恐れ知らずがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:もう何も辛くない
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俺、アルトリウス・レインの朝は早い。日が昇りかけた、まだ夜の闇が街に残った頃に目を覚まし、すぐに着替えて剣を持って外へ出て、建物の裏へ向かう。準備運動をしてしっかり体をほぐした後、剣を抜いて素振りを始める。ただ漠然と剣を振るのではなく、目の前に相手がいると仮定して、懐に潜り込んで剣を振ったり、背後に回り込んで剣を振る。全部、飽くまで仮定だが。
最近の俺の仮想相手は毎日、あの《シルバーバック》の強化種で固定している。というのも、Lv.2になり、中層に潜れるようになったのだが、今まであの猿より強いモンスターと戦えていない。度々フィンやアイズ…アイズに関してはほぼ毎日模擬戦しているのだが、どうにもあの大猿との戦いの方が熱かったというか何というか…。いや、フィンとアイズがあの猿より弱いっていう訳じゃないけど。むしろフィンとアイズなら瞬殺できてたと思うけど。
鍛錬は、俺の腹が空腹で鳴るまで続く。この腹時計がまた正確で、腹の音を合図に鍛錬を切り上げて館に戻ると、人が多すぎず少なすぎずのなかなか丁度いい時間帯で食堂に入れるのだ。
「アルト」
「ん…。おはよう、アイズ」
「うん。おはよう」
今日の朝食のメニューの一つ、卵スープを飲んでいると正面で長い金髪が揺れる。腰を下ろしたのは、肩から先を露出させた白と黒の普段着姿のアイズ・。アイズと挨拶を交わし、食事を再開する俺にアイズは再び口を開く。
「今日だね。
そう。Lv.2へランクアップして約一か月。今回の
「アルトの二つ名、何になるかな?」
「さぁ。…あまり変なのにならなきゃいいよ」
昨日、ロキの部屋にステイタス更新に行った時を思い出す。
『絶対…絶対、無難な二つ名勝ち取ったるからな…』
何だあのラスボスに臨む勇者のような気迫は。
「やっほー!アイズ、アルト!おはよー!」
「おはよう、ティオナ。ティオネも」
「えぇ、おはようアイズ。おはよう、アルト」
「おはよう」
会話が切れるとすぐ、今度はティオナとティオネがやって来た。二人共挨拶を交わすと、ティオナはアイズの、ティオネは俺の隣に腰を下ろしてテーブルにお盆を置く。ここ最近はこの四人でダンジョンに行ったり、今の様に食堂で集まって一緒に飯を食べたりしている。
え?ハーレム?他に友達いないのか?
いや確かに男一人女三人はハーレムに見えなくもないと思うけど、ティオネはフィンコンだし、ティオナはただ誰とでもわけ隔てないだけだし、アイズはそういうのとは全く無縁のあれだし。それに友達だっているぞ!ヘファイストス・ファミリアに行けば椿さんとかヴェルフだっているし?あ、ちなみにヴェルフっていうのはヘファイストス・ファミリアの鍛冶師で、時々鉱石集めに付き合わされたりしてる仲だ。え?ロキ・ファミリアの中では?…べ、ベートさんとかたまに一緒にダンジョンとか行きますよ?必ずアイズ、ティオネ、ティオナの中から二人以上が同伴してるけど。
…ま、まだ入団してから四か月だし!仕方ないし!仕方ないんだようるせぇぇぇぇ!!
「あ、アルト。急に震えだしてどうしたのよ」
「…何でもない。何でもないあるよ」
「いやどっちよ」
ふぅ、落ち着いた。だいじょーぶだ。俺には友達がいる。ちゃんといる。ダイジョーブ。
「そうだアルト!今日、アルトの二つ名が決まる日じゃん!」
何だろう、他人の二つ名がそんなに気になるのだろうか。…まあ、仲間に付く二つ名だし気になる、のか?仲間に変な二つ名とか付いたら嫌だもんな俺も。仲間に《
ちなみにこの《
ごめんなさい、《
「…?」
すると、隣のティオネが俺の肩に手を置いた。振り向くと、そこには何もかも解っていると言いたげなティオネの顔。
「ロキも頑張ってくれると思うから。…だから、どんな二つ名が付いたとしても、受け止めなさいよ?」
「…はい」
ねぇ、何で?ロキといいティオネといい、何で俺を不安にさせる事言うの?やめてよ、嫌だよ。痛い二つ名は絶対に嫌だよ。シンプルでいいから、ただただ無難な二つ名が欲しいよ。
◆ ◇ ◆ ◇
「じゃあ次は…、新しくランクアップした子供達の二つ名についてだあああああああああ!!!」
「「「「「イェェェェェイ!!!」」」」」
来た。遂に来た。
「じゃあまずは、ガネーシャ・ファミリアのイブリ・アチャーから決めていくぞぉぉぉ!!!」
「「「「「イェェェェェイ!!!」」」」」
「俺がガネーシャだ!」
他の神達が次々に二つ名の案を上げていく。ハッキリ言って、どれも碌なものではない。普段はそこにノリノリで参加するロキだが、毎回自分の子供が関わる時だけ、テンションがガタ落ちするのもいつもの事である。
「じゃあ、イブリ・アチャーの二つ名は《
「「「「「イェェェェェイ!!!」」」」」
「お、俺がガネーシャだ」
(あかん!今日はマジでアカンやつや!)
いきなり痛々しい二つ名がガネーシャ・ファミリアの所の子についてしまった。心なしか、ガネーシャの名乗りに勢いがない。いや、そんなのはどうでもいい。明らかにいつもより神達のテンションが高い。初っ端からいきなり議場の雰囲気が高まると、その回で決まる二つ名は大抵アレな二つ名しか出てこない。ちなみにロキも経験がある。アホみたいにテンションが上がると、正常な思考ができなくなり《
ちなみに、ロキが提示した案は採用され、《
そんな流れで、次々に子供達に痛い二つ名が付けられていく。子供を家族に持つ神は二つ名が決定した子供に向けて、ごめんね、ごめんね、とうわの空で呟いている。嫌だ。こんなのは嫌だ。絶対に二の舞になって堪るか。いよいよアルトリウスの二つ名が決まる番になり、決意を固くする。
「よっしゃあああ!次はこの会議の大本命!《
「「「「「イェェェェェイ!!!!」」」」」
口から飛び出しそうになるやめろという言葉を呑み込む。直後、次々に神の口から出てくるアルトリウスの二つ名の案。
「《
「まっくろくろすけ!」
「《
(アルトは髪黒くても全身真っ黒なわけじゃあらへんぞ!?フォースどっから出てきたんや!?あかん!《
次々に出てくるただ痛いだけの二つ名の案にロキの頭が混乱する。そのせいで、何人かが涙を浮かべてロキを睨みながら案を出す神にロキは気が付けなかった。
頭を抱えるロキをよそに、会議はさらに過熱していった──────
◇ ◆ ◇ ◆
夕暮れ時、ダンジョンから出た俺は途中で合流したアイズと並んで北のメインストリートを歩いていた。その俺とアイズの手には、ジャガ丸くんという名のお菓子。これが中々うまい。こういうダンジョン帰りで小腹が空いた時は結構重宝する。ちなみにこのジャガ丸くんに出会ったのはランクアップを果たしたその日で、ランクアップのお祝いとしてアイズが持ってきたのだ。
それからは三日に一回はダンジョン帰りにジャガ丸くんを買って食い歩きする程だ。それでも毎日食べてるアイズには負けるが。別に勝つつもりもないが。
「…アルトの二つ名、決まったかな?」
「…」
ジャガ丸くん塩味の風味を味わう俺を現実に引き戻すアイズの一言。
そう、今頃はもう俺の二つ名は決まり、
ある意味、《シルバーバック》の強化種と戦った時よりも緊張する。まああの時感じたのは緊張ではなく高揚だったから、例えるのは少し違うか。
(…覚悟はできている)
遂に、黄昏の館の前まで着いた。門の前で立ち止まる俺を見て首を傾げるアイズと、何かを察して力強く俺の目を見据える今日の門番担当の人。門番と強く頷き合い、覚悟を決めて門の中へ入る。
後ろからついてくるアイズと館の中へ入るとすぐ、扉の前にロキが立っていた。
ロキの視線と俺の視線が交錯する。心臓が今まで以上に高鳴り、加速する。
どうだ。どうなったんだ。
「
「…ドレッド、ノート」
ロキが口にした俺の二つ名をゆっくりと復唱する。
いいじゃないか。俺の考えていた《
「ッシャァァァァァァァア!!!」
「っ!?」
両手を突き上げて雄叫びを上げる。いきなり叫んだ俺に驚いたアイズがびくりと体を震わせる。だけど、それを気にしていられる余裕はなかった。ただただ普通の二つ名が付いた事がこんなに嬉しい事だったなんて…。
だからだろう。
はしゃぐ俺を見るロキ、二階から隠れて俺の様子を見ていたリヴェリアとフィンの表情が複雑だった事に、俺は気が付かなかった。