運命の叛逆者達 【ウルトラマンジード×FGO】   作:K氏

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 前後編にすると言ったが、すまん、ありゃ嘘だった(土下座)
 ボリュームがね...絞れなかったんです...

 あとなんで刑部姫は来ないんじゃ...来ないんじゃ...じゃ...


運命の叛逆者達【承】

「ん……」

 

 海の底に潜っていた意識が、海面へと浮上するかのような感覚。

 それと同時に、リクはジワリと来る頭痛に襲われる。

 

 目を開けようにも、まだまだ意識が朦朧としていて、視界も定まらない。

 それでも、なんとか意識を取り戻し、目を見開くと、そこにあったのは見知らぬ天井であった。

 

「……どこだ、ここ」

 

 いつもの見慣れた星雲荘の無機質な天井ではない。当然ながら、その周囲も。

 上体を起こし、周りを見回してみれば、いつかテレビで見たイギリスの住居のようなお洒落感のある内装が目に入る。

 ランプに、椅子に、机。これまでのリクの人生で見覚えのない洋風家具の数々に囲まれ、少しばかり緊張してしまう。

 

「――どうやらお目覚めらしいな」

 

 すると、唐突にゼナばりの渋めの声が聞こえてくる。その声のする方を向けば、机に向かっている青い髪の幼げな外国人らしき少年が、嫌に不機嫌そうな表情を浮かべこちらを見ている。

 

――まさか、この少年が? いやいや、どう見ても年齢的に僕よりもはるかに年下だ。

 

「えっと、君は?」

 

 そう問いかけながらも、リクは更に辺りを見渡す。先程の声の主がいるのではないかと思ったのだが、どういうわけか、リクと少年以外には、この部屋には誰もいないらしかった。

 

「ハン、大方、俺の声と容姿が一致せず、声の主を探しているといったところか。……ああ、何ら気になどしないさ。ま、こうして俺の口の動きと声が連動しているのを見れば、嫌でも納得するだろうよ」

 

 少年が嘲笑うようにそう言うと、リクはようやく納得した。それでも驚きの方が勝っていたが。

 

「えっ……えっ?」

「少し待っていろ。人を呼んでくる」

「ちょ、ちょっと待っ――」

 

 リクが静止の声を上げるが、少年は構わず部屋を出ていく。

 

「――て」

 

 右手を宙で彷徨わせながら、リクはただ、少年の出て行った扉を見つめていた。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

『……なるほどね。あの穴はそういう事だったのか』

 

 青白く光るモニターの向こうで、Dr.ロマンがうんうんと頷く。

 

『って、普通に納得しかけたけどごめんやっぱり意味分からない! 平行世界の地球は実は一度宇宙規模で滅びかけて? ウルトラマンキングっていう神様めいた存在が宇宙そのものと一体化して? でも宇宙そのものを滅ぼせるウルトラマンベリアルはまだ諦めてなくて? 時空破壊神ゼガンっていうのと光線同士をぶつけたら時空の狭間ができて? って、脳味噌フル回転でも追い付けないよ!?』

 

 かと思えば、発狂したかのように突然喚き散らしだす。

 が、リクとしてもその気持ちは分からなくもない。ぞろぞろと統一感の無さ過ぎる人達が現れたと思ったら、そのほぼ全員が歴史や伝説等に名を残す英雄や偉人だというのだから、たまったものではない。

 特に、さして歴史や伝説に馴染みのないリクでも知っている童話の主人公、金太郎こと坂田金時が、マッスルで洋風かぶれで金髪でゴールデンだったりするものだから、ロマンに負けず劣らずの驚きの声を上げてしまった。

 

『ロマニ、少しでいいから静かにしてくれないか』

『ごめん……』

 

 そんなロマンの狂乱は、ダ・ヴィンチの()()()冷静なツッコミで鎮められた。

 

……そう、あくまでも比較的、である。

 

『まぁ確かに、冷静になれないのは分かるさ。……話を聞いてる限りじゃ、どうも平行世界ですらない可能性だってある』

「えっ、そうなんですか?」

 

 ダ・ヴィンチの発言に、マスターの少年が驚きの声を上げる。元々魔術関連の用語に疎いから、というのもあるが。

 

『平行世界というのは、言って見れば一本の木のようなものだ。ただし、途轍もなく巨大な木だがね。その幹から伸びる枝の一本一本が、異なる可能性を秘めた平行世界であり、枝分かれの数だけ、未来への可能性が存在する。で、それぞれの世界ごとに多少は差異があったとしても、大抵の場合、未来は同じになる。そういう平行世界群を編纂事象と言う』

「はぁ」

『それに対し、何らかの原因で基盤となる世界から完全に別世界となり、いずれは滅びる事となる世界を、樹木の手入れになぞらえて剪定事象という。さっきのクライシスインパクトの話を聞くと、その剪定事象の可能性の方が高いと思ったんだが……やれやれ、滅びゆく宇宙を繋ぎとめるとは、いやぁ、宇宙ってのは広いね、全く』

 

 カルデアの面々に粗方の事情――さっきの戦いを通して明らかにバレてしまっていたジードの正体も含めて――を話したリクだったが、現状、マスターの少年となんら変わりない理解力故に、ダ・ヴィンチの解説もほとんど理解できないでいた。

 しかし、世界絡みだと思い当たる話が一つ。

 

「そういえば、ゼロ……僕と一緒に戦っていたウルトラマンから聞いた話なんですけど、宇宙は一つじゃないって」

『ふむ、それは?』

「えっと、確かマルチバースって言ってたような」

 

 マルチバース。宇宙は一つのみならず、球状に内包される形で幾つも存在しているというものである。概念自体は光の国において比較的最近明らかになったものの、存在自体は遥かな昔から確認されており、異なる宇宙の地球に向かった光の国のウルトラ戦士も多数存在している。

 先述したウルトラマンゼロもその一人であり、神格的存在であるウルトラマンノアから与えられたウルティメイトイージスの力により、様々な宇宙を行き来する事が可能である。

 また、他にも次元を越えて宇宙を放浪するウルトラマンダイナやウルトラマンオーブ、科学的な技術で別の世界へと飛んだウルトラマンガイアなどもいるが、ここでは割愛する。

 

「ふむ。じゃあ彼の場合は、基盤の部分から異なる世界から来た可能性が高いという事なのかな」

 

 一連の話を聞いていた金髪の青年、ジキルが口を開く。

 

『恐らくはそうだろうね。彼の話によれば、人理焼却よりも遥かにハードな事態に陥り、実質宇宙全ての生命が滅び去ったようなものだというのに、ウルトラマンキングなる存在によって全てが再生した。そこに生きていた人間や、宇宙に存在する生命も含めて。……全く、時空を自在に越えられるという時点で頭がパンクしそうだっているのに』

 

 無論、体長50mを超える怪獣なる巨大生物が日常的に出現している状況や、そもそも宇宙人やウルトラマンという存在に対しての疑問も、ダ・ヴィンチの脳をオーバーヒートさせかけている要因なのだが、この際割り切らないとやっていられないとは彼(彼女?)の談である。

 

『あとこれは主観の問題になるが、どうも彼の周りの生活環境がちぐはぐに感じられるんだよね』

「と、いうと?」

『現代っ子の君達なら分かる事だ。今のテレビと言えば?』

「ええと、薄型、でしょうか?」

『そう。完全に普及しきっていないが、主流となっているのは確かだ。しかし彼の世界では、どうも古い型のブラウン管テレビがまだ現役なんだという。しかも2017年で、だぜ? それが意味するところはつまり――』

 

「ンなめんどくせぇ問答はどうだっていい」

 

 ダ・ヴィンチの語りを、不機嫌そうな少女の声が遮った。

 

 その声の主に視線を向ければ、扉を背にもたれかかっている鎧姿の少女――モードレッドが、眉間に皺を寄せて睨みを利かせている。

 その視線の先には――リク。

 

「おい、お前」

「え、えっと、何?」

 

 一応、リクもこの世界における英霊について一通り聞いたものの、それを踏まえて彼らとどう接するべきか悩んでいた。

 どうやら1、2歳ほど年下らしいマスターの少年や、明らかに年下なマシュ相手であればいつも通りのタメ口だが、こと、明らかに時代錯誤な格好をしたモードレッドに対しては悩みどころであった。

 見た目こそ自分と近しいが、所謂百戦錬磨の強者のような存在だとか、そんな話を聞くとどう接すればいいのか分からなくなってしまうのだ。

 これは比較的若いウルトラマンであるゼロ相手でもそうなのだが、時と場合によってタメ口だったり敬語だったりと一定しない事が前にもあった。もっとも、生まれて19年のリクと違い、ゼロは軽く数千年は生きているのだが。

 

「あのベリアルとか名乗ってやがった野郎、本当にお前の父親なのか」

「……うん」

 

 不機嫌極まるその問に、リクはただ、真正面から受けて立つ。そうだ、と。

 

 目を逸らしたりするわけでもなく、真っ直ぐにこちらを見て、力強く頷いたリクに、モードレッドは一瞬、本当に一瞬だが、意表を突かれた気分になった。

 

「……なんでもねぇ。キッチリ後始末は着けやがれ。それだけだ」

 

 モードレッドは複雑そうな表情を浮かべ、数刻何かを考えるように黙り込むと、一言リクにそう告げて部屋を出て行った。

 

「どうしたんだ……?」

「うん。多分、ベリアルが依代にしてる英霊が原因なんだと思う」

「依代?」

 

 リクの疑問に、モードレッドが乱暴に開けて閉めていった扉を横目に、ジキルが答える。

 

「ベリアルが取り憑いたサーヴァントは、アーサー王……つまり、モードレッドの父親に当たる人なんだ」

 

 次いで、マスターの少年から出された詳細な答えに、リクは絶句する。

 

『更に正確に言うと、あのアーサー王は別の可能性のアーサー王というやつでね。直接関わりのある存在かどうかはともかく、今の彼女は嵐の王だ。全てを破壊しようとするベリアルと、そういった意味では似た者かもしれないね』

 

 どことなく無神経なロマンの発言の中で、アーサー王を『彼女』と呼んだのが引っかかったリクだったが、元よりアーサー王に詳しいわけではない為、「そういう事なんだろう」と自分を納得させる。

 

「……でも、悪い奴、とは言い切れないんですよね?」

『それはまぁ、そうなんだけれど……彼女の霊基属性は秩序・善になってるし』

「なら、父さ……ベリアルとは違う」

 

 リクの言う通り、この世界における属性分類で言うならば、ベリアルはかのアーサー王とは正反対の混沌・悪だろう。

 ベリアルという黒き王には慈悲の心も、慈愛の心もない。自分の味方であろうとする者など、所詮は駒に過ぎないし、敵対するウルトラマンとの戦いでは、自らの憎悪の感情や、欲望を優先させる。

 結末はどうであれ、民の為に戦ったアーサー王と、あくまでも個人的な感情の為に全てを滅ぼさんとしたベリアルとでは、雲泥の差があるのだ。

 

 不意に、あの、と声を上げる少女の声。マシュだ。

 

「もしかすると、モードレッドさんの出生の事も、関係あるのではないかと思うのですが」

「……ああ、なるほど」

 

 それを知る何名かが、マシュの言に納得したように頷く。

 

「それって、どういう意味?」

「……実は」

 

 そこから語られた真実は、リクをモードレッドの元に向かわせる理由には十分なものだった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「えっと、モードレッド、さん」

「……さんはいらねぇよ」

 

 未だに魔の霧に覆われたロンドンの街。アパルトメントを少しでた通りに、モードレッドは立っていた。

 

 本来、この霧は過剰な魔力により、人体には逆に有毒となるのだが、どういうわけかリクはその中でも、多少の息苦しさはあるが平然としていられた。

 恐らくは、ウルトラマンの遺伝子があるからだろう。リクはそう考え、それ以上は深く考えない事にした。

 元より、難しい事を深く考えるようなタイプではないのだ。

 

「じゃあ、モードレッド。その、さっき皆から聞いたんだけど……」

「父上の事か」

 

 まるでリクの心を見透かすように、モードレッドは彼の質問を言い当てた。

 リクは驚きで目を見開く。

 

「まさか、俺に父上を倒して欲しくねぇだとか、そんな甘っちょろい事考えてるとか思ってんじゃねぇだろうな」

「…………」

「……おいおい、まさか本当にそう思ってたのか?」

「思ってない、と言ったら嘘になる」

 

 どうやら、モードレッドの思った以上に、リクという青年はお人好しのようだった。

 

「ハッ。元より俺はな、アーサー王に叛逆する事が存在意義なんだよ。つか、それ以前に俺達サーヴァントは既に死んでるって、話聞いてただろうが」

「分かってる。でも、思っちゃったんだ。僕だって、父親を……ベリアルを倒そうとしてるのに。ごめん」

「……ンだよ。そこは止めるって感じじゃねぇのか?」

 

 その分、この手の人種――つまり、カルデアのマスターのような――は、ことこういう話になると、妙に止めさせようと食い下がってくるものなのだが。

 

「確かに、君の生まれの事とか聞いたらさ、止めたくなるよ。君のお父さん……でいいのかな?……その人の事はよく知らないけど、特別悪い人ってわけじゃなかったんでしょ?」

「……ま、全てにおいて正しい方だったとは言えねぇが」

 

 事実、アーサー王は清廉潔白、滅私奉公を貫いた、騎士の王に相応しい人物であったが、一方でトリスタンが円卓から去る間際に告げた「王には、人の心が分からない」という言葉の通り、王であろうとしたが故に、民の心を汲み取れず、また、民も彼(彼女)の心を理解できなかった。

 悲しいかな、その王としての手腕は、貧窮に喘ぐ当時のブリテンで続けるには厳しいものだった。

 

「……そうだな。確かに父上は、人憎しで動いてたわけじゃねぇ。でもって、俺が父上に、王に叛旗を翻したのも、結局は父上に認めて欲しかったからだ。……稚拙な憎しみを抱えてな」

 

 モードレッドは、尊敬していた。偉大なる騎士王を。父を。

 だが、その尊敬の念や愛情は、拒絶によって反転した。

 最初は、自分がアーサー王の敵であるモルガンの息子であるからだと思っていたから。

 しかし実際は――

 

「けどよ。王は別に俺を憎んでいたわけじゃなかった。――そもそも、俺を見てすらいなかったんだ」

「……モードレッド」

 

 だからこそ、リクはモードレッドに親近感を抱いていた。親近感を抱けども、そこには明確な違いが幾つもあるのも、分かっている。

 

「てか、お前はどうなんだよ」

「えっ?」

「ベリアルだよ。仮にもお前の父親なんだろ?」

 

 モードレッドがはぐらかすようにそう訊くと、リクは少し考え、口にする。

 

「実を言うとさ。僕も君と同じような存在なんだ」

「……何?」

「他の皆には話さなかったんだけどね。……僕は、ベリアルの遺伝子から造られた存在でさ」

「……!」

 

 黙って聞いていたモードレッドだったが、その顔には明らかな驚愕の色があった。

 

「僕は、ベリアルの野望を果たす為、つまり力を得る為だけに生み出された」

 

 そう言いながら、リクはポケットから二つのウルトラカプセル……最初に手に入れた初代ウルトラマンと、ベリアルのカプセルを取り出す。

 

 ベリアルを盲信するストルム星人の伏井出ケイは、試験管ベビーとしてウルトラマンになり得る疑似生命を生み出した。その目的は、いずれベリアルの力となる、ウルトラカプセルを回収する為。

 手始めにケイは特殊な物質、カレラン分子と呼称されるものを散布した。これは、宇宙と融合したウルトラマンキングの力の欠片――幼年期放射を、生命体の体内に留める為の分子である。

 空気と共に体内へと取り入れられたカレラン分子が、幼年期放射を体内に留め、やがてそれが集約された光の塊――リトルスターと呼ばれるエネルギー体となる。

 リトルスターを発症した宿主は、ウルトラ戦士の持つ何らかの特殊能力を使う事が出来るようになるのだが、その真価は分離してからにある。

 特定の条件を経て分離したリトルスターとウルトラカプセルが結びつく事により、対応した能力を持つウルトラカプセルが起動し、ウルトラマンヒカリが開発したライザーで力を引き出す事が可能となる。

 

 その条件とは、宿主がウルトラマンに祈る事。

 

 応援や希望、ただ生きていてほしいという切なる願い。そうしたウルトラマンへの祈りが、リトルスターを分離させ、強大な力を持つとされるウルトラカプセルを起動するのだ。

 

 言い換えれば、『ウルトラマン以外にはリトルスターを分離させられず、ウルトラカプセルも起動できない』という事でもある。

 

 初の怪獣カプセルによるフュージョンライズ、及びベリアル融合獣の試運転を兼ねた、最初のリトルスター回収の際にその事実を知ったケイは、ベリアルにある案を進言した。

 

 その結果、後の朝倉リクとなる赤子が生まれ、自らの宇宙船を地下に隠した天文台に捨てた。その裏で、失敗作が生まれては死にを繰り返しながら。

 

 全ては、ベリアル復活の為。リクは、ウルトラマンジードという名の偽ウルトラマンは、単なる道具でしかなかったのだ。

 

「……そういう意味じゃ、僕らはきっと、似た者同士だったんじゃないかなって。だ、だからその、勝手にそう思って、話しかけてみようとか思っちゃったりしてさ……」

 

 リクは、照れくさそうに頭を掻く。

 

 なるほど。確かに似た者同士かもしれない。

 自らの妄執を成し遂げる為、あるいは力を手に入れる為。

 悪しき願いをかなえる為だけに産み出された人造生命。

 やがては、自らの父を滅ぼす、滅ぼさなければならない宿命。

 

 だが、あくまでそれぐらいしか共通点がない。彼らが互いに異なる部分を持っている事は、ここまでの会話でよく分かっていた。

 

「でも、俺とお前は違う。聞いた限りじゃ、本来お前はベリアルに立ち向かう事すら許されなかった」

「……うん」

 

 決められた自分の運命(STORY)。それにどう立ち向かったか。

 そこが、二人の最大の違い。

 

「けど、お前は抗った。抗い続けた。で、遂にはそのクソ親父を追い詰めたってワケだ」

「……でも、まさか此処に来るなんて思っても見なくて」

「だぁーッ! それはもういいっつの! 女々しいなテメェ!」

 

 リクは、己の過酷な運命に抗う度に、自分だけの運命(HISTORY)を築き上げてきた。

 他ならない、ジード(GEED)――悪の遺伝子(GENE)と、悪に連なる運命(DESTINY)を持ちながら、その運命をひっくり返す名を自らに与えた者として。

 

――そうして考えていると、自分は運命をひっくり返せなかったのか。何故、あのクソッタレの魔女を逆にぶった斬るという考えが浮かばなかったのか。

 

「あーあー、調子狂うぜったくよぉ。……なんつーか、惨めになってくんなぁ」

「? なんでさ。モードレッドだって、頑張ったんじゃないの?」

「……知るか、バカヤロー」

「知るかはないだろ、ってか、バカってなんだよ!?」

「うっせ、バーカバーカ!」

 

――聖杯戦争に召喚されるという事は、万能の願望機である聖杯で叶えたい願いがあるという事だ。

 

 そして、いつかのモードレッドが願おうとしたのは、『選定の剣に挑戦する』ことだった。そうでもしなければ、運命を変えられないから。

 

 そんな()()()()()()()()()()、今を生きながら運命を変えたリクが、モードレッドには眩しく見えて。

 

「……なぁ。最後に一つ聞いていいか」

「何?」

「――お前は、どうやって運命に立ち向かった?」

 

 そう問われた瞬間、リクはすぐに、笑顔でこう答えた。

 

「――仲間達と支え合って、一緒に立ち向かった。だから、どれだけ絶望が待ち受けてたって、何度だって立ち上がれた」

 

 今はいないけどね、と付け加えながら。

 

「あと、やっぱりヒーロー! 爆熱戦記! ドン! シャインッ! てね! ……知らない?」

「知るワケねぇだろ。お前の世界のヒーローなんて。つかガキかよ」

「ふっふーん、知らないからそんな風に言えるんだよ。すっごく面白いんだなぁ、これが」

「……べ、別に気になんてならねぇからな!」

 

『まだまだ青二才だが、きっとコイツは、もっと強くなる』

 

 モードレッドがそれを口に出す事は、決して無かった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「ここか」

 

 ロンドンの地下、地下鉄よりも更に下に広がる地下迷宮。魔術協会ですら関知しないその迷宮の最深部の空間に、それはあった。

 

――巨大蒸気機関『アングルボダ』。北欧神話に名高き巨狼フェンリルや大蛇ヨルムンガンド、冥府の女神ヘルを産み落とした女巨人の名を冠した蒸気機械。

 それを使う人間達はとうにいなくなったというのに、今もなお、ゴウン、ゴウンと、魔霧を放出し続けている。

 

 アルトリアに憑依したベリアルの目的の物は、その中にあった。

 

「それにしても、随分と濃いな、此処は」

 

 すんすん、と匂いを嗅ぐ仕草をする。

 ベリアルが言っているのは、アングルボダから流出している魔霧の事だろう。

 濃厚な魔力は、常人には毒となるが、ベリアルには少しの息苦しさしかない。加えて、彼の体内にあるストルム器官の位相反転能力により、ベリアルの知らない魔力というエネルギーを、無理矢理自分のエネルギーに変換していた。

 

 ベリアルは、首元をなぞる。そこは、先の戦闘でモードレッドの宝具が掠った箇所であった。

 

「クソが。小癪な英霊と侮ったか」

 

 その理由が何故かは分からない。だが、今はそれよりもやるべき事がある。

 

 そう、この世界における自分を、もっと完全で、完璧なものとする為に。

 

「フンッ」

 

 ベリアルは右手にロンゴミニアドを生成すると、それをギガバトルナイザーを使っていた頃のように振るう。

 暗黒の槍から発せられた闇のエネルギーの奔流が、アングルボダの表面を破壊する。

 それを確認したベリアルは、ロンゴミニアドを消すと、むんずとその中に手を突っ込む。

 ガシャガシャと内部機構が壊れていくのも構わず、手探りで探す。

 

「――これが聖杯か」

 

 やがて、幾度か邪魔な周りの機械を蹴散らしながらも、それは見つかった。

 

 結晶のようなその物質こそが、聖杯。人理崩壊の黒幕が、人理定礎崩壊の為に各特異点を形成した、その核。

 簡単に言えば膨大な魔力の塊だ。それを、ベリアルはアルトリアの肉体が持つ探知能力も併せて感覚的に察知し、見つけ出したのだ。

 

「コイツを取り込めば、俺は更に強くなれる――」

 

「――それをさせると思うか」

 

 突如として、ベリアルのいた場所を、目のついた肉の柱の如き何かが、多数殺到する。

 おぞましいそれらは、アングルボダだった残骸を、跡形もなくぐしゃぐしゃに叩き潰したが――その下に、ベリアルの姿はない。

 ならばどこに? ――上だ。

 

「お前も、この俺に逆らうつもりか?」

「逆らうだと? 外から来た分際が、この星で王にでもなれると思っているのか」

「『思っている』ではない。()()()()()()()、俺様はな」

 

 ラムレイに騎乗し、空に浮かぶベリアルを、浅黒の肌をした白髪の男が見上げる。その男の背後の歪みから、肉の柱の如き触手――魔神柱が数本、顔を見せている。

 

「一応聞いてやる。貴様の名は?」

「――我こそは、ソロモン。魔術王ソロモンなり」

 

 ソロモン。古代イスラエルを最も発展させたという、生まれつきの「王」にして、神より賜った十指からなる超能の指輪を持ち、72柱の魔神を使い魔として従える者。言うなれば、魔術師の起源たる者。

 それ故に、そのクラスは単なる魔術師(キャスター)の範疇に収まらない、あらゆる英霊の頂点に立つ者――冠位(グランド)の器を持つ存在である。

 

 神にも匹敵しうる魔力、そして領域を圧し潰す程の力場を()()()()()()()()()()発生させ、並大抵の存在であれば恐怖し、絶望せざるを得ない、そんな存在を前にしてベリアルは――笑っていた。

 

「ク、ククククク……クハハハハ……」

「何がおかしい」

 

 ひたすらに笑い続けるベリアルに、ソロモンを名乗った者は不快そうに眉をひそめた。

 

「なぁに、実に滑稽なもんだなと思っただけだ。()()()()()()()()()()()()、な」

「…………」

「だが、今一つ面白くない事もある……お前、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ソロモンを名乗る者は沈黙する。そして、指で払うような仕草をすると、それと連動するように魔神柱が振るわれる。

 

 しかし、ベリアルはそれを、自らの爪から発せられた闇の刃で切り裂く。

 

「貴様がいては、我が3000年の計画に支障が出ると判断した。故に、此処で滅べ。多元宇宙より飛来せし悪よ」

「そうかそうか。そいつは……随分とつまらなそうな計画だな」

「何?」

 

 怪訝そうにするソロモンを名乗る者に対し、ベリアルは再度ロンゴミニアドを呼び出し、黒い嵐を巻き起こす。

 

「それはそうだろう? ()()()3()0()0()0()()()()()()()()()()で、それもこんなちっぽけな星でやるんだ。さぞやつまらん事なんだろうなぁ?」

 

 3000年。長命を誇るウルトラマンにとっては、そう大した時間でもない。

 そしてベリアルからすれば――何か一つの事を為すのに、そんなに時間をかける必要はない。

 事実、クライシスインパクト後から自身の完全復活までに、そう大した時間はなかった。リクという存在(道具)が生まれてから考えれば、()()()()1()9()()だ。

 端的に言えば、ベリアルはこの矮小な存在を見下していた。

 

 しかし、両者共に気づかない。『何故その行動を起こそうとしたか』『その結果何をしようというのか』という点で、ベリアルとソロモンを名乗る者は、互いに根本的な違いがある事に気づきもしない。

 

 ただ滅ぼしたいだけなのか。憎悪からくるものなのか。

 

「貴様は、跡形も無く消す。貴様は計画に不要な存在だ」

「良いぜェ。シンプルで分かりやすいじゃねぇか!」

 

 ソロモンを名乗る者は、そこまでに考えが至る事なく、目の前の脅威の排除を優先した。

 

 人類単位の脅威ではない。惑星単位の脅威だ。

 

 二人の王の戦いは、当然のように地下迷宮を崩壊させ――舞台は地上へと移った。

 




 ぶっちゃけリクを生み出した理由とか、リトルスターの最初の発症者と分離条件の発覚の下りとか、諸々の時系列がガバってるけど、一応ジード本編通り(だったと思う)なんです...

 多分ベリアル融合獣でリトルスターが確保できるか、一応実験してみたって感じなんじゃないかなって(テキトー)


【ウルトラマンベリアル オルタナティブ】
 全高は本編の通り約60m。姿のイメージはAnother Genesisのウルトラマンジャックをベリアル寄りにした感じ(Another Genesisを読んだ事があるとは言っていない)

 ベリアルがストルム器官と、乗っ取ったアルトリアペンドラゴン オルタの肉体を元にそれぞれ生成した、ストルム星人とアルトリアペンドラゴン オルタの怪獣カプセルを用いて、オルタナティブフュージョン・アンリーシュした姿。
 強さはキメラベロス以上、アトロシアス未満。

 戦闘に特化した宇宙人と比較すると今一つ劣るストルム星人と、FGO世界の地球では強い部類に入るが、数多くの強大な手下や敵対者を作ってきたベリアルから見るとイマイチ物足りないアルトリアペンドラゴン。
 前者は魔力という未知のエネルギーすらも変換できるストルム器官の万能さがあり、後者はこの世界で偶然にも乗っ取り、結果相性が良かったが為の選択である。

 更に『反転』という点における絶妙な相性の良さ故に、少なくともFGO世界の地球では、こと破壊活動においては並みいる攻撃系宝具持ちの英霊や、ソロモン王を名乗る者すらも凌駕し得るパワーを持つ。

 武装はギガバトルナイザーではなく、聖槍ロンゴミニアド。諸々の理由により宝具のランクは下がるが、一度振るえばアルトリアペンドラゴン オルタが振るう時以上の破壊の嵐をもたらす。
 もしこの槍の本質にまで気づいていたら、あっという間に世界崩壊の危機だった、かもしれない(アルトリアの記憶を読むのにも制限がある)

 願望機である聖杯をパワーソースとして取り込み、更なる強化を図るが、実はある弱点が存在する事に気付いていない。

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