恐れ知らずがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:もう何も辛くない

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気付いたらベッドの上、このパターンも何度目か。初めて黄昏の館に来た時もそのパターンだったし、目が覚めた後、フィンと模擬戦をした時も気絶して、気付いたらベッドまで運ばれていた。ファミリアに入り、冒険者になってからもガレスやアイズとの模擬戦で気絶し、ベッドまで運ばれていた事もあった。

 

そして、今回。もうこのパターン読者に飽きられてるんじゃないか?

…読者って何だよ。

 

だが、今までと少し違ったのは、持ち上げようとした上体がやけに重く感じた。

そうか。さすがにリヴェリア程上手く治療できる者は今、ファミリアにいない。

とはいえ動ける分、全然マシなのだが。

 

「っしょ…、いてて…」

 

両足をベッドから出して立ち上がも、体に奔る痛みで力が抜け、ベッドに尻もちをつく。

 

「…こりゃあと二、三日はここで缶詰かな」

 

一日くらい休めば歩けるくらいまで回復するだろうが、多分運動は無理だ。戦闘行為なんて以ての外だろう。ダンジョンは少しの間お預けだ。

 

「…少し、で済むかな?」

 

一瞬、遠征から帰るまでダンジョンに潜るのは控えてほしいと言った首脳陣三人とロキの顔が頭に浮かぶ。彼らの言いつけを破ってダンジョンに入った挙句死にかけたのだ。…遠征隊が帰ってくるまでダンジョン禁止令が言い渡されるかもしれない。

 

「当たり前や。リヴェリア達の説教受けてもらうから、覚悟しときぃ」

 

「うぉぉ!?ロキぃ!?」

 

思考の渦から意識を引き上げたのは、至近距離で顔を覗き込んだロキの声だった。ロキの接近に全く気付かなかった俺は背中を仰け反り、そして踏ん張り切れずにベッドに倒れ込んだ。

 

倒れたまま視線を下に下げると、両手を腰に当ててこちらを見下ろす、怒った様子のロキ。

 

「ロキ様…、怒ってらっしゃいます、よね?…ご、ごめんなさい」

 

「それな何に対しての謝罪や」

 

「え、いや…。ダンジョンに潜った事…」

 

初めて見るロキの怒りに戸惑いながら、言いつけを破った事を謝罪する。だが、何故かロキは呆れたように頭を振って溜め息を吐いた。

 

「アルト。うちはな、別にダンジョンに潜った事を怒っとる訳やないんや。フィン達がそれをどう思うかは知らんけど、少なくともうちはその事には怒ってない」

 

「…なら、何で?」

 

「解らないか?…解らないんやろな」

 

ロキの言葉に首を傾げる。てっきり、フィン達の言いつけを破った事を怒ってるのだと思っていたのだが、ロキの様子を見ると本当にそうではないらしい。なら、ロキは何に怒っているのか。

 

怒りに満ちていたロキの表情が、どこか悲しげなものに変わる。

 

「アルト。あんた、何で逃げなかった?」

 

その唐突な問いかけに、俺は答える事も、口を開く事も出来なかった。

 

「全部聞いとるで。十一階層まで潜った事も、《インファント・ドラゴン》を倒した事も、他の冒険者に襲われた事も、《シルバーバック》の強化種に襲われた事も」

 

ロキの悲しげな瞳に囚われ、目を動かす事も出来ない。

 

「冒険者を逃がそうとして、《シルバーバック》と戦ったらしいな。けど、何でそんな危険な事したんや」

 

「…」

 

「逃げられなかったんか?…いいや、アンタなら逃げられたはずや。現に、強化種を倒してるんやから。けどそのせいで、あんたは危うく死ぬとこやったんやで?」

 

ロキが寝転がる俺の傍らに腰を下ろす。

 

「アルト。立ち止まる事はあかんかもしれん。でも、急ぎ過ぎるのはもっとあかん。…うちらからは、アンタが急ぎ過ぎてるように見えてしょうがないんや」

 

急いで…るのだろうか、俺は。強くなる。そのために、最も効率が良い方法へ走るのは、急いでる事になるのだろうか。

 

「…まあ、生きて帰って来たんやから、()()()()()()()()!これくらいにしといたるわ!それよりほら、服脱ぎぃ」

 

「え…、はぁ?」

 

天井を見上げながら考え込んでいた俺は、突然のロキのテンションの変わり様についていけず、呆然とする。そんな俺を、ぺちぺちと腕を叩きながら急かすロキ。何でうちからの説教は、の部分を強調したんですかねぇ。いやまあ、解ってるんですけどね?本命が残ってるのは…。

 

それより、服を脱げと言われた理由が解らない。

 

「あーもう、察し悪いなぁ。ステイタス更新するから服脱げ言うとんねん」

 

「あ」

 

溜め息を吐きながらロキが言った言葉に、思い出す。今まで倒してきたモンスター達、その中には上層の階層主と呼ばれる《インファント・ドラゴン》やそれ以上の怪物だった《シルバーバック》の強化種もいる。

 

慌てて服を脱いで上半身裸となり、ロキに背中を向けてうつ伏せに転がる。さて、どれくらいステイタスが上がっているか。胸から湧き上がるワクワクに、口元の笑みが抑えられない。

 

俺のニヤニヤ顔を見たロキが、何度目かの溜め息を吐きながら背中に神血(イコル)を染み込ませて両手を当てる。背中に当てられるロキの両手から伝わる熱い感覚にもすっかり慣れ、ただただ作業が終わるのを楽しみにしてじっと待ち続ける。

 

「…アルト。良い報告と良い報告、どっちから聞きたい?」

 

不意にロキが可笑しなことを言い出した。何だこれは、俺は試されているとでもいうのか?…いいだろう、それなら俺は、こう答えてやる。

 

「…じゃあ良い報告からで」

 

「ツッコめや!」

 

俺の返答は気に入ってもらえなかったらしい。どうしろってんだ。

 

「…まあ、冗談は置いておいてや。まず、おめでとうと言わせてもらうわ。念願のラックアップ、できるで」

 

「…マジ?」

 

「マジや」

 

ロキが言った良い報告とは、本当に良い報告だった。

 

「よっしゃぁぁぃててててててっ!」

 

「あー、もう何してんねや。気持ちは解るけど、アンタの今の状態を思い出しぃ」

 

うつ伏せの体勢のまま、両手両足でバタバタとベッドに叩きつけて喜びの感情を発散する。が、体に奔った痛みですぐにその動きは止まり、痛みに悶える俺を見たロキに呆れの視線を注がれる。

 

「ほれ、更新分のステイタスや。まだランクアップの作業はしとらんから、Lv.1のままやからな」

 

今の俺のステイタスが記された羊皮紙をロキから受け取り、目を通す。

 

アルトリウス・レイン

Lv.1

力:B738→A812

耐久:C676→B782

器用:S923→S999

敏捷:A879→S965

魔力:I0→I0

 

《魔法》

【顕現】

・詠唱式は『顕現せよ』

・外の魔力を実体化させる

 

《スキル》

【魔力操作】

・外の魔力を意のままに操る事が出来る

・外の魔力を使う事により、魔法を使用できる

 

全アビリティ熟練度上昇値340オーバー。しかも何と魔法とスキルのおまけ付き。

しかし、この魔法とスキルの効果…、まさに《シルバーバック》との戦闘で俺が使った謎の力その物じゃないか?

 

「さてアルト。一応やけど聞いとくわ」

 

羊皮紙をじっと見つめる俺にロキが口を開いた。顔を上げ、こちらを見つめるロキを見る。

 

「ランクアップ、する?」

 

「当たり前じゃん」

 

ロキの問いかけに、俺は即答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠征に出た部隊が帰ってくるまでの三週間について少し語ろう。

 

まず、これまではロキ・ファミリアに活きのいい新人がいるという噂が流れている程度だったが、その日からアルトリウス・レインの名はオラリオ中に知れ渡った。アイズ・ヴァレンシュタインが持つ最速記録、一年を大幅に更新した新星。他の冒険者を身を挺して庇って強化種のモンスターと対峙したという話も伝わっており、ロキ・ファミリアのもう一人の勇者と語る者までいる。ちなみに、その話をロキから聞いたアルトリウスはしばらく自室から出てこなかったとか何とか。

 

それと、アルトリウスを襲い、挙句見捨てて逃げて行った男二人だが、二度とロキ・ファミリアに関わらないという条件付きだが、お咎めなしとなった。アルトリウスを襲った事は許し難いが、逃げた後に出会ったヘファイストス・ファミリアの冒険者達にアルトリウスを助けてくれと懇願したらしい。これからの更生に期待するというロキの談。といっても、アルトリウスはその処断に関して全く関わっておらず、むしろすでに顔すら忘れてるくらいなのだが。

 

体が回復し、歩けるようになってすぐにアルトリウスは、ヘファイストス・ファミリアのホームへ助けてくれた事への礼を言うために赴いた。アルトリウスを黄昏の館まで運んでくれた、ヘファイストス・ファミリア団長、椿・コルブランドには特に頭を下げた。礼にはできる限りの事をすると言ったのだが、椿に『手前はそんなのを求めて助けたのではない』と言われてしまった。かといって、何もしないというのも気が済まないので、ダンジョン禁止令が解かれたらすぐ、鋼石集めを手伝うという事で手を打ってもらった。

 

それ以降は特に何事もなく、ホームの敷地内限定での鍛錬の許可をロキから貰い、双剣の素振りをしたり部屋で筋トレをしたり、今まであまり話してなかった団員達と親交を深めたり。

 

そんなこんなで、遠征部隊が帰ってくるまではそれ以上は何事もなく…、そして──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだなアルト。お前の話はダンジョンの中にいても耳に届いていたぞ」

 

「…」

 

自室で美人と二人きり。こんなシチュエーション、思春期なりたてとはいえ堪らないはずなのに、まっっっっっったく心が躍らない。だって、リヴェリアの顔怖すぎるし。笑ってるはずなのに、目がギラギラしてるし。

 

「ロキから話は聞いたぞ。随分無茶をしたそうだな」

 

「…いや、あれh「言い訳は聞かん」…はい」

 

少しでも弁明しようと口を開くが、ばっさり切り捨てられる。やばい、これはやばい。何がやばいって、今までは聞き流されたとしても最後まで弁明させてくれたのに。今までも『弁明はそれだけか?』と言われるのがどうしようもなく怖かったけど、弁明させてもくれないっていうのはもっと怖かったんだな。初めて知った。

 

「…ロキからは何て言われた?」

 

「え?」

 

「ロキから説教を受けただろ?その時、何て言われた」

 

「…」

 

ロキに言われた事。あれから二週間以上経っているが、一音一句覚えていた。

 

「立ち止まるのはいけない、でも急ぎ過ぎるのはもっといけない」

 

「…そうか」

 

ロキに言われた事を復唱すると、リヴェリアはそれきり黙り込んだ。部屋の中に沈黙が流れる。

 

さっきまで明らかに怒っていたリヴェリアが黙るという緊張感に、手に汗を握る。蟀谷から汗が流れる。

 

「ならいい。私から言う事は何もない」

 

「え」

 

思いの外あっさりと引き下がったリヴェリアに戸惑ってしまう。

そんな俺の様子を目にしたリヴェリアの唇が、悪戯っぽく弧を描く。

 

「なんだ。もっと長い説教を受けたかったか?」

 

リヴェリアの問いかけに激しく何度も頭を振る。必死に否定する俺を見て、リヴェリアは小さく噴き出すと、大きく笑い声を発しながら扉の前まで行く。

 

「そうだ、アルト。ランクアップおめでとう」

 

リヴェリアは扉の取っ手に手を掛けると振り返り、微笑みながら俺にそう言って部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

「…全く、アルトといいアイズといい、世話のかかる」

 

「はは。母親としては、気が気じゃない、かな?」

 

「…フィン、聞いていたのか。それと誰が母親だ」

 

アルトリウスの部屋を出て、扉を閉めてからすぐに口から漏れたリヴェリアの呟きは、扉のすぐ隣の壁に寄り掛かって立っていたフィンに聞かれていた。恐らく、先程の自分とアルトリウスの会話も聞かれていたんだろう。

 

「母親も同然じゃろう。アルトとはまだそこまで関係は深まってはおらんようじゃが」

 

「ガレス…。お前もか」

 

さらに、フィンとは逆側にはガレスが立っていた。同期のマナーの悪い立ち聞きに一つ溜め息を吐いてから、リヴェリアはフィンとガレスに挟まれる形で廊下を歩き出す。

 

「アルトはまだ、ロキの言葉の意味を理解し切れてないようじゃの」

 

「ああ。…でも、届いてはいた」

 

ガレスの言葉を聞き、アルトリウスの先程の様子を思い出す。ガレスの言う通り、ロキの言葉の意味を呑み込めてはいない。だが、アルトリウスはロキの言葉を覚えていた。ロキの言葉は、アルトリウスに届いていた。

 

「冒険者を続けていく内に、理解していくだろう。…私はそう信じる」

 

そうだ。結局、自分達ができる事は見守る事だけ。それは、アイズの件で思い知った事じゃないか。アルトリウスも、信じて見守っていく。それしかないじゃないか。

 

「…いずれ、アイズだけでなくアルトリウスの母親になりそうじゃな」

 

「しぃー。ガレス、リヴェリアに聞こえるよ」

 

後でガレスはしばく。久々に本気で戦るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

《魔力操作》

この四文字を見た時の自分を、大声を上げなかった自分を褒めてやりたい。

 

「何でこのスキルが…それも後天的に。…いや、元々持っていたのが目覚めたんか?どちらにしても意味解らんわ」

 

ロキの手には、神聖文字(ヒエログリフ)で何かを書かれた羊皮紙。

 

アルトリウス・レイン

Lv.1

力:B738→A812

耐久:C676→B782

器用:S923→S999

敏捷:A879→S965

魔力:I0→I0

 

《魔法》

【顕現】

・詠唱式は『顕現せよ』

・外の魔力を実体化させる

 

《スキル》

恐れ知らず(ドレッドノート)

・枷を外す

・早熟する

【魔力操作】

・外の魔力を意のままに操る事が出来る

・外の魔力を使う事により、魔法を使用できる

 

それは、アルトリウスのステイタス。アルトリウスに見せた、恐れ知らず(ドレッドノート)についてを消して訂正したものではなく、正しいアルトリウスのステイタス。

 

恐れ知らず(ドレッドノート)についてもまだ解っとらんっちゅうのに…。次から次へと何やねんホンマ…」

 

右手を額に当て、息を吐く。

 

「魔力操作…、あの一族の遺伝スキルのはずやろ…。何モンなんや、あんた…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当はもっといろいろ詰めたかったけど、長くなりそうなのでここまで。
これで序章は終わり。次回からは一章に入ります。一章では、交流が少なかったアイズ達との対話も増やしていく予定です。その中でヒロインも決めていきたいと思っています。









もう頭の中でほとんどヒロイン決まってるのは秘密。
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