恐れ知らずがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:もう何も辛くない

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闇の追跡
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この世のものとは思えない異物が、そこにはいた。燃え上がるような真っ赤な空に向かって雄叫びを上げる異物の体から飛び散る黒い泥は、城で、街で逃げ惑う人々に降りかかるとその体をどろりと溶かしていく。泥から逃れられても、辺りを徘徊する多数の魔物に見つかり体を喰われる。

 

かつて栄華を誇った王国の末路。街は燃やされ、城も異物によって崩壊していく。民は逃げ惑い、騎士は国を守ろうと異物に挑み、そして命を落としていく。炎の勢いは衰えず、全てを燃やしていく。魔物が暴れ、全てを壊していく。

 

こうして、王国は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

「頭が痛い」

 

むくりと起き上がり、ガンガンと中から叩かれるような痛みに頭を手で押さえながら呟く。カーテンの隙間から漏れる陽の光を手で遮り、布団をどかしてベッドの下から靴を出して履く。

 

立ち上がり、カーテンを開けてからふと思う。あの夢を見るのは何度目だろうか、と。

ある時を境に見るようになった夢。全く見た事のない場所で、全く知りもしない国の滅亡を目の当たりにさせられるのだ。初めは訳の解らない夢に戸惑ったが、今ではただただまたこの夢かとうんざりするだけ。しかもその夢を見た後は必ず原因不明の頭痛に襲われる。鬱陶しいにも程がある。

 

もしかしたらこの夢を見る事に何か意味があるのかもしれないと、そう思って調べたりもしたのだが手掛かりは掴めず。というより、解ってるのが前に滅びた国だけでは雲を掴むようでどうしようもなかった。いざ文献で調べたら、まあ以前に滅びた国の数が多い事。軽く百は超えていた。しかもそれは俺が調べた中で見つけたものだけだ。多分、まだあると思う…、少なくとも倍は。だって、オラリオができる前の歴史について書かれた文献もあったからね。そんくらいあるよ、うん。

 

という事で、自分で調べるのを諦めました。だってしょうがないよ。無理だもん。夢とは根気よく付き合ってくよ。時が経てば見なくなるだろうしね。…まあ、そういってもう一年以上経つんだけどね。夢を見始めてから。未だに夢を見続けるどころかペースが早まってる気がするよ。

 

え?夢を見るようになってから一年以上だけど?ちなみにいうけど、もう俺がロキ・ファミリアに入団してから二年経ってるから。あれだから、背とかめっちゃ伸びたから。え、そんな事は聞きたくない?俺が自慢したいだけだよ、悪いか。アイズと背の差が開き始めて完全に見下ろせるようになった時の喜びは忘れない。ちーび、と言ってやった時のアイズの顔は忘れない。良い気持ちだったよ、ふふん。

 

まあ背以外に何かが変わったかと聞かれれば、ほとんど変わらないと答えるしかない。アイズとは変わらず喧嘩するし、フィン達からの扱いは基本ひどいままだし、ロキはたまに暴走するし。強いて言うなら、他の団員達と親しくなったかな。特にベートさんから雑魚呼ばわりされなくなった。二年間で何が一番変わったかといえばそれだな、うん。

 

…あぁ、忘れてた。変わった事あるよ。新しくファミリアに入団した人達がいる。俺にも後輩ができたんだよ。ちょこちょこ後をついてくる何ともまあ可愛い後輩で、それでいて才能もあるという非の付け所がない…あー…、ちょっと暴走気味な所があるけどそれを補って余りある奴だよ、うん。

 

「アルトさん!」

 

「ん、レフィーヤ。おはよう」

 

「はい!おはようございます!」

 

噂をすれば何とやら。件の後輩こと、レフィーヤ・ウィリディスの登場である。長い髪を縛って下ろしたエルフの少女と挨拶を交わす。レフィーヤとは彼女がファミリアに入団してきた日からの付き合いだ。初めての後輩という事で、レフィーヤと同じ日に入団してきた他の子達ともその日に顔を合わせたのだが、レフィーヤとはそれからすぐにパーティーを組んで一緒にダンジョンに潜るようになった。

 

レフィーヤはエルフであり、更に魔法の才能に長けていて普通ならリヴェリアが見るべきなのだが、立場上付きっ切りというのはできない。そこで白羽の矢が立ったのが俺という訳で。そりゃそのまま一年間過ごせば懐かれるよ。

 

「…」

 

…で、廊下の影で睨んでるお前は何なんだよ。背中にひしひしと感じる視線に溜め息を吐いてから、不思議そうに見上げてくるレフィーヤに後ろを見るようにと親指で指す。

 

「あ、ああああああアイズさん!?おおおおおおおはようございます!」

 

「…うん。おはよう、レフィーヤ」

 

こちらを覗くアイズに気付いたレフィーヤは爆発するが如く顔を赤くさせ、勢いよく頭を下げた。レフィーヤはかなりアイズを尊敬しているようで、未だにアイズと顔を合わせる事が難しい状態だ。さっき、レフィーヤはちょっと暴走気味な所があるって言ったけど、それはアイズに関しての事だ。レフィーヤがまだ入団して間もない頃、アイズと二人で話してるだけで物凄く睨まれたのは嫌な思い出だ。これからこの子と上手くやってけるんだろうかって不安になったのを覚えてる。

 

アイズが物陰から姿を現し、レフィーヤと挨拶を交わしてからこちらに歩み寄ってきた。

 

「アルトもおはよう」

 

「おはよう」

 

合流したアイズ、そのアイズに恍惚とした視線を送るレフィーヤ。そして俺。

もしかして俺、邪魔者だったりする?二人に気付かれないようにフェードアウトできないかな。

 

「アルト?早く行こう」

 

「…あいあい」

 

二人並んで歩くアイズとレフィーヤの後ろを歩き、少しずつ距離を離していく。このままいけば、という所であっさりアイズに気付かれる。…ちっ。目論見は失敗し、立ち止まって振り返った二人と再び並んで歩き出す。

 

「今日はどうしたんですか?いつもならお二人で訓練してるはずなのに…」

 

歩く最中、レフィーヤがそういえば、と何かを思い出したかのように顔を上げて問いかけてきた。

 

レフィーヤの言う通り、いつもなら俺とアイズは模擬戦などの訓練をしている時間帯だ。

…いつも、なら。

 

「…アルトが来なかった」

 

「え?」

 

「待ってたのに」

 

レフィーヤが問いかけた途端、アイズが僅かに唇を尖らせ不満そうな視線をひしひしと送って来る。それを俺は見ずにそっぽを向いて知らんぷりをする。寝過ごしたっていいじゃない、人間だもの。

 

いや真面目な話、夢を見た日はいつも寝過ごすんだよ。いつも同じ場面で夢が終わって、目が覚めたらいつも朝食の時間になってて。俺じゃどうしようもないんだよ。俺自身の問題だけど。夢を見ないようにするとかどうすればいいんですかね。

 

「すまん、寝坊した」

 

「…」

 

じとーっとした目で見てくるアイズ。そんな目で見られてもどうしようもないじゃん。過ぎた時間は戻って来ないのだよ。寝坊した奴が何を偉そうにって自分でも思うけどな!

 

「はわ…はわわわわわ…」

 

冷たい視線を送り続けるアイズ。そっぽを見て知らんぷりを続ける俺。俺とアイズの間で視線を彷徨わせながらあわあわするレフィーヤ。

 

「…どしたの?」

 

何時の間にやら食堂の前に着いたその時、前方から気の抜けた声が聞こえた。視線を向けるとそこにティオナとティオネの二人が立っており、こちらを見ながら目をぱちくりさせていた。

 

「またアルトが何かしたの?まったく…」

 

「ねぇ、何で真っ先に俺に疑いを向けるの?」

 

「うん」

 

「お前も頷くなよ」

 

いや俺のせいでアイズの機嫌悪くなったのはそうなんだけどさ。

別にたまにはいつもより多く寝たっていいじゃんか。ねぇ?

 

…あ、駄目ですか、ハイ。

 

 

 

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 

朝の和やかな時間もそこそこに、冒険者の本業に出かける。ダンジョンに潜り、モンスターと戦う。今日は依頼を受注したので、自由に探索という事はせず最短ルートで下層へと降りていく。

 

の、だが──────

いやまあもう慣れたけどね?でもね?いつも思うけどさぁ…。

 

「アルトー。またそっち行ったよー」

 

「皆さん少しは戦ってくれませんかねぇ!?」

 

現在、俺、アイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤの五人でダンジョンに潜っている。そして今は十五階層にいるんだけど…、ここまで遭遇してきたモンスターのほとんどを俺が倒している。ていうか、遭遇したモンスターのほぼ全てが出会い頭に俺に襲い掛かって来る。他にもたくさん、しかも美麗な女性達が揃ってるのに。

 

レベル4に上がった頃くらいか、モンスターに集中的に狙われるようになったのは。レフィーヤと二人で潜ったり、そういう人数が少ないパーティーで潜った時はそこまで違和感を感じはしなかったが、それが何度も続いたり今のように五人パーティーにも関わらず俺ばかり狙われればさすがにおかしいと思う。しかも初めの方は皆俺を心配してくれたり俺を保護するような配置でダンジョンを進んでいたりしたのだが、今じゃいつもの事と言わんばかりにモンスターをスルーする始末。

 

「アルトさん、大丈夫ですか?」

 

「…やっぱ良い子だな~、レフィーヤは」

 

今じゃレフィーヤだけだよ、心配してくれるのは。レフィーヤは俺のオアシス、異論は認めない。

 

え?え?と戸惑うレフィーヤの頭に掌を乗せてぐりぐりと撫で回す。あー、レフィーヤいなかったら俺発狂してたんじゃないかなー。…いや、さすがにそれは冗談だけどさ。

 

「…」

 

「?アイズ、なに膨れてるの?」

 

背後で何やら起こってるようだが気にしない。気にしたら後でめんどくさい事になる気がする。…無視してもめんどくさくなりそうだけどな。

 

「それにしても…。モテモテねぇ、アルト?」

 

「…喧嘩売ってる?」

 

背後で繰り広げられるアイズとティオナのやり取りを見ないようにしていると、ティオネが前に回り込み、上目遣いでこちらを覗き込んできた。普通ならばドキッとさせられるような仕草だが、もう何年も付き合いがあるし、その上言葉の内容が完全に喧嘩を売ってるそれなので全く心が揺るがない。

 

「あはは…。でも不思議ですよね?どうしてモンスターはアルトさんばかり狙うんでしょう」

 

「不思議というより異常だよ。上層なら可愛いもんだけど、下層でも同じだからこんなモテ方は恐怖でしかないよ」

 

「ま、おかげでこっちとしては戦闘の展開が楽なんだけど」

 

レフィーヤ、俺、ティオネの順で言う。レフィーヤと同じく疑問には思うが、今のところはロキの進言もあり様子を見ている。実際、ティオネの言う通りモンスターが真っ先に俺を狙うため、ぶっちゃけ戦闘は楽になっているのも理由の一つだ。二度目になるが、俺からすれば恐怖でしかないのだが。

 

「ゴァァァアアアアアアアッ!!」

 

「うるさい」

 

と、話してる間にもまた一匹。溜め息を吐いてから詠唱式を唱え、魔力の刃をミノタウロスの胸に突き立てる。耳を劈く雄叫びはピタリと止み、こちらに向かって駆けて来たミノタウロスは黒い煙となって四散する。その場に落ちた魔石とドロップ品は、レフィーヤがすぐに回収した。

 

「うんうん。レフィーヤはちゃんと回収作業ができて偉いな」

 

「え?いえそんな、常識ですし…」

 

「…」

 

「いやいや、その常識の事もできない冒険者もいるからな。回収は怠ると自分にじゃなく他人が痛い目に遭うから厄介な事この上ない。レフィーヤは今、他の冒険者の命を救ったんだ」

 

「そ、そんな…」

 

「…」

 

うん、照れてるレフィーヤ可愛い。癒される。

ん?無言になってる奴?そりゃ今いるメンバーの中で魔石の回収さぼってる奴なんて一人しかいないだろ。今頃色々と心に突き刺さってると思うよ。アハハハ

 

「ん?どうしたのアイズ?おーい、アイズー?」

 

「…アルトのバカ」

 

 

 

 

 

 

アルトリウス・レイン

Lv.5【恐れ知らず(ドレッドノート)

 

ロキ・ファミリアに入団して二年、今日も平和に過ごしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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