恐れ知らずがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:もう何も辛くない
「…バレテナーイ、バレテナーイ」
周囲に誰もいない事を何度も確認しながら塀をよじ登る。登り切り、もう一度誰もいない事、こちらを見ていない事を確認してから塀の外へ降り立つ。…やった、やり切った。俺はこのミッションをやり遂げたのだ。
ミッションって何だよ、俺も知らねぇよ。
誤解されないように言っておくが、別に脱走しているわけではない。いや、明らかに脱走してはいるけど、ファミリアをやめるとかそういう訳ではない。なら、何でこんなこっそり逃げるような事をしているか?…聞いて驚くな。
俺はこれから、ダンジョンへ向かう!
空がようやく白み始めた頃、俺は目が覚めた。昨日、模擬戦の怪我をリヴェリアに治療された俺だが、疲労までは抜けていなかったようで。夕食の後、ロキに呼び出され、
…いやぁ、凄いね。やっぱフィンが凄いって事が改めて解った。だって、一度戦っただけでトータルで250くらいステイタスが上がってんだもん。爺ちゃんが言ってたあの言葉、『成長の一番の近道は
え?文字がおかしい?気のせいだ。(白目)
ちなみに、昨日ロキに見せてもらったステイタスはこうだった。
アルトリウス・レイン
Lv.1
力:I0→I37
耐久:I0→I86
器用:I0→I78
敏捷:I0→I54
《魔法》
【】
《スキル》
【】
と、なっていた。凄いね。ロキが物凄く吃驚してた。初めて見たぞ、どっひゃあああああああって叫んで驚く奴。物語の中だけにしかいないと思ってた。
そしてもう一つ、ロキに呼び出された理由があるのだが、こちらが俺がこんな行動に出た訳に繋がるものだ。呼び出されたロキの部屋にはもう一人、リヴェリアがいたのだが、リヴェリアがこう言ったのだ。
『明日、私と一緒にギルドへ冒険者登録をしに行く。だが、ダンジョンはお預けだ。しばらくの間、座学でダンジョンについて学んでもらう』
待って、待ってくれ。いや、座学も大事だとは思う。ダンジョンで死にたくないし、ダンジョンについて学ぶのも吝かではない。それでも何故、ダンジョンに潜ってはいけないのだ。ダンジョンに潜り、モンスターと戦わなきゃステイタスが上がらないじゃないか。
そう言い返せば、リヴェリアはこう返した。
『フィンやガレス。他にもアイズ達と練習相手には不足しない者はここにたくさんいる。特にガレスやアイズ、ティオナなんかはお前と戦いたがっていたぞ』
いやでも、対人戦と対モンスター戦は違うのでは?とさらに問いかけても…
『さっき言ったメンツと戦っていればそこらのモンスターなど塵に等しく感じるぞ』
塵って…、リヴェリアさん、あなたそんなキャラだったっけ?いや、まあ確かにその通りとは思うけど…、モンスターとどうしても戦ってみたい。その欲求を俺は抑えられなかった。
ここに来る前、爺ちゃんと住んでいた時も俺は爺ちゃんとしか手合わせした事がなかった。度々爺ちゃんと食糧調達をしに出かけ、そこでモンスターを見た事はあるのだが…、『ひゃぁぁぁぁぁはっはぁぁぁぁぁ!汚物は消毒じゃぁぁぁぁぁああああああ!』とか言いながらエキサイトした爺ちゃんが現れたモンスターを斬り潰していくから俺はモンスターとの戦闘経験が一度もないのである。
モンスターと戦いたいとねだっても、『儂がそこらの埃より劣ると?』とか言って凄んでくるからどうにもならないし。
だが、今は違う!俺はようやく、モンスターと戦うチャンスを得たのだ!逃してなるものか!
と意気込み、部屋着の上からオラリオに来る時まで身に着けていた黒いローブを羽織い外へ出て、今に至る。
塀の外へ降りた俺は迷わず南へ向かう。普通ならば来たばかりの都市、迷いそうなものだが、ダンジョンは天を衝くほど高い塔、バベルの地下にある。ちょっと視線を上に向ければそこに目的地がある、迷うはずがない。
こんなに早い時間でもそれなりに起きてる人はおり、何度か人とすれ違いながら走ること五分。バベルの中へ入った俺は躊躇う事無く地下へと続く階段を下りていく。やっと…、やっと、俺の手でモンスターを殺せる…!
ひゃぁぁぁぁぁはっはぁぁぁぁぁ!汚物は消毒じゃぁぁぁぁぁああああああ!
「こんな早くからダンジョンに潜るなんて…。熱心な人ね…」
それはもう、夢中で戦った。どれくらい時間が経ったのだろう、俺一人しかいなかったはずのダンジョンで他の冒険者達とすれ違い、ようやく我に返った。それと同時、背筋に冷たい感覚が奔る。
まずい、早く戻らなければ。階段を三度上るとダンジョンを抜け、バベルの塔の一階に返って来れた。階段を三度上った、という事は俺が辿り着いたのは三階層までか…。どうせなら五階層まで行ければ良かったのに。キリが良いし。
じゃない。急いで黄昏の館まで戻らなければ。それもファミリアの人に見つからないように。…いや、見つかってもいいのでは?俺がダンジョンまで行った所を見たファミリアの人はいない。館に戻ってきたところを見られ、どこへ行ってたのか聞かれれば、少し開けた所で素振りをしてたとでも言えば誤魔化せるのでは?
…よし、これでいこう。ただこのローブはどこかに捨てて行こう。モンスターの返り血がついている。これを着たまま戻れば、多分臭いでばれる。どうせオラリオまで行く道中で買った安物だ。
「む…。あぁ、昨日ファミリアに入った…アルトリウス、だったか。すまない、入っていいぞ」
ローブを道の脇にあったゴミ捨て場投げ、部屋着姿で黄昏の館まで帰る。館に入ろうとする俺の前に一瞬、門番の人が立ちはだかろうとするが、俺の顔を見て動きを止める。さすがに一日も経ってないし、顔を覚えられてなくても仕方ないか。
門番の人に道を開けられ、俺は小さく頭を下げてから館の中へ入っていく。玄関を抜け、自室がある方へと廊下を歩く。まだ朝食までは少し時間がある。部屋に武器を置いて、シャワーで汗を流すか、それとも部屋でぼけーっとしてるか。
結局、なんだかんだダンジョン探索に疲れたようで、部屋に戻ったらこれからシャワーを浴びに行く気など全く起きなくなり、ベッドの上で仰向けになってただ天井を見上げるだけで時間を潰す事になった。
体は疲れているのに、目はかなり冴えている。モンスターと初めて戦った事に興奮しているのだろうか?ともかく、こんなに疲れるとは思っていなかった。ダンジョンも思ったより複雑で、帰り道でも迷うとか考えていなかった。
…また行くけどな!
部屋の外から話し声が聞こえてくるようになった。どうやら食堂へ行く人が多くなってきたらしい。俺もベッドから起き上がり、食堂へ行くために部屋を出た。
「…随分くたびれているな。よく寝られなかったか?」
「い、いや。そんな事ないっすよ?むしろあんなフカフカで気持ちいいベッドとか初めてだったし」
今、リヴェリアはアルトリウスと共に冒険者の往来が最も多い、冒険者通りを歩いていた。これからギルドへ行って、アルトリウスの冒険者登録をするのだ。本来、冒険者登録をするだけならばアルトリウス一人で行っても十分なのだが、アルトリウスはロキ・ファミリアの冒険者として登録しなければならない。証人として、リヴェリアがついていく事になったのだ。
しかし、やけにアルトリウスが疲れた様子なのがリヴェリアは気になっていた。もしかすると、あまり眠れなかったのではと思い付き問いかけたが、アルトリウスの否定の仕方を見るとそうではなさそうだ。気にはなるが、どこか体調が悪いようにも見えないので、ここは置いておく事にする。
冒険者通りにある施設についてアルトリウスに説明しながら歩いていくと、一際大きい建物が目に入る。
「着いたぞ。あれがギルドだ。冒険者及びダンジョンの管理、魔石の売買を司っている」
ギルドの前で立ち止まってから、アルトリウスにそう説明し、改めてギルドの中へと入っていく。中は冒険者やギルドの職員の話し声で賑わっていた。リヴェリアは空いている窓ぐ内を見つけると、そこにアルトリウスを連れていく。
「随分と眠そうだな、ローズ」
リヴェリアが知っているパッチリとした目はやや細まり、欠伸が漏れそうになるのを耐えている受付嬢に、そう声を掛ける。
「今日、何時出勤だと思う?四時よ、四時。堪んないわよ…」
己の名前を呼ばれた
「そうか。ご苦労な事だ」
「心からそう言ってくれてるのなら、それはそれは嬉しいんだけどねー」
気心の知れたローズと軽い会話を済ませてから、リヴェリアは本題へ話を入れる。
「この子の冒険者登録をしたい」
「…はいはい。って、あら?」
それはそれは面倒そうに羊皮紙を奥の机から持ってきたローズは、リヴェリアと替わって窓口の前に立ったアルトリウスを見て目を丸くする。心なしか、アルトリウスの表情が青くなっている気がする。
「あなた、確か朝──────」
「気のせいです」
「え?でもあなた、ダンジョンに──────」
「気のせいです」
気になる単語が出てきた。
「朝?ダンジョンだと?」
「…」
「そういえば、朝食の前に館に入って来ていたな」
「…」
「まさか…。ダンジョンに潜っていたのか?」
「…」
リヴェリアが何を言っても、アルトリウスは返事をしない。二人の間に流れる微妙な空気を感じ取ったローズが、直後に一言。
「…ヒミツにしといた方が良かったのかしら?」
「もう遅いですよ」
冒険者登録の手続きが終わり、黄昏の館に帰るまでこれ以上、アルトリウスは口を開く事が出来なかった。いや、正確には…、リヴェリアの説教が終わるまで、アルトリウスは口を開く事を許されなかった。
危険な事をしたという自覚はあった。ただ…、あそこまで大事になるとは思わなかった。
ギルドから戻る間、ずぅ~っとリヴェリアの冷たい視線が背中に突き刺さった。視線ってあまりに冷たすぎると本当に視線が当たる所が冷たくなるんだな。初めて知った。
戻ったら即行フィン、ガレスも呼んでロキの部屋へ、そしてリヴェリアの説教開始。その間、ずっと正座。正座ってずっと続けると痺れを通り越して感覚が無くなってくんだな。これも初めて知った。
今日は初めて知る事尽くしだね!やったね!…嬉しくねぇよ!
しかもいつの間にかソロでダンジョン潜った事がファミリア中に知れ渡ってるし…、こんな注目のされ方は嫌だ…。
「おーい、アルトリウスー!」
説教から解放されれば休む暇もなく今度はリヴェリアさんのためになるダンジョン講座が始まって、気付けば夕暮れ…。俺の冒険者初日がこんなんで終わるのは間違っているだろうか?…間違ってるだろ!?
「アルトリウスってばー!」
…さっきから俺を呼ぶのは誰だ?正直今はそっとしておいてほしいのだが。
「もう!聞こえてるでしょー!?返事してよー!」
「…返事するのも億劫」
「…気持ちは、解る」
前から歩いてくるのはティオナ、ティオネのヒリュテ姉妹にアイズ、そして
騒がしいティオナに、疲労の深さを隠そうともせず…というより隠せないままぽつりと一言。すると、その一言は向こうに聞こえていたようで。何やらアイズが青い表情で俺の肩に手を置くと、頷きながら俺に同意してくれた。
…そうか、アイズもあの説教を受けた事があるんだな。同志がいてくれて嬉しいよ。
…だからベートさん、何で睨むんですか。
「ベート、一々アルトリウスを睨むんじゃないの」
「…別に睨んでなんかねぇよ」
ティオネもベートさんの俺に向けられる視線に気付いたらしく、ベートさんに一言注意を促した。が、ベートさんはそれをサラッと流し、それ以上何も言わないままこの場を去っていった。
俺、嫌われるような事したっけか。昨日も結構睨まれた気がしたんだが。
「もー、ベートったら…」
「はぁ…。気にしないで。ベートは誰にでもああだから」
立ち去るベートに溜め息を吐くティオナとティオネ。首を傾げるアイズ。
「言葉は悪いけど根は優しい奴だから。気を悪くしないであげて」
微笑みながら言うティオネ。ホント、この人は姉貴肌というか、面倒見がいいよな。結構この人、モテるのではなかろうか。
「やあ。こんな所で立ち止まって、どうしたんだい?」
「あ。ふぃ「だぁんちょう♡何でもないんですぅ~!それより、団長はどうしてここへ~?」」
この異常なまでのフィン愛さえなければ。昨日、初めてこのティオネの変貌を目にしたけどまあ驚いた。頼れる姉御がいきなりこうなったんだし。
「また始まった…。アイズ、アルトリウス。いこっか」
「放っておいていいの?」
「うん。その方がティオネも喜ぶでしょ」
「…フィンぇ」
初めてのダンジョン、冒険者登録。初めての上司からの説教と、初めての座学。初めて尽くしの濃い俺の冒険者生活一日目は、こうやって過ぎて行った。
この日見た、ティオネに詰め寄られるフィンの顔は忘れない。フィンって、あんな引き攣った顔するんだな。ホント、色々と知る事となった冒険者生活一日目であったとさ。
主人公の性格に迷走してきましたが、何とか主人公はこういう性格なのかっていうのが伝わったかな?…伝わってるといいな。まだ迷走してるよバカ野郎とか言わないでね…。(´;ω;`)