GWでもう一話ぐらい書くことができたらいいなぁ・・・
そんな訳で第六十四です。
感想、アドバイス、ミスの指摘等々、よろしくお願いします!
まず異変に気付いたのは島岡だった。
『レーダーが使えないなら帰投の報告は直接鷹守にすりゃあいいのか?』
「そうなるな」
戦闘空域から離脱し、ラドガ湖防衛陣地へ帰投中。大半の弾薬と燃料を消費した島岡とそれらに加えて魔法力も消費している神崎達はできるだけ速く着陸し補給を受ける必要があった。
『けどよ?さっきから無線が黙ったままだぞ?』
「何?」
島岡が気付いた異変に神崎は眉を顰める。確かにレーダーは使えないが、無線は使用可能だったはずだ。実際、先程アウロラを運んだ際には鷹守と通信を繋げることができている。
神崎もインカムで鷹守との通信を試みみたが、雑音ばかりで一向に伝わる気配が無い。
だが、ここで通信が伝わらないからといってラドガ湖以外の滑走路に向かう余裕は神崎にはなかった。
「無線の故障かも知れないが・・・このまま向かうしかないだろう」
『だよなぁ・・・』
「索敵を怠るな」
『了解』
島岡への指示を終えた神崎は、静かに流れ出る汗を拭いゆっくりと呼吸を整えようとした。予想以上に体力を消耗しており、自然と息が荒くなってしまうのだ。出来るだけ早く着陸したい思いが募る。
そのせいか、神崎はこの通信の事態をそこまで重要に捉えることができなかった。おそらく何かの不具合なのだろうと無意識の内に考えていた。
だから・・・だろう。
黒煙と炎に包まれ、銃声と爆発に支配されるラドガ湖防衛陣地を見た時、神崎は状況が全く把握できず完全に思考が停止してしまったのだ。
作戦は予定通り進んでいた。
同志達によるレーダー掌握及び情報撹乱。
この地の我等と合流しようと図る同志達を誘う「誘蛾灯」。
スオムスとオラーシャを隔てる戦線の各地に設置した誘蛾灯が一斉に作動したことによりオラーシャ方向からの大規模侵攻を引き起こした。
スオムス軍は迎撃に全力を注ぐ。
そうしなければスオムスは滅ぶと思っているから。私達が攻撃しなければ同志達は攻撃してこないのに。そこまで戦争を続けて自国民を虐げたいのか。
私達の邪魔はさせない。
彼らにはここで消えてもらう。
眼下に広がるラドガ湖。
そこに構築された防衛陣地は幾度もの攻撃を跳ね除けてきた堅牢な鉄壁。
だが、今はその鉄壁を成していた戦力は皆無。恐らく後方支援の人員しか残っていないだろう。他部隊の救援は情報撹乱によって来ることは無い。
だからこそ、彼を誘う餌になる。
コリン・カリラはニッコリと笑って右手を上げた。それを合図に、部下である爆装を施した十数人の航空
コリンはゆっくりと右手を下ろし、静かに告げた。
「攻撃開始」
一斉に降下を始めた部下達を見送り、コリンは東の方向・・・コッラー川に方向に視線を向けた。
「早く来てくださいね。神崎さん」
同時刻。
いつもの白衣姿の鷹守は格納庫に隣接されている無線室で部下と共に情報収集に努めていた。
先程までは神崎と島岡に情報を送っており、今は戦況の把握を重点的に行っている。
レーダーが使えない以上、敵航空戦力の察知するには今は人の目に頼るしかない。不幸中の幸いにもどの戦線でも味方部隊は全力で戦闘している。見逃す可能性は少ないはずだった。
そう。
オラーシャ地方からの攻撃ならば察知できたのだ。
戦場の飛び交う無線を拾い上げ、重要な情報を洗い出していく鷹守。部隊柄、正確な情報が生命線になるため、技術屋上がりではあるが、作業の手際は実に手馴れたものだった。
その作業の手が、無線から聞こえる音が全て雑音に変わった時、止まった。周波数を何回か変えてみたが変化無し。無線機の不具合の可能性も考え、他の無線機に張り付いていた部下に確認を取る。
「こっちの無線機、雑音しか聞こえなくなったんだけどそっちはどう?」
「こちらもです。いきなり雑音に変わりました。気象の影響でしょうか?」
「予報では無線が乱れるほど天候が崩れはずないんだけどな~。神崎君たちからもそんな情報はきてないし。おかしいね~。故障かな?」
「この前の点検ではどこも問題なかったはずですが・・・」
「となれば・・・無線封鎖?」
鷹守が可能性として口に出した瞬間、外からプロペラの駆動音が近づいてくるのが聞こえた。一瞬、もう神崎が戻ってきたかのかと思ったが駆動音でそれが零式艦上戦闘脚のそれではないことに気付く。この音は・・・メッサーシャルフ、BF109シリーズだった。
自分たちが最悪の事態に陥ったことに気付き、鷹守は静かに無線機のマイクを取った。
『あ~。こちらラドガ湖。誰に通じているか分からないけど、現在襲撃を受けているね。状況はよくないかな~。そうだね。至急、至急救援を頼むよ』
直後、滑走路に爆弾が着弾。
爆発の衝撃が無線室の窓ガラスを突き破って鷹守達に襲い掛かった。無線機ごと地面に投げ出された鷹守に一緒に居た部下が駆け寄る。
「隊長、大丈夫ですか!?」
「あいててて・・・。多分、大丈夫。君は・・・大丈夫そうだね」
「なんとか」
さすが整備兵だけでなく工作員としても鍛えられているだけあると変に納得した所で、別の部下が半壊した無線室に飛び込んできた。すでにMP40を装備して臨戦態勢を整えている。
「隊長、航空
「仕掛けてきたみたいだね。やっとというべきなのかな」
「臨戦態勢は整っています。しかし・・・」
「仕掛けてくるのなら航空
部下が頷く。
おそらくすぐにでも陸戦兵力が仕掛けてくるだろう。無線封鎖されている以上、あの救援要請が届いているとは考えにくい。今いる数十名の戦力だけで対抗しなければならない。
「・・・スオムス陸軍の人達の脱出が最優先。この戦いに巻き込む道理は無いよ」
「了解」
部下達はすぐに動き出した。鷹守は少し歪んでしまった眼鏡をかけ直し、腰から滅多に使わない拳銃を抜くのだった。
コリン・カリラ率いる共生派は「
この攻撃に対し、鷹守勝己率いる「
「いや~。こんな造りの格納庫があってよかったねぇ。大尉ってこんな事態も見越してたのかな?」
「そんな訳ないじゃあないですか!?」
「だよねぇ。普通にネウロイの空爆からユニットを守るためだよねぇ」
辺りには銃声と爆発音と怒号が響き渡っている中、鷹守は資材を乱雑に積み上げたバリケードに背中を預け、いつものように気の抜けた事を言っていた。結局、脱出させるつもりだったスオムス陸軍の軍人も手に銃を取り、この篭城戦に参加してくれている。掻き集めた武器弾薬が残っている内ならば、この半分塹壕化された格納庫なら持ちこたえることが出来る。
(まぁ、何のために持ちこたえるか分からないけれど)
鷹守はいつもの笑みを顔に貼り付けて、右手にある撃ち切った拳銃を眺める。柄にも無く戦闘の指揮を執り直接戦闘にも参加したが、だからこそこの戦いの終わりはどちらかの全滅でしかありえないと確信を得ていた。
鷹守が拳銃を向けた共生派の兵士達の目はこの戦いで死ぬことしか考えていないような異様な色を湛えていたのだ。苛烈な攻撃で少なくとも「
決意か諦めかそれとも薬品か。
少なくともまともじゃない。爆弾を抱えて突っ込んできてもおかしくない勢いだ。
「隊長、弾薬がもう持ちそうにありません」
拳銃に新たな弾倉を装填している鷹守に別方向で防戦していた部下からの報告。どうやら腹を括るしかないみたいだねぇ・・・と、鷹守は拳銃のスライドを前後させてた。
「無線は通じたかな?」
「・・・いえ」
「そうだよねぇ」
篭城するときに持ち込んだ無線機はやはり雑音しか聞こえないようだ。いつの間にか煤で汚れてしまった眼鏡を白衣で拭う。その白衣もいつの間にか煤やら泥やら血で汚れていたが。
「ここまで持ちこたえたけどねぇ」
「せめてスオムス陸軍の方々を・・・」
「何言ってるんですか!?俺らも最後まで戦いますよ!!」
スオムス陸軍もここで戦うことを決意したようだ。
(まぁ、ここで僕達が死んでも才谷中佐が来てるし大丈夫かな?)
もともと軍人ではない鷹守には戦って潔く死ぬという考えはあまり理解できない。ただ与えられた仕事は最後までやろうという諦観にも似た義務感があるだけだった。
だが、それでも。諦観だとしても。
ここまでの鷹守達の篭城が実を結んだ。
鷹守は絶対に聞き逃さない。
自身が心血を注いだ翼の羽ばたきを。
託された思いを昇華させた、最高傑作の嘶きを。
鷹守勝己が零式艦上戦闘脚の魔導エンジンの駆動音を聞き逃すはずがないのだ。
「まさか間に合うなんてね。最高のタイミングじゃないか」
鷹守は気の抜けた笑みを浮かべて再びバリケードに寄り掛かった。
その直後、バリケードは爆発で吹き飛ばされた。
『ああ。やっと来てくれましたね』
インカムから聞こえた声を神崎が忘れるはず無かった。声を聞いた瞬間、思考停止していた頭は氷のように冷たい殺意と共に再起動し、ヰ式散弾銃改を構えた。
ラドガ湖陣地の中心部上空に浮遊する重機関銃を持った航空
「コリン・カリラ・・・!!」
『会いたかったですよ、神崎さん。その為にこの舞台を用意したんですから』
コリンがこの事態を引き起こした。
話す必要はない。
姿を確認したならば、躊躇なく・・・。
殺す
「シン」
『おい!鷹守達を助けねぇと・・・』
「上を取られているうちは無理だ。俺が突っ込む。援護してくれ」
『ああ!?クソ、待てって!?』
島岡の静止の声を無視し、神崎は魔法力を両手に集束させた。
高出力の炎噴出による急加速。
既に魔法力が少ないにも関わらず、神崎は躊躇無く発動させコリンに肉薄する。
「・・・ッツア!!!」
本来のストライカーユニットではありえない機動での急加速。
機体はもちろん体も軋みをあげる。だが、神崎はその一切無視し、急接近され対応しきれないコリンにヰ式の銃口を向けた。
何も考えず、何も思わず、怒りと殺意に流されるままに引き金を引く。
至近距離の散弾による破壊力は凄まじく、小型のネウロイであれば1発で粉々になり中型であろうとも一撃で撃破し得る。
無数の鉄の礫が体をズタズタに切り裂き、水色の軍服を一瞬で真っ赤に染め上げる。こちらを見る目が段々と伽藍になり、体が重力に引かれ始め・・・その後ろから重機関銃を構えたコリンが現れた。
神崎の強襲からコリンを守るべく、小柄な航空
「た・・・い・・・ちょう・・・。あと・・・は・・・」
「ええ。ありがとう」
目の前で部下が堕ちていくにも関わらず、その表情は穏やかな笑みを浮かべていた。銃口はピタリと神崎に向けられており、そこから重機関銃に込められた弾丸まで覗きこめるほどだ。
先程まで抱いていた憎悪が滾った熱意が一瞬で死と直面した冷たい恐怖と入れ替わる。
状況を頭で理解する前に、最短で出来うるだけの魔法力を集束して解放する。大した推進力はなく体を1つ分ズラすことしかできない。だが、その1つ分が神崎の生死を分けた。
高威力の質量の塊が顔を掠める。
コリンが放った弾丸を辛うじて回避することが出来たのだ。
「ッ!?」
だが安心する暇は無い。
神崎はシールドを全力展開しつつ、先程とは一転し離脱を図る。
その瞬間、鉄火の嵐が襲い掛かった。すでに距離を離そうと動き始めていたことが功を奏し、零距離射撃を受ける破目にはならなかった。だが、連続して襲い掛かる重機関銃の砲火にシールドは軋みを上げ、瞬く間に罅が入る。
「早く私を殺さないと仲間が死にますよ」
銃を撃ちながら話しかけてくるコリン。神崎は睨みつけるが、何か言うほど彼女の弾幕に余裕はなかった。そして彼女の言葉通り、事態が動いてくる。
『悪ぃ、ゲン!こっちに4人来やがった!援護できねぇ!?』
「シン・・・!?」
「戦闘機が航空
「クソ!?」
「あなたも。行かせませんよ」
神崎が感情に任せて突っ込んだ初手の時点で劣勢に追い込まれていたのだ。初手から島岡との連携を重視した戦術を取っていれば各個撃破させる危機には陥らなかったかもしれない。
島岡の元に向かおうとした神崎にコリンと彼女の部下を含めた4人で包囲してくる。
その中でも背後に回りこもうとする航空
ドクンッ・・・!と不意に大きく心臓が鼓動し、全身を悪寒が貫いた。
何とか回避行動を続けるも、口の中が以上に乾き全身に冷や汗が流れる。
背後に回りこもうとしてくる
「こんな・・・こんな時に・・・!?」
ここまで自分が嫌になったことがあっただろうか?
最大限の自己嫌悪を込めたこの言葉が神崎の全てだった。いままで回復傾向にあった
ダラダラと額から流れ落ちる冷や汗を乱暴に拭い、神崎は追撃してくる
弾切れになったヰ式への再装填さえままならず、どうにか逃れようと必死に回避行動を取り続ける神崎。加速して引き離そうと急降下に入ったが、程なくしてすぐに急停止することになった。
正面には重機関銃を構えたコリン。
同じく左右に機関銃を構えた
後方から追いついた
完全に包囲されてしまっていた。恐怖のままに逃げた結果、猟犬に追い立てられる鹿のように死地に追い込まれてしまった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「もう終わりですか?」
なおも微笑んで銃口を向けてくるコリンに、神崎は荒い呼吸のまま弾切れのヰ式を捨てて腰の
その様子を楽しそうに見ていたコリンは小首を傾げて言った。
「私達は同じ道を進めるはずなのに」
「・・・すでに言った通りだ。仲間のために俺はここにいる」
「そうやって自分を押し殺していくのですか?自分を虐げ続けた軍隊に尻尾を振り続けて。仲間に自分の存在理由を依存して・・・」
「この話はもう済んだはずだ」
神崎は話を一方的に打ち切り、
「そうですね。それでは・・・さよなら」
コリンの判断も当然だった。
四方から狙う銃口は一寸の狂いもなく。
魔法力を解放しようとする神崎を殺すべく、引き金は引き絞られていた。
神崎は四方からの銃撃で惨殺された。
左右の
『いい加減、我慢の限界です。撃ち抜いてやります』
「・・・シーナ」
『少尉、諦めないで下さい。私がいます』
スオムスの地で出会った友は神崎を見捨てなかった。
ペテルブルグ大作戦を見ないと(使命感)