恐れ知らずがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:もう何も辛くない
時の流れが物凄く早く感じる今日この頃…。(遠い目)
はい、遅れてすみませんでした。最低限月一投稿は守らねばと思いながら気付けばさらにもう一か月空いてました。これからも亀更新が続くかも分かりませんが、どうぞお付き合いの程をよろしくお願いします。
通常のウダイオス相手ならば、そう手古摺る事なく撃破する事が出来ただろう。ロキファミリア団長、Lv.6《
だが今、二人の目の前にいるのは常識では計れない怪物。迷宮の根源によって強化された暴王。紫紺のウダイオスはフロアを縦横無尽に駆け回り、必殺の刃を以て勇者と猛者に襲い掛かる。
二槍、《フォルティア・スピア》と《スピア・ローラン》。勇者の名に恥じない槍を手に、暴れ回るウダイオスを相手に立ち回るフィン。できる事ならば、オッタルと連携を図ってウダイオスを相手取りたい所なのだが、それができないでいた。オッタル自身にその気がない、というのもそれができない理由の一つではある。しかしそれ以上に、そんな余裕がない。
通常のウダイオスはまず、下半身が地面に埋もれているために動けない。だが、目の前の紫紺のウダイオスはその例に当てはまらず、地中の呪縛から解き放たれている。そして何より、単純に通常種とは比べ物にならない破壊力が脅威だ。
「っぉ…!」
「なっ…!?」
その証明はたった今、振るわれたウダイオスの片腕に押し負けるオッタルの姿で成されている。オラリオ最強の二つ名を引き継いでから、どんな相手に対してでも押し負けないと謳われたオッタルが大きく吹き飛ばされ、背後の壁に激突した。
(どうする…!)
正直な所、手詰まりだ。この場に仲間達がいればまだしも、今はフィンとオッタルの二人しかいない。せめて、奴にダメージを入れられる魔法職が一人でもこの場にいれば違っていたのだが。
(…奴は、地上の問題は解決したと言っていた)
その言葉を信じるならば、何かしらの重傷を負っていない限りリヴェリア達は今頃ここに向かって来ているはずだ。いつここに辿り着くかは解らないが、彼らを頼りにするしかないだろう。
「っ!」
オッタルを吹き飛ばしたウダイオスが、ぐるりと視線をフィンに向ける。直後、骨の暴王はたった数歩で数十メートルは離れていたフィンとの距離をゼロにした。
「くっ…!」
フィンはステイタスの数値上、筋力、耐久には優れていない。むしろ弱みと言っていい。そんなフィンが、オッタルですら耐えられなかったウダイオスの怪力に掛かればどうなるか、想像するのは難くない。ならばフィンが取れる選択肢は一つ、回避のみ。
回避した先は後方。通常種が相手ならばこれで距離をとる事が出来るのだが、この紫紺のウダイオスは――――――
「■■■■■■■■■――――――――――」
解き放たれた両足で一瞬で距離を詰めて来る。
この紫紺のウダイオスと通常種のウダイオスとの大きな違いは何度も言うが、下半身が地中に埋もれているかそうでないかだ。自由に両足を動かせるのは脅威だがただ一つ、通常種のウダイオスより劣っているというべきか、抜け落ちた能力がある。
通常種のウダイオスは下半身が埋もれていると言ったが、それは少し語弊がある。正確には、通常種のウダイオスは下半身が存在しない。埋もれた下半身に相当する骨はウダイオスが存在する部屋中に、大樹のごとく張り巡らされている。ウダイオスは地中に埋まった骨を操り、地上へ出現させる事ができるのだ。
地中という、絶対の死角から繰り出される攻撃は高レベルの冒険者にとっても脅威だ。
だが、形成された下半身を露出させている紫紺のウダイオスにはその攻撃は不可能。
紫紺のウダイオスが通常種のウダイオスより脅威だという事実は変わらないが、足元を警戒する必要はないというのはフィンにとって安堵を与えるものだった。
(だからといって、状況が好転する訳じゃないけどね…)
むしろ、自由に動き回るこの紫紺のウダイオスの方が今のフィンにとっては脅威だ。フィンにとって懸念だったのは、注意を分散させなければならないのか、という事。通常種ならば動けないから良いものの、紫紺のウダイオスは動き回る。その上、足元にも注意を向けなければならないとなれば、肝が冷えるどころではなかった。
とはいえ、懸念材料が一つ消えただけ。フィンの心の内通り、状況が好転する訳ではない。オッタルを超える怪力に、縦横無尽に部屋中を駆け巡る走力。その何れもが、これまでフィンが対峙してきたモンスター達から一線を画していた。
「―――――――――」
ウダイオスの左腕が横合いから迫る。狙いは首元。僅かに膝を曲げ、体勢を低くし一文字に振るわれる斬撃を躱す。頭上を骨の刃が過ぎ去っていくのを感じながら、フィンは金の穂先を突き出す。が、槍を握る手に伝わって来たのは敵を貫いた感触ではなく、硬い何かを叩いた感触。
(素の状態じゃ歯が立たないかっ)
自身の無力さに歯を噛み締める。しかし悔しさに身を震わす暇はなく、フィンはすぐさま槍を引き戻して後退。直後、先程までフィンが立っていた場所を骨の刃が横切り、風圧がフィンを襲う。頬に僅かな痛みが奔り、視界の端で赤い鮮血が微かに飛び散ったのが見えた。
風圧だけで、耐久に優れてはいないとはいえLv.6の体に傷をつけるその威力に改めて戦慄する。そして、胸に刻み込む。あの怪物の攻撃は、掠っただけでも致命傷を受けるだろう、と。
「っ」
両者動かず、互いに睨み合う中フィンの背後からドン、と小さな爆発音が響く。その音が、意識を取り戻したオッタルが床を蹴った音だと悟ったのは直後、フィンの傍らを通り抜き、紫紺のウダイオスに向かって疾駆する巨漢の背を見た時だった。
その巨体からは信じられない、あのアイズでさえもあわやというスピードでウダイオスに向かっていくオッタルだが、頭蓋骨に穿たれた二つの穴の中で光る瞳は、確かにオッタルを捉えていた。
「っ、ちぃっ!」
振り下ろされる刃は正確にオッタルの脳天の位置を捉え、オッタルは動きを止めて防御の体勢を強いられる。大剣の腹が骨の刃とぶつかり合う中、もう一方のウダイオスの腕が動き出す。
正直、複雑ではある。良い印象は持っていない、むしろ二年前の事件で嫌悪の念すら抱いているファミリアの団長だ。だが、そんな私情を挟んでいる場合じゃない、今は、あの男と手を組まなければ生き延びる事は出来ない。
「オッタル!」
オッタル目掛けて振るわれる骨の刃の腹に、二本の槍の穂先を走らせる。火花を散らしながら、全力で振るわれた二本の槍は僅かに刃の軌道を逸らす。更にそこで動きを止めず、フィンはオッタルに向けて駆ける。
オッタルの傍らで足を止めると、二本の槍を大きく振り上げる。オッタルを脳天から真っ二つに切り裂こうとする骨の刃を押し返そうと、全力を両手に込める。
「――――――――」
不意に、隣のオッタルが一瞬、こちらを見たような気がした。
何故、と、その瞳が問いかけてきた気がした。
「【魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て】」
その問いかけには答えない。代わりに、フィンは短い詠唱を唱える。
この魔法が状況を覆す切り札となるのか、正直な所解らない。何しろ今、フィンが唱えた魔法は効果を発した瞬間、フィンから正常な判断力を奪うという諸刃の剣なのだ。その分、全ステータスを超強化する、デメリットに見合ったメリットもある。
「【ヘル・フィネガス】」
魔法名を唱えたと同時、フィンの身体の底から熱い衝動が湧く。これが正しく魔法の効果が発揮された証明。フィンの力が一気に強化され、僅かにウダイオスの刃が押し返される。
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
身の底から湧き上がる衝動に身を任せ、雄叫びを上げる。超強化されたフィンと元々強大なオッタルの力も合わさり、遂にウダイオスの刃が弾き飛ばされる。それと同時に僅かにウダイオスの上体が仰け反り、その隙にフィンとオッタルの両者は後退する。
「…
「何故、とは聞くなよ。この状況でファミリア同士の不仲等気にしていられない」
僅かに仰け反った状態はすでに元の位置へ。遥か高みから見下ろすウダイオスの瞳を見上げながら、フィンはオッタルには視線を向けずに言い放った。
ヘル・フィネガス
魔法使用者の気を高揚させ、好戦欲を上昇。ステイタスを大幅に上げる魔法だ。
こういったステイタスを変化させる魔法は身体的な代償があるモノが多いのだが、フィンのそれはその例に含まれない。ただ、デメリットが全くないという訳でもない。この魔法は、使えばフィンの緻密な判断力を奪う。
強い効能を齎す魔法は、それ故に強い代償を払わなければならない。
大量の魔力を必要としたり、フィンの様に魔力とは別の要素を欠如させたり。
この魔法を使用したのは一体、何時ぶりだろうか。ファミリアの団長という立場上、判断力の欠如というのは致命的な代償だった。だが今、フィンの周りに部下はいない。いるのは、自分以上の強大な戦士。
指揮はいらない。何の気兼ねなく、全力を絞り出せる。
「ウォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
普段のフィンの姿からは考えられない、獣染みた雄叫びを上げながら、両槍を力強く握り締めて駆ける。頭上から降ってくる刃を最小限の動きで躱し、スピードを緩める事なくウダイオスの足下まで到達。と同時に両足に力を込めて跳躍、長槍の穂先を肋骨にあたる部分に突き込む。
先程、《ヘル・フィネガス》使用前とは違い、穂先は確かに浅くはあるがウダイオスの身体に傷を付けていた。それを視認したフィンは続けざまに《フォルティア・スピア》で二撃目を繰り出す。《スピア・ローラン》で付いた傷とすぐ隣にもう一つ、浅い傷跡が刻まれる。
しかし、その程度で怯む程、敵は矮小な存在ではない。ゆっくりと瞳が、ウダイオスの身体に刺さったままの二槍にぶら下がるフィンに向けられる。先程地面を駆けるフィンに向かって振り下ろされた片腕を持ち上げ、刃の先が勇者を狙う。
「ハァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
一方のフィンは、自身が狙われている事に未だ気付かないでいた。今、フィンが集中しているのは自身が付けた二つの傷跡を広げる事のみ。この程度の傷で怯まないのなら、その傷跡を更に大きくしてやればいい。魔法の代償で狭くなった視野が、ここでは幸いした。増大した力のステイタスがここぞとばかりに働く。二槍を振り抜き、両腕を開いた体勢のままフィンは落下していく。そして、フィンの二槍が突き刺さっていたその小さな傷跡は更に深く、更に広く抉られていた。
この骨の怪物に痛覚があるか定かではないが、少なからず影響はあったらしい。フィンを狙う刃の動きは止まり、フィンを射抜いていたウダイオスの瞳は大きく付いた傷跡を見ていた。
地面に着地したフィンは動きを止めたウダイオスを見上げる。瞬間、好戦欲が高まり、荒ぶっていたはずのフィンの思考が一瞬、冷めた。堪らずその場から後退し、ウダイオスから距離をとる。
(今…、僕は今、何を感じた?)
理性を奪われ、ほとんど本能で動いていたはずのフィンの中で確かな思考力が湧いていた。魔法の効果が切れた訳ではない。確かにステイタス上昇は続いている。その感覚は残っている。だというのに、好戦欲に満ちている筈の心中が撤退を叫んでいた。
今すぐ逃げろ、と、恐怖を叫んでいた。
「っ―――――――――」
その一瞬の硬直を、ウダイオスは見逃さない。全身から滲み出る怒りに流されず、フィンの動向を冷静に見極めたウダイオスの斬撃が、すぐそこまで迫っていた。瞬き一つ、たったそれだけの間で、ウダイオスの頭上まで持ち上げられていた骨の刃が、自身の首元に迫ろうとしていた。
回避は間に合わない。防御も、たとえ万が一間に合ったとしても防御ごと首を持って行かれる。
明確な死の気配が、長らく冒険から遠ざかっていた勇者に襲い掛かる。
誰かが傍らで地を踏む音がした。
フィンの頬を強い風が撫でる。骨の刃が迫っていたはずの横合いに視線を向けると、そこに立っていたのは、自身の背丈の倍に迫る程の巨漢。鍛え上げられた巨大な両腕は、剣を振り抜いた状態から更に動く。
轟音。その音が、オッタルの大剣とウダイオスの骨剣がぶつかり合う音だと悟ったのは、再びフィンの全身を強い風が襲ってからだった。先程はほぼ拮抗する事なく弾き飛ばされていたオッタルだが、今、フィンの目の前では両腕と片腕という違いはあれど、互角の鍔迫り合いが行われている。いや、僅かではあるが、オッタルが押している。
「ぬんっ――――――――」
力強い気合の一声と共に、オッタルの剣は振り抜かれる。強烈な一閃は先程とは真逆、ウダイオスの剣戟を弾き飛ばす。
「オッタル…」
「先程の借りはこれで返したぞ。
油断なく大剣を構えながらも、背後で呆然とするフィンにオッタルは声を掛ける。
先程助けられた事を気にしていたのか、と。フィン自身は全く貸し借りなど考えてはいなかったのだが、その考え方がオッタルらしいとつい笑みを漏らす。
「全力…かどうかは解らないけど、さっきまでとは違うと思う方が良さそうだね」
オッタルの隣に立ち、ウダイオスを見上げながら言う。
ウダイオスから漂う怒りの気配。だが、ウダイオスは注意深くフィンとオッタルを見下ろしている。怒りに任せて暴れるだけではこの二人には勝てない。そう、思考しているようだった。
だが警戒を深めたのはフィン達も同じだった。先程オッタルと協力して弾き飛ばした攻撃と、たった今フィンに迫った斬撃。スピードも威力も明らかに後者が大きく上回っていた。その攻撃をオッタルが弾き飛ばしたその絡繰りが気になる所ではあるが、それを考えていられる場合ではない。
紫紺のウダイオスが、動き出す。
「足を引っ張るようなら、見殺しにするぞ。
「それはこちらの台詞だよ。付いてこい、
オラリオ二大ファミリア。
ロキファミリア団長、フィン・ディムナとフレイヤファミリア団長、オッタルが本当の意味でこの場に並び立つ。
巨大な黒い影が、上空から二人を包み込んだ。