恐れ知らずがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:もう何も辛くない

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俺が受けた依頼の内容は三十七層に出てくるあるモンスターのドロップ品を集めてほしいというものだった。三十七層に辿り着くまでに三日、ドロップ品を集めるのにほぼ半日、そして再び地上に戻るまでに三日、およそ七日掛けて依頼を達成した俺達は地上へと戻ってきた。

 

久しぶりの外の空気を吸い、各々軽く体を動かして解したり無事生還できた事に安堵の息を吐いたりとリラックスした様子を見せるアイズ達。

 

「じゃあ、俺はこいつを届けてくるから」

 

「はいはーい。あたし達は先に帰ってるねー」

 

ホームがある北の方へ足を向けるアイズ達とは別の方へと足を向ける。手を振るアイズ達にこちらも手を振り返して歩き出す。東へと続く道を進む。そのまま東の方へまっすぐ…は行かず、途中で北へと進路を変える。歩くこと十五分程、北東のメインストリートへと入り、目的地がもうすぐの所まで来た。

 

工業地帯である北東のメインストリートはオラリオの利益の大本である魔石製品が出回っており、俺が歩いている大通りに並ぶ店には工具などを取り扱う店が目立つ。といっても、今ここにいるのは魔石や工具を買うためではないし、まず何かを買うためでもない。

 

目的地の前に着く。特にノックもすることなく、遠慮なしに扉を開ける。

中から伝わってくるのは熱。むわっとした、湿気が多く籠った熱が全身を包む。

 

「あ?おぉ、アルトじゃねぇか」

 

中に入ってすぐ、俺を迎えたのは赤髪の男。俺の姿を見た男は顔に笑みを浮かべて声を掛けてきた。

 

「大変そうだな、ヴェルフ。また椿に扱き使われてるのか?」

 

俺がそう言うと赤髪の男、ヴェルフは苦笑を浮かべて黙り込んでしまった。両手に何やら金属がたくさん入った籠を抱えていたから言ってみたのだが、どうやら図星だったらしい。

 

「ったく、てめぇは遠慮なくずけずけ来やがる…。ま、遠慮すんなっつったのは俺だけどよ。ほら、剣取りに来たんだろ?椿が待ってるぜ」

 

そう言いながらヴェルフが指差すのは椿の工房がある方。軽く手を上げてヴェルフに無言で挨拶をしてから言葉の通りにそっちへ向かう。

 

ここは工房だ。武器を直し、作る場所。北東のメインストリートに居を構えるヘファイストスファミリアの工房。先程のヴェルフもそのファミリアの一員であり、職人の一人だ。とはいえまだひよっこだというのはファミリア団長の椿の談である。

 

「待っておったぞ、アルトリウス。随分遅かったのぅ」

 

さて、そう言いながらヴェルフの次に俺を迎えたこの人こそヘファイストスファミリア団長の椿・コルブランドであり、俺がこの工房に来た目的に大いに関わってる人物だ。黒い眼帯が左目を覆い、長い黒髪を雑に白い手拭いで結う。上半身に巻かれたさらしからは収まりきらない胸の肉が。肌が黒く焼かれているが、アマゾネスではなくハーフドワーフらしい。

 

という色々危ない格好をした椿が工房に入った俺ににやりと笑みを向ける。初めてこの人と会った時はその恰好に戸惑ったけど、もう慣れたもんですよ。それに外に出る時はもっとましな格好してるし別に分別がない訳じゃない。…一応客なんだし、俺の前でも分別付けてほしいけどね。

 

「レフィーヤも居たからな。いつものペースで移動はできないよ」

 

「ほぉ?優しい先輩をしとるようじゃないか」

 

椿にドロップ品が入った袋を投げ渡す。袋を受け取った椿は中身を見て確かに希望の物だと確認してから立ち上がった。

 

「うむ、確かに受け取った。ほれ」

 

「…ん。こっちも確かに受け取った」

 

立ち上がった椿は多く武器置きに掛けられた剣の中から二本を取り、俺に手渡した。俺は鞘から剣二本を抜き、刀身を見てしっかり手入れされている事を確認してからそれぞれの剣を両腰に差す。

 

そう、俺がここに来たのは椿に依頼された品を届けるためだけじゃなく、こちらも椿に依頼していた手入れが終わった武器を受け取るためだった。

 

「しかし、いつ見ても業物よ。…あの時の小童の武器をこんなにも早く手入れする事になるとは思わなかったが、その小童がここまでの業物を持っていた事にも驚いた」

 

「元は俺のじゃないんだけどな。…まあ、あなたがいなかったら今ここに俺はいなかった。本当に感謝してる」

 

「あー、そんなつもりで言ったんじゃない。その礼は鉱石集めで返してもらったからの。…それにむしろ手前の方こそ礼を言わせてほしいくらいだ。こんな業物を己の手で直せるのだからな」

 

覚えているだろうか、俺がまだレベル1の頃。一人でダンジョンに潜り、その先で三人の冒険者パーティとシルバーバックの強化種に襲われた。一人、冒険者が犠牲になったが残った二人を逃がし、シルバーバックと戦い、倒し、気絶した俺を助けてくれたヘファイストスファミリアの冒険者。その一人がこの椿だ。そして、今俺が使っている武器。変わらず種類は双剣だが、この双剣は…爺さんが残した物だ。本当は爺さんが達したレベルに追いつくまで使うつもりはなかったのだが、フィン達に色々言われた。レベル5に見合う武器を作るには膨大な金がかかるやら…あれ?金の事しか言われてなくね?と、とにかくそれでも意志を曲げるつもりはなかったのだが、アイズに「その剣も早く、アルトに使われたいと思う」と言われてしまった。

 

…おいそこ、ちょろいとか言うな。アイズに甘いとか言うな。

 

まあそういう経緯で俺は爺さんの剣を受け継ぐ事にしたのだが…、この剣、やばい。不壊属性(デュランダル)がある時点でやばいのに圧倒的な切れ味、さらにその切れ味が斬っても斬ってもなかなか落ちないという。まあその分、手入れも相当に難しいらしく、初めこの剣を手入れしていたのは椿ではなく、ヘファイストス様だった。本当は爺さんと契約していた鍛冶師に頼みたかったのだが、爺さんが冒険者を引退したと同時にその人も鍛冶師を辞めてオラリオを出て行ったらしい。…さっきから、らしいばっかりだな。でも事実他人から聞いた話だし。特に剣の手入れの難しさなんて鍛冶師じゃない俺に解る訳ないし…。

 

さて、武器を受け取った今もうここに用はない。椿とそれからもう少し話してから部屋から出る。そこから工房を出るまでにもう一度ヴェルフと顔を合わせたため、ヴェルフとも挨拶を交わしてから今度こそ工房を出た。ダンジョンを出た頃はまだ夕暮れで陽の光が差していたが、気付かぬ間に長く椿と話し込んでいたらしい、もうすっかり辺りは夜の闇に包まれていた。正直アイズ達と別れてどれだけ時間が経ったか解らないが、多分帰ったらアイズに遅いと文句を言われるのだろう。さっさと帰る事にする。

 

「おっと…。スマンな」

 

「あ、いえ。こちらこそ…?」

 

大通りを歩き出したその時、右肩に誰かがぶつかった。ちらりと見えた黒いローブを着た男が先に謝り、俺も相手に謝ろうとした、のだが。何故かそこに黒ローブの姿はなく、後ろを振り向いてもそんな怪しい格好をした人物は見られない。何だったんだ。

 

「…ま、いいか。それよりさっさと帰らなきゃ」

 

気のせい、と流せず少し疑問が残った出来事もあったがそれ以降は特に帰り着くまで何事も起きず、今日も今日とて暗い中でも門を守る兵二人と挨拶をして館の中へ入る。

 

予定より変える時間が遅くなってしまった。恐らく、もう大部分の団員達は夕食をとり終わっているだろう。早く部屋に戻って装備を外そう。玄関の階段を上がろうとしたその時、上の手すりに両腕を乗せてこちらを見下ろす人影を見た。

 

「…まさか、ずっとそこで待ってた訳じゃないよな?」

 

「待ってた、けど」

 

まさか、と浮かんできた質問を投げかければそのまさかだった。はぁ、と溜め息吐いてから階段を上がり、歩くこちらに視線を送り続ける少女の前で立ち止まる。

 

「じゃあ、飯もまだ食ってないのか」

 

もう一度問いかければ首肯される。いや、ホント何してんのこいつ。ダンジョンから戻ってきたばかりでかなり腹が空いてるだろうに。

 

「ティオナ達も待ってるよ。早く行こう」

 

「え、まさか三人共…」

 

「うん。ベートさんは待ってられるかって食べちゃったけど」

 

あぁ、そうだね。むしろベートさんも待ってたら驚くというか気持ち悪いわ。

ていうかベートさんはともかく、今日ダンジョンから戻った全員で待ってたってマジか。ティオナとかまだなのー!とか叫んで暴れてないかな。

 

「アルト」

 

「ん?」

 

廊下を歩きながら仲間の一人の精神状況を心配していると、隣から名前を呼ばれる。思考を切って振り向くと、そいつは真っ直ぐこちらの目を見て、こう言った。

 

「お帰り」

 

「…ただいま、アイズ」

 

お帰りにただいまと返す。当たり前の事だが、最近になってこの当たり前の事がとても幸せなんじゃないかと思えてきた。だって、ほら。

 

滅多に表情が動かないアイズがたったそれだけの事で笑うんだから。

 

 

 

 

 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

 

 

 

 

あの時ぶつかった肩の感触がまだ残っている。

少々強めにぶつかってみたのだが、全く体勢がぶれる事はなかった。どうやらオラリオで冒険者になってから二年間、次々に記録を更新し続けたその功績は伊達じゃないようだ。

 

しかし、よく考えればあの時に何とかして誘き出せば良かったのでは?最近はファミリアの誰かと行動してる事が多いため期を待ち続けていたが…、あぁ、無意識のうちに期を逃してしまった。

 

「…四年、か。長かったような、短かったような」

 

思い出すのは火に包まれたある村の姿。たった一人の子供を守るために全てを投げ打って戦いに挑んだ村人たち。あの時はどこを探しても彼がいなかったため、戦闘をしている最中に逃げ出したのではと全員で村の外を探した。見つからず、まだ村で隠れていたのだと気付いた時には遅く、その時にはすでに逃げられた後で。

 

それでも全力を以て捜索すれば見つけられただろう。だがそれもこちらの動きに感付いたオラリオの連中に阻まれ、結局彼がオラリオに入るのを許してしまった。さらに彼は冒険者に、加えて最大派閥の一つであるロキファミリアへの入団。すぐ手の届く場所にいるのに、手を伸ばす事も出来ない。そんな状況が続いた。

 

だが今、その状況は変わりつつある。成長を続ける彼に、()()も危機感を覚えているのだろう。ダンジョンに潜る彼を見ていた時、いよいよ腰を上げたかと笑みが止められなかった。

 

「さて…、あの時は少々失望してしまったが、彼はどうかな?」

 

世界最強と呼ばれた男も、迫りくる老いには勝てなかった。だが、彼はどうだろうか。老いの心配はない。まだ発展途上という事が心残りだが、どれだけ楽しませてくれるだろうか。

 

「…あぁ。了解した、すぐに向かおう」

 

笑みを浮かべていた男は不意に無表情に戻ると、まるで誰かと話しているかのように口を開いた。男の周りには誰もいない。ならば、今この男と話していたのは誰なのか。

 

男は背を翻し、闇の中に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




モチベがやばい。悪い方でやばい。

とりあえず、前回に引き続いて文字数少ないけど切が良いんで投稿します。

…あ、ちなみに最後に思わせぶりに退場して行った人、再登場はもうちょっと先ですから(え
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