ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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前半部だけですが、ワールドウィッチーズミュージックフェスタに行ってきました
最高でしたね
最高でした 
久し振りにご本人達の曲が聞けて最高でした
ルミナスも楽しみですね

そんな訳で第八十三話です

感想、アドバイス、ミスの指摘などなどよろしくお願いします


第八十三話

 

 

 

「・・・これは無理では?」

 

「さてさてさて・・・。どうしたものか」

 

 月が照らす森の中。

 ギリースーツに身を包んだシーナとファインハルスは、それぞれ狙撃銃のアイアンサイトと双眼鏡越しに見た光景にそれぞれポツリと呟いた。

 いつもの共生派の拠点撃滅任務に伴う偵察。事前の情報では簡易的な野戦陣地程度の規模だったはずだが、2人の視線の先には古墳のように盛り上がった地面と頑丈そうな鋼鉄製の扉。どうやら、陣地が塹壕化しているようだ。情報が間違っていたのか、共生派が短期間で建造したのか・・・。

 

「こっちの装備じゃあ、どうしようもないですよ」

 

「ふむ・・・。戦車でも持ってくるかね?」

 

「うちにそんな装備ないです。むしろ、戦車じゃなくて急降下爆撃が欲しいです」

 

「残念だが、君が愛してやまない神崎大尉も今は・・・おっと、その殺気は私ではなく敵に向けたまえ」

 

 狙撃銃を一切動かさずにシーナは溜め息を吐いた。ファインハルスはクツクツと笑いを漏らすと、双眼鏡を下げて僅かに身動ぎした。

 

「さてさてさて、1度退くとしよう。なに、手はあるだろうさ」

 

「了解。下がります」

 

 森の静けさの中に何も残さないまま、2人は闇の中に紛れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「扶桑に戻るのか?」

 

「ああ。見所のある新人がいると副官から連絡がきてな。少し行ってくる」

 

 シャーリー指導でのリーネの訓練が基地上空で行われているのを滑走路から眺めながら、神崎と坂本は世間話よろしく言葉を交わしていた。

 

「扶桑までか・・・。結構な期間、ここを空けるな・・・」

 

「最低でも3ヶ月だな。ネウロイの襲撃がなければ、だが」

 

「最近は外洋にも出てくるか・・・・」

 

「時々な」

 

 

 軽い調子で会話する2人の上空では、リーネが射撃訓練を行っていた。高速で回避機動を行うシャーリーに向かってペイント弾を撃つという中々過激な訓練内容だったが、シールドをしっかり発動させているので大事になることはないだろう。

 

「ビショップの訓練はどうする?」

 

「バルクホルンとシャーリーに任せる。お前にもな」

 

「・・・俺はそんなに射撃の指導はできんぞ」

 

「お前の魔法使い(ウィザード)の姿勢を見せてくれればいい」

 

 坂本に背中を強めに叩かれ、神崎は軽く溜め息を吐いた。自分が教育などとはお笑い草だと、坂本の期待から逃れるように視線を上に向ける。すると、タイミングよくリーネがシャーリーに直撃弾を与えたようだった。初出撃から1ヶ月程経ったが、訓練ではもうほとんど平常心で臨むことができている。後はそれを実戦で活かすことができればいいのだが・・・。

 片方のストライカーを汚したシャーリーが上機嫌でリーネの肩を叩き、徐々に高度を下げてきた。どうやら訓練はもう終えるようだ。

 

「さて・・・私も帰国の準備にもどるか」

 

「俺も戻る・・・。ディートリンデ中佐に提出する書類もある」

 

「そうか。また後でな」

 

 坂本が戻っていったが、神崎は少しだけ足を止めて着陸するリーネ達の様子を眺めた。着陸して滑走路上を移動していたシャーリーが神崎に気付き、大きく手を振ってきた。それに釣られるように胸に銃を抱えたまま控え目に手を振るリーネ。

 

「だいぶ余裕が出てきたか・・・」

 

 返答に軽く手を挙げつつ、神崎は独り呟いた。このまま靡かずに成長してくれればと願いつつ、神崎も基地の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小脇に書類を抱えて隊長室の前に到着した神崎だったが、扉をノックする前に向こうの方から開いた。扉から覗いたのは、もちろんミーナ。

 

「ディートリンデ中佐。今時間が・・・」

 

「丁度良かったわ、神崎大尉、入って」

 

「・・・?失礼します」

 

 神崎が伺う前に、ミーナが食いぎみに隊長室へ招き入れた。どことなく焦っているように見えたのは気のせいだろうか?

 隊長室に入ると隊長用のテーブルの上に書類の束が置かれ、ミーナが真剣な表情でイスに座り直していた。

 

「神崎大尉。これを見て」

 

「拝見します」

 

 ミーナから差し出された書類を受け取り、神崎はサッと目を通す。内容は新型兵器の配備命令書。夜間出撃の性能を向上させる物で既に何度か改修済み。精度も信頼性も高いらしい。内容は別に問題ないだろう・・・名前以外。

 

「鷹守式魔導針・・・ですか」

 

「ええ。『鷹守』式魔導針よ」

 

 ミーナの表情は堅いが、それも頷ける。彼女にとって鷹守という名前はトラウマものだろう。何せブリタニアに駐留していた時に、兵器の実験とセクハラ紛いの対応で苦労が絶えなかったようだから。

 

「確認なのだけど、これはあの男が作った装置・・・で、あってるのよね?」

 

「まぁ・・・そうです」

 

 神崎が同意した途端、ミーナの眉間に不快感一杯に皺が寄った。命令でなければ、この魔導針をそのまま送り返してしまいそうな勢いだ。いや、命令であっても彼女ならどうにかして送り返してしまいそうだが。

 そんな事態にはならないように、神崎は自分が持ってきた書類を差し出した。

 

「これは?」

 

「夜間哨戒シフト調整計画書です」

 

 簡単に言えば、夜間哨戒でのサーニャの多大な負担を少しでも減らそうという計画だ。いくら昼間は休むことができ、時々はエイラがサポートに入るとはいえ、今の体制はサーニャが倒れてしまえば大きく夜間哨戒能力が減少してしまうだろう。だからこそ、神崎はこの計画を考えた。

 

「内容は分かりました。ですが、夜間戦闘航空魔女(ナイトウィッチ)の補充は・・・」

 

「その為の鷹守式魔導針でしょう」

 

「・・・つまり?」

 

 ミーナの眉間の皺が若干取れたのを確認し、神崎は静かに告げた。

 

「自分が鷹守式魔導針を使用し、夜間哨戒のシフトに入ります。・・・これなら、他の航空魔女(ウィッチ)が危険に晒されることもないはずですが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが鷹守式魔導針ですかい?」

 

「はい。私が使用した時に比べ、改良されたようですが」

 

 ミーナから夜間哨戒への参加許可を貰った神崎は、早速BF109-Type Hawkの改修作業を開始した。整備班長に依頼して、外部装甲を外して魔導針の装置を組み込んでいる。整備班長は頭部に付けるヘッドギア型のデバイスを、しけしげと眺めつつ接続検査を行っていた。

 

「鷹守中佐もこんなものを作ってるんですな」

 

「以前使用した時は死にかけましたが」

 

「ハハッ。そいつはなかなかの曲者ですな」

 

 笑いながら作業する班長は検査を終えて、外部装甲を再び取り付けていく。その傍ら、声を落として班長は神崎に尋ねた。

 

「大尉が夜間哨戒を行うということは、もう襲撃はないと?」

 

「・・・と、判断したから、鷹守はこれを送ってきたのでしょう」

 

 外部装甲を取り付けて、弛みがないか確実に点検していく。神崎は軍帽を脱ぐと、疲れたようにヘッドギア型デバイスを取り合げ、自身の頭に装着してみせた。違和感がないように固定具を調整しつつ、口を開く。

 

「取り合えず、今日の夜に飛びます」

 

「早速テストですかい?些か急すぎる気もしますがね?」

 

「このタイミングで届いたということは、何かあります」

 

「以心伝心というやつですな」

 

「・・・ただの危機察知です」

 

 神崎は甚だ心外だとばかりに苦々しい表情を浮かべると、ヘッドギアを幾つか操作を施した後に取り外した。乱れた髪を、大して長くないのでさほど乱れてないのだが、雑にだが見苦しくない程度に整えると軍帽をかぶり直した。

 

「夕方には来ます。そこで、最後の調整を」

 

「了解ですよ」

 

「・・・よろしくお願いします」

 

 気前よく了承の意を示してくれた班長に頭を下げ、神崎は格納庫を後にした。夜までに終わらせなければならない仕事が幾つか残っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緊急発進(スクランブル)もなく穏やかな1日になる予感がする夕方。隊長室で今しがた書類を1枚書き上げたミーナは、イスに座りながら大きく伸びをして窓の外に目を向けた。オレンジ色に染まり始めた太陽が海面をも染め上げ、幻想的な風景を作り上げている。惜しむらくは、大分距離もあり、窓でも遮っているにも関わらず、問答無用で耳を打ってくるエンジン音があることだが。

 

「そろそろ、夜間哨戒に出る時間ね」

 

 このエンジン音もその為の準備だろう。予定では今日はリトヴャク少尉に加えて神崎大尉が飛ぶはずだ。あの連合国最大の汚点と言っても過言ではない鷹守の発明品を運用するなど正気の沙汰ではない。最悪、上層部にでも抗議して命令自体を破棄してしまおうかと考えたが、神崎が試験運用を名乗り出てくれて正直助かった。彼には悪いが・・・と考えたが所で、ミーナは自分の思考の変化に気がついた。少し前の自分なら神崎に対して悪いという感情を抱かなかったはずだ。むしろ、鷹守が発明したのだからとこちらから積極的に押し付けていたかもしれない。 

 

「美緒の言った通りなのかしら・・・」

 

 背もたれに体を預け、そう呟くミーナ。実際のところ、彼に感謝することはあれど、非難することは殆どない。むしろ、信頼し始めている自分が居るのも事実だ。ならば、今後

の自分はどうすればいいのか・・・。

 そんなミーナの思考を遮ったのは、机の上に置かれた電話の呼び鈴だった。ミーナはハッとして受話器をとった。

 

「はい。ディートリンデ中佐です」

 

『思いの外元気そうな声だな。ミーナ』

 

 受話器から聞こえる低めのハスキーな声に、ミーナの眉間には否応なしに皺が寄ってしまった。落ち着いた口調であるはずなのに、楽しげな雰囲気を出している声の主など、ミーナは1人しか知らない。

 

「何のようかしら?グンドュラ?」

 

 グンドュラ・ラル少佐。元カールスラント帝国空軍JG52所属。カールスラント撤退後、東部戦線での激戦の最中に背骨を折るという大怪我を負うも、不屈の精神で短期間のリハビリにより戦線に復帰。その後はウラル、スオムス方面で優秀な指揮官として部隊を率いていたはずだ。普通ならば昔の戦友との会話は嬉しいはず・・・。

 

『戦友の無事を聞く電話をするのに何か問題があるのか?』

 

「普通の戦友は、他人の部隊の人員や予算を奪ったりしないわ」

 

 だが、彼女はその限りではない。彼女は優秀だろう。だが、人員や資材を他から掠め取って自分の部隊に送ることに優秀さを使うべきではない。

 掠め取られた側のミーナが、受話器を持つ手に力が入るのも無理はない。

 

『それは私がしたことではない。書類が妙な動きをしただけだ』

 

「そう。確かに妙ね。どの書類も同じ筆跡みたいだけど」

 

『不思議な事もあるものだ』

 

 よくそんな口が回るものだとミーナの額にピシリッと筋が入るが、罵詈雑言が出てくる前に用件を聞くことにした。

 

「それで?用件は何かしら?」

 

『ふむ。もっと楽しい会話を続けたかったが・・・』

 

 たいして申し訳無さそうな声音でもないくせにそんな言葉を嘯くラルだったが、ミーナが受話器を叩きつける前に本題を口にした。

 

『北欧で新たな統合戦闘航空団が組織されるようだ』

 

「それは機密じゃなくて?」

 

『ミーナだから話している』

 

 言葉だけの意味を取れば信頼の厚さを感じ取れるだろう。しかし、ミーナにはそんな物など微塵も感じなかった。どうせ、人員か装備を寄越せとでも言うに違いない。

 

「・・・それで?」

 

『風の噂で501にいる航空魔女(ウィッチ)が北国で戦いがっていると聞いてね』

 

 そらきた。

 ミーナは眉間を押さえて、苛立ちを噛み殺して口を開いた。

 

「どうやら耳が悪いようね。いい医者を紹介するわよ?」

 

『残念だったな。いい医者はもう知っている。お陰で腰の調子がいい』

 

「次は是非耳の調子を整えてもらいなさい」

 

 ここで1度溜息を吐き、ミーナはイスに座りなおした。

 

「そもそも東部戦線にいる航空魔女(ウィッチ)から手配すればいいでしょう?」

 

『勿論、手配している。東部戦線の部隊は全部リサーチ済みだ』

 

「どうかしら。それが本当なら、この前こっちに着任した人物は来ないはずだけどね」

 

『ほう?ミーナがそう言うなら、余程の人物なのだろうな。後学の為に是非名前を教えてくれ』

 

 興味が湧いたのか受話器越しに衣擦れの音が聞こえた。ミーナは、まさか自分がそんな感情を持つとは思わなかったが、僅かに誇らしげな感情を交えて彼の名前を口にした。

 

「扶桑皇国海軍の神崎玄太郎大尉。男性でも魔法力を持つ魔法使い(ウィザード)確か、所属は第16飛行大隊第343飛行中隊だったかしら?」

 

 ラルはどんな反応をするのか?驚くのか、悔しがるか。聞こえてくるであろう、彼女の声を楽しみにしつつ、ミーナはほくそ笑んだ。

 果たして、受話器から返って来た反応は予想外のものだった。

 

『神崎玄太郎?魔法使い(ウィザード)?初耳だ』

 

「え?」

 

 初耳だということは気の抜けたような声から明らかだ。ミーナは訝しげに眉を顰める。ただの思い過ごしだと考え、それを口にしようとしたが、その前にラルの声が受話器から続けて聞こえた。

 

『私がスカウトした航空魔女(ウィッチ)に管野直枝という奴がいる。彼女は343中隊に所属していたから、徹底的に調べたさ。だが、その中に神崎玄太郎という魔法使い(ウィザード)に関しては姿形も、名前さえ見た覚えがない』

 

 受話器から聞こえるラルの声は、先程の人を食ったようなものではなく真剣なものだった。

 

『ミーナ。そいつは本当に東部に存在していたのか?』

 

 簡単に言える反論ならば、ただのラルの調査漏れだろう。しかし、彼女の能力を知っているミーナだからこそ、彼女が調査漏れなどするわけないと確信していた。しかし、ミーナも独自で上層部に再三問い合わせ、神崎が東部にいたと言う書類を確保している。

 

 ラルの調査が不完全なのか、ミーナが受け取った書類に不備があったのか、それとも・・・上層部が神崎の存在を偽装しているのか。

 

「・・・」

 

 滑走路から離陸していくストライカーユニットのエンジン音を聞きこえる中、ミーナは何も答えることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『数分後・・・予定チェックポイントです。後は・・・』

 

「エスコート、助かった。後は大丈夫だ。哨戒、よろしく頼む」

 

『はい・・・!神崎さんもお気をつけて・・・』

 

 身の丈ほどもあるフリーガーハマーを担いで先頭を飛行していたサーニャは、振り返って小さな笑みを浮かべて離れていった。

 もうすぐ日が沈むという薄暮時。

 MG34を背負った神崎は鷹守式魔導針のテストの為に夜間飛行を実施していた。この空域での夜間飛行は訓練で行ってはいるものの、大事をとって最初だけはサーニャを付けることになっていた。

 

「魔導針は・・・問題なし」

 

 サーニャと別れ、予定されたルートに入った神崎は、ヘッドギアから伸びる魔導針を見て、呟いた。左右の側頭部から伸びる赤い大きな2本のアンテナと、右のこめかみから伸びる短い補助アンテナは、安定して発光していた。数年前、アフリカで使用した時は並の航空魔女(ウィッチ)では賄いきれない量の魔法力を必要としたが、今回の物はある程度消費は抑えられていた。

 

「度重なった試作品のテストも無駄にはならなかったか・・・」

 

 夜間戦闘が必要になる度によく分からない装置をストライカーユニットに組み込まれていたが、その結果がこの魔導針に繋がったのなら苦労した甲斐があったというものだ。・・・だいぶ死線を潜らされたが。

 今回の飛行用に指定されているルートはブリタニア本島の南部をグルリと1周するものだ。市街地を通らないので目印となる街灯りが殆どない。だからこそ、魔導針のテストには最適だった。

 

「よく分からない故障が起こって帰る羽目にならなければいいが・・・」

 

『アッハッハ!言うねぇ、神崎君!今まで無茶な物を沢山押し付けてきたけど、故障は無かったんじゃないかな?』

 

「全く役に立たない機能は沢山あったがな・・・って」

 

 神崎はごく自然にインカムから流れてきた声に、軽く眉間に皺を寄せた。

 

「鷹守、直接通信して大丈夫なのか?」

 

『大丈夫!大丈夫!今、君への通信は雑音のせいでできないから!機材の不具合は怖いねぇ』

 

 神崎の心配を笑いながら否定するのは、鷹守勝巳中佐。対共生派の実働部隊『(シュランゲ)』の隊長兼技術開発顧問(マッドサイエンティスト)。神崎が501に配属されてから直接話すのは初めてとなる。

 

「このタイミングでお前が接触してきたということは・・・航空支援か?」

 

『ご名答~!いやぁ、神崎君とは以心伝心で嬉しいねぇ!!』

 

「御託はいい。・・・説明を」

 

『よぉし!いくよぉ!作戦はねぇ、指定空域に行って、指定場所に向かって、指定された炎を撃つ!簡単!単純!!作戦は簡潔明瞭が肝!僕も学んだよ~!』

 

「実行側はそうでもないんだがな・・・。方向は?」

 

『あと、3分後に南西方向に向かって降下して、後は魔導針の反応を辿って、よろしく!』

 

 あまりにも適当な指示に、神崎は思わず眉間を押さえてしまった。そんな指示では、目的地に辿り着くものも辿り着けない。

 

『あ!降下してくれたら、地上の人達から誘導するからね!』

 

「それを先に言え」

 

 地上部隊は何度もこちらを誘導している。彼女達ならば誘導に失敗することはないだろう。すぐにでも実行可能だが、不安要素もあった。

 

「管制はどうする?俺が予定外の行動を取れば・・・」

 

『大丈夫!指示は出してるから、ブリタニア空軍のレーダーも、501基地のも、君の動きは黙認するから!』

 

 つまり、一連の行動は隠匿される。これで不安要素は消えた。神崎はコキリと首を鳴らし、魔導針の電波に神経を尖らせた。鷹守の言葉通りなら、もうそろそろ作戦実行のタイミングである。

 

「分かった。なら・・・。ウルフ1、作戦を開始する」

 

 そう宣言した神崎は一度ロールをして降下を開始した。魔導針は問題なく稼働し、電波は舐めるように地表を浚い、神崎の視覚に地表を写し出していた。熟練の航空魔女(ウィッチ)でも気を抜けば身がすくんでしまう夜間の低空飛行を、眉を1つ動かすだけで飛行してみせた。しばらくすると、鷹守の言葉通り、誘導の通信が入ってきた。

 

『さてさてさて、聞こえてるかな?ウルフ1』

 

「・・・こちら、ウルフ1。感度良好。ファインハルス、指示を」

 

『針路そのまま。その後、こちらのタイミングで緩やかに右旋回。そこで発炎筒による標的の指示が出る。目標は、地下要塞。周囲には障害となる山もない。具体的な方法は任せる。・・・まぁ、そんなところだ。よろしく頼む』

 

「簡単に言ってくれる・・・。了解・・・!」

 

 ファインハルスは簡単に言ったが、実行する方からしたら難題である。しかし、出来ない訳ではない。

 

神崎は両手を一度握り締め、魔法力を集中させ始めた。敵基地が地下に作られたのならば生半可な魔法力では打撃を与えることがてきない。通常よりも大量の魔法力を意識して右手に収束させる。そして、収束した魔法力は渦巻き、熱を持ち、炎となる。

 

『5、4、3、2、1、NOW !! 』

 

「・・・ッ!!」

 

 両手に白熱した炎を灯し、インカム越しに伝えられたタイミングで緩やかに右旋回を開始した。自身が巻き起こす突風により森の木々が暴れるのを尻目に、神崎は右目だけ魔導針からの自覚情報を切ることで、森の狭間から覗くであろう合図を捉えることに集中した。果たして、木々の隙間から覗く赤炎を捕捉した。おそらくあれが、地上部隊が設置した合図だろう。

 

「目標捕捉」

 

『地上部隊は目標から半径200mで待機している。できれば、あまり外さないで欲しいがね』

 

「善処しよう・・・ッ!!!」

 

 ファインハルスの軽口に応えた神崎は、赤炎の上空を通過するタイミングで一気に機首を上げるのと併せて左手の炎を真下に噴出することにより、ほぼ垂直に急上昇してみせた。そして、ある程度の高度を確保した段階で急激に出力を絞り、重力に任せて降下開始する。

 クルリと身を翻して下方を向けば、森の中で僅ながら切り開かれた草地に煌々と燃え上がる発炎筒を見ることができた。

 

「・・・往けッ!!!」

 

 白熱した右腕の炎を短い気炎と共に放つ。その直後に空気が焼ける音を間近に聞きつつ、機首を水平へと向けて戦果確認へと移行した。

 解き放たれた炎は、槍のような姿を形作ると、酸素を焼き付くしながら飛翔し、発炎筒の地点に寸分たがわず、深々と突き刺さった。そして、一瞬の間が空き・・・地表を抉り飛ばす大爆発が引き起こされた。さながら、火山の噴火か隕石の衝突か・・・。地表の有り様を確認した神崎は、軽く頷いてインカムに手を当てた。

 

「爆撃完了。再攻撃の要は?」

 

『不要だよ。十分すぎる突破口だ。隣のお姫様は土が飛んできてご不満のようだがね』

 

 インカム越しにゴスッという鈍い打撃音が聞こえたが、神崎は努めて無視して短く返答を残した。

 

「了解。ウルフ1、任務完了。本来任務に戻るぞ」

 

『ああ。北に上昇したら我らが隊長の指示を受けたまえ』

 

「了解」

 

 神崎は一周だけ攻撃地点の周りを飛行すると、すぐに上昇へと移行した。その時に切っていた右目の視覚情報を戻すことを忘れない。魔導針が写し出す夜の空は、地上の喧騒とは断絶したような静けさを湛えていた。

 

『さぁて、お疲れ様、神崎君。いい仕事をしてくれたねぇ。これでブリタニアの主要な共生派の拠点は無力化できそうだよ』

 

「いきなりの任務は御免だ・・・。地上部隊は?」

 

『たった今、ファインハルスくんから突入開始の報告が入ったよ。神崎の爆撃のお陰で敵は大混乱。まさか力業で来るとは思ってもなかったろうね!!』

 

「当たり前だろう」

 

 普通は考え付くはずもない。神崎が嘆息する時には、既に当初の夜間飛行で規定されていた高度まで上昇し終えていた。後は当初のルートに復帰すれば、問題ないはずである。

 

「鷹守、この後のルートは?」

 

『後、5分程このままのコースを維持すれば、当初のルートに戻れるさ。後は、管制官の指示に従えば問題なし!その頃には、レーダーとかの不調も回復してるでしょ。じゃあ、気を付けてねぇ~』

 

 気の抜けた返事の後にインカムは沈黙してしまった。彼の言葉を信じるならば、後5分後には管制からの通信が入るだろう。それまでは、暗闇の中で独りとなる。

 

「これからは、静かな夜が続けばいいんだがな・・・」

 

 少なくとも、これまでのような夜中の襲撃に駆り出されることは少なくなるだろう。それは純粋に嬉しいことだった。

 夜風と共に月光の優しい光を受け、神崎は久しぶりにのんびりとした飛行を楽しむ。だが、そんな時間も僅か数分のことだったが。

 

『・・・神崎大尉。聞こえますか?神崎大尉?』

 

「こちら神崎。予定ルートを飛行中」

 

 インカムから聞こえたのは焦った管制官の声。鷹守が仕掛けた不調の対処でだいぶ骨を折ったようだ。

 

『こちらはブリタニアコントロール。レーダーの不調でそちらの動きを把握できていませんでした。何か問題はありましたか?』

 

「問題なし。敵影もなし」

 

『了解。そのまま予定ルートを継続して下さい』

 

「了解」

 

 神崎は通信を終えると、のんびりとした飛行を再開した。夜の空は先程の喧騒を呑み込んでしまうような静けさを保ったままだった。

 

 

 




発進します!の劇場版も楽しみですね!
個人的にブレイブの発進します!も好きなのでアニメ化はよ

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