恐れ知らずがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:もう何も辛くない

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日が暮れ始め、夕闇が空を覆い始めた頃。ロキ・ファミリア主神ロキの部屋には、部屋の主であるロキとファミリア重鎮の三人、フィン、リヴェリア、ガレスの四人が集まっていた。

 

「いやぁ~、良いもん見れたわぁ。まさかフィン相手にあそこまでやるとはなぁ、先が楽しみな子や」

 

「何が良いものだ。見た目に反して大した事はなかったが、一歩間違えれば大惨事だったぞ」

 

「はは…。本当に、アルトリウスには申し訳ない事をしたよね…」

 

「そう気にするな、フィン。実際、大した事なかったんじゃ。後でアルトリウスに謝って、水に流してもらおうじゃないか」

 

ソファに腰を下ろし、ふんぞり返りながら楽し気に言うロキに、非難の視線を送るリヴェリア。普段は団員達に見せてきた広く、頼もしい背中がどこか頼りなく見えるフィン。そして豪快に笑うガレス。

 

「…さて、と。そろそろ本題に入らなあかんな」

 

ここにいる全員が、アルトリウスの未来を案じ、楽しみにしている。

そんな和やかな空気は、ロキの言葉と同時に霧散する。

 

ソファにふんぞり返っていたロキは上体を起こし、彼女の目の前で立っているフィン達を見回した。

 

「まず、これを見てみぃ。そして、ここに書かれてるのが、あの模擬戦の理由や」

 

懐からロキは一枚の紙を取り出した。そこには神聖文字(ヒエログリフ)で誰かのステイタスが刻まれている。

 

「これは…、アルトリウスの?」

 

「せや。ほれ見てみぃ。卒倒しなかったあの時のうちを褒めてやりたいわ」

 

苦笑を浮かべながら言うロキに従い、フィン達が受け取った紙へ視線を移す。

 

 

 

アルトリウス・レイン

Lv.1

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

《スキル》

恐れ知らず(ドレッドノート)

枷を外す。早熟する。

 

 

 

恐れ(ドレッド)知らず(ノート)?」

 

神聖文字(ヒエログリフ)で書かれたスキル名を、リヴェリアが復唱する。

 

「聞いた事のないスキルじゃの…。それに、効果が」

 

「早熟する、は大体想像できる。だが、()とは何だ?」

 

早熟する、これはステイタスの上昇値が上がる、という効果で恐らく間違いないだろう。それがどれ程上昇値に干渉してくるかはまだ解らないが。だが、この()が何なのか。どうしてそんなものがアルトリウスに課せられているのか。

 

「それを確かめるために、フィンと模擬戦をさせたというのか?」

 

「それと、早熟具合を確かめるためにやな。目が覚めたらすぐ、ステイタスを更新するつもりや」

 

「…それで、解ったのか?この枷というのが何なのか」

 

ロキはリヴェリアを少しの間見つめると、視線を切って頭を振る。

 

「さっぱりや。何やステイタスでも上がるんかと思ってたんやけど、戦い方こそ異常なものの、ステイタス自体は全く変わっとらんかった」

 

アルトリウスがあそこまでフィンに立ち向かえたのはステイタスの変化が理由ではなく、ただアルトリウスの技術によるものだった。ロキが当初予想していた、枷が外れ、ステイタスが上がるというのは完全に間違いだったと、あの模擬戦を見てロキは感じた。

 

なら、枷というのは何なのか。

 

「…まあ、彼と過ごす内に明らかになっていくと思うよ」

 

「そうじゃなぁ。今ここですぐ調べなきゃならん悪いスキルという訳でもなさそうじゃしの」

 

ロキが頭を悩ませる中、フィンとガレスが口を開く。

確かに二人の言う通り、スキルの効果を見る限り、持ち主に悪影響を与えるような物ではなさそうだ。

というより、スキルという物は持ち主に好影響を与える物であって、持ち主が悪影響を受けるスキルなど存在しないはずなのだが。

 

「…確かに、未知のスキルに警戒しすぎてるのかもな」

 

ロキが天井を仰ぎながら呟く。

 

恐れ知らず(ドレッドノート)

ただ一人、アルトリウス・レインにのみ現れた唯一のスキル。文自体はあまりに簡素なものだったが、その効果はかなり絶大な物になるだろう。

このスキルがアルトリウスにどんな影響をもたらすかは解らない。それでもきっと、このスキルはアルトリウスのためにある物だ。

 

「解ってると思うけど、他言は禁止やで?」

 

とはいえこのスキルが外に漏れれば騒ぎになるのは目に見えている。いや、騒ぎになるだけならまだ良い方だ。

このスキルを知り、他の神々がアルトリウスを欲しがり、強引な手に出てくる可能性だってある。

 

ロキに言われるまでもなく、その可能性を察していたらしい。三人はロキの言葉の訳を問う事なく、頷いて応えた。

 

「団長。入ってよろしいでしょうか?」

 

部屋の中に、ノックの音が響いたのはその直後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ま た こ の 天 井 か

どうやらまた気を失ったらしい。一日ぶりにまた気絶を味わった俺の気分は少々複雑だ。

 

今度は嫌な悪夢を見る事はなく目を覚ました俺は、再び汚れ一つない真っ白な天井を見上げていた。

右手を突き、上体を起こして部屋を見回すと俺以外に三人がそこに立っていた。

 

「あ、起きた!ねーねーティオネ、アイズ!新人君起きたよ!」

 

「見れば解るわよ…。大丈夫?痛む所とかない?」

 

俺が起きたのを見ると、三人共こちらに歩み寄って来た。その内二人は姉妹だろうか?浅黒い肌を惜しみもなく露出させたアマゾネスの二人と、冒険者に襲われていた俺を助けてくれたアイズが気を失った俺を看てくれていたのだろうか。

 

アマゾネスの二人の…、豊満な方に問われ、俺は腕を一本ずつ回し、腰を右、左と順番に回して首もぐるりと回す。うん、痛みはないな。

 

「大丈夫です」

 

「そう。ならよかった。じゃあ、私は団長達にこの子が目を覚ました事を伝えてくるわ。あなたは二人と一緒に待っててね」

 

豊満な方の問いかけに答えると、豊満な方は部屋から出て…。あの、人の心が読めるのって神様だけじゃないんですかね?何かもう一人の方のアマゾネスがこっち睨んできてるんですけど。そんなに気にしてるんですね、貧しい事…。あ、解りましたから、もう考えないから睨まないで。

 

「アルトリウス、震えてるけど大丈夫?」

 

「ん…、あぁ。さっきも言ったけど、どこも痛くないし大丈夫だと思う」

 

アマゾネス様の視線にびくびく震える俺に気付いたアイズが心配…してくれてるのだろうか。無表情で何を考えてるかちょっとよく解らない。…まあ心配してくれているという事にしよう。

 

その後は、冷たい視線を収めたアマゾネスさんと自己紹介を交わし、やはり二人は姉妹だという事が解った。今ここに残っているのがティオナ・ヒリュテ、さっき部屋から出て行ったのがティオネ・ヒリュテ。

…本当に姉妹でどうしてあそこまで差が出てしまったのか。どこがとは言わないし、これ以上考えたらまた睨まれそうだから考えるのもやめるが。

 

ティオナはかなり人懐っこい性格のようで、初対面にも関わらず俺を名前で呼び、姓で呼ぶ俺に名前呼びを強制させた。まあその後に、ロキ達と一緒に部屋に戻って来たティオネにも名前呼びを強制されたから、この姉妹、かなり似た者同士なのかもしれない。

 

「どうやら本当に大丈夫みたいだね。さっきはすまなかった」

 

「いや…。むしろ、少しは本気を出させることができたって事ですよね?それの方が嬉しいです」

 

ティオネと一緒にロキ達が部屋に入ってくると、まずフィンがやって来て、怪我をさせてしまった事を謝罪してきた。別に俺はあの模擬戦について、フィンに対して怒りなどの感情は抱いていない。むしろその逆。ほんの少しだったとしても、手加減を忘れるほどフィンを追い詰めた事が嬉しいと思う気持ちの方が大きい。

 

フィンから広げた掌へ視線を向け、ぐっ、と拳を握る。

ここでなら強くなれる。冒険者になった事、このファミリアに入った事は間違いじゃなかった。

あの模擬戦が、俺にそう思わせてくれた。

 

「さっ!堅苦しい話はこれくらいにして、ごはん食べよか~!ほら、アルトリウスも行くで~!」

 

「え?」

 

「え?や、ないやろ。あんたはもうファミリアの一員やで?さっさと来んかい!」

 

「あ、解った。解ったから手を離して引っ張らないで転ぶ!転ぶ!」

 

ロキに手を掴まれ、引っ張られる。ベッドから体が飛び出し、転びそうになるのを慌てて足を床に付けて抑える。どこへ行くのだろうか。ごはん、と言っていたから食堂だろうか?何度か廊下を曲がると、人の話し声が耳に届くようになってきた。もう食堂には多くの団員達が集まっているのだろう。

 

「ほれ、ここや。さっさと入りぃ」

 

不意にロキが立ち止まると、振り返ってそう言った。ロキが今立っている場所から少し横にずれた事で、その奥、食堂の全貌が目に飛び込んできた。

 

やはり多くの冒険者達がすでに食事を始めており、各々思うように座り、近くの人と談笑している。

あまりの人の数に若干圧されるが、一度深呼吸をしてから一歩、食堂に足を踏み入れる。

 

「おっと、すまん。ちょっとこっち来て」

 

「え…、あ?」

 

ここは飲食店でするように席に座って注文するのではなく、順番に同じメニューをもらって食べるというシステムらしい。それに習い、俺は列の最後尾に並ぼうとしたのだが…、再びロキに手を掴まれ引っ張られる。俺の腕を引くロキは少し歩き、食事をとる団員達の視線を集めながら、皆がこちらの姿を見やすい所で立ち止まると俺の腕を上げながら口を開いた。

 

「はーい。ちょいと手を止めてこっち見てくれんかー?」

 

こっちの存在に気付いていた者は勿論、気付いていなかった者も手を止めてこちらに目を向ける。

食堂にいるすべての物の視線がこちらに向けられる。たった今、食堂に着いたフィン達も俺とロキを見守っている。

 

「なぁ。あいつ、さっき団長と戦ってた奴じゃねぇか?」

 

「あぁ。結構腕がいい奴だったな」

 

何かいつの間にか有名人になってるらしい。…まあ、あの模擬戦結構見られてたからな。あそこまで見事に負けた所を見られたとか…、恥ずかしすぎる。

 

「広場でフィンとの模擬戦見てた子もおると思うけど、この子は新しくファミリアに入った子や!ほれ、自己紹介」

 

「え?」

 

いきなり大勢の人の前に連れて来られたと思ったら、いきなり大勢の人の前で自己紹介しろと無茶振りされたのだが。え、本当にどうすればいいんだこれは。一発芸とかするべきなのか?…いやダメだ、こんな初対面が大勢いる所で一発芸なんかしたら間違いなく滑る。白ける。そしてこいつは危ない奴だと印象付けられる。

 

「…あ、アルトリウス・レインです。よろしくお願いします」

 

という事で、無難な自己紹介に留めておく。ここに爺ちゃんがいたらもっと何かしろとか何やら騒いでただろうけど…、ムリだ、不可能だ。危ない人認定は御免だ。

 

「てことで、この子の名前はアルトリウス・レイン。これから仲良くしたってなー」

 

一瞬、ロキがつまらなそうな目でこっちを見たのは気のせいだ。あの爺ちゃんと同類だなんて認めてたまるか。

 

自己紹介を終えると、ロキが俺を空いてる席に座らせた。食事を持ってきていなかったが、ガレスが俺の分も一緒に持ってきてくれた。ガレスにお礼を告げてから、ようやく俺も食事にありつく。すると、俺の正面の席にアイズとティオナ、ティオネが腰を下ろした。

 

「そういえばアルトリウス!さっきの模擬戦、凄くかっこよかったよ!」

 

「そうね。手加減されてたとはいえ、団長とあそこまで戦えるなんて驚いたわ」

 

三人と少しの間、オラリオに来る前はどうしていたか等の話をしていたが、唐突にティオナが身を乗り出しながらそう言ってきた。それに続いてティオネも頷きながら言う。

 

いやかっこいいって…、ただぼこぼこにされただけなんだけどな。攻撃全部通用しなかったし、その上手加減されてたし。それでかっこいいと言われても、正直複雑だ。

 

「ねーアイズ!アイズもそう思ったよねー?」

 

「うん。アルトリウス、強かった」

 

胸中の微妙な感情を察したのか否か、ティオナが隣のアイズに同意を求める。もきゅもきゅと口の中のものを咀嚼し、飲み込んでからアイズは頷いてティオナに同意する。…後ろに座ってる狼人(ウェアウルフ)の耳がぴくりと震えたのが見えた。何だったのだろう。

 

後はただアイズ達と談笑を続けたり、その光景をフィン達が微笑ましそうに見守っていたり、、食事を終えた他の団員達がこっちに来て俺を質問攻めにしたり、アイズの後ろに座っていた狼人(ウェアウルフ)が俺を睨んでから食堂を出て行ったり…。ほ、本当に何だったんだあの人は。

 

食事を終えるとようやく解放され、部屋へ戻るとさっきまでの騒ぎとは打って変わって静寂が周りを包み込む。俺の部屋は、昨日怪我した俺をアイズが運び込んだあの部屋が割り当てられた。今日からここが、俺の自室となる。

 

「…これから、楽しくやれそうかな」

 

ベッドに倒れこみ、天井を仰いで呟く。皆、良い人だった。あの狼人(ウェアウルフ)もきっと、優しい人…だといいな。主神も言動が所々変態親父臭いところ以外は言う事なしだ。

 

明日から、このファミリアと共に過ごす事になる。ここで俺はどれだけ強くなれるのか。ここの人達とどんな関係を築いていけるのか。ダンジョンの中で、どんな冒険が待っているのか。

 

心躍る俺の冒険は、これから始まる─────!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルトリウスー、おるー?ちとうちの部屋まで来てくれへん?」

 

「…」

 

始まるったら、始まるんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はアルトリウスの初ダンジョンです。
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