ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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みんできフェスに行ってきました

控えめに言って最高でした


そんな訳で第六十七話です

感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします





第六十七話

 

 

 

 

 

 周りの雪景色に神崎は自分が何処にいるのか一瞬分からなかった。

 

 だが、すぐに自分がスキー旅行に来ていたことを思い出した。

 自分の家族だけでなく竹井醇子の家族も一緒の旅行で妹たちが随分と興奮してしまい宥めるのが大変だった。

 

 

 醇子の家が都合した車数台に分乗しスキー場に到着して・・・そこからが更に大変になった。

 勝手にどこかに行く妹たちの手綱を何とか取りつつ、すぐに転んで泣きそうになる醇子を慰めていて・・・気が付いたら自分が転んでしまっていた。

 

 雪が柔らかいところに突っ込んでしまったのか、目の前は雪一杯。体も雪の重さで満足に動くことが出来ない。しかも直前までずっと必死に動き回っていたからか、倦怠感と眠気に誘われ動く気力さえも奪われていく。

 

 もうこのまま寝てしまおうかと目蓋を閉じようとして・・・ふと神崎の耳に何かが聞こえた。

 

『・・・ッ!!・・・ッ!!』

 

(醇子か・・・?いや・・・違う)

 

 微かな、しかして確かに聞こえる・・・声。

 聞いたことがない声だった。

 

 いや、この時はまだ(・・・・・・)聞いたことが無い声だった。

 

『カ・・・い!!!・ン・・シ・!!!』

 

 段々と大きくなってくる声に引っ張られるように神崎の中に暖かな何かが燈る。それは段々と熱く、熱く、温度を上げていき今か今かと燻っていく。

 

『神崎少尉!!!』

 

 そして、炎は燃え上がった。

 

 

 

 

 

「グハッァア!!!ハァ・・・ハァ・・・」

 

 仰向けに寝ていた神崎は胸を軋ませて、思い切り酸素をを吸い込んだ。体中の細胞が酸素を求め、一呼吸する度に固まった体が解放されていった。

 霞んでいた視界が徐々に戻っていき周りを視認できるようになり、ようやく神崎は自分のすぐ隣に誰かがいることに気付いた。

 青白い顔にびっしりと汗をかき、肩で息をする、泥だらけの小柄な陸戦魔女(ウィッチ)

 

「・・・シーナ」

 

「ッ・・・神崎少尉!!」

 

 いつもの無表情はどこにいったのか。

 目に安堵の涙を溜めたシーナが胸に飛び込んでくるのを何処か他人事のように感じながら、神崎は空を見上げていた。

 

 体は動く。

 

 しかし、左腕だけが動かない。

 

「シーナ。俺は・・・どうなっていた?」

 

 この一言にシーナは顔をあげた。濡れた目を乱暴に袖で拭い、努めて冷静な声で状況を説明してくれた。

 

「私が来た時には墜落した神崎さんと共生派の魔女(ウィッチ)が地面に倒れていました。恐らく無意識の内に撃墜の衝撃をシールドで緩和していたのかと。しかし。呼吸が止まっていて・・・心肺蘇生を施しました」

 

「俺は・・・1度死んだのか・・・」

 

 ならば先程見ていたのは走馬灯と同種のものかと、神崎はぼんやりと思った。随分と、本当に随分と懐かしいことを思い出していた。

 

「本当に死んだかと思ってました・・・。勝手に死なないで下さい・・・!」

 

「そうだな・・・。助かった、ありがとう」

 

 再び目に涙が溜まり始めたシーナの頭を軽く撫で、神崎は体を起こした。

 幸い右手の炎羅(えんら)は手放していない。それを杖代わりに上半身を起こすと、傍で仰向けに横たえられている航空魔女(ウィッチ)の姿があった。

 先程、神崎に特攻をしかけた共生派の魔女(ウィッチ)だった。

 

「彼女は・・・」

 

「・・・既に息はありません。発見した時にはすでに」

 

「そうか」

 

 ならば先程の特攻は本当の意味で死力を尽くしたものだったのだろう。兵士としては敬意を払うべきなのだろうが、それで1度死に掛けてしまった身としてはできそうもない。   

 複雑な感情を抱き視線を外すと、自分自身の異変に気付いた。力なく垂れている左腕は完全に骨折していた。痛みを感じないのはアドレナリンのせいかもしれない。

 だが、治療を施す前に確認すべきなのは現在の状況だった。

 

「シーナ、戦況は?」

 

「敵はコリン・カリラだけです。私は彼女を抑え切れませんでした・・・。すみません」

 

 シーナが悔やむように唇を噛み締めるなか、神崎はボロボロになった上着を脱ぎ三角巾として代用した。だが、ここでシーナの異変にも気付いた。

 彼女の脇腹を塗らすドス黒い液体を見れば、彼女が負傷しているのは明らかだった。顔が青白かったのはこの傷が原因だった。

 

「負傷したのか?」

 

「コリン・カリラにしてやられました。ムカつきますが、相手が一枚上手でした」

 

「治療はしなかったのか?」

 

 シーナは思わずという仕草で自分の脇腹に手を当てる。滲み、彼女の手に付着した血を見れば治療が完全ではないことは一目瞭然だった。

 

「応急処置は。ですが、時間がありません。今は島岡さんが・・・」

 

「なんだと・・・!?俺のストライカーユニットは?」

 

「あそこに。ですが・・・随分と状態がひどいです」

 

 シーナが指差した方向をみると神崎の零式艦上戦闘脚が雪に突き立てられていた。炎羅(えんら)を杖代わりに零式の傍によると、外形はボロボロだが見たところ内部構造は無事だった。

 これなら飛ぶことはできると安堵するとシーナに背中のすそを引っ張られた。振り向くと、シーナが真剣な表情で神崎を見つめていた。

 

「神崎さん。行くんですか?」

 

「ああ。シンだけでは荷が重過ぎるし、奴とは決着をつける」

 

「左腕が使えないのにですか?」

 

「・・・どうした?シーナ?」

 

 シーナのらしくない態度に思わず神崎は尋ねてしまった。尋ねられたシーナは唇を噛み締め、そっと目を伏せた。ただ、向かい合った状態で神崎に近づき炎羅(えんら)を持つ手を自身の手でそっと包んだ。

 

「自分でも分かりません。ここで神崎少尉が島岡さんを助けにいくのは当然だと思います。でも・・・それは嫌です。物凄く嫌なんです」

 

「俺にはシンを見捨てることは出来ない」

 

 左腕が動かない以上、戦闘は熾烈を極める。この状態で使える武器は炎羅(えんら)と拳銃のC96しかない。魔法力も枯渇しかけている今は、炎も良くて1発しか発動しないだろう。

 それでも神崎の選択肢に島岡を見捨てるは無い。

 

「あいつと俺は一蓮托生だ。扶桑でも、アフリカでも、そしてここでも」

 

 神崎と島岡は常に互いの背中を守ってきた。

 片方の危機には危険を顧みずに助けに行った。

 ならば今回も、片腕が使えなくとも、神崎は飛ぶ。

 

「神崎少尉。いえ、神崎さん」

 

 そんな神崎の思いをシーナは当然分かっていた。神崎と島岡がスオムスに来て一番交流があったのは彼女なのだ。2人がどれだけ仲がいいかも知っているし、戦闘時の連携も知っている。

 神崎が行くことに理解はしているのだ。だが、それに感情が追いつかないのだ。

 先程、墜落した神崎を発見した時に恐怖にも似た感情に支配されてしまった。戦友が死に逝く姿など戦いの最中でも、戦いの後でも何度も見てきた。

 だが、駆け寄って確認した神崎の体温が段々と失われていくのは耐えられなかったのだ。今までに感じたことの無い感情に突き動かされるまま、心肺蘇生を試みる。唇を重ねる度に、心臓を圧迫する度に、神崎が目を覚ますことを祈って。ズキズキと痛む自身の傷も省みず。

 息を吹き返した瞬間、どんなに安堵したか。どんなに嬉しかったか。

 

 だからこそは思う。

 ただただ、死にに行くような戦いに行って欲しくないのだ。

 神崎に死んで欲しくない。

 

 だからシーナは、右手を包む両手に力を込め決意を込めた目で再び神崎を見上げた。

 

「私も全力で援護します。だから・・・」

 

 

 

死なないで

 

 

 

「ああ・・・。勿論だ」

 

 そして神崎は飛び立つ。

 シーナの願いに背中を押され。

 親友の窮地を救いに。

 コリンとの因縁の決着を付けに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 操縦桿を握ってから経過時間は存外に短いものだ。

 数年という短い期間ではあるが、幸運にも生まれもった天性の操縦センスで生き残るに足る操縦技術を習得することができた。

 この操縦技術が生き残ることが出来なかった。だが、この操縦技術だけでは生き残れなかった。

 温かい優しさを持った上司、健気に直向な後輩、一杯の愛情を捧げることができる彼女、そして背中と命を預けることができる相棒。

自分が生き残ることができたのは、自分の力だけではない。

仲間と彼女と相棒がいたから今の自分がいる。

 

 なら・・・この命を懸けることで守ることができるなら・・・俺は喜んで死地に飛び込もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 片手が使えないせいで飛行バランスが崩れる中、神崎はギリギリまで高度を下げて飛行していた。すでにコリンと島岡の戦闘

 武器は炎羅(えんら)とホルスターに収められた拳銃。

 コリンも消耗しているとはいえ未だ健在。勝機は薄い。

 

 それでも、神崎は高度を上げる。

 島岡が注意を惹いている今しかないのだ。

 

「シン。聞こえるか?」

 

『ああ!?ゲンか!?大丈夫なのか!?』

 

「半分は無事だ。お前は?」

 

『ボロボロだよッ!?クソが!!』

 

 インカム越しに聞こえる零戦のエンジン音は悲鳴のような不協和音になっている。いつ火を吹いても可笑しくないのがすぐに分かった。

 今すぐ援護に行きたい衝動に苛まれるも、神崎はそれを抑えて言った。

 

「あと少しだけ惹きつけてくれ」

 

『ああ!?やってやるよ!!必ず・・・仕留めろ!!!』

 

「・・・任せろ」

 

 島岡の命を掛け金にして、神崎は勝負をかけた。

 

 今のいままで圧倒的な不利の状況で戦っていた島岡。

 

 零戦特有の高機動性能をフルに使った細かな機動で、今の今までコリンからの攻撃を凌いでいた。被弾こそするも、致命的な損傷だけは避ける機動は、もしここに同じように戦闘機を操るパイロットがいたならば、揃って舌を巻いていただろう代物である。

 そんな島岡がコリンの目の前で大きく急上昇したのだ。

 打って変わっての大仰な機動は相手の意表を突くのに効果的だが、逆に隙が大きくなる。コリンが島岡に止めを刺すべく、重機関銃を構えるのは当然だろう。

 

 神崎はそこを狙っていた。

 

 針葉樹の隙間を縫うように急上昇し、炎羅(えんら)の切先をコリンに向ける。コリンはなおも島岡に気を取られ、神崎に気付いていない。完全に間合いに入り炎羅(えんら)を振りかぶった瞬間、神崎は勝利を確信した。

 

「獲った・・・!!」

 

「とでも、思いましたか?」

 

 三日月のような笑みと共に炎羅(えんら)の刃が止まってしまう。

 驚愕の表情に染まる神崎の目の前には重機関銃。炎羅(えんら)の斬撃を直前で重機関銃を盾にして止めたのだ。

 

「ええ。あなたは諦めません。ここぞというタイミングで私を狙ってくることも予想してました」

 

「クソッ・・・!?」

 

「本当に・・・あなたとは一緒に戦いたかった。けれど・・・」

 

 コリンは炎羅(えんら)を受け止めた重機関銃を力任せに振り払った。当然、炎羅(えんら)を持っていた神崎は、片腕しか使えないことも相まって簡単に体勢を崩され、距離を離されてしまう。離されてしまえば重機関銃の射程に入ってしまい銃撃に晒される。

 すぐ傍に迫る死神の気配を振り払うように、神崎は必死に体勢を立て直し、コリンを見据えた。

 

 だが、コリンの銃口は神崎に向いていない。

 

『ゲン!!!』

 

「あなたが危機に陥れば、必ず彼は救おうと動く。あなたが彼にするのと同じように」

 

 神崎に背を向けてまでコリンが狙うのは正反対から迫る鋼鉄の海鷲。

 命を掛けてまで親友を助けようと、ボロボロの機体を更に酷使して駆けつける先には・・・蜘蛛の罠が張られていた。

 

「やめろ・・・」

 

 それでも海鷲は進む。

 その蜘蛛の糸を鋼鉄の翼で切り裂いて進まんと。

 

「やめろ・・・!」

 

 果たしてその制止は誰に向けたものだったのか。

 コリンに?

 親友に?

 分からないままに叫んだ。

 

 

「やめろおおおおおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無情にも。

 

叫びは銃声に掻き消され。

 

海鷲の翼は儚くも炎に包まれる。

 

数多の紅い光線には屈しなかった彼の翼は。

 

奇しくも、鈍い鉛玉によって寒い冬の地に墜とされた。

 

 

 

 





来年はストライクウィッチーズ10周年ですね

何やら記念イベントがある模様
楽しみですね
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