恐れ知らずがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:もう何も辛くない
俺はこれまで色々とやらかしてきた。日頃の行いが悪いというやつだ。だから、信用ならないと思う気持ちは解る。だが、今回ばかりは物申したい。
それでも俺は、やってない
ただステイタスの更新に来ただけだった。いや、それが間違いだったのかもしれない。ロキの部屋に入る前、アイズと会った。思い返せばその時、どこかアイズが微妙な顔をしていたような気もする。今日は止めといた方が良いとも言っていた。あの時その言葉の意味を聞いておくべきだったのかもしれない。
もう今更後悔しても遅い。部屋に入った途端、ロキがこっちを見たかと思えばいきなり鬼の形相になって襲い掛かって来た。奇声を発して飛び掛かって来たロキに驚きはしたが、まあこれはいい。これはまだ、いいんだ。
何とかロキを落ち着かせ、改めてステイタスの更新をしてもらった。後は背中に刻まれた
その直後、ロキの叫び声が俺の耳を劈いた。
「で、アルト。これは一体どういう事や。アンタ今日外に出たな?どこで、何してた」
そして今、目の前でロキが両手を腰に当てて仁王立ちし、俺に今日の行動について尋問されていた。なお、ここにいるのはロキだけじゃない。俺を囲むようにリヴェリア、フィン、ガレスの三人が立っている。逃走を防ぐためだろうか。別に逃げるつもりなんてないし、理由もないんだが…。
「いや…。城壁の上で、昼寝してた…けど」
「…嘘やない、やと」
俺の返答を聞き、ロキが口をあんぐりと開けて、信じられないと言わんばかりに震えた声を出す。そのままプルプルと体を震わせていたかと思うと、今度は両手で頭を抱えて蹲った。
…マジでなにこれ。何で俺は尋問されてるの?今日は外で昼寝してただけなんだけど。…いや、それだけじゃない、か?いやでもあれも昼寝をしてる最中にしたっていうか、別に俺がしたんじゃなくされたってだけだし、ロキの何をしてたかという質問の答えにはならないし話さなくてもいいのではなかろうか?
「あ、今感じたで!やっぱ後ろめたいことしてたんやろ!」
「え」
昼寝の他にしてたというか、された事を思い出した直後、バッ、と顔を上げるロキ。こちらに詰め寄って来た。
「さあ言え!何した!何したんや!?」
「い、いや…。あの、何でそんなに必死に聞いてくるの…?」
「そんな話は後や!さっさと話せぇ!」
ロキの余りの勢いにたじろぎながら、フィン達に助けを求める視線を送る。が、三人同時に頭を横に振られてしまった。
…逃げたくなる理由ができました。逃げたいです。でも、逃げられません。
「…………らった」
「は?なんや?よく聞こえんで」
「…アイズに膝枕…してもらった…」
空気が固まった。とある一部の場所で、ぴしりと凍った音もした気がした。ロキも、フィンも、リヴェリアも、ガレスも、目を丸くしてこちらを見てる。
あぁ、だから言いたくなかったんだ。何だこの公開処刑は。ていうか、ロキがこんな反応してるって事は、アイズは話さなかったんだな。何で俺だけこんな仕打ちを受けなきゃならんのだ…。
「…ウガァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!」
「落ち着け、ロキ」
神とは思えない悍ましい叫び声を上げ、両目から血の涙を流しながら飛び掛かろうとするロキをリヴェリアが羽交い絞めして止める。その口からは冷静にロキを諫める言葉が出ているが、唇の両端は吊り上がっている。フィンとガレスも見た事ないニヤニヤ顔を浮かべている。
…マジで逃げてもいいですか?というか誰か助けてください。誰でもいいから、それこそアイズでもいいから助けて。
「ふっ…。それで、ロキ。話を聞く限り、アルトは今日は特に悪い事をしていないように思えるけど。僕達を呼んでまで尋問する理由は何なのかな?」
暴れるロキにフィンが問いかけた。…聞こえたぞ。小さく噴き出したのを俺は聞き逃さなかったぞちくしょう。
「…っ、……っ、………っ、ふぅーーっ。せやな。本題に入らんとな。」
盛大に長い葛藤を経て落ち着きを取り戻したロキがリヴェリアから解放される。
「悪いけどアルト、もっかい服を脱いでくれんか?」
「え、なんで」
「いいから脱げ」
最近、ファミリアの中というか、ファミリア上層部からの扱いがとんでもなく冷たい事を憂いながら、ロキに言われた通り再び服を脱ぐ。露わになった背中に、ロキは神の血を垂らして刻まれた
「っ、これは…!」
「…何ともまあ、こ奴はいつも儂等を驚かせてくれるのぅ」
リヴェリアとガレスが俺の背中を見て驚いているのが解る。何だよ、確かに昨日ゴライアス倒したから結構ステイタス伸びてるとは思うけどさ…。
「なるほど…。これは確かに問題だ。ロキがアルトに疑いを持つのも解るよ」
「やろ?けど、さっきのアルトの言葉に嘘はない。嘘は…ない…。アイズたんの…、膝枕も…くぅっ」
「ねぇ、ホントに何なの?当人を置いてきぼりにして話進めないでくれません?」
首を回して四人の顔を見る。
フィンは腑に落ちたような顔をし、ロキは悔し気に歯を噛み鳴らし、リヴェリアとガレスが目を見開いて俺の背中を見つめている。恥ずかしい、そんなに見つめないで。
そして当人であるはずの俺は全く何が起きてるのか解らない。
「あー、スマン。ほれ、とりあえずアンタの今のステイタスや」
少々怒り気味の俺に気が付いたロキが、少し申し訳なさそうな顔になる。ロキの謝罪には特に言葉は返さず、差し出された羊皮紙を受け取って視線を落とす。
アルトリウス・レイン
Lv.2
力:A801→A857
耐久:B714→B761
器用:S941→S999
敏捷:A891→S932
魔力:I0→I0
耐異常:I
《魔法》
【顕現】
・詠唱式は『顕現せよ』
・外の魔力を実体化させる
《スキル》
【魔力操作】
・外の魔力を意のままに操る事が出来る
・外の魔力を使う事により、魔法を使用できる
うん、ゴライアスを倒したおかげか結構ステイタスが伸びてる。ただステイタスの伸び方を見て驚いてたにしてはあれは大袈裟だよな。いや、ロキ達曰く俺のステイタスの伸び方は異常らしいけど、今更だしなぁ。
「そんでな、アルト。…単刀直入に言うで?」
羊皮紙を眺める俺を覗き込んでロキが話しかけてくる。視線を上げてロキと目を合わし、小さく頷くとロキはゆっくり口を開いた。
「…ランクアップ、おめでとさん」
「…ん?」
「だから、ランクアップや。まあまだランクアップの作業しとらんけど」
あー、ランクアップか。なるほどランクアップ、それは驚くだろうな、なんてったって今日俺は何もしてないかr「えぇぇぇぇぇえええぇえぇぇえええええええ!!?」「うっさいわ!」
ロキに思い切り頭叩かれた。ハリセンで。痛くはないけど結構良い音鳴ったなー…、え、どっから出したのそのハリセン。バッ、と視線を向ければもうすでにロキの手からハリセンは消えていた。
あ、あれ?
「なんで…」
「それ聞きたいのはこっちや…。てか、ホントにダンジョン潜ってないんか?」
…あ、あぁ、俺の言った
しかしランクアップか。確かにそれはここまで大事になっても納得できる。ランクアップの条件は偉業を達成する事。基本的には自分よりも格上のモンスターを討伐してランクアップする、というのが通例なのだから。つい昨日までランクアップ出来なかったはずなのに、今日になっていきなりランクアップできますよってなればそりゃ疑いを持ちますわ。俺だってロキと同じ立場になったら同じ事をするわ。
でもまあ…、偉業、か。ランクアップ出来るようになったという事は俺が何か偉業を達成したという事。昨日と違い、何かが変わったという事。多分それは…、うん。やっぱりあれかな。
「…感じたで。まだ何か隠してる事あるやろ」
「…ロキ様、後生です。見逃してくれませんか?」
「駄目や」
神に隠し事はできない。その事を俺は今、痛烈に実感した。
「いや…。俺を呼んだのはまた一人でダンジョン潜ったんじゃないかって疑ったからじゃないの?ほら、もうダンジョンには潜ってないって解ったんだから、俺はこれで…」
「逃がす訳ないやろ」
アルトリウスは逃げ出した!しかし回り込まれた!
ロキだけじゃなく、フィン達まで出口付近を塞いでるし。
「なんや、そんな言いづらい事なんか?けど別に後ろめたい事はしとらんのやろ?」
「まあ…、そうだけど…」
ロキの言う通り何か悪い事をした訳じゃない。むしろ、称えられるというのはおかしいが、少なくとも怒られるような事ではない。
四人の視線が注がれる。出口は塞がれて逃げ場はない。…言うしかないのか。
「…昨日、リヴェリアに質問された事の答えが出たというか。昨日と違う事といえば、それしかないなと思っただけです、はい」
言った。言ってやったぞ。まあ答えが出るまでダンジョン禁止令が出されてる以上、遅かれ早かれ答えが出たこと自体は報告しなきゃいけなかったのだが。
「…そう、か。そうか」
最初に反応を示したのはリヴェリアだった。呆然と一言呟いてから、嬉しそうに破顔してもう一度呟いた。
「もっと時間が掛かると思ってたけど…、嘘は吐いてないようだね」
「…」
「喜ぶべき事じゃが…、ちょっと拍子抜けしたわい。もっとこう、色々振り回されると思っとった」
「…」
フィン、ガレス、それはどういう意味かな?さすがに失礼じゃないかな?
…俺の日頃の行いが悪いからなんだろうけど。
「…」
ていうかさっきから黙ったままだけどどうしたんだロキは。しかも結構凄い形相で睨んでるんだけど、俺を。なんかここに来た時の事を彷彿とさせるんだけど。なんだよ、別におかしい事は何も言ってないぞ。
「…アイズたんから教えてもらったで」
「…何を?」
一瞬高鳴った胸を落ち着かせ、平静を装ってロキに問う。
アイズから教えてもらった、だと?
何を、とロキに問いかけはしたが、大体想像はつく。そして、それが答えだと当て嵌めるとこの部屋に来た時のロキの怒り狂った理由も導き出される。全てが腑に落ちるのだ。
「英雄になる、やったか?随分大層な事口にしよったのぉ、おぉ?」
「…」
今すぐ顔を覆って天を仰ぎたい。
やっぱりアイズの奴、ロキに教えやがった。あいつに羞恥心というものはないのだろうか。
「英雄…?アルトは英雄になりたいのか?」
「はっはっは!しかも、アルトがなりたいのはただの英雄やないで!」
「ロォォォォキィィィィ!!!」
さっきはまだ、何の英雄になりたいかまでは言わなかった。だから、もしかしたらそこまでは言わないでいてくれるかもしれないという期待があった。だがその期待はものの見事に、あっさりと裏切られた。
今俺が持つステイタスをフル活用してロキの背後に回り込み、両手でロキの口を塞ごうとした。しかしその前に、俺の両手首は何者かによって拘束される。
「よくやった!フィン、ガレス!」
「くっ、離せ!離せぇぇ!!」
「えっと…、よく解んないけどロキ。続きを話してくれないかな?」
俺の手首を掴み、拘束したのはフィンとガレスの二人だった。右、左のそれぞれの手首を二人で掴み、俺の動きが止められる。何とか二人をはがそうと暴れるが、全くビクともしない。
俺の襲撃を予期していなかったのか、冷や汗を流していたロキだったがフィンとガレスに拘束された俺を見てすぐに調子を取り戻す。
「アルトはなぁ…、アイズたんの英雄になりたいそうや!アイズたんが…、アイズたんが嬉しそうに教えてくれたわちくしょぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!」
再び空気が固まる。部屋の中で聞こえる音は、叫んだ事で乱れたロキの荒い息遣いのみ。
俺の手首を掴むフィンとガレス、やり取りを眺めていたリヴェリアの視線が一気に注がれる。
「…ふぅ」
一つ溜め息を吐く。ロキの言葉が衝撃的だったのか、フィンとガレスはいつの間にか俺の手首を離していた。拘束から外れた両手を腰に当て、天を仰ぐ。
全部、全部、ぜぇぇぇんぶ知られてしまった。もう嫌だ、恥ずかしい、恥ずかしすぎる。恥ずか死しちゃう。
「…ねぇ、もう帰っていい?」
もう色々通り越して逆に冷静になった俺が最初に言葉を発した。
とにかく、早くお部屋に帰りたい。
アルト君、公開処刑回でした。
という事で、次回、<戦う理由>の最終話です。