あ、後書きはまた別に纏めます。
「ハァッ!」
先手を打ったのは、ジードだった。
マスターの少年がモードレッドの介抱を始めたのを確認すると同時に、ロンドンの街を駆けだし、一気にベリアルへと距離を詰めたジードは、そのまま飛び上がると、膝蹴りを仕掛ける。
この
そして、彼が度々使うのが、この跳び膝蹴りであった。
だが、その跳び膝蹴りはあっさりと防がれてしまう。
しかし、ジードの攻撃は止まらない。
膝蹴りした側とは逆の脚でそのまま横薙ぎに蹴り込む。
それも、ベリアルが片手で防ぐ。
「どうした、その程度か? なら――今度はこっちの番だ」
ベリアルは防いだその手で、ジードの足をむんずと掴むと、そのまま宙に浮いたジードを振り回す。
そして、何周かさせたところで、その手を離し吹っ飛ばす。
「グッ――!」
吹っ飛ばされたジードだが、最初に現れた場所から更に離れたところで体勢を立て直し、ウルトラマンの持つ飛行能力の応用で制止する。
「そぉら、どんどん行くぞ!」
そんなジードに、ベリアルは右手の平を向けると、そこから容赦なく闇の光弾を放つ。
その内の数発がジードの身体に命中。衝撃と共に激しい火花を散らすと、そのままジードの身体が地面へと叩き落されてしまう。
恐らくは牽制の意味も込めて放たれたのだろうが、それにしてはかなりの威力だ。
(まさか、これが聖杯の力!?)
魔術師どころか、その関係者ですらないジードでは、推測でしか物事を計れない。
だが、油断できない事は確かだ。
(あの攻撃に耐えるには――!)
未熟ながらも、数々の激闘を潜り抜けてきたリクの脳が、直感的にこの場における対抗策を考えだす。
「燃やすぜ! 勇気!」
『ウルトラセブン!』
『ウルトラマンレオ!』
『ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!』
瞬間、ジードの身体が赤い光に包まれ、更に炎が噴き出す。
炎と光の中で、ジードの肉体が、まるでロボットのように硬質なものへと変わっていく。
光が収まると、そこには先程までのジードとは違う、赤い身体に銀の装甲を纏った闘士が立っていた。
「姿が変わった!」
「へぇ! かっけぇじゃねぇかよ! メカニカルで!」
サーヴァント達とマスターの少年が見守る中、堅牢なる鎧の闘士――ソリッドバーニングに変わったジードは、腕を前で交差させ、そのまま持ち上げると、頭の横に腕を持ち上げ、肘を直角に曲げる。
そうして動く度に、全身のバーニア部から排熱作業が行われ、胸部の銀のプロテクターが閉じられる。
そこに、ベリアルが光弾を撃ち込む――が、ジードは身体のプロテクターで光弾をあっさり弾いた。
ソリッドバーニングは、その名にもある通り
そして、同時にその硬さを武器にした接近戦を最も得意とするのだ。
「サイキックスラッガー!」
ジードは、頭頂部に備えられた刃――ジードスラッガーを取り外すと、ベリアルに向かって投擲。
当然、ベリアルはそれを防ぐべく構えるが――スラッガーは予想に反し、ベリアルの目の前で上へと飛んでいく。
「何!?」
見上げてみれば、既にジードがバーニアを噴射させ、上空に躍り出ていた。
そのまま、ウルトラ念力で自分の方へ飛ばしたジードスラッガーを、右腕部のプロテクターに接続させる。
「ブーストスラッガーパンチ!」
そのまま重力に逆らう事無く、寧ろバーニアの噴射により加速落下しながら、ジードスラッガーの装着された右腕が振り下ろされる!
「その程度の小細工がァ!」
対するベリアルは、右手にロンゴミニアドを呼び出し、これを迎撃する。
突き出されたロンゴミニアドを回避できず、胸から左肩にかけて槍の穂先を受けてしまうが、プロテクターによって可能な限りダメージが軽減されていたジードは、そのままジードスラッガーでベリアルを切り裂く。
だが、こちらも斬り込みが浅かったのか、ベリアルは余裕そうに空いた左腕で殴り、ジードを跳ね除ける。
「ぐァッ!……まだだ!」
跳ね除けられたジードは、接続されていたジードスラッガーを取り外すと、ベリアルに向かって再度投擲。
これもロンゴミニアドで弾かれるが、ジードの狙いは別にあった。
すぐさま、ジードは右手のプロテクターを展開させると、そこにエネルギーが集中していく。
「ストライクブーストォ!」
そして、突き出された拳と共に、チャージされたエネルギーが炎を纏うエメラルドの光線となって放出され、ベリアルに向かって一直線に飛んでいく。
……しかし、それすらもベリアルは、先程ジードスラッガーを防いだ時のように、ロンゴミニアドを構える事で易々と防ぎきる。
「どうした? まだ本気じゃねぇだろ?」
「……僕は、いつだって本気で、全力だ!」
手加減をする余裕のあるベリアルとは違い、立ち向かう側のジードはいつだって本気で戦っている。
圧倒的な力と経験を備えた王であるベリアルに対し、そのどちらも持たないリクは、あるもの全てを使って戦わなければならないから。
更に、ウルトラマン特有の時間制限もあり、全力でかつ、エネルギーの管理に慎重になって戦わねばならない。
(ベリアルの挑発に乗っちゃだめだ。けど、あの槍の前じゃ、僕の攻撃が通用しない……それなら!)
「見せるぜ! 衝撃!」
『ウルトラマンヒカリ!』
『ウルトラマンコスモス!』
『ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!』
硬いだけではロンゴミニアドの防御を貫けないと判断したリクは、すぐさまカプセルを交換。
ジードの身体が穏やかな光に包まれたまま、宙を舞う。
そして、ジードを覆っていたプロテクターが無くなり、炎の如き紅のボディーが、海のような蒼に染まっていく。
「今度は、青い姿?」
「ああいうのなんて言うんだっけな……エイリアン?」
「あら、スマートな感じで私は好きですよ? まぁ一番はあの方ですが」
土砂も巻き上げず、まるで羽毛の如き軽々しさで静かに着地したジードは、青と銀の姿になっていた。
玉藻の言う通り、先程のソリッドバーニングとは打って変わり、流曲線を描くスタイリッシュな姿形をしている。ソリッドバーニングが剛を示すなら、こちらは柔だろう。
軽い身のこなしとスピードを武器とする青き衝撃の戦士――アクロスマッシャーに変わったジードは、変身と同時に右腕の甲から光の剣――スマッシュビームブレードを。左手には青い爪のような武装――ジードクローを装備し、二刀流のスタイルを取る。
「行くぞ!」
掛け声と共に、ジードが宙を駆ける。
あっという間に目にも止まらぬ速度まで加速したジードのスピードに、流石のベリアルも目が追い付かない。
プリミティブでは、ベリアルの光弾を避けられない。
ソリッドバーニングでは、光弾を防ぐ事は出来ても、ロンゴミニアドの防御を突き崩す事が出来ない。
ならば、光弾を避けられ、なおかつベリアルが動くよりも早く攻撃を加えればいい。
「ハァッ!」
高速で飛び回りながら、ジードは光の剣と二本の爪で、360度あらゆる角度からベリアルに斬りかかる。
正面かと思えば後ろから。左から来ると思った次の瞬間には右から。
ジードの持つ形態の中で随一のスピードを誇るアクロスマッシャーならではの戦い方である。
――しかし、アクロスマッシャーにも弱点はある。
「フン、痒いな」
一つは、前の二形態と比較すると、攻撃の面では劣る事。
アクロスマッシャーを構成するウルトラマンの片割れ、コスモスは、慈愛の勇者と呼ばれている。
意思ある怪獣を倒すのではなく、落ち着かせて元の生息域へと返す。
コスモスの基本形態であり、カプセルにもなっているルナモードは、彼が慈愛の勇者と呼ばれる所以の一つであり、ウルトラマンコスモスを象徴する姿でもある。
そんなコスモスの力を使っている事もあり、光の剣を操るヒカリの要素を除けば、アクロスマッシャーは基本的には相手を傷つけない技を持つ。
破壊力を持つものの、基本的には相手を別の場所へと吹っ飛ばすのが目的の衝撃波光線、アトモスインパクト。
興奮する怪獣を鎮める為に使われる、スマッシュムーンヒーリング。
ダメージを前提とした攻撃手段は、もう一本のカプセル、ウルトラマンヒカリの力と、ジードクローによるものが多い。
普通の怪獣であれば十分通用するが、ベリアル相手ではそうもいかない。長きに渡り因縁のあるゼロですら苦戦は必至なのだ。
「それなら! コークスクリュージャミング!」
ジードのインナースペースで、リクがジードクローのトリガーを二度引く。それに合わせてクローの刃が回転。
そして外のジードがクローを天高く掲げると、ジードがさながら独楽のように高速回転を始める。
更に、右腕を真っ直ぐ右に伸ばす事で、独楽から回転する光刃が生え、ジードはその状態を維持したまま、ベリアルへと突っ込む!
「うるァ!」
突っ込んでくる光の独楽を前に、ベリアルがロンゴミニアドに黒い風を纏わせると、渦巻く風が聖槍を覆い、極太の風の槍と化す。
そして突き出された黒風の槍と、光の独楽が激突する!
「ぐ――あァァァ!!!」
競り勝ったのは――ベリアルだった。
豪、と吹きすさぶ突風が、ジードの身体を貫く。
風に巻き上げられたジードは、そのまま建物の一つを壊しながら地面に落下。背中を強かに打ったジードは、その衝撃で肺から空気を吐き出し、苦悶の声を上げる。
苦しむジードを、ベリアルが見下ろす。
「オラ、どうした。まだ戦いは、終わっちゃいねぇだ……ろ!」
「――ッ、がァァァ!!?」
ジードの元へと悠々と歩いてきたベリアルは、そのままジードを踏みつけ、グリグリと蹄で腹部を抉る。
ジードが必死にもがくも、今の彼では脱出するには力不足。
「ぐぅッ……まだだ! 守るぜ! 希望!」
インナースペースで苦しむリクは、なんとか声を絞り出し、カプセルを交換する。
『ウルトラマンゼロ!』
『ウルトラの父!』
『ウルトラマンジード! マグニフィセント!』
更なるフュージョンライズを行い、ジードの身体が三度輝く。
輝きの中で、ジードの身体に更なる変化が起こる。
細身だった肉体は、見る見る内に筋骨隆々になり、頭部からは2本の立派な角が生える。
「オオォッ!」
雄々しき雄叫びと共に、ジードはベリアルの足を掴むと、アクロスマッシャーだった頃とは打って変わり、軽々とその巨体を持ち上げた!
持ち上げられた事で、ベリアルは体勢を崩し、そのままジードに乱暴に投げられてしまう。
「クッ……やはりお前が邪魔立てするか、ケェェェンッ!」
立ち上がる光が消え、そこには上半身を騎士の甲冑の如き鎧に包み、まるで神話に登場するトライデントのように伸びた立派な角とトサカが特徴的な戦士が立っていた。
「いままでの姿とは、何か違う……」
「なんて言うんだろう……そうだ、父の背中っていうのかな。頼りがいのある感じというか」
「……父、か」
マスターの少年の言葉にどこか思うところがあったのか、モードレッドはジードの――リクだった頃には想像もできなかった――あまりにも大きなその背中を見つめる。
崇高なる戦士――マグニフィセントの姿になったジードは、拳を固く握りしめると、堂々とした足取りで、真正面からベリアルの元へと向かって行く。
「ああ、クソが! その姿を見ているだけで、イライラが止まらねぇ!」
その姿に、かつての戦友にして、憎悪の対象であるウルトラの父――またの名をウルトラマンケン――の姿を重ね、ベリアルは激昂し、先程放った光弾よりも一回り大きな光弾を生成。
それを多数作り、一斉にケンの姿をしたジードへと発射する。
無数の迫りくる破壊光球を前に、ジードは使用しているカプセルの一つであるウルトラの父が用いるアイテム、ウルトラアレイに似た光を正面に出すと、それを高速回転させる。
高速回転する光のアレイが伸び、身体の前面ほぼ全てを覆う光の盾、アレイジングジードバリアとなる。
ジードは、バリアを張ったまま前進。バリアに破壊光球が衝突するが、バリアはこれを難なく防ぐ。
そして、一定の距離まで詰めたところで、ジードはウルトラホーンに電撃めいたエネルギーを漲らせると、頭を振るう。
漲っていたエネルギーは解放され、さながら電撃の鞭のように振るわれる。
電撃光線、メガエレクトリックホーンがベリアルに直撃し、その皮膚を焼くが、さして効いてもいないのか、逆に左手の爪で攻撃を仕掛けてくる。
ジードは一切防御せずこれを受けるが、上半身のアーマー状のボディーは伊達ではなく、ジードもまた全く怯む事無く、左の拳でベリアルの顔面を殴る。
更に、続けざまに右腕から発せられる高周波ブレードの如き斬撃が、ベリアルの胸を切り裂く。
だが、ベリアルも負けじとロンゴミニアドでジードの首を打ち据える。
そこから続く、不毛な殴り合い。
今のジードの形態は、言ってみれば素早さを下げて防御と攻撃にステータスを振ったソリッドバーニングとでも言うべき姿である。
それ故なのか、基本的にマグニフィセントの戦闘スタイルはカウンターが主体となっている。
ソリッドバーニングのようにジェット噴射によって威力を上げるといったような事は出来ないが、素の攻撃力の高さと、ソリッドバーニング以上の頑丈さでそれをカバーしているのだ。
そして、打たれ強さの点で言えば、今のベリアルもマグニフィセントに負けず劣らずといったところだろう。
何せ、文字通りの馬力はさることながら、聖杯とストルム器官を使った能力ブーストで、かつてフュージョンライズしたキメラベロス以上の膂力を獲得しているのだから。
掴む。掴んだ腕を引き剥がす。頭突きをかます。腹に一撃を加える。両手を合わせて、ハンマーのように頭部を殴る。風の魔力を操り、風の刃で切り裂く。負けじと、光の十字手裏剣で切り裂く。
それはさながら、終わりの見えないボクシングのインファイト。どちらが音を上げるかの勝負だ。
地上で見守るサーヴァント達も、固唾を飲んでこの戦いの行く末を見守る。
――その均衡が破られたのは、ほんの数秒後の事だった。
(ッ! カラータイマーが!)
ジードのカラータイマーが、青から赤に変わり、点滅を始める。
ウルトラマンとしての制限時間が迫りつつあったのだ。
途端に、ジードの身体に今まで無理をした分の疲労感が押し寄せる。
元々、変身可能時間になる前に変身できたのが奇跡だったのだ。その足りないエネルギーを、ウルトラマンキングのカプセルから発せられる光が補っていたが、それも限界らしい。
――これ以上戦いを長引かせられない。
ウルトラマンジードという肉体の器から漏れ出、今にも霧散しそうになっている光のエネルギーを、リクは精神力だけで器に押し込めながら、ベリアルから距離を取る。
そして、腕をL字に組み、エネルギーを腕へと集中させる。
「……ビッグバスタウェイ!」
そこから放出されたエメラルドの破壊光線、ビッグバスタウェイが、ベリアルへと殺到する!
「しゃらくせぇッ!」
対するベリアルも、ロンゴミニアドを横に構え、空いた左手を支えるように構えると、左手の平をジードへと向ける。
そして、一気にエネルギーを解放し、闇の光線、デスシウム光線を発射。
丁度中ほどのところで、光と闇が激突!
「う――ああァァァァ!!!!」
ジードが、リクが吠える。
あまりにも強大なエネルギー同士のぶつかり合いは、膨大な熱量と見えない波動を発しながら、かなりの重量を誇るジードの身体を後ろへと追いやり、踏ん張る足が地面に埋まりながら捲れ上がる。
しかし、それでもなおベリアルは強かった。ベリアルの闇が、ジードの光を圧し始める。
「う、ぐあぁぁぁ!!!?」
ここに至るまでで、蓄積されていたダメージが限界に達してしまったのか、それとも心の片隅に現れた、ほんの一かけらの諦めのせいか。
いずれにせよ、光線同士の鍔競り合いは完全に押し切られ、ジードは光線の奔流を受けて吹っ飛び、盛大に土砂を巻き上げながら仰向けに倒れる。
光線同士のぶつかり合いとは、言い換えれば相反するエネルギー同士のぶつかり合いだ。
どちらかの光線が弱ければ、そもそもぶつかり合いにはならない。強いエネルギーの奔流に、弱いエネルギーが飲み込まれるだけ。
少なくとも、ビッグバスタウェイと現在のベリアルのデスシウム光線はほぼ同等の威力であった。
そこに決定的な差があるとすれば、それは各々が内包するエネルギー量だろう。
「ジード。お前は、ウルトラマンとして確かに強くなった。……だが、所詮ウルトラマンは、強大な力を持っていようが、普通なら消耗する以外無い」
ウルトラマンという存在は、この地球で言えばサーヴァントの在り方に近しいものがある。
一度現出すると、基本的には内包したエネルギーを消費する一方である点。
エネルギーを失う事は、死とイコールである点。
方法次第では、そのエネルギーの消耗を防ぐ事が出来る点。
「ウルトラマンの力の源は、光だ。それは即ち――光無くして、ウルトラマンは長く活動する事は出来ない」
かつて、ベリアルがウルトラの星を照らす光の源であるプラズマスパークを奪った時、そこから発せられる光(と、その光に含まれるディファレーター光線)に満ちていた国は一瞬にして氷に閉ざされ、数多くいたウルトラマンのほとんどが氷漬けになってしまった。
更に、バリアを張って身を守っていた初代ウルトラマンとセブンも、光を失った事で変身ができなくなってしまっていた。
精神的なものであれ、物理的なものであれ、光が供給されなければ、ウルトラマンはその名の通りの超人としての力を振るう事が満足にできなくなるのだ。
「だが――今の俺には、ストルム器官と、そして聖杯がある。サーヴァントってのもいいもんだな。魔力さえありゃあ、幾らでも活動できるんだからよ」
対して、サーヴァントの力の源である魔力は、供給源が多彩だ。
自然界に存在する魔力、マナ。マスターや人間が内包する魔力、オド。大まかに分けて魔力にはこの二つが存在するが、その他にも供給手段は存在する。
例えば、聖杯戦争が行われる理由である聖杯。聖杯戦争で用いられる聖杯は、魔術師が構築したシステムと連動し、英霊にサーヴァントとしての魔力的な肉体を与える。これ自体もかなりの魔力が宿っている事もあり、手にすれば多大な魔力を手にする事が出来る。
例えば、カルデア。ベリアルが今ストルム器官と聖杯でやっているのと同じで、カルデアは電力を魔力に変換し、サーヴァント達に魔力を供給している。
他にも人間のような食事、更には人間の精神や魂を喰らう事でも魔力が補充可能(後者に至っては、英霊の性質上、自身の強化すら可能)と、非常に幅が広い。
存在するだけで莫大なエネルギーを喰うという点ではウルトラマンはサーヴァントと似ているが、上記の通りの供給源の多彩さに加え、受肉すれば(リスクは伴うが)自発的に魔力を生み出せるという、ウルトラマンにはない特性も持っているのだ。
「エネルギーが尽きるのを待つばかりのお前と違って、俺はストルム器官さえあれば、半永久的に活動できる! そして、聖杯と、大気中の魔力の変換によるブースト! 諦めろ、ジード。ゼロも、ケンも、ましてやキングの助けも無い今のお前に、勝ち目は万の一つたりとも無い」
「……まだ、まだァ!」
その声に、ジードがよろめきながらも立ち上がる。リクの今だ尽きない闘志が、今にも崩れ落ち、光の粒子となって消えてしまいそうなジードの肉体を辛うじて維持していた。
そして、リクは最後の札を切る。
『ウルトラマンベリアル!』
『ウルトラマンキング!』
黒き王と光の王のカプセルがジードライザーにリードされたと同時に、ジードライザーから虹色の光が溢れ、王の杖の如き剣が錬成される。
『我、王の名の元に!』
「変えるぜ運命!」
錬成された剣にウルトラマンキングのカプセルを装填したリクは、掛け声と共に杖の柄にあるV字状のクリスタルに触れる。
『ウルトラマンジード! ロイヤルメガマスター!』
これまでの形態には無かった黄金の光が、ジードの身体を包み、屈強なマグニフィセントの身体を書き換える。
頑強なる銀の鎧は、王気を纏う黄金の鎧になり、黄金の
頭部の威厳ある角は消え、代わりに側頭部が獅子の
纏う黄金の光の粒子が広がると、中からぶわりと、赤い裏地の黄金のマントが翻る。
「おお、あれこそは王の姿!」
「あら、綺麗」
「……あれが、アイツが運命を変えた姿、か」
黄金の粒子が降り注ぐ中、サーヴァント達の視線の先で、高貴なる王の姿――ロイヤルメガマスターにフュージョンライズしたジードが降り立つ。
高貴にして優雅。余裕ある姿を見せるジードだが、黄金の鎧と一体化したカラータイマーは、相変わらず彼の活動限界が近い事を警告していた。
「一気に決める! スラッガースパーク!」
フュージョンライズ完了と同時に、リクはフュージョンライズにも用いた、王の杖の如き剣――キングソードに、ウルトラセブンのカプセルを装填し、再びクリスタルに触れる。
キングソードがカプセルからウルトラセブンの力を引き出し、刀身にエネルギーが集中していく。
ジードはキングソードを正面に構えると、集中したエネルギーがスパークに変わったと同時に、横凪に振り抜く。
振るわれたキングソードの刀身から、ウルトラセブンの愛用する武器、アイスラッガーに酷似した巨大な刃が生成され、回転しながらベリアルの身体を両断せんと迫る!
******
「……まずいな」
マスターの少年が、冷や汗を流し、苦々しい表情を浮かべながら、ジードの攻撃を見守る。
巨大な刃による攻撃は、既に防がれた。ベリアルがロンゴミニアドを地に叩きつけ、巻き起こった黒い風が刃の威力を減衰し、そのまま弾いてしまったのだ。
しかし、ジードは諦めず、次なる攻撃として縦に幅広い光刃を放つが、これも弾かれ。
気付けば、また至近距離での攻防が始まる。
「今のリクさんは、私達で言えば魔力の供給無しで、限られた魔力で戦っている状態、なのですよね」
「しかも、宝具も乱発してな。全く。俺ですら執筆の時は自分の体力を見極めてやっているというのに」
マシュとアンデルセンの指摘の通り、今の状況は思わしくない。ジードは短期決戦を強いられる一方で、ベリアルは時間を掛ければ掛ける程に強くなる。
ただでさえ強いのが、今この一瞬も強くなっているなど、正直考えたくもない。
「せめて、ベリアルの持つ聖杯をどうにかできればいいんだけど……」
「つってもな、大将。今の状況じゃ、俺達じゃどうにもできねぇぜこりゃ」
そう言いながらも、金時も渋い顔を見せる。自分も助けに入りたいのだろうが、悲しいかな、戦いのスケールがあまりにも違い過ぎる。
『……僕らが今出来る事はと言えば、彼らの戦いを見守る事と、それから分析する事ぐらいだ』
『そして、現在はっきりしている事が一つ。『ストルム器官ずるくない?』って事だけだね。……いやホントふざけてるよなこの器官! なんだよ、位相反転って! 解釈次第で万能どころじゃなくなるんじゃないかこれ!?』
いつものような困り顔でロマンが頭を掻き、ダ・ヴィンチはベリアルの持つ位相反転器官の万能さに憤慨していた。
ダ・ヴィンチが怒るのも無理もない事だろう。
ゼロの持つウルティメイトイージスのように、他の宇宙でも活動を保証してくれるというレベルではない。
ストルム器官の位相反転能力は、今のベリアルのように魔力を自らのエネルギーに変換するだけでなく、物理的な攻撃を弾く
――しかし同時に、何か突破口を見出すには、このストルム器官をどうにかしなければならない。
「……あれ?」
ふと、マシュが疑問の声を出す。
「どうかした? マシュ」
「あ、いえ。ほんの些細な疑問でしかないのですが――」
そんなマシュの些細な疑問が、微かではあったが、人理を守らんとする者達に一筋の光明を見出させた。
******
「う……ぐぁ」
高貴なる王の鎧を纏っていた光の巨人は、無様にも力なく地に伏せ、土にまみれていた。その姿は、大ダメージによって既に最初の姿へと戻ってしまっていた。
「手こずらせやがって」
破壊をもたらす黒き王は、そんな巨人を、何の感慨も抱く事無く見下ろす。
ジードは、既にエネルギーのほぼ全てを使い果たしていた。最早、
胸のカラータイマーの点滅が激しくなる中、こうして姿だけでも保てているのは、リクに残された希望や闘志が、まだ前向きに働いている為だった。
だが、それは言い換えれば、絶望までの時間を先延ばしにしているだけに過ぎない。
「もういい。
遊び。先程までの命懸けの戦いを、黒き王は遊びだと断じた。
より正確に言えば、力試しや実験と言った方が正しいだろう。
今まで扱った経験のないカプセルの使用に、聖杯からの供給でどれだけ戦えるのか。
ベリアル自身、
アトロシアスが生命体として完成された存在とするなら、オルタナティブは未熟ながら、成長速度の凄まじい幼子。
それこそ、たったの19年――より正確に言えば1年足らず――で歴戦のウルトラ戦士にも劣らない実力を手に入れた、ジードのように。
(もう、駄目、なのか……?)
ジードは、血反吐を吐く事は無い。だが代わりに、彼の身体から光の粒子が漏れ出す。
その粒子こそは、彼の血のようなもの。それが身体から失われれば、ジードは肉体を維持できず、再び20時間のインターバルを待たなければならなくなってしまう。
(そんなの、駄目だ!)
何故、20時間が完全に経過したわけでは無かったのにフュージョンライズ出来たのか。そこには小難しい理由や理屈はなく、ただ願いだけがあるのだ。
例え違う世界であろうとも救ってほしいという、その身を呈して宇宙を救ったウルトラマンキングからの願い。
それは、キングだけの願いではない。カプセルという形で力を貸してくれるウルトラマン達の願いでもあり、外ならないリク自身の願いでもある。
(立ってくれよ、僕の足! 僕が、僕が皆を守らなきゃ……!)
傷つき、疲弊したリクの中には、未だ尽きない使命感が燻っていて。
しかしウルトラマン故の制限が、その使命感を空回りさせていた。
「これで最期だ。この街諸共、消し去ってやる」
黒き王が、禍々しき輝きを放つ聖槍を掲げる。聖槍が以前にも増して風を纏い、やがて赤い稲妻を帯びる。
これが振り下ろされれば、ジードはおろか、このロンドンの街が消し飛ぶだろう。
その時だった。
「――ォオオオオッ!!!」
雄叫びと共に、建物の屋根を飛びながら、ベリアルに接近する金色の人影。
「……! あれ、は!」
背中に担ぐ、金色の大斧。その身に雷を纏い迫るは、かつて雷神により産み落とされたとされる日本の英雄。
「喰らいやがれェ!
金太郎こと坂田金時が、建物の屋根を砕きながら飛び出す。
その手に持ったマサカリが、紫電を纏う。
「『
金時の必殺の一撃が、ロンゴミニアドを放つ準備段階に入ってがら空きだったベリアルの頭部に炸裂する!
「うぬッ!? ……チッ、この期に及んでェ!」
しかし、その一撃はベリアルにとっては必殺ではなく、僅かによろめかせる程度のみ。
無駄な足掻きをする雑魚を振り払わんとするが、その前に金時は離脱する。
そして向かったのは、ラムレイと一体化し馬のようになった下半身。
「オラオラオラァ!」
そこに降り立った金時は、我武者羅に斧を叩きつける。
「貴様、その程度で……!?」
後ろの金時を睨みつけ、振り落とそうとするが、唐突に前方に現れた気配にベリアルは振り返らざるを得なかった。
マグニフィセントの時のジードのように大きく立派な角を持ち、風にたなびく赤いマントを纏った、赤と銀の巨人。その巨人から感じられるのは、崇高なる意志。
「……貴様もこっちの地球にやって来ていたか、ケン!!!」
ケン。またの名を、宇宙警備隊大隊長、ウルトラの父。
かつてのウルトラマンベリアルの戦友にして、今のベリアルが憎しみを抱く一人。
そして同時に――此処にいる筈のないウルトラマン。
ウルトラの父は、何も言わずマントを脱ぎ去ると、ファイティングポーズを取り、ベリアルへと向かう。
「テメェは……俺の手で殺す!」
ベリアルも、頭では分かっていた。空に出来た空間の穴から、何かが現れたような感覚は無かった。ウルトラの父は、どこからともなく、唐突に現れたのだ。
つまり――本物ではない。限りなく本物に近い何か。
そうだと分かってはいるが――手を出さずにはいられない。この身は、憎悪の化身故に。
「そう思いご用意した次第ですが……いやはや、面白いように引っ掛かって下さいましたなぁ!」
そんなベリアルの心情を手に取るように汲み取りながら、それを弄び愉悦に浸るのは、世界に名高き劇作家、ウィリアム・シェイクスピア。
生前魔術師では無かった彼が戦いで操るのは、劇団と呼ばれる幻影。
一度望まぬ戦闘となれば、対象者にとって縁の深い人物などを模した幻影で相手を精神的に追い詰めるのが、聖杯戦争における本来の彼のスタイルである。
「全く、悪趣味な奴め」
それを不愉快そうに眺めるのは、幼い美少年の外見をしながら、捻くれた厭世家のような男。世界三大童話作家として名を残した男、ハンス・クリスチャン・アンデルセン。
彼は、来たるべき時に役割を果たすべく――必死に原稿を書いていた。ご丁寧にカルデアのマスターが用意した下敷きを敷いた、地面の上で。
「ハッハッハ、褒めて頂けるのはありがたいですが、ぶっちゃけると見た目以上にキツいですぞこれ! 喋らせなくてもいい、というのは利点ですがね。それ以上に私が呼び出す幻影史上一番デカいし、しかもロクに設定も凝らしていない急ごしらえですから、魔力をバカみたいに食うんですなぁ! が、しかし! 『
その言葉通り、シェイクスピアはその達者な口をべらべらと働かせてはいるが、合間合間に荒い息遣いが聞こえてくる。
しかし悲しいかな。アンデルセンはそんな事知ったこっちゃない。
「そうか。では頑張って時間稼ぎをしていろ。俺も急ピッチで作業を進めねばならん。全く、我らがマスター殿は編集者以上の厄介者だ」
「そうは言いつつも、貴方もなんやかんやで楽しんでおられるのでは?」
シェイクスピアにそう指摘され、アンデルセンは不愉快そうな表情を浮かべ――る事は無く。
「フン……かもな。たまには、頭を空っぽにして書くのも、悪くはない。生まれるのは目も当てられない駄作だが、書くのに苦労はしない。小難しい理屈や、悲劇や、ましてやテーマ性などもいらない。ただ頭の中にある馬鹿みたいに巨大な妄想を書き連ねればいいだけなんだからな」
そう言いながら、作家達は少し前の会話を思い出す。
******
「何故、ベリアルはストルム器官の能力を、戦闘で使わなかったのでしょうか?」
マシュのその疑問に、全員が目を丸くする。
「えっと、聖杯の魔力を変換するって事じゃなくて?」
「はい。リクさんの話によれば、元々の持ち主だった伏井出ケイは、その能力で障壁を形成したりも出来たのですよね? なら、ベリアルもその能力を使えたのではないのかな、と」
「それは――」
マシュのその言葉に、マスターの少年は「そりゃ、こっちを見下してたから」と安直な答えを返しそうになるも、すぐに口を噤むと、思考の海へと自ら潜る。
(……確かに変だ。本当に、僕らを見下しているだけの理由で、能力を使わなかったのか?)
ベリアルの尊大な性格ならば、そういった理由もあり得るのだろうが、それでも彼の頭の中で何かが引っかかっていた。
それに必要なのは、決定的な裏付け。
(……考えろ。リクの話から、伏井出ケイとベリアルの違いを見つけるんだ)
伏井出ケイ。ウルトラマンベリアル。ストルム器官を扱っていた二人の違いとは。
その思考は、やがてベリアルがストルム器官を奪った場面へと移り変わり――
「……そうか」
そこで気づいた。ベリアルが位相反転という万能に近い能力を乱発しなかった理由。
「気づいたらしいな。俺も娘の話が無ければ答えから遠ざかっていたところだったが」
どうやらアンデルセンは、一足先に気付いたらしかった。人間観察を得意とする彼だ。手掛かりさえあればお手のものだろう。
『……あー! まさか、そういう事なのか!?』
次いで、ダ・ヴィンチも声を上げる。
『え、何? どういう事?』
「つまりはこういう事だ。
最も、奴はそれを策とすら思っていないかもしれんがな、と付け加えながら、アンデルセンはマスターの少年が気づいた真実について代わりに語りだす。
「いいか。そもそもの話、俺達はストルム器官という超常の生体機能の能力だけを見聞きして、そして恐れてしまっていた。それこそが、この誤解を生む最大の切っ掛けになった」
「加えて、あのベリアルの強さ。おおよそサーヴァントでは太刀打ちできないが故に、その実力差から来る恐怖で、更なる勘違いが生まれた」
「この二つの要因が重なり合った事で、
「加えて、朝倉リクもまるで気づいていなかったと見える。奴が戦ったアトロシアスとやらがどれ程の強さかは分からんが、その強さが認識を書き換えたと言ってもいい」
それがベリアルの策なのか否か、それは本人にしか分からない。
はっきり言えるのは、今此処にいる彼らが、力の差を理解できる者達だったが故に起きたミスだという事。
そして、リクもその事実に気付かなかった。未熟さ故に。
「アトロシアスとなったベリアルは、その力をウルトラマンキングの力を吸収する為に使っていた
『そして、そこから導き出される答えはこうだ』
アンデルセンの後を引き継ぐように、天才ダ・ヴィンチが口を開く。
『奴はストルム器官を戦闘に使わなかったんじゃない。
奇しくもそれは、ベリアルが再度フュージョンライズできなかった理由と同じもので。
『あくまでも推測の域を出ないが、恐らくストルム器官が一度に位相反転できるものは一つに限られているんだろう』
「だから、聖杯の魔力を変換している間は、それ以外の用途で使えなかった」
そこまで分かってしまえば、後は策を練るのみ。……しかし。
「しかし、今のメンバーで出来る事は限られていますよ?」
「ああ。そこの蛮族騎士の攻撃が通用するのは確認済みだが、ただ攻撃するだけでは無意味だろうよ」
「おいコラ」
「ゴールデン殿も攻撃特化ではありますが、その雷撃が通用するのか……」
「あぁ? なぁに弱気な事言ってんだよ作家センセー! 俺っちだってそこまで馬鹿じゃねぇんだ。ここで重要なのは、
「ですが、一番の問題はやはり取り込まれた聖杯とストルム器官です。なんとか聖杯を奪取、もしくは破壊出来ればいいのですが……」
サーヴァント達があれやこれやと話し合う中、マスターの少年は一人、更に考え込んでいた。
(あと一つ。あと一つでいいんだ。今のメンバーに足りないものを補えれば……)
ベリアル攻略に必要な、最後のピース。
その最後のピースは、どう足掻いても今この場にいる面々では埋める事が出来ない。
――だから、彼も札を切った。
「マシュ。盾を配置して」
「先輩? 何を……」
不思議そうなマシュを他所に、マスターの少年は通信機のスイッチを押す。
「ドクター、ダ・ヴィンチちゃん。カルデアの英霊召喚システムを、直接こっちに繋げられる?」
『繋げるって、まさか――』
「ああ。この場で英霊召喚を試みる」
『けど、召喚に使う聖晶石は今使いきってたんじゃ……ああ! そうか! その手があった!』
通常、英霊召喚に必要な条件は三つ。
一つはカルデア内の召喚ルーム、もしくは特異点において拠点となる場所――カルデアとの繋がりを確立する為に最もふさわしい場所で召喚する事。
一つは、マシュの持つ盾を触媒とする事。
最後の一つは、魔力が結晶となった物質――聖晶石を用いる事。
しかし、これに関しては自らの魔力を代用する事で解決可能である。が、そもそも魔術師ですらなかった少年の魔力に問題があるのか、聖晶石を使った時とは違い、強力なサーヴァントは召喚出来ない。
おまけにベースキャンプ以外での召喚は、ただでさえ本家の英霊召喚よりも遥かに未熟なカルデアの召喚システムではより不安定になり、召喚した英霊が真価を発揮できないどころか、長時間の召喚に耐えられない。
カルデアで既に召喚・記録されている英霊の霊基から召喚するという手もあったが、悲しいかな、今の彼が知る限りで、あの巨大な敵をどうにかできる特性を持った英霊はいない。
「皆は、その間に時間を稼いで、リクを援護して欲しいんだ。その間に、アイツをどうにかできる英霊を呼び出す」
「あらま、分の悪い賭けではありませんか。いやマジで。そう都合よく目当ての英霊を引き当てられるとでも?」
玉藻の前の言う通り、これは分の悪い運試し、ギャンブルだ。
下手をすれば、求めてすらいない概念礼装が飛び出してくるかもしれないというのに――少年は強がって笑みを浮かべた。
「リクも言ってたでしょ?」
――「ジーッとしてても、ドーにもならねぇ」って。
******
「ケッ。偽物なんざ俺の前に持ってきやがって。どいつの仕業かは知らねぇが、ぶっ潰してやる」
突然現れた宿敵が偽物であるなど、戦っている内に自然と気づくもので、ベリアルの憤慨も当然のものだった。
しかし、例え幻影と言えども憎い敵だったという事もあり、ベリアルは一切の情け容赦なく、本気でこれを滅ぼした。
(少しばかりエネルギーは消耗したが、この程度、すぐに回復……!)
ベリアルに目立った傷こそ無かったが、執拗に繰り返されるサーヴァント達による攻撃には、煩わしさを感じざるを得ない。
動員されているサーヴァントは三体だけと何故か少ないものの、それぞれ強力な能力や宝具を持っているだけあって、サーヴァント達からすればかなりの持久戦に持ち込めていた。
金時が接近戦を仕掛け、シェイクスピアが幻影を呼び出してベリアルと戦わせ、そして傷つき消耗した二人を玉藻の前が宝具で癒す。
このループが何度も、何度も続いているのが現状であった。
そして今まさに、金時が再度ベリアルに襲い掛かり、幻影のウルトラの父がまたもや出現していたところであった。
「しつけぇなぁテメェら!」
「ハッハァ! 悪党をぶっ倒すのはヒーローの役目だからな! でもって、悪党をぶっ倒すまで諦めねぇのも、ヒーローなんだぜ!」
「……とか仰ってますが、我々、そもそもそういう
「しーっ! 今は余計な事を言わなくてよろしい! というか貴方と同類とか、良妻系キャスターとしては誠に遺憾なのですが!」
そんな軽口を叩きながら、二人のキャスターは魔力を限界まで回す。
――しかし、半永久的に行えるどころか、そう長く続くものでも無く。
(ッ、とと、やっべ。そろそろ限界も近いか……?)
金時の足元がふらつく。
それを、ニンマリと笑って誤魔化すが、ベリアルにはそれを見抜かれていた。
「解せねぇな。お前らじゃ俺には勝てないと分かっているだろうに」
いつだって、ベリアルには理解できなかった。力の差は歴然だというのに、それでもなお立ち向かってくる人間達の気持ちが。死の恐怖を前にして、それでもなお立ち上がれる人間達の勇気の源が。
アナザースペースでベリアル銀河帝国を築いた時もそうだ。星そのものを掌握し、宇宙そのものを手に仕掛けたように、彼が率いる軍団は、アナザースペースにおいて恐れる者など誰もいなかった。
だが、それでも人々は抗った。
諦めの悪い人間共が、と思った。
死にたがりか、とも思った。
何故、こんな奴らに負ける? と思った。
「さぁてな。俺達は仮にも英霊なんだ。人理守る為、ってのもあらぁ」
けどな、と金時は続ける。
「それ以上に、俺達よりも遥かに若い命が、俺っちよりも後に生まれたヒーローが、誰かを助けようと必死になって頑張ってんだ。俺達が頑張らねぇわけにゃ、いかねぇだろうが!」
「――その通りです!」
金時の言葉に同意するように、新たな影が戦場に乱入する。
「あん? ……おお! 大将、召喚に成功したか!」
玉藻やシェイクスピアらのいる場所を通り過ぎ、駆け抜ける男の影。
戦場にいるサーヴァント達は確信する。彼こそは、あの少年が呼び出した『英雄』であると。
その英雄の手には、赤と黄の長短異なる二槍が握られていた。
「フン、いくら頭数を増やしたところでなぁ……」
「――行くぞ、ベリアル!」
その声は、ベリアルからすれば妙に聞き覚えのある声で。
だが、記憶にある声とは少し違う。
「――ウォォッ!!」
ベリアルは、単純な勘だけでその声の持ち主を危険視した。
ただし、小さな的故に、風で吹き飛ばせば問題ないだろうと踏んで。
「させません!」
だがその風を、次いで参戦したマシュが盾で防ぐ。
「行ってください!」
「かたじけない!」
二槍の持ち主が、マシュに微笑みかけながら、脇を抜けていく。
その右目の下には所謂泣き黒子があり、それが元々美男子なこの男の貌をより引き立たせている。
普通の女性なら誰もが魅了される事だろう。
……が、生憎マシュは防ぐのに手いっぱいでその顔を見れず。
『皆、彼を――ランサーを援護してくれ!』
そこに、召喚を終えた少年が念話で戦場にいるサーヴァント達に指示を飛ばす。
「合点だぜ!」
「仕方、ありませんなぁ!」
「後でたっぷりロンドン観光!」
サーヴァント達が、各々に一念発起する。
金時は攻勢を強め、シェイクスピアは何故か人間大のウルトラの父の幻影を無数に召喚して襲い掛からせ、玉藻も時折呪術でベリアルを牽制しつつ味方の補助をする。
「すごい……あれだけ戦って、まだ戦えるなんて……私も、負けられない!」
そんな英雄達の戦いっぷりを見て、デミ・サーヴァントの未熟な盾の乙女、マシュ・キリエライトも己を奮い立たせる。
戦いは怖い。けれど、自分が先輩を守るのだと。
「――令呪を以て命ずる」
そして、はるか後方に控えた、人類最後のマスターたる少年は、その左手の甲に刻まれた三画の赤い痣――令呪に魔力を通す。
その内の一画は、先の戦いでモードレッドに使ったもので、残りは二画。その内の一画を、召喚した槍手に使う。
「宝具を解放し、ベリアルの胸のカラータイマーを穿て!」
「御意!」
この戦場で唯一の槍の使い手が、敏捷A+の素早さをもってベリアルの足下へと肉薄すると、そのまま足を駆けあがる。
自力で登れるところは自らの足で。登れないと判断すれば、手にした槍を突き刺して登りながら。
「クソッ! 邪魔をするな!」
「行けェ! 槍の兄ちゃん!」
「オォォォォッ!!!」
槍手が駆ける。駆け上る。それを黒き王は払い落そうとするが、それを執拗に頭部を責め立てる狂戦士が邪魔をする。
「穿て――」
その間に、槍手は白いラインが血管の如く不気味に蠢く胸元、その中心にある
「――『
突き立てられた紅の槍は、本来ならばカラータイマーの表面で弾かれて終わるはずだった。
だが、弾かれない。その特性故に。
「――!? 何ィ!?」
それはほんの僅かな傷。カラータイマーに、魔槍の切先数cmが埋まっただけの傷。
「『
そこに畳みかけるように、槍手は黄の短槍を同時に突き立てた。
ベリアルは思う。「たかだかこの程度の傷など」と。
「この程度の傷が――
面食らうのも無理はない。彼の身体に傷を付ける事すら難しいというのに、槍を突き立てられたばかりか、その僅かな傷が、
しかも――
それに伴い、身体中を循環していたエネルギーの流れも弱まり、身体の調子が不安定になっていく。
「何者だ、貴様ァ!」
「我こそは、フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナ! 人理を守らんとする
二槍の使い手たる忠節の騎士、ディルムッド・オディナ。彼の操る紅き魔槍――ゲイ・ジャルグは、刃が触れた対象の魔力的効果を打ち消す。
そして黄の魔槍――ゲイ・ボウは、癒す事が叶わぬ傷を刻み込む。
カルデアのマスターが呼び出したのは皮肉にも、此処ではない何処かの聖杯戦争において、ベリアルが憑依したアルトリアの別の可能性――聖剣の担い手であるアルトリアと戦い、彼女を大いに苦しめた相手であった。
「よくやった! 面はともかく、良い奴だなお前!」
そして、余計な一言を付け加えながら、体力を回復させていたモードレッドが復帰する。
「ぬゥッ! 長くは、持ちません! 急いでください!」
「わーってらぁ!」
魔力供給が途絶え、動きが鈍るベリアルだが、それでも危険な相手である事には変わりなく。
ほんの身動ぎ一つが、ディルムッドを振り落とすのに十分な脅威を持っているのだ。
「オォォォォーーー!!!」
敏捷こそディルムッドには及ばないモードレッドだが、幾分か補充できた魔力によるブーストで、それを補う。
魔力放出で無理矢理ベリアルの身体を跳躍するように駆け上り、数秒も待たず二槍を突き立てたままのディルムッドの元へと到達する。
「よっしゃあ! 行くぜ行くぜ行くぜェ!」
到達するや否や、モードレッドは野性的な笑みを浮かべ、しがみついた箇所に思い切り指を食い込ませると、クラレントを構える。
「ブッ込み行くぞ! ぶっ飛ばされないように気ィつけな!」
「ご心配なく! どの道、長く現界出来ませんから!」
初めて会ったというのに、いがみ合う事無く協力し合えるのは、彼らが互いに騎士であるからか。
それはともかくとして、ディルムッドは器用にカラータイマーの上半分に乗ると、モードレッドの邪魔にならないように移動する。
そして――
「『
思い切りクラレントをカラータイマーに突き刺したと同時に、剣から放たれた赤雷の光がそのままカラータイマーの内部へと流れ込む。
破壊のエネルギーが、ベリアルの体内へと流し込まれ、暴れる竜のようにうねり狂う。
「ウオォォォォォ!!!」
「ぐ、ぬゥゥゥゥ!?!!?」
ベリアルの体表がスパークし、微細な痙攣を始める。そして、白く脈打っていたラインが、不規則な点滅を始める。
光の国のウルトラマンが持つカラータイマーとは、ウルトラマンの活動限界を知らせるバロメーターとしての役割を持つだけでなく、それ自体もウルトラ心臓と直結し、エネルギーをコントロールする器官でもあるのだ。
かつて帰ってきたウルトラマンことウルトラマンジャックも、とある敵にカラータイマーを奪われ、干からびたようになってしまった事がある。
他のウルトラ戦士のように光のエネルギーに依存しないベリアルは、基本的にエネルギーが枯渇するという事はないものの、それでも重要な器官である事に変わりはない。
「こ、小癪なァ……!」
だが、モードレッドの宝具も、永久的に撃てるものではない。聖杯との接続が何故か途切れた今、ベリアルは残りのエネルギーを動員し、宝具に抵抗する。
体の方も痙攣を起こしながら、胸のモードレッド達を鋭い爪で払い落そうとする。
「させません! 宝具、展開します!」
だが、そこにマシュが宝具を展開しながら割り込み、事無きを得る。だが、他のサーヴァントとは違い、疑似的な宝具に過ぎないそれに、長時間の耐久を強いる訳にはいかなかった。
「オォォアァァァッッッ!!!」
気迫と共に、モードレッドがクラレントをカラータイマーの中へと押し込んでいく。
最初はほんの数ミリだったのが、1センチ、2センチと、その禍々しく光る刀身が徐々に深く沈んでいく。
「調子に――」
だが。
「――乗るなァァァ!!!」
所詮はその程度だった。
ベリアルが、体内のエネルギーを全身から放出。同時に、ウルトラ念力をもって再び黒い風を巻き起こし、さながら黒いオーラのようになる。
はたして、それがウルトラマンからすれば小さな人間にとって、どれだけの脅威となるのか。
言うなれば、巨人の形をした台風、竜巻。矮小なる人間にはどうしようもない脅威。
「あぐッ!?」
最初にマシュが吹っ飛ばされた。宝具で形成された光の盾も、全てを覆いきれるほどではない。盾がカバーできない範囲から風が流れ込み、マシュの華奢な身体を浮き上がらせたのだった。
「ぬ、ぬぅあッ!?」
続いて、ディルムッドが飛ぶ。しかし、彼にも召喚に応じた英霊としての意地がある。
「我が槍よ! 主に勝利を!」
身体が浮き上がる直前に、二槍の刃を深く食い込ませ、簡単に飛んでいかないよう固定したところで、彼の身体はマシュと同様に飛んでいく。
「う、があああああ!!!」
最後に残されたモードレッドは、何としても振り落とされまいと、右手でしっかりとクラレントを握りしめ、左手をカラータイマーに出来た傷口におもむろに突っ込んだ。
どこに聖杯があるかなど、正確な事は分からない。
カラータイマー自体の大きさはウルトラマンと比較するとかなり小さいが、人間から見れば十分に大きい。その中から、人間が手に掴める程度の大きさの聖杯を、しかもベリアルの妨害を耐えながら、なおかつ限りなく短い時間で探すなど、はっきり言って不可能に近い。
「駄目だ……モードレッド……!」
そんな絶望的な状況で、リクは何もできない。
動こうにも、蓄積されたダメージが重石となり、それでいて泥のように彼の身体に覆いかぶさっている。
そして度重なるエネルギーの放出による消耗は、泥に抵抗する為の気力を削ぐ。
リクは、そんな状況に陥ってしまっている自分に、目の前で頑張っている小さな仲間達の助けになれない自分に腹が立っていた。
「――おいリク! 聞こえてっか!」
俯いてそのまま倒れてしまいそうなジードの顔が、おもむろに上がる。
ウルトラマン故の優れた聴覚が、巻き起こる嵐に必死に抗いながら叫ぶモードレッドの声を聞きとっていた。
「何、挫けそうになってんだ! ベリアルは、テメェが
――……そうだ。その、筈だった。けれど、今の自分じゃ……頼りになるゼロもいない、今の自分じゃ……。
諦めの想いが、リクの心を支配していく。だが、それをモードレッドの声が押し止める。
……正確には違う。モードレッドの声を聞いたリクの「まだ諦めたくない」という意志が、完全に崩れ落ちてしまいそうな自分自身を奮い立たせていた。
「俺だってなぁ! コイツは自分の手でぶっ殺してやりてぇんだよ! あまつさえアーサー王の肉体を乗っ取り、挙句の果てにロンディニウムを滅ぼそうとしている、クソムカつくコイツを!」
モードレッドの過激さを孕んだ言葉が、しかしリクの心にしかと刻まれていく。
「でもな、俺だって馬鹿じゃねぇんだ! こと戦いにおいてはな! 無謀と勇気を間違えるなんざ、騎士どころか戦士としても三下だ! ――だからこそ、テメェに譲ったんだ!」
本当なら自分で倒したい。その想いに、一切の偽りはないのは分かる。こと、アーサー王に関してなら。
「だってのに、なんてザマだ! この根性なしが! その図体は飾りか!? あぁん!?」
「根性とかそういう問題では」と文句を返す事すら、今のリクにはできない。
「もし俺達がちっせぇから頼りにならねぇとでも思ってんのなら、よぉく見てやがれ!」
それは、モードレッドの覚悟。叛逆者であり、同時に騎士である彼女の矜持。
『――最後の令呪を以て命ずる!』
そして、それに合わせるようにマスターの少年が、左手を天高く掲げる。
その甲に刻まれた令呪の最後の一画が、赤く輝く。
『モードレッド! 聖杯を奪い取り、
えらく芝居がかってはいるが、それでいいのだ。
もとより、この場そのものが舞台のようなものであるが故に。
「俺に、逆らおうってのか! 塵の分際で!」
「それが、俺だァァーーッ!!!」
モードレッドの叫びに呼応するように、カラータイマーに流し込まれるクラレントの禍々しい光が強まっていく。
そして、モードレッドはより深く、その手をカラータイマーの中へと突き入れ――
「うぉッ、眩し!」
瞬間、ベリアルのカラータイマーから眩い光が発せられる。
その光の前には、金時のサングラスの遮光性すらも意味を為さない。
ほんの一瞬の閃光が止み、そこには――
「う……ぐぉぉぉ」
胸元を掻きむしり、身体を震わせ、土煙を高く巻き上げながら悶え苦しむベリアルと――
「ッ、モードレッド!」
真っ直ぐ地面に向かって自然落下する、モードレッドの姿。
リクのウルトラマンとしての目が、ボロボロと剥がれ落ちていく彼女の装甲の破片を捉えた。
そして――傷ついた手に握られている、輝く何かも。
「あれは――」
『聖杯! モードレッドがやったんだ!』
通信機の向こう側で、ロマンが浮足立った。
「しかし、あのままでは頭から!」
「俺っちが行く!」
そこに、既に建物から降りていた金時が走る。
しかし、同時に地面に伸びていた影が蠢いた。
「糞が……どいつもこいつも、何処までも邪魔ばかりしやがってェェ!!!」
予想以上のダメージに苦しんでいたベリアルが、怒りを滾らせる。
その最初の矛先は、当然モードレッド。
「やっべぇ! 間に合え!」
ベリアルが闇を纏わせた左手を構えたのを見て、スピードを上げる金時。その間にも、ベリアルの魔の手は伸びつつあった。
そして、モードレッドは――
「リクゥ! コイツを、受け取れェ!」
落下中であるのにも関わらず、おもむろに聖杯をジードに向けて投げた。
「なッ――!?」
「えっ!?」
「何してるんだアイツは――!?」
怒りに支配されつつあるベリアル除き、その場にいた全員が驚愕し、一部は叫んだ。
勿論、カルデアにいる職員達も同様に。
そんな彼らの驚きを他所に、聖杯は宙を駆け――モードレッドの見事なコントロールにより、ジードのカラータイマーの中へと、インナースペースにいるリクの元へと届けられた。
「これ……! モードレッド!」
不意に目の前に現れた聖杯を前に呆気に取られるリクだったが、すぐに視線を落下していくモードレッドへと向けた。
「――――――」
微かにモードレッドが何事かを呟いたのを最後に、その小柄な姿が土煙の中に消えた。
「くっそ! 間に合え!」
少し遅れて、金時も土煙に飛び込む。
土煙で彼の大柄な姿が掻き消えたと同時に――真っ黒な巨木が落ちてきた。
「うぜぇ……どいつもこいつも、俺の邪魔ばかりしやがってェェェ!!!」
目測でモードレッド達のいる場所へとストンプを繰り出した黒き王は、怨嗟の声を上げる。
「糞が、クソが、くそガァァァ!!! 運命は、俺ヲ選んダ、ハズ、ナノニィィィ!!!」
怒りに打ち震える憎悪の化身は、聖杯というエネルギー源を失ったというのに、どういうわけかその身体から闇のオーラを更に立ち昇らせている。
「い、一体どうなって……」
「まさか、暴走しているのか?」
アンデルセンが考えている通り、今のベリアルは制御を失った暴走マシンのようなものになりつつあった。
既に肉体を失ったベリアルは、残った怨念でこの世界にやって来、そしてアルトリアの肉体を乗っ取った。
言ってみれば、ここにいるベリアルは怨念そのもの。
しかし、アルトリアという器に加え、聖杯が手に入った事で、ある程度は理性を保て、力を制御出来ていたのだろう。
が、聖杯を失った事により、アルトリアはおろか、サーヴァントの器では普通なら収まりきらないベリアルの怨念に、ベースとなったアルトリアの肉体が耐えきれなくなっているのだ。
「放っておいてもその内崩壊するだろうが――」
『だろうが?』
「何が起こるかはわかりかねますが、もしやすれば我々諸共、最悪この特異点そのものを吹っ飛ばしてしまうかもしれませんなぁ!」
『なに嬉々としてるんだこの劇作家!?』
先程までのが意思を持った災害ならば、こちらは意思を持たぬ核弾頭付きの災害。
後は暴れるだけ暴れ、最後にはドカン。そういった危険性を孕んだ代物。
「どちらにせよ、ここで倒さないと……!」
盾の乙女は冷静を装いそう口にするが、その顔には明確な焦りが見える。
「――そうだ!」
しかし、解決策がないわけではない。この場で唯一の黒髪が揺れる。
「リク! 聖杯を使うんだ!」
少年の必死な叫びが、力なく項垂れる巨人の耳へと届く。
「聖杯は、持ち主の願いを可能な限り叶える! その力があれば、この状況を巻き返せるかも!」
カルデアにおける聖杯の使い道は、今のところ明らかになっていない。それが明かされるのは、恐らくそう遠くない未来だろう。
しかし、聖杯の本来の使い道であれば、今のジードに力を与える事が出来る、かもしれない。
「ジィィィィドォォォォ!!!!」
そして、リクには考える時間も無かった。荒ぶるベリアルが周囲を破壊しながら、こちらに真っ直ぐ向かってきていたのだから。
「……やるしかない!」
そして、リクは聖杯を力いっぱいに、しかし壊れないように加減しながら握りしめる。
使い方は分からない。だから、直感と、マスターの少年達が言っていた聖杯の情報を頼りにする。
「無駄、むだ、ムダァ! ドレダケ運命を変エるヨウな奇跡を起こそうガァ!」
リクの希望を消さんと、ベリアルはロンゴミニアドを振り上げる。それまでも十分禍々しかったそれは、更に棘が伸び生え、もはや槍とすら呼べない程のものへと変貌を遂げていた。
「ッ、止め、ないと!」
『無茶だマシュ! 君はもう限界に近い!』
「でも!」
マシュが、積み重なる疲労と苦痛に耐えながら立ち上がろうとするが、その足は震え、歩くどころかまともに立つ事すら難しくなっていた。
「俺ガ生キテイル限リ、無意味ィ! 絶望ハ、終ワラナイィイ!!! そしてェ……オマエ達ハ、終ワルゥゥゥ!!!」
そして、無慈悲に槍を振り下ろす――
「えぇい! ままよ! 」
その時、アンデルセンはおもむろに立ち上がると、手にした原稿から光が放たれ――
「――終わらない! 終わらせない!」
光の粒子がジードの上からシャワーのように降り注ぎ、その傷ついた身体を包み込む。
『
今回の場合、残念ながら急ごしらえな事もあってか、以前彼のマスターとなったある人物ほどの長時間かつ強大な効果は見込めないが……それでも、ジードの調子を取り戻すという意味では、これ以上にない援護となった。
「頼む、僕に、皆を守る力を!」
――この運命に、叛逆する力を!
立ち上がるだけの力を取り戻したリクは、インナースペースで聖杯に願いを込める。
――クソッタレな運命に、叛逆し続けろ。最後まで。
落下する一瞬で、モードレッドが言ったあの言葉が、リクの言葉に力を与える。
そして、その願いを聞き届けた聖杯が輝きを増し――
「……! キングのカプセル!?」
――それに呼応するように、ウルトラマンキングのカプセルがひとりでに浮き上がり、同じように光を放つ。
その光が聖杯の光と重なった瞬間、インナースペースが輝きに包まれた!
「わっ――」
驚きの声と共に顔を庇うリク。
しばらくして光が止むと、気づけばリクの手の中に、カプセルと似た感触が生まれていた。
「これって……」
手を開いてみれば、そこに乗っていたのは見た事もない赤いウルトラカプセル。
――いいや。これはウルトラカプセルではない。
裏返っていたカプセルを表に返すと、そこにはウルトラマンではなく、全身全てを鎧で包み、剣を天高く振りかざした一人の騎士が描かれていた。
そして、その騎士が誰なのかを、リクは知っている。
「……モードレッド」
奇跡、と言うべきなのだろうか。キングカプセルと呼応した聖杯が、リクの中にある叛逆者のイメージ……即ちモードレッドのイメージを汲み取り、ウルトラカプセルとほとんど同じの複製品、ベリアルの扱うサーヴァントカプセルと同等のものを生み出したのだ。全ては、ベリアルという悪逆がもたらす運命に、真っ向から叛逆する為に。
「……行こう。一緒に!」
挫けそうだった心は、モードレッドという支えの元、再び立ち上がる。今度こそベリアルを倒し、皆を守る為に。
「――
モードレッドのカプセルを、装填ナックルに挿す。
「
ウルトラマンキングのカプセルを、装填ナックルに挿す。
「
そして、ナックルに装填した二本のカプセルを、ジードライザーでリードする。
モードレッドをリードすれば、ジードライザーの発光部が赤く。
そしてウルトラマンキングをリードすると、その赤色が、輝くような青へと変わる。
「ハァッ!」
そして、ジードライザーのスイッチを押すと、発光部から光の粒子が溢れ、長細い形状を取り出す。
『モードレッド!』
『ウルトラマンキング!』
『我、叛逆者の名の元に!』
そして、光の粒子が一つの光になると、一本の剣となる。
――『
そして、最大の違いは剣の柄。まるでジードの目のような結晶が広がり、その中心にカプセル一個分の窪みがあった。
扱った事の無い武器。しかし、リクにはその使い方が分かっていた。
己の感覚を頼りに、窪みにモードレッドカプセルを装填し、そして叫ぶ。
「――越えるぜ、運命!」
かつて朝倉リクは、己の運命を変えた。悪しき者の力となるはずだった、その運命を。
だが、変えただけではどうにもならない困難もある。運命という長い道のりに立ち塞がる脅威がある。
だからこそ、二度にわたって自らの父を越えていった。
そして、三度目。
この世界は、リクとはなんの関係もない世界で、ここで出会ったカルデアの面々やサーヴァント達も、本来ならリクの人生には一切交わる事のない者達だ。
……だが、出会ったばかりのはずの彼らと、最高とまではいかずとも、今では確かな絆ができた。
「守りたい」と、確かに思える程の絆が。だから、もう一度越える。
「
この世界で出来た仲間達から託された希望の欠片を手に、どんな運命も越えていく!
『ウルトラマンジード! クロスオーバー!』
******
ある日、ロンドンの街は奇妙な霧に包まれた。
今だ市民が
その日から、ラジオでは安全の為に市民に外出禁止令が出され、まだ幼い兄妹は、鬱屈とした毎日を強制される事となった。
遊びたいのに、家から出られず退屈し、美味しいものが食べたいのに、ここ数日出てくるのは似たり寄ったりな料理ばかり。
子供を気遣う親心とは言え、何故外に出てはいけないのかという理由を知らない無垢なる子供達には、今の状況は牢屋に入れられたかの如く不自由で、息苦しかった。
彼らの親も、詳しい状況までは分からないが、どこそこの住人が音信不通になったり
、時々外を得体の知れないモノや、蒸気機関めいた駆動音を鳴らす何かの影が通り過ぎるのを見たりすれば、嫌でもそういう状況なのだという事を思い知らされる。
そんな日々が、どれだけ過ぎただろうか。
「……なんだ? 急に霧が……」
その日は、とりわけ酷く喧しい日だった。
何かが爆発する音や、金属音、そして衝撃。オマケに霧越しにうっすらと見える巨大な何かの影と、ロンドン市民の誰もが戦争が始まったのかと勘繰る程だった。
そこから十数時間が経過した頃だった。
あの殺人霧のせいで昼か夜かぐらいしか分からなかったのが、急に当の霧が薄まりだし、見通しが効くようになったのだ。
それを知ったジャスレーとエミリーは、やったと言わんばかりに飛び跳ね、ドアの鍵を開けた。
幸運にも、魔霧が薄まったおかげか、致死性がほとんど消え、精々が少し呼吸しづらい程度だったのが救いだった。
両親が二人の外出にすぐに気づけなかったのは、丁度兄妹が外に出た瞬間、外から聞きなれない音が聞こえてきたからであった。
爆発音のようであり、雷鳴のようでもあり、風の吹きすさぶ音のようでもあったが、正直なところそのどれですらなく。
明確に言える事はと言えば、人生で一度も聞いたことのないような――そしてこれからも聞くことのないような――音であるとしか言いようがなかった。
――そして、兄妹は目撃する。
「何……あれ……?」
「悪魔……?」
――邪悪な笑い声を上げる、黒い
黒い魔王が腕を振るった瞬間、衝撃波と風が街灯を道路ごと捲り、通りのど真ん中に立っていた兄妹に襲い掛かる。
「わぁーーーッ!!」
「きゃあーーーッ!!!」
もう駄目だ。兄妹は、興味本位で外に出た事を、この瞬間になって初めて後悔した。親の言う事を守らなかった、罰が当たったのだと。
だが、まだ幼い子供達に、そんな罰が下る道理があっていいのだろうか?
――いや、ある筈がないのだ。決して。
「……?」
果たして、罪無き子供達に襲い掛かる筈だった痛みも、苦しみも無かった。
ただ、暖かな光が、兄妹を包み込んでいた。
「――おにいちゃん、見て」
エミリーが指を指す。その方向――暖かな光の源へと視線を向ける。
「――光の、巨人」
飛んできた街灯から二人を救ったのは、その身を輝かせた、光の巨人。
巨人は、ジャスレーとエミリーを背に立つ。まるで、魔王から彼ら兄妹を守らんとする、勇者のように。
やがて、巨人を包んでいた光が天に昇り、その姿を明確に現した。
いの一番に目に入ったのは、視界中に広がる青い布――否、マントだ。
風にたなびくマントの下に、赤と銀の模様に被さるように覆う銀の鎧のようなものが見て取れる。
そして、後頭部しか見えない頭には、角の生えた王冠のようなものが乗っているらしかった。
「ジャスレー! エミリー! 無事――」
と、そこへ二人の父の声が聞こえ、不意に途絶える。声が聞こえていないというわけではない。
父は、言葉を失っていた。目の前に広がる、現実のものとは思えない光景に。
「あ……ああ……」
だがそれは、絶望から来る現実逃避では断じてない。
父の目には、光が瞬いていた。
「あれは……まさか」
何か訳知り顔で、父は立ち尽くしていた。
この声には、感動と希望が滲んでいて。
彼らの目の前から、魔王と巨人の騎士が消えた。目にも止まらぬ速度で飛び上がったのだ。
その影響で巻き起こった風に子供達は驚くが、彼らの父はそれどころではなかった。
「……『ブリテンに滅びの危機迫る時――』」
――かの王は、再び蘇る。この国を救う為に。
かの伝説を追う学者である彼は、そう呟きながら空を見上げる。
「ねぇねぇ、それって何?」
「――これはね、遥かな昔から信じられてきた、偉大なる騎士王の伝説さ」
彼の目は、憧れの
******
「オォォォォッ!!!」
空に飛び上がったベリアルを追い、新たな姿となったジードも空を飛ぶ。
人の目では到底追い切れず、サーヴァントでも辛うじて軌跡を目で追うのが精一杯のドッグファイトを繰り広げる。
――『ウルトラマンジード クロスオーバー』。
本来ならばウルトラマンベリアル オルタナティブと同様、あり得ざる姿。本来なら交わる事の無い
英霊とウルトラマン。パワーバランスで言えば偏りが凄まじいこの二つの組み合わせが成立するのは、聖杯という万能の願望機に加え、ウルトラマンキングの力、そして何より――朝倉リクとモードレッド、二人の親和性が高かった事もあるだろう。
ウルトラマンの模造体と、アーサー王のクローン。同じ造られた者。悪逆を為す為に生み出されながら、相反する生き方をもって叛逆した者。
どちらも王を倒した。その違いは、善か悪か。創造主の定めた運命に抗い、人々の為にヒーローとなったか、最後まで己の為に戦い、結果創造主の思惑通りに動いた叛逆者となったか。
その在り様は、まさに陰陽図のようで。
その姿は、銀と赤の皮膚に、銀の鎧、青のマント、そして角のある王冠。
ロイヤルメガマスターと似た構成ながら、まるで『もしもモードレッドが王位を継いだら』というifを具現化したかのような、そんな印象の強い姿となっていた。
更に、その手にはウルトラマンの大きさにまでスケールアップしたクラレントが握られている。
「ベリアル!」
先に飛んだベリアルに、ジードが肉薄する。そして、銀の一閃が煌いたかと思うと、ベリアルの下半身――つまり馬の部分――の横っ腹から火花と闇の粒子が、さながら血飛沫のように飛ぶ。
斬られた痛みに苦しむ間もなく、ベリアルは距離を取ろうと魔力とエネルギーを放出するが、ジードはそれに軽々と追随してのける。
こうなったのは、現在のベリアルは聖杯を抜かれパワーダウンし、更にジードが新たな姿となった事でその能力が格段に向上し、能力に差があるというのも理由の一つだが、最もたる原因は、オルタナティブが飛行に向いていない形態という点にある。
ストルム星人はその能力を応用すれば出来るかもしれないが、もう一体の融合素材たるアルトリアには、少なくとも空を飛ぶ類の逸話は持ち合わせていない。彼女の乗騎たるラムレイもまた然りである。飛び上がる事は出来ても、そのまま飛ぶ事はおろか、滞空すらできない。
その為、今彼が飛んでいるのは、他ならぬ素体であるベリアルとしての能力に依存していた。
ついでに言えば、馬の下半身が非常に邪魔になっているのもあったりなかったり。
「糞ガ、クソガァッ!」
――押されているだと? 馬鹿な。そんなはずはない。俺は、俺様は、また強くなったのに。
そんな思いが、ベリアルの中で渦巻き、堂々巡りを繰り返す。
だが、現実は非情にも、ジードに味方し続けていた。それこそ、過去の戦いを繰り返すように。敗北の歴史を繰り返すように。
「ウルルァァ!!! ジィィィィィドォォォ!!!」
聖杯を失ったベリアルが、その身に宿した怨念を闇に変え、光線として放つ。
しかし、その闇はクラレントの銀の輝きに阻まれ、ジードには届かない。
「オォッ!」
逆に、ジードは剣にエネルギーを集中させると、そのまま横一閃に切り払う。
瞬間、ロイヤルメガマスターの技であるスウィングスパークルのように、剣閃の形にエネルギーが形成され、それがベリアルに向かう!
「ぐ……グオォ!」
それをロンゴミニアドで防ごうとするものの、単純な力の差で押し負け、そのまま光閃が直撃する。
――ベリアルには理解できなかった。どうしてこうも負けるのか。
「小……癪ナぁ!」
ベリアルは闇の光弾を放つ。だが、それも弾かれる。
「ウォアァ!!」
闇の波動を放つ。弾かれる。
「シィィッ! ムゥン!」
デスシウム光線を放つ。真っ向から切り裂かれ、光線が掻き消えた。
「……もう、止めよう。これ以上やったら、貴方は……」
ジードが、ベリアルに語り掛ける。彼には、ベリアルという個人の内側を構成するものが崩壊しつつある事が、手に取るように解った。解ってしまった。
どうしても、憐れみの念を抱かずにいられなかった。時空の狭間の時と同じように。
「フザケルナァ! コの、コノママ、終ワレるカぁ!」
だから、ベリアルも同じように突っぱねる。
彼のプライド、彼の怨念、彼の邪念、彼の闇。全てがそれを否定する。
俺は、ベリアルは不滅なのだと、証明するように。
「ヴォオアァァァ!!!」
全ての闇を吐き出すかのような怨嗟の雄叫び。
それと共に、ベリアルがロンゴミニアドを天高く突き上げる。
ロンゴミニアドを包むように、闇が纏わりつく。
今のベリアルに、ロンゴミニアドの真名解放は出来ない。否、出来るだけの知恵が残されていない。
だが――己が力を放出させ、疑似的に全力全開の一撃を放つ事は出来る。
「終ワラせてヤル、何モカも!」
ロンゴミニアドを覆う闇がスパークしだす。それに伴い、ベリアルの身体にも闇の雷が帯びる。
ベリアルの中で爆発的に強まっていく闇が、ベリアルの肉体を軋ませ、苦しませる。
それでも肉体が崩壊しないのは、ベリアルの強大な素質故か。
――だから、リクも覚悟を決めなければならない。
「……終わらせる。この戦いを!」
インナースペースで、リクはクラレントを真横に持つと、ジードライザーを柄から剣の面へと滑らせる。まるで、剣を砥石で研ぐように。
刀身にジードライザーを滑らせた箇所から、クラレントが黄金の輝きを帯びる。
それに連動するように、外のジードが左手をクラレントの刀身の表面を滑り、黄金の輝きを放ち始める。
「消えテ無クナれェェェ!!! ジィィドォォッ!」
ベリアルのロンゴミニアドが振るわれ、溜めに溜められた闇の奔流が、天から地に向かって降り注ぐ滝のように、ジードの元へと殺到する。
それに対し、切先まで光り輝くクラレントを手にしたジードは、それを縦に構えると、自ら闇の中へと突っ込んでいき――
「クラレントバーストォォォ!!!」
刀身に込められた光を一気に解放。刀身が伸び、鞭のようにしなり、そして闇を切り裂く。
光の刃で露払いをするかのように、ジードは闇の中を突っ切っていく。
「う――ぁぁあああ!!!」
闇に、斬り込んでいく。
そしてそれは、地上からもはっきりと見えていた。
「すっげー……」
マスターの少年は、その一言しか言えなかった。これまでの戦いでは比較にならないほど、目まぐるしい空中戦。その決着もまた、スケールが段違いだった。
彼の視界の中で、闇の流れが二つに分かたれ、それを切り裂く光は、まるで空を走る流星のようにすら見える。
「ふん、付け焼刃の宝具だったが、案外やれているものだな。……いや違うな。あれが、あの巨人の可能性という事か? 思い描く理想すらも、恐ろしいスピードで追いつき、追い越す。それがアイツなのか? ……」
そんな彼に宝具を使ったアンデルセンは、一人考察を巡らせていた。
「……まぁ、いい。そういえば、急ぎ過ぎてあの原稿にタイトルを入れるのを忘れていた」
「なんと。では私が――」
「やめろ。お前が考えると、どの話も悲劇オチになりそうだ。……では改めて。タイトルは、そう――」
――『運命の叛逆者達』。
闇を切り開く光が、徐々に闇の源へと近づいていく。
「そんな――」
そして。
「馬鹿、な」
黄金の剣が、ベリアルのカラータイマーに突き立てられた。
剣を伝い、光がベリアルの体内へと流し込まれる。
「……貴方の、負けだ」
真っ二つにされたカラータイマーから、禍々しい色合いの粒子が噴き出す。
「何故、俺は、負けた」
「…………」
ジードは答えない。
「お前の、その力、は……光は、なん、なんだ」
「……貴方が捨てたものだ」
ジードは、静かに答えた。
「……そうか――」
最後に何かを呟いた、その一言を聞き届け、ジードは突き刺した剣を抜き、ベリアルから離れる。
そして間もなく、ベリアルの内側から光が溢れだし――
「わっ」
盛大な爆音と共に、空に光の花を咲かせる。その花は、光の粒子となって、ロンドンの街に降り注ぐ。
(……今度こそ、さようなら。父さん)
光の雪の中で、ジードはその一つを掴む。
掴んで、開いてみれば、そこには何もない。
……今度こそやったのだという自覚が、彼の中で湧き上がる。
だが、そこには歓喜の感情は無く。
「うわぁ……」
「綺麗です……」
対照的に、地上から成り行きを見守っていたカルデア一行は、降り注ぐ光という神秘的な光景に心を奪われていた。
……今度こそ終わったのだという感覚が、マスターの少年の中に湧き上がる。
相手が相手だっただけに、その感動もまた尋常ではなく。
「――おーい!」
ふと、聞き覚えのある声が耳に届く。
その声のした方を向けば――
「ったく、ヒデェ目に会ったぜ」
「まぁそう言うなよ。見な。どうやらヒーローが勝って終わったらしいぜ」
「……っかぁーッ! 肝心の野郎がぶっ倒される瞬間見過ごしちまった! ……ま、いっか!」
格好こそボロボロだが、そこには確かにモードレッドと金時、二人の英霊が肩を組んで揃って歩いて来ていた。
(……無事だったんだ)
上空からそれを見つけたリクも、ほっと安堵の息を漏らした。
その時、それまで使っていたクラレントが(モードレッドカプセルごと)光に包まれる。
「あっ……」
リクの目の前で、クラレントはインナースペースから外へと飛び出し――気付けば、ジードの姿もプリミティブに戻ってしまっていた。
それは即ち、彼が叶えたかった願いが、もう叶ったという事。
そして、光はさっきまでベリアルのいた辺りにまで飛来すると、そこで別の姿を形作りだす。
「……貴方は」
「父、上」
そこに現れたのは、ランサーのサーヴァント、アルトリア・ペンドラゴン。ベリアルの器となった事で、彼と共に滅んだはずの王。
姿こそ相変わらずオルタの姿だが、その輪郭は光り輝き、その目には最初カルデアの面々と戦った時には無かった、理性の色があった。
しかし、実体ではない。うっすらと透けているそれは、残された思念体のようなものなのだろう。
(これも、聖杯の起こした奇跡、なのかな)
恐るべし、聖杯。万能の願望機に、理屈など通用しないのだ。
『……ブリテンを守った貴方に感謝を、異邦の巨人よ。黒き王との戦い、見事であった』
アルトリアは、エコーの掛かっているような声で、感謝の意を示す。
『運命に抗い、善を為さんとするその姿。まさしく、英雄と呼ぶに相応しいものだった。……とはいえ、実力で言えばまだまだ未熟ではあるが……なに、今後も精進するがいい。さすれば、そう遠くない未来、秘められた可能性が開花することだろう』
そう、若きウルトラマンへと告げる。その未熟さと、未熟故に存在する、未来への可能性に期待を込めて。
『……そして、カルデアの者よ。貴方達にも感謝を。おかげで私は、二度……否、三度に渡りブリテンを滅ぼすところであった』
次に、カルデアのマスターと、そのサーヴァントへと。……マシュの姿を見た時、ほんの少し目を細めながら。
『それと、一つ忠告を。……かの王には気を付けよ』
それは、とカルデアの少年が問い返す前に、アルトリアは踵を返す。
「あ……」
その背に、反応せざるを得ない騎士が一人。
だが、騎士は伸ばしかけた手を、自らの手で引っ込める。歯を食いしばりながら。
『……モードレッド』
かつての主にして父の声に弾かれるように、叛逆の騎士は顔を上げる。
『――貴公も、この国の為によく働いてくれた。大義であった』
――貴公を誇りに思う。
「……あ、ああ……」
モードレッドの声が震える。それに自ら気づき、唇を噛み締めて我慢すると、その場で跪き、頭を垂れた。
「――ありがたき、幸せ」
そう呟いた瞬間に、王は消えた。英霊の座へと帰ったのだ。
クラレントを形作っていた聖杯を、マスターの少年への置き土産にして。
――同時に、異人達にも、帰るべき時が迫っていた。ベリアルが倒され、聖杯も確保したことで、この特異点における人理修復は遂行された。
天に空いた時空の狭間に通じる穴も、世界の修正力によって塞がれようとしている。
ジードも帰らなければならないし、カルデアからレイシフトで此処に来た二人も、カルデアへと帰還しなければならない。
「…………」
ジードは、地上にいるカルデアの面々へと顔を向ける。
彼は、何も語らない。きっと、何も言わなくても、何を言おうとしているのかわかるだろうから。
「……ウルトラマンジード!」
まず口を開いたのは、マスターの少年だった。
「ありがとう!! 元気で!!」
めいいっぱい叫び、大きく手を振った。ジードにも聞こえるように。ジードにも見えるように。
「ジードさん! 本当に、本当にありがとうございました!」
次いで、盾の乙女も叫んだ。
「ジード! 中々のファイトだったぜ! あ、そーだ! 次会えたらよ、ドンシャイン見せてくれよな!!!」
人理修復が為された事で、強制送還が始まりつつある雷神の申し子も、逞しい腕をぶんぶん振り、笑顔でジードを見送る。
「……おい、何か言葉は送らんのか? 俺はやらんが」
「右に同じく。言葉を送るだけならまだしも、叫ぶのはしんどいのでちょっと遠慮させて頂こうかと」
「……と言いますか、あの方以外の我々、そういう柄じゃありませんし?」
「違いない」
三人の魔術師のサーヴァント達は、何も言葉を送らない。だが、彼らの中には間違いなく、ジードへの想いが三者三様に存在していて。
「…………」
最後の一人、モードレッドは、先程まで頭を垂れていた姿勢から立ち戻り、ジッとジードの方を見つめる。
「……あばよ」
しばしの逡巡の後、彼女の口から出た言葉は、たったそれだけだった。
「はぁ~~~??? 貴方、もっと他に無かったんですかねぇ?」
「ンだようるせぇなぁ。俺だってこーいう時に叫ぶのはガラじゃねぇんだよ」
そんな彼女の態度が気に食わなかったのか、モードレッドに玉藻が食って掛かり、そこから始まるやいのやいのという些細な喧嘩を見て、リクは微笑みを浮かべる。
「……元気で」
――もしも、彼らの身にとてつもないピンチが迫ったなら、その時は駆けつけて、助けになろう。
そう一人決心し、彼はこの世界を去った。
――これで、この物語はおしまい。
この後、ジードは再び時空の狭間を経由し――その最中にまた異なる時間に飛ばされてしまい、ベリアルを復活させようとしたとある死霊術師と遭遇、これを撃破したりしたが、それは割愛する――元の世界へと帰っていった。
カルデアの面々は、帰還の寸前に魔術王と遭遇。その邪眼により、マスターの少年は呪いをかけられたが、此処で語るべき事ではない。
人理が修復されれば、その特異点に関する記憶は、基本レイシフトを行ったカルデアの者達にしか残らない。
それはジード――朝倉リクもまた然り。
時空の狭間に戻った瞬間から、リクの記憶から特異点での戦いについての全てが、まるで急に靄がかかったように隠された。
――そう、消えたのではなく、隠された。
この後、ウルトラマンジードには、全宇宙の命運を賭けた壮絶な戦いが待っている。
この後、人類最後のマスターとそのサーヴァントには、後3つの特異点、そして黒幕との決戦が待っている。
一見すれば、それぞれの道が交わるようには思えない。
――だが、決して交わらないと、それが絶対不変の事実であると、誰がそう決めつけられるであろうか?
『二度あることは三度ある』という言葉がある。ならば、一度あったことが二度あっても、何ら不思議ではない。
可能性は、無限大だ。