列ずつ分かれた。1小隊はアウロラを先頭に1度ネウロイ等から離れるが、マルユトが率いる2小隊はネウロイ等のある程度の距離を保ちつつ緩やかなカーブを描いて展開していった。

 

 

 

 

 

 スオムス陸軍の戦力は少なく、ネウロイの侵攻に常に劣勢を強いられてきた。

 堅固な装甲と高威力のビーム、そして膨大な数。

 そのような圧倒的な相手でもスオムス陸軍は殲滅しなければスオムスを守ることができず、寡兵で殲滅戦を仕掛ける必要があった。それを果たすためにスオムス軍が編み出したのが、ゲリラ戦術『モッティ』である。劣勢のスオムス陸軍でも幾つかではネウロイに優位に立てる点があった。

 

機動力と隠密性。

 

 ネウロイは雪原に足を取られ動きは遅く、更に水を嫌う性質故に湖を迂回するなど侵攻速度が非常に遅かった。それに対しスオムス陸軍は、スキーや雪中用に改造された陸戦ストライカーユニットで迅速に行動が可能。雪中の隠蔽についても、はるか昔からこの環境下で生活してきたスオムス人にとってはお手の物。

 これらの優位を活かし、スオムス陸軍は奇襲や待ち伏せでネウロイを翻弄。そしてヒットアンドアウェイを繰り返し敵戦力を削り、機を見て火力を集中させ一気に殲滅させる。

 これがゲリラ戦術『モッティ』である。

 

 

 

 

 

 

 

 2小隊の指揮を執っていたマルユトは、こちらに攻撃してくる敵ネウロイ群の状況を把握すると即座に決断した。通常ならば、指揮官が進行ルートを選定していくが、今この小隊には自分よりも優れた先導者がいる。

 

「シーナ!先導しろ!」

 

「了解です」

 

 マルユトが命令するのとほぼ同時に彼女を追い越していった小柄な陸戦魔女(ウィッチ)

 そう、シーナである。

 いつもはM/28-30(スピッツ)を装備しているが今回は短機関銃のKP/-31を装備していた。狙撃主としての印象が強いシーナではあるが、実は短機関銃の名手でもあった。

 事実、第一次ネウロイ侵攻の際に彼女が記録したネウロイ撃破数の内半数以上が短機関銃によるものである。

 シーナは隊列の先頭に立つと短く言った。

 

「付いて来て下さい」

 

 言い終わるや否や、シーナは一気に加速した。続く陸戦魔女(ウィッチ)達も、慣れたもので殆ど遅れることなく彼女に続く。

 散在する木々や地面の隆起を巧みに利用して相手に射線を取らせないように接近していく。ちょうどネウロイ等の3時方向に達した時、シーナは動いた。

 

「行きますよ」

 

「攻撃用意!」

 

 シーナの合図にマルユトが的確に指示を出していく。手に持つ銃に初弾が装填されていき、2小隊の殺気が膨れ上がった。

 シーナは目線を鋭くすると、雪を蹴りたてて切り返し一気にネウロイの群れに肉薄していった。勿論、2小隊もそれに追随する。いきなり射線に現れた陸戦魔女(ウィッチ)にネウロイは砲門を向けるがもはや手遅れだった。

 

「撃ちます・・・!」

 

「シーナの射撃に合わせろ!!撃てぇ!!」

 

 魔眼を発動したシーナの射撃を皮切りに、2小隊が持つ火砲が一斉に火を噴いた。高速で移動しながらの射撃にも関わらず、シーナの放った弾丸は寸分違わずネウロイの弱点、関節や砲門、コア部分を撃ち抜いていく。他の陸戦魔女(ウィッチ)もシーナには及ばないにしろ数多くの命中弾を叩き出していた。

 

 ネウロイも撃たれるだけではない。反撃のビームを撃ち返してくるが2小隊は細かい機動を繰り返しビームを回避していった。

 2小隊は最大火力を発揮しながら移動していき、群れの先頭にまで達した。

 

「シーナ、今だ!」

 

「了解、離脱します」

 

 射撃を開始してすぐに、今度はマルユトの合図でシーナと2小隊が動いた。射撃を止めると腰に括りつけてあった手榴弾を投げ、そのまま反転、全速力で離脱を図ったのだ。

 背中を見せてまでの逃走にネウロイが黙っている訳がない。追い討ちのビームを放つべく無防備な背中に砲門を向けるが、突如黒煙によって視界を遮られた。先程の手榴弾はスモークグレネードだったのだ。

 

 

 

 黒煙が晴れる頃には2小隊はまんまと逃走を完了し、辺りはシンとした静寂に包まれた。

 だが、ネウロイの群れの最後尾で起こった爆発で静寂はすぐに破られた。

 予想外の方向からの爆発にネウロイが蠢くなか、追い討ちの爆発が続く。そして爆発音に負けないぐらい大きなエンジン音が響き渡り、多数の影が爆炎を突き破って現れた。

 アウロラ率いる1小隊である。彼女達は2小隊の攻撃を囮にして群れの背後に回りこんでいたのだ。

 爆炎に紛れ急接近した1小隊が持つのはスコップや集束手榴弾、吸着地雷、火炎瓶といった近接兵器。

 

「そのまま食い破れ!!」

 

「「「了解!」」」

 

 アウロラは叫んだ直後に鋭くスコップを振りぬき、2,3体のネウロイをまとめて盛大に吹き飛ばした。この鮮烈な初撃に1小隊の士気が一気に上がった。

 

「隊長には負けないよぉお!!!」

 

 アウロラに負けじとシェルパは火炎瓶と集束手榴弾を両手に持って突撃した。低い姿勢でネウロイの下に滑り込むと装甲の弱い腹部分に火炎瓶を叩きつけ、一瞬で腹から出ると止めとばかりに集束手榴弾を叩き込んだ。

 他の陸戦魔女(ウィッチ)も手に持った近接兵器で次々とネウロイを仕留めていき、1小隊は群れの左後方部分を抉るように突破。そのまま全速力で離脱していった。

 

 まだ攻撃は終わらない。

 

「次はこっちの番です」

 

 乱れたネウロイの群れに再びシーナを先頭に2小隊の銃撃が襲い掛かる。一瞬の内に火力を叩きつけ離脱。

 

「まだまだ終わらんぞ!」

 

 反撃の暇を与えずに1小隊が再び吶喊。群れの中を食い破って再び離脱。そして再び、2小隊が・・・。

 

 魚の群れに襲い掛かるサメの如く。

 

 絶え間のないヒットアンドアウェイの攻撃に晒され、ネウロイの数は当初の半分までへていた。それでもまだ終わらない。ヒットアンドアウェイを多用すれば体力を大きく消耗していくが、それでも止めない。ここを抜かれれば終わりだということは分かっているからだ。

 

 

 

 

 数十回にものぼるヒットアンドアウェイによりネウロイは当初の3割にまで減っていた。だが、その分陸戦魔女(ウィッチ)達も消耗しており、アウロラでさえ軽く呼吸を乱している。後一歩のところで攻撃の息が切れかけていた。

 

「流石に数が多いな・・・」

 

 アウロラは疲労で鈍く痛む肩でスコップを担いだ。様子見のために停止しているが、彼女の後ろに待機する1小隊も、別地点で同じく待機している2小隊も体力は限界に近かった。残弾も心もとない。しかし、ネウロイはここまで被害を出しても侵攻するのを諦めていないらしく、足を止めていない。

 大した執念だな・・・と、呆れたように溜息を吐いたアウロラの耳に待ちに待った報告が入った。

 

『こちら神崎、お待たせたしました。シンは機体の故障で先に帰投を』

 

「ふぅ・・・ようやくか。本当に待たせてくれたな」

 

『・・・すみません』

 

「フッ・・・。冗談だ。島岡のことは了解した。すぐに援護を頼む」

 

『了解』

 

 通信を終えると同時に段々と近づいてくる陸戦ストライカーユニットとは別種のエンジン音。そのエンジン音に励まされるかのように待機していた陸戦魔女(ウィッチ)達の顔色は明るくなっていった。

 

「ここが踏ん張りどころだな。・・・いくぞ!」

 

 1小隊が動き始めるのに連動して2小隊も動き始めた。残ったネウロイを取り逃さないよう2つの小隊が合わさって円陣状に展開していく。声が届く距離まで接近した2小隊にアウロラは指示を飛ばす。

 

「囲んでの牽制射撃だ!『どデカイの』が到着するまで足止めするぞ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 残弾を惜しみつつ動きを制限するように射撃を加えていく。相手の反撃のビームもシールドでいなし、動かさないことに集中する。

 「どデカイの」が届くまでそう時間はかからなかった。

 

『航空支援を開始する。巻き込まれないように注意を』

 

「こっちの心配はいい。存分にやってくれ!」

 

『了解・・・!』

 

 アウロラと神崎の通信が終わって数瞬後・・・。

 ビュン・・・という空気を切り裂く鋭く小さな音が聞こえ、そして・・・。

 

 巨大な火柱と共にネウロイの群れは跡形もなく消滅した。後に残ったのは雪が解け、黒く焦げた地面と突き刺さった1本の刀、神崎の『炎羅(えんら)』。

 

 その光景は凄まじいの一言で、陸戦魔女(ウィッチ)一同唖然としていた。アウロラでさえ少しの間思考が止まってしまった。

 

『こちら神崎、ユーティライネン大尉。支援攻撃の結果は?・・・大尉?』

 

 神崎の通信で思考を再起動させたアウロラは再度爆発跡を見て、額に手を当てた。

 

「存分にやれとは言ったが・・・」

 

『・・・まさか味方に被害が?』

 

「いや、それはない。威力が凄すぎたがな」

 

『・・・』

 

 アウロラの呆れたような声音に神崎は気まずいのか押し黙ってしまった。奇妙な沈黙が通信の間に横たわっていると、アウロラの傍にトコトコとシーナが歩いてきた。手には爆心地に突き刺さっていた「炎羅(えんら)」を持っている。何時の間にか引っこ抜いてきたらしい。

 

「隊長、少尉に剣は回収したと伝えて下さい。あと、さっきの攻撃はやりすぎだと。巻き込む気か、と」

 

「だそうだ、神崎」

 

『・・・以後、気をつけます。炎羅(えんら)は基地に戻ってからで』

 

「分かった」

 

『それでは、RTB』

 

 神崎は地上部隊の上空で1度旋回すると基地の方向へと飛んでいった。何人かの陸戦魔女(ウィッチ)が手を振っているのに応えたのだろう。途中、クルリとロールしていた。

 

「さて、私達も帰るか」

 

「そうですね」

 

「アルコールが切れてきて調子がでない」

 

「あ、マルユト中尉?帰還するみたいなので再編成お願いします」

 

「おい、シーナ。そう流すなよ」

 

 そんなやり取りをしながら1,2小隊は基地への帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラドガ湖防衛陣地

 

 

「喜べ、休みだぞ」

 

「休み?」

 

 殲滅戦後のデブリーフィング。

 唐突にアウロラの口から出たこの言葉に神崎は首を傾げた。果たして誰が?

 

「なんだ?その年でワーカーホリックか?」

 

「あぁ、自分達にですか」

 

 アウロラの呆れたような視線に神崎は肩を竦めた。ここ(スオムス)に来てからずっと働き詰めで、正直言って本当に休めるかも疑わしかった。

 殲滅戦後ここに直行してきたアウロラは肩に付いた煤を面倒くさそうに払い落として言った。

 

「といっても交互にだからな。お前が先に休んで、次に島岡だ。流石に誰も空に上がれないのは駄目らしい」

 

「はぁ・・・。大尉達もですか?」

 

「ん?ああ、そうだ。どうやら今回の殲滅戦である程度戦線に余裕ができたらしくてな。働き詰めだった私達に休みをくれるそうだ」

 

 真面目に働いた甲斐があったものだ、といそいそと机の下からブランデーのボトルを取り出すアウロラ。神崎の目にはとても真面目に働いているとは思えないが、ともかく休みが貰えるのは事実のようだ。果たしてまともは休みは何時振りだったか。

 

 デブリーフィングも恙無く終わり、神崎は指揮所から出た。既に日が沈みかけている。久しぶりの休みがあると聞いて、体の疲れが心なしか抜けたような気がすた。

 

 なんだかんだで喜んでいることに自嘲気味な溜息を吐いたところで、炎羅(えんら)をシーナに預けたままであることを思い出した。先に基地に帰還し地上部隊を待っていたのだが、先にアウロラに指揮所に連行された為、受け取る暇がなかったのだ。

 

「どうしたものか・・・」

 

「あ、少尉。ちょうどよかったです」

 

「ん?ヘイヘ曹長・・・」

 

 神崎がどうしたものかと思案しているとタイミングよくシーナが歩いてきた。手に持っている抜き身の炎羅(えんら)をぶらぶら揺らしながら歩くのが危なっかしく、神崎は思わず自分から彼女に近づいていった。

 

「回収してくれて助かった。ありがとう」

 

「いえ、別に大したことじゃ」

 

 神崎は手早くシーナから炎羅(えんら)を受け取り、鞘へと戻す。そこでふと気になることがあり、シーナに尋ねた。

 

「手を切ったりはしなかったか?」

 

「大丈夫です。刃物の扱いには慣れてるので。狩猟とかで」

 

 どことなく胸を張るような仕草をするシーナ。どうやら疲れてテンションがおかしなことになっているらしい。どうも彼女がするような仕草とは思えず、神崎は小さく苦笑を浮かべた。

 

 別に張る胸がないとは思っていない。思っていない。

 

「なんです?」

 

「いや、なんでもないが・・・」

 

 シーナの目線が鋭くなり、神崎は逃げるように目を逸らした。気まずい状況を回避すべく先程聞いたアウロラからの情報を伝えることにした。

 

「そういえば、休みが貰えるそうだ」

 

「本当ですか!?」

 

 予想以上の食いつきだったが、気まずい状況の打開はできたようだ。シーナは掴みかからんばかりに神崎に近づき言った。

 

「本当に本当ですか!?」

 

「あ、ああ。今回の殲滅戦で戦線に余裕が出来たとか・・・」

 

「やった!何時振りだろう・・・」

 

 シーナの感極まった声にどこも同じような状況なのだと神崎は妙な納得してしまった。軽くトリップしていたシーナだが、ふと何かに気付いたのか急に真顔に戻り神崎に問いかけた。

 

「少尉も休みがあるんですか?」

 

「ああ。一応な」

 

「ちなみに予定は?」

 

「特に・・・ないな」

 

 何せここら周辺の地理など全く分からないのだ。恐らく宿舎で寝て過ごすか、この陣地内を散策するぐらいだろう。神崎の答えを予想していたのか、シーナは納得したように頷き言った。

 

「ここら辺のこと分からないですよね。なら、一緒に町へ行きません?案内しますよ?」

 

「それは・・・ありがたいが・・・」

 

 予想外のシーナの誘いに神崎は困惑した。基地の外が分からない身としてはこの誘いはとても有り難かった。だがどうしてそのような誘いをしてきたのか分からず、どうしてもいらぬ邪推をしてしまう。

 迷う神崎にシーナは不思議そうに首を傾げた。

 

「別に奢って貰おうとか考えてないですけど?」

 

「いや・・・まぁ・・・。・・・分かった」

 

「なら、隊長に予定を合わせてもらいますね。ではまた」

 

 結局神崎が了承すると、シーナは微笑んで指揮所の方へと歩いて行った。さっぱりとした行動にどうも拍子抜けを感じ、何か釈然としないまま神崎も自分達の滑走路への道を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 格納庫は出撃後の整備で騒がしかった。機材の音や何かの指示の声、そしてよく分からない叫び声で充たされおり、神崎は入ったところで思わず顔をしかめた。

 

「おう、デブリーフィングどうだった?」

 

「特別、問題は無かった」

 

 そんな神崎に、近くのベンチに座っていた島岡が声をかけた。機体の故障で一足先に帰ってきてたはずの彼だが、まだ飛行服姿にコートを引っかけただけの姿だった。

 

「機体はどうだった?」

 

「機関銃が焼きついてた。あとエンジンも草臥れ気味。ちょっと無理させすぎちまった」

 

 島岡は欠伸を噛み締めながら言った。やはり戦闘の疲れが残っているようで、気だるい雰囲気を醸し出している。そんな様子を見ていると神崎もドッと疲れが押し寄せてくるように感じた。神崎は凝り固まった肩を回して言った。

 

「なら、お前が先になりそうだな」

 

「は?何がだよ?」

 

「いや、さっきユーティライネン大尉から聞いたんだが・・・」

 

『あっあ~。皆、聞こえてるかな?』

 

 突如、格納庫内の設置されたマイクから鷹守の声が響き渡り、2人の会話は中断された。神崎は何かあったのだろうか・・・と続きに耳を傾ける。

 

『ユーティライネン大尉からお知らせがあるらしいから、皆で夕食行くよ~。あ、当直は残っといてね』

 

「ん?こんなことってあるのか?」

 

「何はともあれ行くぞ」

 

「あ~、じゃあ着替えるか」

 

「そうだな・・・」

 

 面倒くさい表情をする島岡と共に宿舎へと向かう。それぞれ戦闘服と飛行服を着替えた後、鷹守を先頭にして整備班と共にラドガ湖陣地の糧食班へと赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 糧食班には多くの人で煩雑としていた。整備だったり警備だったりと様々な兵種がいるということは、ラドガ湖防衛陣地の全ての人員が集合しているのかもしれない。多くのテーブルがスオムス陸軍で占められる中で、扶桑海軍組は隅っこの方に固まっていた。

 

「いつになったら始まるのかね?」

 

「さあ・・・な」

 

 頬杖を付いた島岡のぼやきに神崎は軽く応えた。

 このテーブルに座って20分近く経ったが人が集まってくるだけでアウロラからの動きは全くない。神崎もいい加減待ちくたびれたのか、疲れからか腕を組んでうつらうつらと船を漕ぎ始めていた。

 

「あ!カンザキ少尉達だあ!」

 

「お疲れ様です・・・カンザキ少尉、島岡さん」

 

「とういうか、少尉寝てるじゃないですか」

 

 意識が落ちかけた時、知った声が聞こえて神崎はゆっくりと目を開けた。そこにはいつもの4人、シェルパ、マルユト、リタ、シーナ、そして彼女達の後ろには陸戦魔女(ウィッチ)達がぞろぞろと付いてきていた。

 ちょうど、格納庫から到着したところのようだ。

 

「居眠りですか、少尉?」

 

「・・・寝てない。休憩していただけだ」

 

「嘘ですね。船漕いでましたし」

 

 どうもシーナは神崎に対して当たりが強いようだ。別に嫌われている訳ではないようだが・・・そういった経験がない神崎にとっては戸惑いが大きかった。

 神崎は嘆息するとふと周りを見た。

 どうやら陸戦魔女(ウィッチ)組は扶桑海軍組のテーブルの隣に陣取るようで、キャイキャイと姦しく話し始めている。

 そんな風景を見ながら神崎は言った。

 

「あっちに行かなくていいのか?」

 

「行ってもいいですけど・・・時間がないので止めときます」

 

「時間・・・?」

 

『皆、ご苦労だった。飯時ですきっ腹だろうが、まぁ少し聞いといてくれ』

 

 アウロラの声が拡声器で響き渡ると喧騒は一気に静まり、一同が一点に注目した。資材が入っていた木箱をお立ち台にしたアウロラは沢山の視線に晒され満足そうに頷き口を開く。

 

『知ってのとおり、今回の殲滅戦は成功した。ここ最近ずっと真面目に働いていた甲斐があったものだな』

 

 アウロラはそこで一旦言葉を切ると口休めのためか手に持った酒瓶をクビリと煽った。皆、見慣れた光景なので別段何も言わないが、神崎としては彼女に真面目という言葉を辞書か何かで調べ直して貰いたかった。

 

「何か言いたそうですね」

 

「別に・・・そういう訳ではない」

 

 いつの間にか隣に座っていたシーナが無表情のまま覗き込んでくる。神崎はその目から逃れるように目線を逸らしたが、その目線がアウロラと重なった。神崎とシーナのやり取りを楽しそうに見ていたのか、ニヤリと笑って酒瓶を掲げ声を一段大きくした。

 

『私達の勤労に司令部が応えてくれたぞ!喜べ!休みだ!!』

 

 その瞬間、スオムス陸軍の面子が爆発した。

 

 正確には盛大な歓声が沸きあがっただけなのだが、その声量はそれこそ爆発のようで1人を除いて静かにしていた扶桑海軍の面々との落差は酷かった。

 いったいどれ程休みなしで働かされていたのか。

 

「え?休み?ヒャッハー!釣りだぁああああ!」

 

「うるさい、落ち着け。続きが聞こえないだろう」

 

「グヘッ!」

 

 神崎は立ち上がって歓声をあげる島岡の襟を掴み無理矢理座らせた。それと同じようにスオムス陸軍の連中も段々と落ち着きを取り戻し始め、ざわめきは静まっていく。頃合を見計らい、アウロラ話を続けた。

 

『勿論、全員一斉に休みという訳にはいかないがそこは了承してくれ。まぁ、何はともあれ一端の区切りが付いたということだな。そういうわけだ。以上!』

 

 アウロラが言葉を締めると辺りは再び喧騒に包まれた。皆、休暇が相当嬉しいようで暫く喧騒が止む様子がない。

 何はともあれ、まずは腹を満たそうと神崎が立ち上がった時だった。

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

 いきなり呼び声に神崎は足を止め、振り返った。そこには今まで会話する機会がなかった数人の陸戦魔女(ウィッチ)がこちらを見ていた。

 

「・・・どうした?」

 

「あ、あの!い・・・」

 

 いつも戦場では一緒に居るはずなのだが、神崎がこういった機会をあまり好まないことから会話することはなかったのだ。話しかけてきた魔女(ウィッチ)達の名前は知らなかったが、いつもシーナがいる分隊にいるのは知っていた。余程緊張しているのか、顔を真っ赤にして必死に言葉を紡ごうとしている。

 

「い、い・・・」

 

「?」

 

「いつも援護ありがとうございます!少尉の援護のお陰で安心して戦えます!」

 

「あ、ああ・・・」

 

「そ、それでは失礼します!」

 

 魔女(ウィッチ)達は頭を下げるとそのまま自分達のテーブルへと戻り楽しそうに話し始めた。それをどこか不思議そうに眺めていると、今度はだれかに背中を突かれた。振り返ると、シーナが。

 

「皆、少尉達には感謝してるんですよ。自分達の空軍はどこか胡散臭くて信用できない。でも、少尉達は私達を全力で援護してくれる」

 

「・・・それが普通のことだろう?それが任務なんだから」

 

「それでも、ですよ。私も感謝してます。神崎少尉」

 

 そう言うとシーナは表情を引き締めて神崎に挙手の敬礼をした。神崎が反射的に返礼すると、ニッコリと初めて見る満面の笑みを浮かべた。

 

「さ、食事を取りに行きましょう」

 

「そうだな。・・・シーナ」

 

 神埼の言葉に先に歩き出そうとしたシーナがピタリと止まる。シーナが驚いた表情で振り返る直前に神崎は彼女の頭に手を置き、そのまま彼女を追い越していった。

 




二期の音沙汰がないので、ノーブルのドラマCDで癒されてます。くにかにお小遣いあげて可愛がりたい。後ノーブルくんの無駄機能が地味に凄かったw
これでガリアはあと10年戦える(小並感)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。