運命の叛逆者達 【ウルトラマンジード×FGO】   作:K氏

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 「アイデアばっかりで全然小説完結できんやないか猿ゥ!」という自戒の意も込めて。
 前後編のなら完結できるやろ……(慢心)


運命の叛逆者達【起】

「ハァッ!」

「ムゥン!」

 

 その日、宇宙の命運を賭けた一つの戦いが、地球で繰り広げられていた。

 

 悪に染まったウルトラ戦士――ウルトラマンベリアル。数多の敗北を越え、幾度も復活を遂げ、あらゆる世界にその脅威を知らしめたこのウルトラマンは、本来の出身地であるM78星雲の存在しないこの宇宙においても、脅威であり続けた。

 

――クライシス・インパクト。その昔、ベリアルは超兵器『超時空破壊爆弾』をもって、地球を起点に宇宙を破壊しようとした。そして、ウルトラ戦士達の健闘空しく、超時空破壊爆弾は無情にも作動。

 だが、その崩壊は防がれた。伝説の超人、ウルトラマンキングがその身を宇宙そのものと一体化するによって。

 

 しかし、キングがその身を呈して宇宙の修復に当たっている間も、ベリアルは密かに活動を続けていた。自らに忠誠を誓うストルム星人――伏井出ケイを、自らの駒として暗躍させながら。

 

 光の国から、一つで戦局をひっくり返す事が出来るとされる『ウルトラカプセル』と、その起動装置とも言うべきアイテム、『ライザー』の奪取。

 そのウルトラカプセルを元にした、怪獣カプセルの作成。

 そして――ベリアル復活の為の礎となる、ウルトラマンになり得る生命体(模造品)の創造。

 

 全て、上手くいっていたはずだった。宿敵であるウルトラマンゼロも、かつて自分を苦しめたウルティメイトイージスを封じられ弱体化した。

 途中、伏井出ケイの狂信から来る独断専行や、息子――ウルトラマンジードこと朝倉リクの成長が、緻密に練られた計画にアクシデントをもたらした。だがベリアルはそれすらも挽回し、遂にはケイの持つ位相反転器官『ストルム器官』を我が物とし、更にエンペラー星人とダークルギエルのカプセルを使用する事で、最凶最悪の形態――ウルトラマンベリアル アトロシアスへと強化復活した。

 

 ウルトラマンとも、ベリアル融合獣とも異なる究極生物となったベリアルは、ウルトラマンゼロの最強形態であるゼロビヨンドと戦い、これを打ち負かした。もはや用済みとなったケイの()()()()()()もあったが。

 自分に何事かを為そうとしたストルム星の宇宙船も叩き落とし、ベリアルは勝利を確信した。

 直後、ジードが乱入するも、これも一蹴。勝利を確信したベリアルだったが……ゼロの決死の行動が、彼の運命(フェイト)を変える事となった。

 

 宇宙と一体化した事で、宇宙中に拡散したウルトラマンキングのエネルギー――カレラン分子をストルム器官によって反転吸収していたベリアルだったが、AIBが開発した分解酵素ガスの入ったミサイルを撃ち込まれた事で弱体化。

 そのゼロは倒したものの、今度はM78星雲から飛んできたウルトラの父(ウルトラマンケン)の妨害。

 それによって時間を稼がれ、ウルトラマンジードと再戦する羽目になってしまう。

 

――自らの遺伝子を持つとはいっても、所詮は模造品。たった19年しか生きておらず、その過程でキングの力の欠片を得ていたとしても、自分には遠く及ばない。そのはずだった。

 

 だが、実際にはどうか。

 

 確かに、弱体化してもなお、ベリアルはジードを圧倒していた。ジードの最初の形態(プリミティブ)と同種の技を使い、自分の方が格上だと、恐怖を刻み込もうとした。

 

 だがジードは、ベリアルの息子たる朝倉リクは、ケンが認めた若きウルトラマンは、決して諦めなかった。

 その諦めない心が、思いもよらぬ奇跡を起こす。

 

 キングの幻影がジードの背後に現れたかと思うと、ジードと並ぶように光が集まり――それぞれがジードの別形態となって現出した。

 

 始まりの姿(プリミティブ)堅牢なる炎の姿(ソリッドバーニング)鋭きを以て打ち破る姿(アクロスマッシャー)崇高なる戦士の姿(マグニフィセント)運命を変える王の姿(ロイヤルメガマスター)

 

 どれ一つとしてジード(リク)の本当の姿では無い。だがしかし、どれも確かにジード(リク)であった。

 

 これまでの戦いで築き上げてきたもの、培ってきたもの、そして自らの想いを胸に、五人のジード(息子)ベリアル()に立ち向かう。

 

 その末にジードはベリアルを元の形態へと戻し、つい先程自らの光線(レッキングバースト)と、AIBの捜査官ゼナが操る時空破壊神ゼガンの光線の衝突によって生み出された時空の裂け目に、ベリアルを連れ込む事に成功し、そして今に至る。

 

 ジード――朝倉リクは、ベリアルとぶつかり合う度に、自らに暗い感情が流れ込んでくるのを感じていた。

 それと同時に、ベリアルの記憶も一緒に流れ込んでくる。

 

 嫉妬の末に強大な力を求めながらも、その力に耐えきれず、光の国を追放された事。

 その心の闇に付け込まれ、レイブラッド星人の力により今の姿になった事。

 光の国を襲撃し、かつて焦がれた力であるプラズマスパークを一度は奪った事。

 後に何度も激闘を繰り広げる事となる宿敵、ゼロと初めて戦い、そして敗北した事。

 激しい心の闇と怨念で幾度となく蘇り、別の宇宙にまで悪意を振りまいた事。

 自らを甦った死者として操ろうとした愚か者を、自らの手で始末した事。

 ケイを含む部下と共に、クライシス・インパクトを起こした事。

 

 怒りや悲しみ、憎しみといった膨大な負の感情に彩られた過去を垣間見たリクは――父親であるベリアルと繋がった精神世界で、彼を抱きしめた。その目から涙を流しながら。

 

「何度も何度もあなたは生き返り……深い恨みを抱いて……」

 

 奇しくもそれは、かつて初めてベリアルと戦った時と、同じような構図だった。

 あの時はベリアルに吸収され、そしてリクの孤独を慰めるように――実際にはジードを完全に取り込む為に――ベリアルがリクを抱きしめた。

 あれが本心から来るものだったのか、それは分からない。

 だが、例え本心でなかったとしても、そう振舞ってただけだとしても構わない。

 あの時のベリアルは、確かに自分の父親だったのだから。

 

 だから――

 

「疲れたよね……もう、終わりにしよう……」

 

 戸惑うベリアルの背中から、異形の宇宙人――恐らくは記憶にあったレイブラッド星人、その怨念――が抜け出していく。

 すると、彼の身体から立ち昇っていた禍々しいオーラが消え、その肉体に変化が起こる。……否、変化ではない。ただ元に戻っているだけ。

 禍々しい爪が。吊り上がった赤い目が。異常に盛り上がった筋肉が。何より赤と黒の体色が。

 レイブラッド星人の怨念が抜け落ちた事で、全てが光の戦士だった頃の彼(アーリースタイル)へと戻っていく。

 

 しかし、それはあくまでも精神世界だけでの変化。

 

「分かったようなことを言うな!」

 

 時空の裂け目で戦うベリアルは、なおも闇に身をやつしたまま。

 だが、その言葉に余裕はない。邪悪の権化だった頃とは打って変わり、今の彼はまるで恐れ、抵抗しているかのようだった。

 

――恐れている? 誰を?

 

 ベリアルは、その考えを振り払うように、腕を交差させた。左腕は水平に、右腕は垂直に。そして、手の平を忌むべき敵たるジードに向ける。

 

「ヌゥアァッ!」

 

 唸りと共に、手の平から赤いプラズマと共に闇の光――デスシウム光線が放たれる。

 それに対抗するように、ジードも瞳を光らせ、腕を交差させる。

 

「レッキングバーストォォォォ!!!」

 

 今の彼を形成する二本のウルトラカプセル――初代ウルトラマンの光と、ベリアルの闇が絡み合い、縦に構えた右手に集まる。そして、ベリアルと同様の赤いプラズマと共に、ベリアルとは対照的な黒混じりの白い光の光線が放たれる。

 

 ぶつかり合う、光と闇の二つの光線。

 光線同士の競り合いで火花が飛び、周りの空間が俄に歪む。

 

 互いに譲らぬ攻防。それまでのジードであれば、ベリアルとの純粋な力の差で押し負けていただろう。

 だが、今のリクに負ける気はない。今のリクなら、負けはしない。

 

――この一撃で、終わらせる。

 

 その確固たる意志が、遂にベリアルの光線を押し返す!

 

「ジイィィィィィドォォォォォォ!!!!」

 

 怨嗟の声を上げ、光線が衝突したベリアルの肉体が爆ぜる。

 

――終わった。

 

 そうリクが確信した瞬間だった。

 

「ま、だ、ダァァァァァ!!!」

「ッ、何!?」

 

 爆ぜたベリアルの身体の中から溢れ出る闇が、ベリアルの顔を形作る。

 そしてそれは、真っ先にジードの方へと向かって行く。

 

 咄嗟に両腕をクロスさせて防ごうとするジード。だが、ベリアルの残滓はジードを襲う事無く通り過ぎると、時空の裂け目内に出来た空間の歪みへと飛んでいく。

 

「ま、待て!」

 

 揺らぎの中にベリアルが逃げ込もうとするのを、ジードが追う。

 

 その先にあるのは――

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

「……認めぬ」

 

 そこは、さながら宇宙空間のような場所であった。

 広大に広がる闇に、星々が宝石のように輝きを放っている。

 その中心――宇宙で中心という言葉はおかしいが――には玉座のようなものがあり、そこに一人の男が座している。

 

「認めて、なるものか」

 

 浅黒の肌に、三つ編みに結ばれた白い髪。見るからに現代離れした衣服に身を包んだその男は、その目を赤黒く染め、口元を歪ませる。

 有り体に言えば、彼は怒っていた。

 

「たかが……たかが外側から来た怨念如きが、我が三千年の計画を台無しにする可能性などッ!」

 

 この計画は、間違いなく完遂されるはずだった。人理焼却によってこの世界を焼いた今、残された人間など取るに足らないと、そう考えていた。

 カルデア。人理修復の為に奔走する、憐れなゴミクズ共。それがどれだけ無意味な事かも知らず、特異点を駆け巡る愚か者。

 いくら英霊を召喚しようとも、彼……否、()()には遠く及ばない。

 そう考え、静観していた。

 それ以上に危惧すべき案件は――と、そこまで考えた時だった。

 

 突然、空間が揺らぐ。

 

 まさか、奴らが攻め込んできたのかと警戒した彼らだったが、明らかに気配が違っている。

 魔力とは異なる力の波動。それを纏う、禍々しき何か。

 それが、時空そのものを歪めながら、地球に迫ってきていたのだ。

 

「何者だ! 一体何処から――」

 

 急ぎ走査するものの、まるで正体が掴めない。それこそ……そもそもこの星の生命とは異なる存在であるとしか。

 

(ヴェルバー……いや、アレとも異なる。なんだ。なんなのだ、これは!)

 

 自らの知識で知り得る、実在する外宇宙的存在とは異なる何かに、彼らは恐怖し、驚愕し、そして憤怒した。

 そこから、先程の否定の言葉へと繋がる。

 

「止めねばならない。他ならぬ、我が手によって」

 

 彼らは分かっていた。アレを放置すれば、我が理想は達成されないと。

 

 故に、彼らは飛んだ。

 

 向かった先は、1888年の霧の街、ロンドン。

 奇しくもそこは、カルデアが第四特異点と定め、事態の解決の為に向かった場所であった。

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

「――オォォォッッ!!」

 

 魔の霧に包まれたイギリス、ロンドン。そこでも、今まさに壮絶な戦いが繰り広げられていた。

 

 一難去ってまた一難。魔霧計画の首謀者の一人が召喚せしめた英霊――二コラ・テスラの雷電の力による、人理の崩壊。それを阻止した矢先に、それは現れた。

 

 渦巻く漆黒の長槍を手に、竜を思わせる漆黒の鎧と禍々しき魔力を纏い、漆黒の馬に跨る女傑――ランサークラスのサーヴァント、アーサー王。騎士王アルトリア・ペンドラゴンのifの姿が、聖杯の呪いを帯びたもの。

 

 黒き暴虐。嵐の王。荒ぶる力の化身となったかの王と、カルデアの面々は激しい戦いを繰り広げていた。

 

「アァァァサァァァ!!!」

 

 そんな彼女に真正面からぶつかっていく、赤い雷光。二本の角を持つ竜を思わせる鎧を纏う彼女の名は、モードレッド。

 他ならぬ、アーサー王のクローンにして、息子。かつてカムランの丘における戦いにて、アーサー王に叛逆し、アーサー王と刺し違えた、叛逆の騎士。

 

「モードレッド!」

「モードレッドさん! 無茶しないでください!」

 

 その後方から、二人の男女が呼びかける。カルデアのマスターである少年と、そのサーヴァント――正確に言えばデミ・サーヴァント――のマシュ・キリエライト。

 魔力を放出しながらの凄まじい剣捌き故に、マスターの方は目が追い付かず、デミとはいえ、まがなりにもサーヴァントであるマシュは、ギリギリそれを追うのに必死であった。

 

 黒きアーサー王が現界した理由は、分からない。魔霧を触媒にしたというのは分かるが、先の二コラ・テスラ同様、狂化を施された為か、一言も喋らないのだ。そこにあるのは、純粋な敵意。向かってくる敵をただ屠るという意志。しかし、その実力は本物であった。

 現に、アクロバティックな動きで四方から斬りかかるモードレッドの剣を、彼女は馬に騎乗しているという、自身の動きを制限した状況にありながら、それらをある時は槍で、ある時はひらりと身をかわし、捌いているのだ。それどころか、こちらの動きを見切った上で攻めてくる始末。人馬一体とはまさにこの事だろう。

 

――だが、こんなところで終わるようなモードレッドでは、否、カルデアの面々ではない。

 

「……チィ! 宝具を撃つ気か!」

 

 アルトリアが宝具たる黒き槍――『最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)』を振りかざすと、そこに魔力が集中していくのが感じられる。その瞳には、相も変らぬ冷徹さがあった。

 

「いいだろう! 受けて立つ!」

「こっちも行こう! マシュ!」

「はい!」

 

 それを迎え撃たんと、モードレッドは更に魔力を放出し、マスターがマシュに指示を飛ばす。

 

 モードレッドの被っていた兜――『不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)』が展開し、中に隠されていた金髪が解放され、ふわりと揺らめく。その顔は、血色や目つきを除けば、眼前にいるアルトリアのそれとほぼ同じだった。

 

「まずは私が! ――宝具、展開します!」

 

 その一声と共に、マシュが身の丈程もある十字状の黒い盾を構えた。瞬間、盾から半透明の守護障壁が出現。

 

 『仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』。シールダーのサーヴァントたるマシュらしい、守る為の宝具。といっても、これ自体は本当の名前ではなく、今は亡きカルデア所長……オルガマリー・アニムスフィアが命名した、仮初の宝具でしかない。しかしその頑丈さは、かつて最初の特異点F、冬木の地で対峙したセイバー――こちらも反転したアルトリアだった――の聖剣、『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』を防いだ程だ。

 

 障壁が貼られたと同時に、アルトリアの『最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)』が、黒い風を渦巻き纏う。それをマシュ達のいる方に向かって突き出せば、みるみるうちに黒い竜巻となって殺到する!

 

 直撃した瞬間、マシュの立っている場所がめり込む。

 

「く――アアァァァ!!!」

 

 あまりもの威力にその場で倒れてしまいそうになるのを、雄叫びを上げ、自らを鼓舞し、耐える。

 

――今此処で踏みとどまらねば、後ろにいるモードレッドさんを、そしてマスター(先輩)を誰が守るというのだ。気張れ、マシュ。此処が正念場だ!

 

「………!」

 

 アルトリアの目に、確かな驚愕の色が生まれた。『最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)』による攻撃は、確かに通じている。だが、その威力は見るからに減衰している。これまでの戦いで、マシュの『仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』は、確かに成長していた。

 

「――よく耐えたな、マシュ。後は任せな!」

 

 全てとまでは行かないが、それでも威力をほとんど削いだ事で、モードレッドへのダメージも大した事は無かった。

 そのモードレッドは、手にした宝剣――『燦然と輝く王剣(クラレント)』を立てて構える。

 

「これこそは、わが父を滅ぼし邪剣――」

 

 それは、宣言。かつて(アーサー王)を斃したという証。そして、これからもう一度、父を屠るという覚悟。全ては、理不尽に叛逆し、ロンディニウムを守る為に。

 その言葉に応えるように、『燦然と輝く王剣(クラレント)』の柄辺りのパーツが展開し、赤く禍々しいオーラを纏う。

 『燦然と輝く王剣(クラレント)』の増幅の力によって膨れ上がった彼女の魔力、そして父への想いは、赤雷となって収束していく。

 

「――『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!」

 

 極限まで収束された叛逆の赤雷を、宝具を撃ち終えたアルトリアに向かって放つ!

 

 さながら光線のように飛んでいくそれを、アルトリアはただ、黙したまま見つめ――そして、貫かれ、飲み込まれた。

 

『や、やったか!?』

 

 マスターの持つ腕輪型の通信装置越しに、カルデアの医療部門のトップであり、同時に所長代理を務めるロマニ・アーキマン、通称Dr.ロマンが思わず声を上げる。

 

――果たして、『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』の光に飲み込まれたアルトリアは、まだ立っていた。だが、相当疲弊しているであろう事は、誰の目から見ても明らかであった。アルトリアの騎乗する黒馬ラムレイも、息を荒げている。

 

「まだ立つか! ならトドメを――」

 

 そういきり立つモードレッドの歩みを止めたのは、通信装置の向こう側からのアラートであった。

 

「な、なんだ!?」

『た、大変だ! 突然、こっちの機器が謎のエネルギーを感知した!』

「謎の、エネルギー?」

 

 魔力ではないのかと、マスターの少年とマシュは首を傾げる。

 

『そうだ。魔力とも違う。これは……未知のエネルギーと言っても差し支えない。何せ、少なくとも地球上でこんなエネルギーを観測した前例がない!』

 

 答えたのは、カルデアが初期に召喚したサーヴァントの一人、レオナルド・ダ・ヴィンチ。モナ・リザをモデルに自分の肉体として再構築したと宣う変人、もとい天才の麗しい顔が驚愕に染まり、目をクワッと見開いている。

 

『反応は――真上!? 来るぞ!』

 

 ロマンの声を聞き、弾かれるように一同は上空を見上げる。

 

 そこには、これまでに巡ってきた三つの特異点、そのどれにもあった光の環のようなものが相も変わらず浮かんでいる。

 異変が起きたのは直後、その中心辺りからだった。

 

「なんだ、あれ……?」

 

 ぽかんと見上げる一同の視線の先で、空間が歪み始める。

 ぐにゃり、ぐにゃりと様々な方向に歪んだかと思えば、ガラスが割れるような音がロンドンの街に響き渡る。

 その音と共に、光の環の中心に、まるで物理的に窓ガラスを砕いたかのような穴が現れたのだ。

 その向こう側に、おどろおどろしい色彩の空間が広がっている。

 

「……何か、来る」

 

 モードレッドの直感が、そう囁く。

 

 割れた空間の向こう側から、赤黒の(もや)のような何かが飛んでくる。

 

 不思議な事にその靄には、吊り上がった人のものならざる目が輝き浮かんでいるのだ。

 

――いや、あれはもはや靄どころか、闇だ。

 

「魔神柱……?」

「いや、違う……でも、あんなの見た事無い……!」

 

 それを見た瞬間、マスターとマシュは、揃って身体を凍り付かせた。

 恐怖。圧倒的な恐怖だ。あの靄を見た瞬間、恐怖の感情が肉体を支配したのだ。

 

「ッ、しっかりしろお前ら!」

 

 金縛りのように固まってしまった二人を、歴戦の騎士たるモードレッドが立ち直らせようとする。

 

 そうしている間に、赤黒の闇は何かを探すようにしばらく宙を漂い――

 

『――丁度いい』

 

 突然、ある方向に向かって飛んでいく。

 

『なんだ!? 急に動き出して――って、あの方向は!』

「……! 野郎!」

 

 それに気付いた時には、もう遅かった。

 

『貴様の身体、もらい受けるぞ』

 

 闇はアルトリアの元へと飛び掛かり、その身体を包み込む。

 

 アルトリアは声も上げず抵抗するが、闇はどんどん、身体の中へと侵入していく。

 

「テメェ!」

「ま、待ってモードレッド!」

 

 マスターの静止の声も聞かず、モードレッドが飛び出す。

 

 その間に、闇はアルトリアの肉体の中へと潜り込む。彼女は身体をビクリ、ビクリとうねらせ――やがて、糸が切れた人形のように項垂れ、動かなくなった。

 

「父う――」

 

 え、と言い終わる前に、モードレッドは吹っ飛ばされてしまった。

 突然、彼女から赤黒い波動が爆発的に放たれたのだ。

 波動はアルトリアの身体を包み込み、その肉体を支配した者の扱いやすいように、何もかも書き換える。

 

「…………あれ、は」

 

 ごくり、と唾を飲み込んだのは、はたして誰だったか。

 

 波動が消え、その中にいたアルトリアの姿が露わになる。

 

――先程までのような鎧姿ではなく、血のような赤いボロボロのマントを羽織り、ハイレグの黒いタイツのような際どい衣服を纏い、青白く豊満な胸の下半分から腹部が露出している。

 更に、頭部や顎、腰部などに竜の鱗を思わせるようなパーツが現れ、さながら稲妻のように血管のような赤い光のラインが、青白い肌を含めて走っている。

 腕の装甲も、先程までのアルトリアのそれよりも肥大化し、まるで竜か悪魔の爪のように変じていた。

 

 その下にいるラムレイも、黒い体表に赤のラインを走らせ、先程以上に息を荒げ、興奮しているようだった。

 

「……ふむ。それなりに馴染む。あの女よりも、いい器らしい」

 

 しばらくして、アルトリアが口を開く。だが、彼女の口から聞こえてきた声は、奇妙な事に一人だけとは思えなかった。アルトリアの声と一緒に、男の声が聞こえてきたのだ。

 

「……テメェ、何者だ」

 

 吹っ飛ばされたモードレッドは、剣先をアルトリアに……アルトリアに取り憑いた何者かに向ける。

 

 剣を向けられたアルトリアはと言えば――妖艶に、しかし邪悪な笑みを作った。

 

「ほう。この肉体の知り合いか」

「何者って訊いてんだろ! 答えろ! さもなくば斬る!」

 

 殺気を漲らせながら、モードレッドが吠える。

 だが、アルトリアに取り憑いた者は彼女の殺気を一身に受けながらも、愉快そうに笑う。

 

「そうかそうか……く、ハハハ……」

「何がおかしい!?」

「お前、この肉体の息子か。しかも、クローンとはな」

「――ッ!?」

 

 今度は、モードレッドが驚かされる番であった。何故、コイツが自分の出生の事を知っているのか。

 

「ど、どういう事なんだ……? まさか、円卓の騎士の知り合い? それとも敵?」

「で、ですが先程の口ぶりからすると、先程までモードレッドさんの事を知りもしないようでしたが……」

 

 マスターとマシュは困惑しつつも、その正体を探るべく思考を巡らせる。

 

 その答えは、あっさりと打ち明けられた。

 

「何、この肉体から記憶を引っ張り出しただけの事。――肉体を支配するのは、以前にもやったからな」

『何だって……!? じゃあ、霊的な存在だっていうのか!?』

「近いようで、違う。俺は不死身だ」

 

 ロマンは頭を抱える。

 似たような存在であれば数多くいるが……今この場に現れる可能性のある存在と言えば。更に、空に出来たあの穴。

 

『……なるほど。なら、君は何処かの英霊か……いや、どちらかと言えば反英霊か? 仮初の肉体を得て現界できず、そこのアーサー王の肉体に憑依したといったところなのかな?』

「ほう。英霊……聞きなれない言葉だが、半分は正解だ。どこのどいつかは知らんが、()()()()()頭はいいらしい」

『……ッ、それなりに、とは随分と侮ってくれるじゃないか』

「短命な地球の虫けらなぞ、知った事じゃない」

 

 ソレの、明らかに見下すような口ぶり。まるで、自分がそれ以上の上位者であるとでも言いたげな。

 その口ぶりは、マスターとマシュにある人物を想起させた。

 

「……お前は、あの魔神柱の……レフの仲間なのか?」

「先輩……!」

 

 レフ・ライノール・フラウロス。かつてはカルデアの技師であり、マシュやオルガマリーと親しい仲であり……人理焼却という地球規模の災厄を起こした黒幕の仲間。

 まさか、目の前の何かが、レフの言っていた『王』なのではないか。

 そう思っての質問だったが……

 

「レフ? 誰だそいつは」

 

 どうやら違うようだ。こうなってくると、まるで正体が掴めない。

 

 だが、そんな事などお構いなしなのが一人。

 

「ンな事ァどうだっていい! まずその肉体から――アーサー王の肉体から、離れやがれェェ!!」

 

 モードレッドが、激昂しながら再度突進。アルトリアに、父に複雑な感情を持つ彼女としては、眼前の何者かがどうしようもなく許せないのだ。

 だがソレは、依然として余裕の態度を崩さない。

 

「ふん。英霊というのは、人間以上の存在らしいが――」

 

 そう言いながら右腕を振るうと、闇が集まり、一本の槍を顕現させた。それは、一見すると先程までのロンゴミニアドのようだが、今は常に赤いスパークを放っており、今にも暴発しそうな危うさがあった。

 それに構う事無く、ソレは槍を軽く振るった。

 

「何!? がッ――」

 

 赤黒い三日月状のエネルギー波が猛スピードで放たれ、モードレッドの腹部に直撃。

 火花と鎧の破片を散らしながら、モードレッドが吹っ飛んで行く。

 

「モードレッド!」

 

 街のアパルトメントの一つに、土煙を上げながら激突したモードレッドが心配になるが、しかし背を向けて走り出す事が出来ずにいた。

 それ程までに、この眼前の存在は圧倒的だったのだ。

 さっきまでのアルトリアも十分脅威だったが……それ以上に危険な存在だと、マスターもマシュも、本能的にそう悟っていた。

 

「下らん。何時ぞやの地球人どもの方が、遥かにマシだ」

「……何者、なんだ」

 

 マスターは、絞り出すような声でそう問いかける。

 この存在は、明らかに異質だ。まるで――

 

()()()()()()()()()()()()()?」

 

 そう問われたソレは、愉快そうにカラカラと笑った。

 

「今更気づくか。なるほど、どうやら俺が思った以上に、()()()()()平和だったらしい!」

「この地球? どういう意味だ!」

 

 そのままの意味さ、とソレは答えた。

 

「お前らの反応を見る限り、此処はウルトラマンのいない世界らしいな。丁度いい……この世界には、再び光の国を滅ぼす為の足掛かりになってもらうぞ!」

 

 何を、と問いかける前に、ソレは禍々しいオーラを振りまきながら、ラムレイを駆り飛び上がる。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 見る見るうちに天高く昇ったソレは、自分の内側にある、あるものの存在を確かめる。

 

「……あの時の攻撃でキングのエネルギーは霧散させられたが……ストルム器官はまだ使えるらしいな。喜べ、ストルム星人。お前にはまだ、利用価値があった」

 

 ソレはアルトリアの顔でニヤリとほくそ笑み、右手に持っていた『最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)』を消すと、両腕で抱え込むように溜め始める。

 数秒して、溜め込んだものを開放するかのように両腕を開くと、内側から生まれ出るように、胸から二本の黒いカプセル――『怪獣カプセル』が姿を現す。

 一つには、ソレが依代として取り憑いた英霊、アルトリア・ペンドラゴンが。

 もう一つには、黒衣に身を包んだ男の姿が。

 そして、どこからともなく赤と黒の大小二つのナックルのようなアイテム――『ライザー』と『装填ナックル』が現れ、装填ナックルの方に二つのカプセルが装填された。

 

「さぁ、絶望の時だ!」

 

 宙に浮かんだライザーが、装填ナックルの二本のカプセルをリードする。

 

『オルタナティブフュージョン・アンリーシュ!』

『ストルム星人!』

『アルトリア・ペンドラゴン オルタ!』

 

 音声が流れると同時に不気味な音楽も流れ、アルトリアの肉体から闇が発生する。肉体そのものもラムレイを巻き込みながら変貌を遂げていく。

 

『ウルトラマンベリアル オルタナティブ!』

 

 そしてソレ――ウルトラマンベリアルが、最凶最悪のウルトラマンが、異なる世界の地球に現出する。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

『なんだ……あれは……!?』

 

 この日、何度目かになろうという驚愕。だが、無理もない。アルトリアが空高く飛び去ったかと思うと、突然空に闇の球体が生まれ、そこから巨人――というより怪物――が、大地を震わせながら姿を現したのだから。

 その姿は、まるで巨大化し、異形と化したケンタウロスのようだ。

 

 黒い体表に赤い紋様が浮かび上がり、腰から上はアルトリアの纏っていた竜の鎧のようなもので覆われ、胸に紫の光を放つ球体が。頭部には耳元まで裂けた口に、アルトリアに取り憑く前の闇に付いていた異形の目、そしてトサカのようなものも見受けられる。

 

「で、でけェ……」

 

 そして何より、その大きさが規格外だった。その巨大さには、流石のモードレッドも口を間抜けにあんぐりと開けざるを得ない程。

 

『……全く、質量保存の法則だとか諸々の物理法則が乱れに乱れまくってる感じだな。目測で測った限りでは、体高は約60メートル。体重は……何とも言えないが、数万トンはくだらない、と思われる。というか、なんだあのデタラメなエネルギーは!? 誰だ地球にこんなトンデモ生物持ってきたのは!』

 

 カルデアからダ・ヴィンチが怒声混じりに報告を行うが、それをまともに聞いていられるようなインパクトの小ささではない。

 確かに、今までにも巨大なエネミーと戦った事はある。ドラゴン、魔神柱、etc.。

 だが、今目にしているこの存在と比べれば、まるで子犬のようなものだ。

 

「よく聞くがいい、人類共。俺様の名はベリアル。ウルトラマンベリアル オルタナティブ」

「ベリアル……?」

 

 確か、ソロモン王の72柱の魔神にそんな名前の悪魔がいなかったかと思ったが、恐らくは別物、なのだろう。

 

「これよりこの星は、俺様のモノだ。歯向かうなら、好きにしろ。そうした場合は、絶望が待っていると知れ」

 

 その声は、街中全てに届く。これまでの惨事の中、家の中に隠れ潜んでいた住人達。そして、カルデアの協力者であるジキル達のいるアパルトメント。ロンドン中に、彼の声が轟く。

 

「や、ろう……ロンディニウムで、好き勝手、言いやがって……ッ!」

「あッ! モードレッド!」

 

 そこに、モードレッドが剣を杖代わりにしながらやってくる。

 戦意は失われていないようだが、鎧はあちこちが破損してボロボロの状態であり、これ以上戦うのは無謀としか言いようがない。

 

「一旦下がろう! 流石にあれはまずい!」

「るせぇ! ロンディニウムが蹂躙されそうになってんのに、黙って見てられるか!」

 

 その声が聞こえたのか、ベリアルが顔をモードレッドの方へと向ける。

 

「ほぉ……随分と威勢がいいな。だが、そんな剣一本で何が出来る?」

 

 ベリアルが対峙してきた地球人は、英霊程の力は持たないが、それを上回る程の技術や、別の何かがあった。

 例えば、最初に牢獄から抜け出し、ウルトラマン達と戦った時。(ベリアルから見て)小さな宇宙船に乗っていた連中や、その仲間だった地球人のレイオニクスは、侮れない程度には強かったと記憶している。

 だが、目の前にいる騎士の英霊――モードレッドとやらは、見るからに時代遅れで、宝具とかいう武器を持ってはいるが、さして自らの脅威にはならないと判断していた。

 

「舐めやがって……!」

 

 その挑発に乗り、モードレッドは今にも感情が爆発しそうになっていた。

 勢いよく飛び出していきかねないモードレッドを、マスターとマシュは何とか引き留めようとするが、モードレッドは強引にでも向かって行こうとする。

 

 もう引き留めきれない。そう思いかけた時だった。

 

『……! 待った! 新しい反応だ! またあの空の裂け目から、何か出てくるぞ!』

 

 ロマンからの新たな報告。

 見れば、確かに空の裂け目に、何かの影が見える。

 その影がみるみるうちに大きくなり、遂に飛び出してくる。

 

 現れたのは、赤と銀の巨人。少しばかりベリアルよりも小さいその巨人は――

 

「……ベリアルが、もう一人?」

 

――奇しくも、ベリアルとよく似た、青く輝く目をしていた。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「――ベリアルッ!」

 

 時空の揺らぎの向こう側に逃げていくベリアルを追ってきたウルトラマンジード――リクは、目を見張った。何せ、先程まで戦っていたベリアルが、次に目にした時には馬と人を掛け合わせたような姿になっていたのだから。

 

「まさか、ここまで追ってくるとはなァ、ジード……」

「もう、これ以上は――」

「黙れ!」

 

 リクは、これ以上のベリアルの暴挙を止めんと説得を試みる。だが、ベリアルはたった一言で切って捨てる。

 

「この俺に怨念がある限り……光の国の奴らへの、ゼロへの憎しみがある限り! 俺は決して止まる事はない!」

 

 思わず、リクは閉口してしまった。恐らく、これ以上の説得は望めないと確信してしまった。

 

「……なら、また止めるだけだ!」

「やって見ろ!」

 

 そのやり取りを皮切りに、ジードは空中で、右腕を前に、左腕を後ろにし、爪で裂くかのようないつも通りの構えを取り、ベリアルへと向かって行く。

 

「フゥンッ!」

 

 迎え撃つように、ベリアルが右腕を振るうと、先程モードレッドに向かって飛ばしたような三日月上のエネルギー波が放たれる。

 それに対し、ジードも両腕をクロスさせる。

 

「レッキングリッパー!」

 

 掛け声と共に両腕が振るわれると、そこから同じような赤いエネルギー波が放たれる。

 少し前のアトロシアスとの戦いでは押し負けたが、どうやら今の形態はアトロシアス程のパワーはないらしい。

 レッキングリッパーとベリアルのエネルギー波がぶつかり合うと、小爆発を起こし相殺される。

 

「ハァッ!」

 

 その小爆発を目晦ましとするように、ジードは空中で身を捻る。

 狙いは、ガラ空きになっているベリアルの下半身。

 馬となっている下半身に飛び乗ると、ジードは背後からベリアルを攻める。

 

「チィ! 小癪な!」

 

 ジードの引っ掻くような攻撃は、ベリアルに確実にダメージを与えていた。

 だが、それを黙って受けているようなベリアルではない。背後のジードに向かって、鋭利な刃が伸びている肘で攻撃する。

 両脇腹に刃を受けたジードが怯むと、ベリアルは身体を揺り動かし、ジードを振り落とす。

 ロンドンの道路に落ちたジードに、ベリアルは更なる追い打ちを掛けんと、前足を振り上げる。

 

(まずい! 避け――グッ!?)

 

 普段なら避けられるであろう攻撃だが、不幸な事に、ここまでずっと戦い通しだったリクの身体に、限界が来ていた。

 ここに至るまで、何度も必殺光線(レッキングバースト)などを撃ち続け、カラータイマーも青から赤に変わり危険を知らせていたにも関わらず、ここまでエネルギーが尽きなかったのが奇跡だったのだ。

 

「グアァァァァ!!!」

 

 無情にもベリアルの前足は振り下ろされ、リクは悲鳴を上げる。

 それと共に、胸で赤く明滅していたカラータイマーが、より一層激しく点滅を始めた!

 

 

 

 

 その頃、彼らの戦いを地上から見ていたカルデアの面々は、その光景がまるで神代の戦いのように思えてならなかった。

 ちなみに、ウルトラマン同士の会話は、彼らには聞こえない。そういうものなのだ。

 

 だが少なくとも、あの赤と銀の巨人は、ベリアルと敵対する存在だというのは分かる。善か悪か、そこまでは分からないが。

 

 そして今しがた、赤と銀の巨人の方の胸にある結晶体の点滅が、更に激しくなり始めたのを確認した。

 

「どうしたんだ、あの巨人……?」

 

 不思議そうにするマスターを他所に、ジードは何とかベリアルのストンプから脱出し、反攻に出ようとする。だが、どうも動きにキレがない。

 

「動きがぎこちなく……あの胸の光が何か関係しているのでしょうか?」

「赤信号……?」

『いやいや、まさかそんなわけ……』

 

 マスターの観察眼は、実際正しかった。カラータイマーが点滅するという事は即ち、ウルトラマンのエネルギー残量が少ない事を現す。カラータイマーの点滅が終わった瞬間、ジードは戦闘続行不可能となってしまうのだ。

 

――ウルトラマンジード、頑張れ。残されたエネルギーはもう僅かだ!

 

(もう、他の形態に変わる程の余裕がない……一気にケリを着けないと!)

 

 エネルギーの枯渇に焦るジードは、ベリアルを正面から蹴りつけると、その勢いでバク転。

 距離を取ると、両腕を腹部辺りでクロスさせる。

 

 それを見たベリアルは、右手を仰向けにすると、そこに闇のエネルギーを集中させる。

 やがて、エネルギーが細長く広がり、ある武器の姿を為す――

 

「あれって……ロンゴミニアド!? なんで!?」

『そりゃそうだろう! 今はアーサー王の肉体を乗っ取ってるんだ! あんなとんでもない存在なら、それぐらい出来るんじゃないか!』

『レオナルド、なんか投げ槍になってないか!?』

 

 そう、ベリアルはアルトリア・ペンドラゴンの肉体を支配した事で、『最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)』を操れるようになっていたのだ。

 無論、本来の力程ではない。別のサーヴァントが他者の宝具で真名開放を行っても、必ずしも扱いきれるわけではないように。

 だが、ベリアルの持つ力、そして怨念が、その威力を底上げしていた。

 元より強大な力を持つウルトラマンなのだ。威力だけ見れば、本来の『最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)』以上のものになっているのも頷ける。

 

『って、まずいぞ! あれが放たれれば、色々とまずい!』

「そう言われても――」

 

 慌てふためくカルデアの面々。無理もない。そもそもの規模が違い過ぎるのだ。

 彼らの知らない事だが、ジードであれば街への被害も考え、それなりに威力を弱めて撃つだろうが、ベリアルには関係ない。滅んでも構わないと、そう考えるのが普通なのだ。

 

「――ざっけんじゃねぇ!」

 

 だが、だからと言って黙って見ていられるはずもないのが一人。

 

「モードレッドさん! 無理は禁物ですよ?!」

「ヘッ。ちょっと休めば、宝具一発ぶっ放すぐらいの魔力は補えるっての。……覚悟しやがれデカブツ!」

 

 なおも戦意を失わないモードレッドは、再び魔力を漲らせ、クラレントを構える。

 

「……仕方ない!」

「せ、先輩!?」

 

 そんなモードレッドに感化されるように、マスターの少年も左腕をかざす。左手の甲に刻まれた赤い紋様、令呪。サーヴァントと契約している事の証であり、サーヴァントへの絶対的な命令権でもある。三画あるそれを、魔力を込めて使えばサーヴァントに絶対的な命令を与える事が出来る他、サーヴァントへの魔力の補充、更に強化など、使い様によっては切札にもなり得る。

 

 モードレッドは彼の正式なサーヴァントではないが、カルデアの特別な技術により、現地のはぐれサーヴァントにも、令呪による強化を施す事が可能なのだ。

 

「――令呪を以て命ずる。モードレッド、宝具を使って、ベリアルを倒せ!」

「ヘッ、分かってんじゃねぇかお前も! 行くぜェ!」

 

 令呪のブーストが掛かったモードレッドは、野性的な笑みを浮かべ、クラレントを振りかぶる。

 

「ん……?」

「あれは……!?」

 

 それにジードとベリアルが気付いたのは、ほぼ同時だった。

 モードレッド達の立ち位置は、ベリアルのほとんど真後ろの通り。

 ベリアルからすれば何の問題もないが、ジードは違った。

 

(まずい! このまま撃ったら、あの人達を巻き込む!)

 

 その一瞬の迷いが、彼にレッキングバーストを撃つタイミングを逃させた。

 

「余所見をする暇なんぞ!」

「――ッ! しま――」

 

 その隙を逃さず、ベリアルがロンゴミニアドを放とうとした瞬間だった。

 

「――『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!!!」

 

 モードレッドが真名開放し、クラレントから赤い雷が迸る! 狙いは、ベリアルの後頭部!

 

 だが――

 

「うグッ!?」

 

 ベリアルから受けたダメージがまだ完全には癒えていない弊害か、モードレッドは僅かに体勢を崩してしまう。

 それにより、赤雷は僅かに狙いから逸れてベリアルの首元を掠め、僅かに火花を散らす。

 

「ぬゥッ!?」

 

 しかし、ベリアルはカルデアの面々の予想とは裏腹に、想像以上にダメージを受けていたようだった。

 

『ん? これはまさか……』

 

 何かに気付いたらしいダ・ヴィンチが、何事かを考え込む間に、事態は動き始める。

 

「今だ!」

 

 理由は分からないが、ベリアルが怯んだのを見たジードは、瞳を光らせ、赤黒の雷の如きエネルギーを漲らせ、スライディングしながらベリアルの下に潜り込む。

 それは、かつて伏井出ケイが変身したベリアル融合獣、スカルゴモラとの二度目の戦闘の際、街への被害を少なくする為に取った手段。

 

「――ッ! 猪口才なァ!」

「レッキングバーストォォォ!!」

 

 潜り込みながら、ジードはレッキングバーストをベリアルの上半身に向かって放つ。

 だが、ベリアルもタダではやられない。咄嗟にロンゴミニアドを突き出し、ジードの左肩を突いた!

 

「ウ、グォォォ!!!」

「ガァッ!」

 

 レッキングバーストはベリアルの腹部に命中したが、左肩へのロンゴミニアドの刺突が、それ以上の放射を許さなかった。

 それどころか、変身限界が来てしまったジードの肉体はそのまま粒子状に分解され、ベリアルの身体の下の隙間を滑るように消えてしまった。

 

「ぐ、は」

 

 ジードへの変身が解けたリクは、そのまま勢いよく転がっていき――丁度、カルデアの面々がいる場所に放り出される。

 

「人!?」

 

 片方の巨人が消えたかと思うと、突然現代チックな衣服に身を包んだ青年が現れ、困惑する一同。

 だが、今も予断を許さない状況。気にしている暇など無かった。

 

『しめた! どういうわけかはわからないけど、あのベリアルって奴、今は動けないみたいだ! 今のうちに撤退を!』

 

 なるほど、ロマンの言う通り、何故かベリアルはロンゴミニアドを突き立てた姿勢のまま、一切動かない。

 何故そうなっているのかが気になるところではあるが、この期を逃してしまえば、後がない。あの巨躯が相手では、連戦に続く連戦で疲弊した今のカルデアの面々に勝ち目はない。

 

 しかし、脱出するその前に――

 

「――と、その前にマシュ、そこの人を!」

「了解です!」

 

 突然転がってきた謎の青年。彼が一体何者かは分からないが、放っておいても良くないのは確かだ。

 

 気絶しているらしい青年をマシュが背負い、一行は戦場から離脱した。

 

「……チッ、待ってやがれよ。テメェは必ず、俺の手でぶっ倒してやる」

 

 モードレッドは苦々しい表情を浮かべながら、そう吐き捨てた。

 

 

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