恐れ知らずがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:もう何も辛くない

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「じゃあ、早速だけど始めようか」

 

「は、はい!」

 

今、俺の目の前には明らかに背丈に合っていない長い木の棒を両手に握ったフィンが立っている。ちなみに俺の両手にも、それぞれ一本ずつ木刀が握られている。これから、フィンと模擬戦をするのだが…、俺の部屋に来たロキ達がこの場にいるのはまだ良い。の、だが…、

どうしてこんなに大勢広場に集まって来てるのか。俺、ただの素人ですよ?神の恩恵(ファルナ)を刻んだばかりのペーペーですよ?そんなに見ないで、恥ずかしい。

 

「…どうしてこうなった」

 

ぽつりと呟いた言葉は誰にも届かず、誰も答えを返してはくれない。

 

 

 

 

遡ること僅か十分ほど前。俺はロキから手を差し伸べられていた。ファミリアに入らないか、と誘いを受けていた。差し伸べられた手を俺は、じっと見つめていた。

 

ロキが集めたファミリア、ロキ・ファミリアはオラリオ最大派閥の一つに数えられている。入団希望者はそれこそ、数え切れないほどいると思う。そんなファミリアの主神から俺は今、誘いを受けている。

 

「そんな警戒せんといてぇな。何も悪だくみとか、してへんで?」

 

正直話が上手すぎるというか、そういった警戒心はあっさりとロキに見抜かれた。

さらにロキは続ける。

 

「それに、あんたがシリウスの子やからっちゅう理由で誘ってる訳でもない。うちはアルトリウス・レインっちゅう子にファミリアに入ってほしいんや」

 

そして俺が持っていたもう一つの疑念。ロキは、俺が知り合いの子供だから俺を誘ったのではないか、という疑念を否定した。もしロキがここでそれを否定していなければ、未来は変わっていたかもしれない。

 

「なんやあんた、うちを楽しませてくれそうやからな。同情でも何でもない」

 

ロキは真っ直ぐと俺の目を見据えて、恥ずかしげもなくこう言い放った。

 

「あんたが欲しい」

 

 

 

 

という経緯で俺はロキ・ファミリアへと入る事になった。俺がファミリアに入ると了承してすぐ、ロキから神の恩恵を与えられ、背に神聖文字(ヒエログリフ)でステイタスを刻まれた。

 

ステイタスがどうだったか?…Lv1でオールゼロでしたけど何か?悪いか!

 

…ゴホン。

ともかく、そんな何も面白みもない俺のステイタスを見たロキがその後、こう言った。

 

『これからうちの子供達と一緒に戦う事にもなるし、アンタの実力知っとかなあかんな…。ちょいと、フィンと模擬戦してみ』

 

実力も何もステイタスはもう解ってるじゃないですか、という言葉は聞き入れてもらえず。

俺の抗議は色々と、これからは家族になるのだから敬語はなしやら何と俺とアイズは同じ十二歳だった等という雑談に掻き消され、遂に模擬戦の会場となる広場まで来てしまった。

 

しかも広場には恐らくダンジョンから帰って来たのだろう、ロキ・ファミリアの冒険者達が集まっていた。主神、ファミリア幹部に囲まれる見た事のない子供という奇妙な光景が注目を集め、いつの間にやらまるで見世物みたいな状態に。

 

「さ、いつでもかかっておいで」

 

いや、かかっておいでって、あんた全く隙ないじゃないですか。どうしろってんだ、これ。

 

 

 

 

 

 

 

「…動かんの」

 

「あぁ。恐らく、フィンの佇まいを観察し、隙を探しているのだろう。…ここまでは合格か」

 

「リヴェリアたん、合格って…。入団試験ちゃうで?これは」

 

「…」

 

団員達が集まってくる中、その最前列にガレス、リヴェリア、ロキ、アイズは立っていた。四人はアルトリウスとフィンを…、というよりは、アルトリウスの動きを見つめている。

 

ロキも言ったが、これは入団試験ではない。第一、もうすでにロキが神の恩恵をアルトリウスに与えているのだから、試験の必要はない。ならば、何故この模擬戦をロキが仕組んだのか。

 

「リヴェリアたん、そんなに睨まんといてぇなぁ。理由なら後で話すって」

 

「…言質はとったからな」

 

この会話から解る通り、リヴェリアはこの模擬戦に乗り気ではなかった。

ファミリア内で訓練目的でよく模擬戦は行われているはずなのだが、それでもリヴェリアはこの模擬戦をするべきじゃないのでは、と気が気でない。

 

『フィン。ちぃと、アルトリウスを痛めつけてくれ。もちろん、死なん程度にな』

 

その理由が、このロキの言葉だ。模擬戦に臨むアルトリウス本人と、アイズはロキがこんな事を言っていたとは知らないが、ロキは部屋から広場に向かう途中、フィンにそう指示していた。

 

一応外に出た時、フィンにやり過ぎるなとは伝えておいたし、フィン自身も解っているとは思うが…、新しい芽が早々に摘まれてしまうのではないのか。

 

「…確かめたいんや。あれが、どれ程のモンか」

 

「…動いた」

 

リヴェリアがアルトリウスの身を案じていると、ふとロキが呟いた。その呟きを耳にしたリヴェリアがどういう事かと問いかけようとした瞬間、アイズが口を開いた。

 

彼女が目を向けている方へ視線を移すと、そこには真っ直ぐフィンに向かって駆け出すアルトリウスの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくの間、フィンを観察していた。それで出た結論は、全く隙が無い。どこから攻めても、それこそ真正面から攻めようが真後ろから攻めようが、間違いなく初撃は防がれる。ならば、どうするか。

 

「…っ」

 

フィンの目が僅かに見開いた目が俺の姿を追う。ただ真っ直ぐ突っ込むのではなく、左に、右に、不規則にステップしながらフィンへ接近していく。

 

真正面からのぶつかり合いなどできるはずもない。フィンのレベルは6、こちらのレベルは1。考えるまでもなくステイタスは断然向こうの方が上だ。その差を覆し、()()にはどうしなければならないか。答えは一つ。

 

相手が反応できない攻撃を繰り出すしか、勝機はない。

 

左手をフィンの方へ向け、右手をだらりと下げる。その間にも足は止めない。フィンは油断なくこちらを見据えている。フィンの目は…、どちらかというとフィンに向けてる左手に向いている。下げている右手にも注意は払っているようだけど、それも想定内。

 

フィンの前で立ち止まると、フィンは木棒を体の前で構える。防御体勢だ。

そこに向けて木刀を打ち込む、事はせず、大きく木刀を投げ上げた。

 

「なっ?!」

 

声を上げながらフィンは投げ上げられた木刀を目で追いかける。瞬間、フィンに向けていた左手がフィンの視界から離れた。その時を見逃さず、木刀の先端をフィンの顔面目掛けて突き入れる。

 

「っ、くっ!」

 

が、すぐにこちらに視線を戻したフィンがそれに反応し、木刀の突きは防がれ、弾かれる。大きく体勢が右に流れ、それを見たフィンは追撃に出る。突き出された木棒を首を傾ける事でかわし、ちらりと視線を上へ向ける。

 

それが降りてきた事を確認し、右腕を上げる。掌を開き、先程投げ上げた木刀を掴み取る。

 

「まさか、これを狙って…っ」

 

掴み取った木刀をすぐさま振り下ろす。追撃のために突き出したフィンの木棒は間に合わない。まずは、一撃──────!

 

「…っ!?」

 

振り下ろされた木刀は空を切る。動いた金の影を追って視線を移す。

無理やり行動を回避に移したせいか、フィンは左足を突いている。これを隙ができた、とは勘違いしない。この程度では、隙とはなり得ない。

 

今度は向こうから仕掛けてくる可能性を頭に入れ、その場で木刀を構える。

 

相手が反応できない攻撃を繰り出す。これがどれ程難しいか。相手はレベル6の冒険者であるフィン・ディムナ。レベルだけでなく、戦闘経験だって向こうの方が断然上だ。それでもただ一つ、相手に勝ってる自信があるものがある。

 

化物(かくうえ)との戦闘経験なら、俺は負けちゃいない)

 

化物(かくうえ)との戦闘経験、といってもほとんど何もできずボコボコされただけなのだが。

 

(それにしても…、神の恩恵って凄いな。体が軽いしよく動く。自分のイメージ通りに動くってこんなに気持ちいいものなんだな…)

 

もし、あいつらがもう少し遅く現れてくれれば…、いや、そうじゃない。今考えるべきなのはそれじゃない。

 

思考を休まず巡らせる。さっきの攻撃は失敗した。なら、次はどうするか。

 

「──────っ」

 

息を呑む。

未だ思考が固まっていない俺に、今度はフィンから仕掛けてきた。

 

連続で突き出される木棒を木刀で弾き、時には体を翻してかわす。隙のない連続攻撃は、全く反撃の機会を与えてくれない。相手との体の位置を入れ替え、何とか押し込まれないようとするが、効果はほとんど表れない。それでも、劣勢に苦心する中でも一つ、勝ちに繋がるヒント…というべきなのだろうか、これは。ともかく、俺にとっては助かる点を見つけた。

 

それは、まあ当然の事ではあるのだが、相手が手加減しているという事だ。それも特に、ステイタスでいえば力に関してはかなりフィンは抑えていると思われる。当たり前だ。フィンがパワー全開で攻撃すれば俺は死ぬどころか体が潰れてしまうかもしれない。

 

そんな俺のためを思ってのフィンの手心だが…、それを逆手にとってしまおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

強い。戦いながら、目の前の少年を見てフィンは思う。

ステイタスの問題ではない。むしろステイタスだけなら、この少年は全冒険者の中で最低値なのだ。

それでもフィンに、ロキ・ファミリア団長勇者(ブレイバー)に強いと思わせるアルトリウスは、レベル2程度の速度で繰り出される攻撃を全て防ぎ、かわし続けている。

 

(強い…、というよりも、上手いというべきかな。明らかに冒険者なりたての戦いじゃない)

 

思い出すのは模擬戦が始まってすぐにアルトリウスが起こした行動。まさか、武器を投げ上げる事でこちらの隙を作りだそうとするとは。そんな事を考える戦士を、フィンは見た事がなかった。

 

(まずいな…)

 

胸の奥で燻るある感情を抑えながら、心の中で呟く。こうしている間にも、アルトリウスはこちらが繰り出す連撃の速度に慣れてきたようだ。明らかに目の動きがこちらに追いついてきている。これでは相手が反撃を始めるのも時間の問題だ。

 

「っ…!」

 

そうフィンが思ったその直後だった。フィンが突き出した木棒を体を翻して回避したアルトリウスが、両手を振りかぶり、力一杯振り下ろした。フィンの両手に衝撃が奔り、フィンが予期していた木棒の軌道が大きくずれる。

 

(リヴェリア、すまない。やり過ぎるなという約束…)

 

目の前で左腕を引き絞り、こちらを狙うアルトリウス。

 

(守れないかもしれない…!)

 

歯を食いしばるアルトリウスを前に、フィンは抑えきれない感情を外に零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…フィン。笑ってる」

 

「あぁ。…楽しそうじゃの。儂も次、相手を頼もうかのぉ」

 

この場にいる誰もが、目の前の光景を信じられずにいた。それでも、目の前で起こっている事を認めるしかなかった。

手加減している事は解っている。それでもだ。

それでも、新人が、我々の団長と渡り合っている、と。

 

「馬鹿を言うなガレス。…ロキ、こうなる事を解ってたんじゃないだろうな」

 

「んな訳ないやろ。確かに、シリウスの下で育ったんやからそれなりにやるやろとは思っとったけど…、予想以上すぎるわ」

 

ガレスを一睨みしてから、今度はロキを見下ろして問いかけるリヴェリア。

ロキは目の前の戦いから目を離さぬままリヴェリアの問いかけに答える。

 

「おーい、アイズー!」

 

「…ティオナ?ティオネにベートさんも」

 

ロキの様子に溜め息を吐き、リヴェリアが再び視線を戻そうとしたその時、背後から声がした。

振り返ると、こちらに駆け寄って来る三人の男女。

 

アマゾネスの姉妹、ティオナ・ヒリュテにティオネ・ヒリュテ。そして狼人(ウェアウルフ)のベート・ローガだ。

 

「ねぇアイズ、あれフィンだよね?あのフィンと戦ってる人は誰?」

 

フィンと戦う少年を指差し、アイズに問いかけるティオナ。

そのティオナの問いかけに答えたのはアイズではなく、ロキだった。

 

「夕飯の時に改めて紹介する予定やーけーどー…。あそこにいるのはアルトリウス・レイン。今日からファミリアの一員や」

 

「へー…。それで、レベルは幾つなの?」

 

ティオナの問いかけに答えたロキに、続いてティオネが問いかける。

 

「1や」

 

「…は?」

 

「だから、1や。冒険者なりたて。ステイタスオールゼロ」

 

「…えええええええぇぇぇぇぇ!!?」

 

恐らくティオネは、というよりこの場にいる誰もが、アルトリウスはどこかのファミリアから改宗(コンバージョン)してきた冒険者だと考えていただろう。

 

「1…だと?おいロキ、んな冗談笑えねェぞ」

 

「冗談なんかやない。今さっき、うちが神の恩恵与えたばっかりや」

 

「…マジかよ」

 

ここに来たばかりの三人が視線を戻す。そこには変わらず未だに立ち続け、戦い続けるアルトリウスとフィン。

誰もが言葉を発さなくなり、二人の戦いに目がとられる中、ただ一人だけ、二人の戦いを見て思考する者がいた。

 

(…どうして、彼はこんなに強いんだろう)

 

フィンの攻撃を受け、地面を転がるアルトリウス。だがすぐに立ち上がり、再びフィンに攻撃を仕掛けるその姿を見て、アイズ・ヴァレンシュタインは思う。

 

(どうして彼は、こんなに強くいられるんだろう)

 

 

 

 

 

 

 

 

考え付いた様々な攻撃をフィンに向け続けた。それらは全て、凌がれた。

それだけじゃない。戦い始めた当初より、フィンのスピードが上がり、伝わってくる衝撃が強くなっている。

手加減の度合いが明らかに低くなっている。

 

「ぐっ…、あぁ…!ちぃっ」

 

振るわれる木棒に腹を殴られ、吹き飛ばされる。二本の木刀を地面に力一杯突き、地面を転がる体を止めてすぐにフィンに向かっていく。

 

もう、当初にあった駆け引きはない。駆け引きに持ち込む事すらできなくなっていた。フィンの打ち込みを防ぐ、それしかできない。そしてそれも、次第に難しくなっている。

 

まず、一発。一発、フィンに入れたい。そこから活路を見出す。

だがその一発を入れるために、戦いが始まってからずっと四苦八苦し続けてきたのだ。これ以上、どうすれば──────

 

「がっ…!」

 

木棒の先端が腹を突く。がくがくと震える膝に力を込め、立ち続ける。ここで膝を屈する訳にはいかない。

もし屈すれば、もうこれ以上、立ち上がれないような気がした。

 

(…捨てるか)

 

限界は近い。それは俺自身が一番よく解っている。このままでは、呆気なく負けてしまう。

ここから()()ためには、何か、小さくても良い。切欠が欲しい。

 

その切欠を作り出すために、全てをこの一撃に投げ打つ事にしよう。

 

フィンに向かって駆ける。ただ真っ直ぐ走るのではなく、右に、左に、不規則に向きを変えながらフィンに近づいていく。それは、模擬戦初めの光景と同じものだった。

 

「…楽しかったよ。まさか、ここまでとは思わなかった」

 

向かってくる俺を見て、フィンが言う。

…何だその言い方は。まるでもう、自分の勝ちだと言わんばかりのその言い方が気に入らない。

 

「もう結果は揺るがない。そろそろ諦めたら…って言っても、聞かないんだろうね」

 

「当たり前だ。まだ…、負けてない!」

 

応えると同時、木棒を構えるフィンに向かって木刀を投げる。先端がぶれずフィンに向かってく木刀の軌道に合わせてもう一方の木刀も投じる。そして、俺は足を止めずにフィンに向かっていく。

 

フィンは一本の木刀を木棒で弾き飛ばし、その陰に隠れたもう一方の木刀に目を見開く。

 

ほんの僅かだが反応が遅れた。あの木刀は恐らく防がれる…それでも。

 

「っ、しまっ…!」

 

「これでっ!」

 

フィンの死角からの回し蹴り。これの防御は間に合わないはずだ。

 

「いっぱ、っ!!?」

 

当たると確信した回し蹴りを繰り出した直後、体全体に途轍もない衝撃が襲う。

 

何が起きたか解らぬまま、俺は一日ぶりに意識の暗転を再び味わう事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




1話目のあれからのこの主人公の暴れっぷりである。
フィンはかなり手加減してますよ?フィンが楽しく感じたのは、普通なら相手が勝てないと思う力を見せつけても、アルトリウスから全く諦める気配を感じなかった事と、アルトリウスの戦い方が全く見た事のないものだったから。
そして勿論、ここまで強いのには理由がありますよ?それは次回で。
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