恐れ知らずがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:もう何も辛くない

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「…ほい、終わったで。紙に書くから服着て待っとって」

 

肌蹴た背中から二つの手が離れる。手の主、ロキ・ファミリア主神ロキは更新されたステイタスを紙に記していく。その姿を横目で見ながら、服を着終えると、それと同時にロキはステイタスを記し終え、更新用紙を俺に差し出す。

 

アルトリウス・レイン

Lv.1

力:B703→B738

耐久:C646→C676

器用:S901→S923

敏捷:A855→A879

魔力:I0→I0

 

《スキル》

【】

《魔法》

【】

 

これが冒険者になって、ロキ・ファミリアの一員となってから三か月が経った俺のステイタスだ。ロキ曰く、ステイタス的にはそろそろランクアップのし時だという。だが、ステイタスをただ上げるだけでレベルが上がる訳ではなく、他に何か条件があるらしい。

 

「ロキ。そろそろランクアップの条件を教えてくれよ」

 

「んー?リヴェリアの許可が出たらなー」

 

ランクアップできるのなら今すぐにでもしたい。そう思いつつロキに問いかけるも、こちらに軽く手を振りながらさらりと質問を流される。

 

何故だ、何故教えてくれない。実はこの質問をするのは初めてではなく、初めて質問をした時もこうやってロキに返答された。ならばとその後にリヴェリアに質問したのだが、帰ってきた答えはまだ早いの一言。それから何度も質問をするが、帰ってくる答えはそれの一点張り。

 

俺がランクアップするのに本当にまだ早いのならそれでいい。ただ、それならそれでランクアップの条件を教えてくれればいい。そうすれば、俺はその条件をクリアするためにこれから明らかな目的を持って鍛錬できる。

 

だが、それを許してはくれない。

 

「そんなしかめっ面せんといてぇな。何度も言うけど、アンタの成長速度は異常やで?なんてったって、あのアイズたんでもLv.2に上がるまでに一年かかったんやからな」

 

「…」

 

それも何度も聞いた。俺の成長速度は速い、と。確かに、Lv.2へ上がった最速記録はアイズの一年で、それと比べたらロキの言う通りなのかもしれない。しかし、だから何だというのだ。成長が早いのなら早いだけいいじゃないか。

 

何故、俺の成長の邪魔をする?

 

「…アルト。勘違いしたらあかん。何もリヴェリア達は、アンタの邪魔をしたくてこんな事をしてるんやない」

 

「…解ってる。大丈夫、それは解ってるんだ」

 

この三か月の間でついた俺の渾名を口にし、俺に言葉を掛けるロキ。俺はロキに頷き、一瞬出かかった嫌な感情を打ち消す。リヴェリア達が俺の事を考えてくれてるなんて、俺が一番知ってる事じゃないか。そうでなければ、俺の模擬戦のお願いにフィンやガレスが毎回付き合ってボコボコにしてくれたり、ダンジョンの構成について何時間もぶっ続け休みなしでリヴェリアが講義してくれたりするはずがない。

 

…あれ?本当に俺の事を考えてくれるのか?

これまでの三か月を思い返したら、ちょっと不安になってきたんだが。

 

俺の胸中を察したロキが苦笑している。何でそこで苦笑いなんですか。不安がもっと大きくなるんですけど。

 

「…ロキ、いる?ステイタスの更新したいんだけど」

 

「お、アイズたんやないかー!ええでええでー!ほら、はよ入りぃ?」

 

その時、扉を叩くノック音が部屋に響き、直後にロキを呼ぶアイズの声。その声を耳にした途端、ロキの表情が一変。花が咲いたような笑顔になり、俺を相手にしてる時よりも明らかに明るい声が響き渡る。

 

がちゃり、と扉が開く音。部屋に入ってくるアイズにロキが飛び込んでいく。だが、あっさりアイズに回避され奥の壁と熱いキスを交わす。ホントこの神様、普段はただの変態親父だよな。女神の癖に。

 

「アルト?いたんだ」

 

「おう。…っと、悪いな。ここにいたらステイタス更新できねぇな」

 

壁に突っ込んでいったロキには目もくれず、部屋に入って来たアイズは椅子に座った俺を見つけて声を掛けてくる。それに対し、俺は軽く手を上げて応え、ここにいてはアイズがステイタス更新できないの椅子から立ち上がって部屋から出ようとする。

 

「せやせや!これからうちはアイズたんとあまぁ~い一時を過ごすんや!とっとと出てけぇ!」

 

「そんな一時は来ない。…そんな事よりアルト」

 

ロキが過ごしたがった甘い一時とやらがバッサリアイズに来ない宣言され、その上そんな事よりと流された女神は両目から滝のごとく涙を流す。そしてそれすらもスルーして、アイズは俺が手に持つ用紙に視線をやった。

 

「それ、アルトのステイタス?」

 

「そうだけど。どうした?」

 

「…見てもいい?」

 

こちらを見上げながらそう問いかけてくるアイズ。俺のステイタスに興味があるのか?Lv4のアイズが気にするほど誇れるステイタスじゃないんだが…、Lv.1だし。

 

「いいけど…。俺のステイタスなんて見ても面白くないと思うぞ?」

 

とはいえ、別に断る理由もないし、用紙をアイズに向かって差し出す。アイズが右手を上げて俺から羊皮紙を受け取ると、紙を広げて俺のステイタスに目を通す。上から下へ、動くアイズの目が少しずつ見開いていく。

 

「…俺のステイタス、何か変か?」

 

「…ううん。ありがとう、見せてくれて」

 

俺のステイタスを見て何やら驚いている様子のアイズに問いかけるが、その問いには首を横に振って答え、用紙を俺に差し出すアイズ。少し引っ掛かるが、もう一度用紙に目を下ろしても特におかしな点は見られない。

 

もしかしたら、俺の成長スピードに驚いているのかも?…そうかもしれないな。アイズはランクアップの最速記録保持者だし、それを抜きそうなペースの俺に驚いたのかもな。

 

「あぁ。…じゃあお休み、アイズ」

 

「うん。お休み、アルト」

 

もしその通りだとしたら俺から言える事は何もない。何を言ったって、嫌味にしかならない。アイズと一言だけ、挨拶を交わしてから部屋を出る。

 

扉を閉めると、復活したロキが再びアイズに何やら話しかけている声が外にまで聞こえてくる。もし俺がロキの事を何も知らなかったら、あれが女神とは絶対に思わないだろうな…。

 

「…戻るか」

 

一つ、深いため息を吐いてから自室に向かって歩き出す。

さて、これから寝るまで何をしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閉まった扉をじっと見つめながら、アイズは先程目にした数字の羅列を思い出す。

 

「全アビリティ熟練度、上昇値トータル100オーバー…」

 

紙に書かれたアルトリウスの成長の度合い。アイズは思い出す。かつて、彼と同じLv.1だった頃の自分を。自分もLv.1だった頃、あそこまで成長していただろうか?否だ。アイズはランクアップするまでに一年かかった。それどころか、彼ほど成長する事はできず途中で行き詰まり、ステイタスは伸び悩んでいた。

 

「アイズ、気にしたらあかんで。アイズにはアイズの、アルトにはアルトのペースっちゅうもんがあるんやからな」

 

「…うん」

 

前しか見ずにただ走るだけではいずれどこかでコケる。それはロキやリヴェリア、フィンにガレスからも何度も口酸っぱく言われてきた事だ。昔の自分では理解できなかったその言葉の意味は、今の自分は理解している。

 

それでもアイズは、アルトリウスが気になってしょうがない。どうしてあんなにも速く駆け上がれるのか。そして、アルトリウスの成長の源は…、アルトリウスが戦う理由は何なのか。

 

「ほい!終わったでー」

 

アイズが考え込んでいる間にステイタス更新、更新されたステイタスを羊皮紙に記し終えたロキが更新用紙をアイズに差し出す。アイズはロキから羊皮紙を受け取り、一度膝に置いて上着を着てから再び羊皮紙を手に取り、そこに書かれた神聖文字(ヒエログリフ)に目を通す。

 

アイズ・ヴァレンシュタイン

Lv.4

力:E451→E455

耐久:E422→E425

器用:B711→B718

敏捷:C698→B703

魔力:B751→B757

狩人:H

耐異常:G

剣士:I

 

先程見た、アルトリウスの怒涛の成長具合とつい比べてしまう、自身の成長度。明らかに自分の方が低い。アルトリウスの方は、成長の限界が来てもおかしくないはずなのに、自分の方が。

 

「アイズ」

 

「…うん」

 

「ん。解っとるんならええ」

 

また思考の渦に呑み込まれそうになるアイズをロキが呼び戻す。はっ、と顔を上げ、アイズは頷く。大丈夫、解ってる。皆が自分に何を言っているのか、理解している。

 

「ほれ、それなら早く部屋戻って休みぃ。明日から遠征なんやから。…あ、それとも今日はうちと添い寝でも─────」

 

「お休みなさい、ロキ」

 

「つれないなーアイズたん!」

 

叫ぶロキの声は閉じられた扉とその音に遮られ、アイズの耳に届く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝。太陽の光に照らされて輝き、優しい風に吹かれて靡くロキ・ファミリアのエンブレムが描かれた旗を見上げる。遠征に向かう部隊は結団式を行っている頃だろうが、俺を含めたお留守番組は館で待機である。といっても、遠征に行ける最低限のLv.3を満たしていないのは俺一人。他に残っているのはほとんど冒険者が不在の館に不審な人物が入らないよう見張りを押し付けられた不運な人達しかいないのだが。

 

ベッドに寝転がりながら、窓から太陽の位置を確認する。もうそろそろ結団式も終わり、先遣隊がダンジョンへ出発する時間帯だ。先遣隊が出発した後、後方支援専門の魔導士や遠征中の冒険者達の武器の手入れを担当する鍛冶師、サポーター達もダンジョンに出発する。

 

遠征部隊全員がダンジョンに潜ったら、俺の方も行動開始だ。

 

(リヴェリアからは一人でダンジョンには行くなって言われたけど…、バレなきゃ犯罪じゃないんだ!)

 

いや、ダンジョンに潜るのは犯罪じゃないんだけどな。ともかく、バレなきゃいいのだバレなきゃ。え?どうあがいてもロキにはバレる?

…それは後で考える。

 

とにかく、ダンジョンに行くのは確定事項。他の人達が遠征に行ってる間、何もできないとかもどかしすぎる。俺が弱い以上、今回置いていかれるのは仕方ないとはしても、次回はそうはいかない。次の遠征に行けるようになるにはもっと強くならなくてはいけない。そして、もっと強くなるには?今までと違い、フィンやガレス、アイズのような模擬戦の相手になってくれる人が不在な以上、モンスターを倒していくしか方法はない。

 

(…そろそろ後衛部隊が出発する頃か?)

 

太陽が少しずつ昇っていき、それを見て大体の時刻を把握する。恐らく、後衛部隊もダンジョンへ向かっている頃だろう。俺は起き上がってベッドから降り、部屋着からダンジョンへ潜る用の装備に着替える。

 

動きやすい黒い衣服の上に、胸から腹を覆うアーマー。腰に魔石等のドロップ品を入れるポーチを巻き、机に立てておいた二本の剣を差す。この二本の剣はシリウスの双剣ではなく、リヴェリアに買ってもらった物だ。

 

本当ならシリウスの双剣を手に戦いたかったのだが、あの剣はかなり腕利きの鍛冶師が打った代物らしく、そんな剣を駆け出しの状態から使うのは如何なものかとリヴェリア達に言われた。確かにシリウスの双剣を使えば楽にモンスターを倒し、早く強くなれるだろう。だがリヴェリア達と話し合う内、それはずるなのでは、と思うようになった俺は、言われるままにしばらくはシリウスの双剣を使わない事に了承した。

 

その選択は今でも正しいと思っているし、不満は全くない。それに、装備している剣も結構使い心地が良いし、今では愛着もある。

 

腰に差した双剣の鞘を両手で撫でてから、部屋の扉を少し開ける。扉が開いた隙間から廊下を覗き、誰もいない事を確認して廊下に出る。一階に降りて玄関から外へ出て、初めてダンジョンへ潜った日によじ登った塀の場所へ向かう。あの時は両手両足を使ってよじ登らなければいけなかったが、今では足だけで駆け登れるようになった。

 

塀の外へ降り立ち、南へ向かう。向かう場所は勿論、摩天楼施設(バベル)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~…、最近ステイタスの伸びが悪くなってきてよぉ…」

 

「お?やっとおめぇもランクアップってか?随分な遅刻だなおい」

 

「うっせぇ!自分のランクアップが俺より少し早かったからって調子に乗りやがって…」

 

「おい、くっちゃべってねぇでさっさとダンジョン行くぞ。…あ?」

 

「?どうしたんだよ」

 

「…おい、あそこにいるガキ。確かあいつは…」

 

悪意が、近づく──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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