恐れ知らずがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:もう何も辛くない

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割とガチで忙しかった。今も忙しいけど…。









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突き出される拳を半身になって回避し、逆にその拳に斬撃をお返しする。背後から狙ってくる悪い牛さんには背中から魔力の刃を突き立てる。止める事無く視線を巡らせる。残ってるのは、一、二…六体。その内の三体が正面、背後から迫る。俺を囲むようにして立ち止まると、三体同時に拳を振り下ろす。逃げ場は、一つだけ。

 

その場で跳躍、拳は足下で床を叩く音が響く中、開脚。二体のミノタウロスの頬に蹴りを与えてから、回転、回し蹴りで残るもう一体のミノタウロスにも頬に爪先を突き入れる。蹴り倒した三体のミノタウロスには、立ち上がる暇も与えず、胸を魔力の刃で貫く。

 

さあ、これで残ったミノタウロスは三体。双剣をしっかり握り直し、どこか狼狽えている様子の三体のミノタウロスを睨みつける。戦闘が始まった当初とは違い、たじろぐミノタウロス。だが、心を決めたかのように雄叫びを上げると三体のミノタウロスは踵を返した。

 

「「「「「…へ?」」」」」

 

呆けた声を漏らしたのは俺だけじゃなかった。この場にいる全員が、突如逃げ出したミノタウロスに呆気にとられた。

 

「…はっ。け、顕現せよっ」

 

が、ミノタウロス達が逃げ出した方向に上層へと向かう階段がある事に気付いて我に返る。すぐに詠唱、魔法を唱えてミノタウロスの胸を貫いた。

 

「あー、驚いた…」

 

「そうだね。まさか、モンスターが逃げ出すとは…」

 

全てのミノタウロスを倒し終え、静寂に包まれたエリアの中で呆然と呟く俺にフィンが歩み寄って来た。さすがのフィンもあのミノタウロスの逃走には驚いたらしく、先程までミノタウロスが走っていた方に視線を向けたままだ。このフィンの様子を見る限り、ミノタウロスが特別…という事ではないらしい。かなり特殊なケースのようだ。

 

「でもよくやってくれた。あのまま逃がしていたら、上層の冒険者に被害が出ていたかもしれなかったからね」

 

フィンがポンポンと肩を叩きながら労う。何て言葉を返そうか、浮かばぬままそれでもせめて一言でも返事を返さなければ、口を開こうとしたその時、誰かに背中をバンと叩かれた。

 

「うぐっ」

 

結構な痛みと衝撃に耐え切れず声が漏れる。叩かれた箇所を手で押さえながら振り返ると、そこには満面な笑みを浮かべたティオナが立っていた。

 

「ねぇねぇアルト!さっきのなに!?あれ、なに!?」

 

「…あれって、なに?」

 

何やら興奮したティオナの言葉がさっぱり理解できず、質問を質問で返してしまう。

いやだって、あれと言われてもどれなのか解んないし。答えようにも答えられない。

 

「ティオナが聞きたいのはアンタの魔法の事よ。ま、私も聞きたいんだけどね」

 

「あー…」

 

いつもの様にティオネがティオナ語を翻訳してくれた。なるほど、あれとは俺の魔法の事だったか。確かに、初めて見れば聞きたくなるのも無理はないか。フィン達重鎮三人に初めて魔法を見せた時も、ティオナ程ではなかったけど同じ感じになってたし。特にリヴェリアが。

 

「…」

 

今、睨まれてます。横目ですっごい睨まれてます、リヴェリアさんに。だから何で俺の周りの人は読心術を会得してるんですか。実は神様なんじゃねぇの?

 

「なにと言われても、見ての通り、としか…」

 

ティオナの問いかけにはフィン達に問われた時と同じ答えを二人に返す。実際、この魔法がどんな魔法なのかを詳しく説明しろと言われても、使ってる自分自身がよく解ってないからぶっちゃけ無理である。なら何でよく解ってないのに魔法使えるのかと聞かれても、使えるからとしか答えられないのである。

 

要するに、俺のステイタスに書かれてること以外はなーんにも解らない。

だから、さらに踏み込んで聞いてくるティオナとティオネにはステイタスに書かれた事をそのまま伝えるしかできない。

 

「んー?よく解んない!」

 

首を傾げてティオナが言う。いつもなら頭の中でアホの子とか考えるところだが、今回は俺も同じだから馬鹿にできない。いや別に前からティオナを馬鹿にしてる訳じゃないけどさ。

 

「オイ、いつまでここでダラダラしてるつもりだ。とっとと行くぞ」

 

ティオナとティオネが更なる問いかけをするためか口を開きかけたその時、奥から俺達を呼ぶベートさんの声がした。この場にいる全員が振り向き、すでに奥へ進み始めたベートの後に続いて歩き出す。

 

今、俺達が歩いているここは…まあもう大体察してるとは思うが、ダンジョンの中である。メンバーは俺、アイズ、ティオナ、ティオネ、ベートさん、フィン、リヴェリアの七人。俺も入ってるこの七人で、遠征の先発隊が組まれている。

 

そう、遠征だ。今日からロキ・ファミリアの遠征が始まり、そして俺は冒険者になってから初めての遠征参戦なのだ。今日の予定は十八階層まで降り、そこでキャンプを張るとなっている。行こうと思えばもっと下の階層に潜れるが、遠征に出かけるのはこの七人以外にも当然いるし、大人数の上にその中には低レベルのサポーターもいる。慎重を期して行くべきだというフィンの談である。

 

「随分応用が利く魔法だな。まさかあんな短時間でミノタウロスを一蹴するとは思わなかったぞ」

 

「俺としては、まさかあの群れを一人で倒せって言われるなんて思わなかったけど」

 

歩き出して直後、隣を歩きながらリヴェリアが声を掛けてきた。それに対し、僅かな皮肉を込めて返事を返す。実はダンジョンに潜ってからずっと、遭遇してきたモンスターは全て俺が倒してきた。さらにさっきのミノタウロスの群れ。突如現れたミノタウロスの群れを前にして、さすがに今回は全員で戦うだろうと思ったその矢先。

 

『アルト。頼むよ』

 

このフィンの二言に俺は唖然としたね。確かに今の俺はレベル3で、ミノタウロスはレベル2相当のモンスターだよ。でもさ、いくら何でもミノタウロスの群れに一人を放り込みますか?鬼だよ。鬼団長だよあの人は。まあ、思ったより楽に終わったけどさ。

 

「だが応用が利く分、その真価は持ち手に問われる。慢心はするなよ」

 

「俺の皮肉は無視ですか。後、慢心なんてする余裕ない」

 

俺の皮肉を華麗にスルーしたリヴェリアは、柔らかい笑みを収めて真剣な表情で言った。

 

俺が魔法を戦闘中に使用する所をリヴェリアが見るのはさっきのミノタウロス戦が初めてだ。ここまでの戦闘も、全部魔法を使う事なく終わらせてきたし。後はティオナとティオネもさっきのが初めて、ベートさんも初めてなはずだがさすがはベートさん。全く驚いた様子がない。ティオナさんは少しベートさんを見習った方が良いと思う。フィンとアイズは何度か俺の魔法を見ている。フィンとはたまに模擬戦をしてその時に魔法を使い、アイズとはよく一緒にダンジョンに潜っているからその時に。

 

リヴェリアやティオナ達とも一緒に潜る機会はなかった訳じゃないけど、その時に限って魔法を使う機会に恵まれなかったというか、魔法を使う必要がなかったというか。とにかく、ファミリアのほとんどのメンバーが未だに俺の魔法を見た事がないため、それを見せるためにフィンは俺一人にモンスターを押し付けてきた…んだと思う。多分。最近、俺の扱い結構ひどいから自信ないけど。

 

ミノタウロスの群れとの戦闘からも、何度かモンスターと遭遇した。その度に俺一人で片付けた。恐らくフィンから命令されたのだろう、他のメンバーは全くモンスターと戦おうともしなかった。挙句の果てにゴライアスも俺一人に任せる始末。アンタら、ゴライアスと一人で戦った事を叱りませんでした?一人で無茶するなとか言いませんでした?なのに何で今は俺一人に任せてるんですかね。あ、ランクアップしたからですか。まだレベル3のはずなんですけどね…。ゴライアスって、レベル4相当のモンスターのはずなんですけどね…。

 

まあさすがに三度目の戦闘、その上ランクアップも果たしているためそう苦労する事なくゴライアスを討伐。魔石とドロップ品をポーチに詰めて、フィン達がいる方へと振り返った時に見た皆の唖然とした顔はちょっと面白かった。別に驚く事ないと思うんだけど、もう前から二回も倒してるんだし。実際に目にしなかったからなのかね。フィン達は驚いた様子だった。

 

さて、ゴライアスを倒せばもう十八階層はすぐそこだ。ゴライアスが出現する部屋を抜けてすぐ、十八階層へ繋がる階段を下りる。

 

「ん─────っ、着いたぁー!」

 

十八階層に先発隊の全員が足を踏み入れると、ティオナが大きく背中を伸ばし、他の面々も体をほぐしている。ここに来るまでの戦闘をこなしたのは全部俺だけなのに。まあ立ってるだけというのもある意味疲れる、のか?

 

「アルト」

 

「ん?」

 

俺も腕や首を回したり体をほぐしていると、フィンに呼ばれる。

 

「二班が来るまではもう少し時間が掛かると思う。その間に、汗を流してくるといい」

 

「…なら、お言葉に甘えて」

 

向けられたフィンの掌に腰に差した双剣を載せて歩き出す。十八階層に来たのは数えるほどだが、リヴェリアの授業でこの階層の構造は頭に入っている。フィン達に背を向けて、森の中にある池へと向かった。

 

 

 

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 

汗を流すどころか池で泳いで遊んでしまったせいで慌てて戻った時には二班がすでに到着し、テント設営の作業が始まっていた。勿論、フィンからお叱りを受けました。何故遅れたのかと聞かれ、池で泳いでたと正直に答えたら呆れられた。フィンの説教は短く済み、終わってからはすぐにテント設営の手伝いに加わった。

 

作業が終わった時には日は暮れ、辺りは夜の帳に包まれていた。サポーター達が作った夕食を食べ、後からはそれぞれの自由時間。ある者は親しい者と談笑し、ある者は明日に備えて早めに休み、ある者は明日を考え話し合い。

 

ん、俺はどうしてるかって?

散歩だけど、何か?

え、誰と散歩してるんだって?

一人だけど、何か?

…ぼっちだけど、何か?

 

森の奥の丘となった所で草の上に腰を下ろし、天井を見上げる。天井はそこから生えた大量の水晶に埋められ、地上の様に空というものは見えない。まあダンジョンの中なのだから当然といえば当然なのだが、それでも不思議なのはここでは朝、夜という概念が存在している事。天井の中心に白色の光を発する水晶が存在し、その周りにある青色の水晶がその光を反射、屈折させて青空を作り出してるとの事だが、どうやってその水晶が光を発しているのかは解っていない。いつかその謎を解明したいと思ってたり思ってなかったり。冒険者を引退したらダンジョンを研究する学者になるのも良いかもしれない。

 

…最近、こうして一人になる時間が欲しいと思う時がある。一人でただのんびりと、ぼーっとするのが恋しくなる時が。自分でも爺むさいと思うが、こういう時間が心地よいと思ってしまうのだから仕方ない。…マジで爺むせぇ。

 

ダンジョンの中なのに風が吹き、しかもこの風がまた気持ちよく感じるというちょっと複雑な気持ちを抱きながら天井を見上げていると、背後で小さく草原を踏む足音がした。こうして一人でのんびりしている時、現れるのは大抵決まっている。

 

「早く寝た方が良いんじゃないか、アイズ」

 

「…アイズじゃないよ」

 

あれ、間違えた?それは失礼しました。

 

とはならない。否定しているが、この声を聞き間違える訳がない。

 

「早く寝た方が良いのはアルトの方。フィンが明日も戦闘はアルトに任せるつもりって言ってた」

 

「…それマジ?」

 

アイズの口から出てきたフィンが言ったという言葉に思わず振り返る。そこには思った通りアイズが立っていて、そしてアイズは表情を変えないまま頷いた。うん、これはホントに言ってましたね。マジか。

 

「何考えてんのあの人…。俺の命運が明日で尽きちゃうよ…」

 

こちらに歩み寄って来る足音を聞きながら、再び天を見上げて呆然と呟く。

いや、マジで何考えてるのあの人。中層で出てくる敵を全部任せるとか鬼畜にも程がある。しかも俺は十八階層より下に降りるのが今回の遠征で初めてなのに。

 

「鬼かよ。悪魔かよ。フィンかよ」

 

「…フィンはフィンだよ?」

 

アイズが天然を発揮。別にそういう意味で言ったんじゃないけど、まあいいや。説明するのもめんどくさいし、どう説明すればいいかも解らないから首を傾げるアイズは放っておく事にする。

 

これまた最近の話だが、一人でのんびりする時間が増えたと同時にアイズと二人でのんびりする時間も増えた気がする。こうやって外で会話もせずじーっとしたり、ジャガ丸くんを買ったり買わされたり。こういう時間も嫌いじゃない。館に帰ってロキに襲われたりベートさんに睨まれたりするのは嫌いだが。

 

「強くなったね」

 

「は?」

 

唐突に口を開くアイズに言葉の意味が解らず聞き返す。

 

「私がレベル2になるまで一年かかったのに…。アルトは半年でレベル3になって、遠征にも参加して…」

 

「でも、まだアイズより弱い」

 

どこか落ち込んでいるように見えるアイズの言葉を聞いて、即座に俺は返事を返した。

顔を上げたアイズの視線と交わる。

 

「アイズと戦ったらボコボコにされるし。まだまだ勝てる気がしない。それにアイズだってもうすぐレベルに5に上がれそうだろ」

 

レベル3になって少しはアイズとの差を縮められたかと思ったら、模擬戦してみたらあっさり敗北。しかもアイズは更に上の段階へと器を昇華させようとしている。少し縮まったその差が、またさらに開こうとしている。

 

「まあ、()()だけどな」

 

「…」

 

にやりと唇の端を持ち上げながら言ってやれば、アイズはムッと不満そうに僅かに目を細める。

 

「そんな時、来ない」

 

「ほぉ~?」

 

「…なに」

 

「いや、別に?」

 

「…」

 

アイズに肩を両手で軽く押される。体が傾くがすぐに元の体勢に戻し、もう一度にやりと笑みを向けてやる。

 

「っ…」

 

「ぅぉっ!いきなり何するっ…、このっ!」

 

今度は無言で襲い掛かられる。体が倒され、腹の上に跨ったアイズに両頬を掴まれる。頬の痛みに耐えながらこちらもアイズの両頬を掴み、ぐにーっと引っ張る。

 

もし今の場面を誰かが見ていたとしたら、きっとそいつは唖然とするだろう。何故なら、二人の男女が頬を引っ張り合いながらゴロゴロ草の上で転がっているのだから。完全に子供のじゃれ合いにしか見えない。ただ本人は…、俺達は真剣だ。真剣に頬を引っ張り合っている。

 

負けられない戦いが、そこにあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、いつまで経っても帰って来ないと心配して探しに来たリヴェリアに見つかって怒られました。リヴェリアに見つかるまで頬の引っ張り合いは続きました。俺もアイズも頬が過去最大に腫れました。

 

いやぁ…、いてぇ…。(涙目)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は時間がかなり飛びます。はい、アルト君の初めての遠征のお話はこれで終わりです。もし気になる方がいたら、いつか番外編という形で書く…かもしれません。(書かないかもしれません)

まあそんな見たいって思う人なんかいないと思いますけどね?…ね?
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