Phantasm Maze   作:生鮭

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 視点が目まぐるしく変わったり、展開が急すぎたりするかもしれませんがご了承ください。

 あと諸事情により次回から投稿が大幅に遅れる可能性があります。


悪魔は悪魔らしく

――――日が沈む夕暮れ時、私はまだ微睡みの中にいた。

 

 吸血鬼ならば本来この時間帯に起床し、朝日が昇り夜明けを迎えるころに床に就く。それは吸血鬼が太陽を苦手とする以上仕方のないことだ。他にも銀性のものや、流水など弱点が多い種族であるわけだが、今はあまり関係ない。

 この時間帯は僅かに日が当たる程度なのだが当たっていることに変わりはないので、皮膚がちりちり痛む。それゆえあまり外に出ない。

 しかし出れない、ではなく出ない、なので出れなくはないということだ。上げ足を取っているようだが、ようするに私はこの時間帯の外が好きでよく外に出ている。

 

「ふあ~あっ、んんっ。」

 

 大きく伸びをし、閉じそうになる瞼を気合いでこじ開けながら、バルコニーへと向かう。

 茜色の光がバルコニーへ続くドアから差し込んでいる。意識がはっきりしている時ならこんなにスムーズに太陽の下に身をさらすこともないだろうが、いまは半分ぐらい寝ぼけている。ちりちりと肌に刺す痛みは眠気覚ましにもちょうどいいだろう。

 

 バルコニーの椅子に腰かけながらしばらくぼーっとしている。プスプス・・・

 いやぁこの気温はどの季節でも趣を感じることができる。今は冬だから昼間のうちにあったかくなった地面からの熱気と、そこに吹く木枯らしが合わさり哀愁漂う雰囲気を作り出している。プスプス・・・

 夏になれば蒸し暑いほどの気温が日中との落差によって涼しく感じることができる。

 秋は程よく涼しくなった所に虫たちのコーラスが耳に心地いい。プスプス・・・

 なんだか焼き芋のような焦げ臭さや煙までもが感じられる気がする。ふっ・・・想像力によって五大感覚まで再現できるとはね・・・我ながら自分の妄想力が恐くなる・・・。プスプス・・・

 

「痛いっ!痛っいててててっ!」

 

 やばい!すごい痛い!体中が焼けるように痛い!あばばば死ぬ死ぬっ・・・

 バルコニーから自室に転がり込み、ベッドにダイビングすることによって事なきを得る。

 この一連の流れが最近のマイブームである。

 

誤解しないでほしいのだが、私は決してそういう被虐的な趣味があるわけではない。

 これは一種の訓練なのだ。私は吸血鬼としては何故か病弱なので先に挙げたとおり、夕暮れでも焼けてしまうのだがレミリアやフランといった健康体かつ上位に位置する個体はある程度体質そのものを緩和できる。

 正直言って羨ましい。私が夕焼けを見るのに一苦労しているのに、彼女達は平気で過ごせるのだ。日傘を使えばいいとも思ったが夕日に日傘というのもどうかと思ったし、そういう即物的な解決ではないのだ。完全な自論だが、地道な努力で苦難を乗り越えていくのが正道というものだと思う。

 

 という考えから比較的被害の少ない夕日から攻略していこうと思ったのだが、いかんせん勇気が出ない。努力で解決するという脳筋コースを選んだはいいものの痛い時は痛いし、痛いのを我慢しながら耐え続けるという脳筋仙人道まっしぐらというのも勘弁してもらいたい。

 よって私が選んだのは、起きがけの寝ぼけて正常な判断ができないときにやってしまおうという、逃げ腰ながらも相手のストレートをもらいに行くような良く分からない方法だった。

 

 なお、三か月たっても効果は表れない模様。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 私が新しい主人と契約してから早五ヶ月が過ぎた。

 今となっては、契約の時のゴタゴタも懐かしい笑い話に・・・・・・・ならないんだなぁこれが。

 

 あの時私が二度の気絶を経て起き上がると待っていたのは、明らかな作り笑顔を浮かべた召喚者だった。

 なんとあんな聞くのもおぞましい業務内容を話した後に、契約しろというのだ。

 当然断った。誰だって命は惜しい。すると奴はさっきの笑顔が天使の微笑に見えるレベルの―――例えるなら捕食者に向けるような―――凶暴な笑みを浮かべた。

 

「ちょっと、自分の立場を理解して言ってるの?拒否権なんてものはあなたにはないんだよ。」

「どういうことです?いかにあなたが魔族の上位に君臨する吸血鬼だとしても、魔界に帰ることぐらい一瞬でできますよ。」

「ならどうしてしないの?」

「そりゃ多少なりとも呼んでもらった縁として筋を通してからにしようと・・・」

 

 一瞬その凶暴な笑みが固まり、驚いた表情を浮かべる。

 失礼な、こちらだってだてに50年近くも悪魔やってませんよ。世渡りの術はしっかりと身につけているんです。一瞬でも主人になりかけた人を無視して帰るなんてことはあれです、無礼千万とかというやつです。

 こちらが、気分を害したことが伝わると、

 

「ごめん、私が悪かった。魔界の住人なんて礼儀も知らないやつばっかりだと思っていたから・・・」

 

 かなり驚いた。あのプライドの高い吸血鬼が謝ることがあるなんて、と。

 いや、それこそ種族に対する偏見だ。あちらが魔界に良いイメージを持っていなかったのと同様に私の中の吸血鬼の先入観がこんな事を思ってしまう原因なのだろう。

 

「あぁ、それと、先に言っておくとあなた一人じゃ帰れないよ?」

「へ?」

「ここの図書館は特殊な防護魔術を全体に張っていてね、外部からの魔術的干渉は術者によるもの以外受け付けないようになっているから。そのほかにも防音から対衝撃まで兼ね備えているお父様が作った中でも自信作って言ってたよ」

「お父様って誰です?」

「誰って・・・私の生みの親?名前はスカーレット・ベネツィエフルだったかな。」

「スカーレット・ベネツィエフル?・・・・・・・ッ!」

 

 背筋が凍るような感覚を覚える。

 まさかここは、この場所は、()()()()()()()()()だというのか。つくづく自分の運の悪さを思い知らされる。

 

 

 ―――――スカーレット家は吸血鬼(ヴァンパイア)の名家として名高く知られている。それは吸血鬼の起源であるとされるヴラド・ツェペシュ公の末裔と噂されるのも一因だが実力主義の吸血鬼は、単なる噂で名声が左右されることはない。

 

 むしろ―――――実力に噂が付随してきたというほうが自然だろう。

 他の個体とは妖力や魔力、聡明さ、カリスマ性と何をとっても圧倒的に違うのだ。

 下級魔族である小悪魔とは次元が違うのだ。『格』ではなく『次元』だ。

 

 

 私がその名前を聞いて震えあがってもなんら可笑しくはない。

 可笑しくはないのだが、

 

「くっ、くはっ、ははっ、あはははっ、あはははははははっ!!」

 

 むしろ笑えてきた。

 自分でもこの感情は異常なものだと理性の部分は分析していたが、もっと奥深くの本能がこの感情を刺激しているのだ。可笑しくて可笑しくてたまらない。自暴自棄とは違う、心の底からの笑い。あれ?なんで笑っているんだろう。この笑っている『私』は本当に私なのだろうか。なまじ三人称のような形で認識できるため自身の存在の境界線が曖昧になっていくような気がする。

 そう、これはまるで――――――――――――――――――

 

 パンッ!

 

 ハッ!あー何してたんだっけ?記憶が曖昧なんだけど・・・・・

 

「大丈夫?急に笑い出したりして」

「あーーーっ!思い出しましたよ!私帰れないじゃないですか!」

「大丈夫そうだね・・・。そう、だけど術者である私ならあなたを魔界に帰すこともできる。」

 

 意地の悪い顔を浮かべ、彼女は言う。

 

「だから最初に言った通りこれは拒否権なんて存在しないお願い(命令)ってわけ。」

 

 やっぱ多少物腰が柔らかくても悪魔は悪魔なのか。

 目の端で契約書を転移魔法で取り出す彼女(新しい主人)を眺めながら、私はそう思った。

 

 これが契約した時の顛末なわけだが、なぜ笑えないかと言うと契約の内容が内容なのだ。

 

 一つ、私はカルラ・スカーレットの使い魔となる。

 一つ、基本的にカルラ・スカーレットの命令は厳守。

 一つ、対価は衣食住の確保とする。

 一つ、この契約の期限は本書類にサインしてから一年間とする。

 要約するとこんな感じなのだが、特に最後の2つが酷い。契約期限は以前から聞いていたから良いとしても(いやよくはないけど)報酬については何も聞いていない。

 こういう契約は召喚された側に不利益なことが無いよう、等価値なものを報酬にするというのが暗黙の了解になっているのだが、結局は契約内容に報酬の内容を明記するので極悪非道な輩は守らない。

 例えば私が異議を唱えようとするたびにごつい武器を振り下ろし床にひびを入れる吸血鬼などがそうだ。

 よって、断る術を持たない私は数ある不満を心の中で屑かごに向け、ぐしゃぐしゃに丸めて魔力弾と一緒にぶち込む。少しすっきりしたあと泣く泣くサインした。

 

 しかしブラックな契約内容とは裏腹に、私を求めた理由は簡単だった。

 

 『手合わせする相手が欲しかったから』

 

 また私にとっては死刑宣告よりも残酷な理由に聞こえた。当初は、だ。

 その手合わせの内容を聞いてみれば能力を使って身体能力を『同格』にしてくれるらしく、妖力や魔力が同じ相手との肉弾戦というわけだ。

 ありがたい、その一言に尽きる。モノホンの吸血鬼とガチファイトとか命がいくつあっても足りない。御免被る。それに手合わせも一日中やるわけではなく、終わったら好きなことをしていいと言う。変なところでこの主人は優しい。

 

 まぁ、あと6カ月と少しで契約も終わってしまう。

 ・・・少し惜しく思ってしまう自分がいるのはなぜだろうか。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 ふふふ、はははははっ!なんだこの全能感は!この世の全てを手に入れたような感覚だ!

 

 ・・・・・ただいま私は小悪魔との組み手中だ。なんというかこう毎回のようにハイテンションになっては途中で醒めて恥ずかしくなる。

 はたから見れば私は情緒不安定なちょっと痛い人に見えることだろう。・・・やばいそんなことを考えてたら顔が熱くなってきた。小悪魔の左足による蹴りが顔を掠める。おっと、いまは集中しなければ。能力によって強化された蹴りは吸血鬼並みの威力なのだ。

 吸血鬼の再生能力は外傷のみに作用するので、打撲は痛いし脳震盪を起こせば意識を保つことは難しい。

 

 今度はこちらから行かせてもらおう。

 再度放ってきた蹴りを躱わすのでなく軽く手のひらを使って方向を変える。ベクトル変更というやつだ。一瞬バランスを崩したところを逃さず、足払いを仕掛ける。しかし安直に狙いすぎたせいか手をついて飛び上がり回避される。だがまぁ想定内だ。着地するであろう地点に向かって足の筋力を使い、駆ける。小悪魔は慌てて防御の型を取るが遅い。体全体を深く沈みこませ重めのボディーブローを放つ。これを本気でやってしまうと割と小悪魔の体が洒落にならない程度にボロボロになる。妖力と魔力を同格にしているとはいえ、肉体自体はただの小悪魔なのだから曲がりなりにも吸血鬼である私の本気をぶつけるわけにはいかない。

 床に着地すると同時に後ろへ跳んでダメージを減らしたようだが手応えはあった。僅かな硬直の後に後ろの本棚に突っ込んでいく。

 

「今日はここまでにしましょうか。」

 

 後ろで伸びている小悪魔にそう告げると、紅茶を用意するために転移魔法でキッチンに向かおうとする。

 が、この時間は姉のティータイムであることを思い出し、ティーポットを借りに行く。

 

「ちょっと失敬。」

「ぶふぅっっ!!」

 

 

 優雅に紅茶を飲んでいるレミリアの背後からティーポットを掻っ攫う。その拍子に口に含んだ液体を盛大にテーブルにまき散らしていたが気にせず図書館に戻る。

 

 余談だが、私の転移魔法はどんどん進化を遂げていて紅魔館内だったら詠唱なし、魔法陣なしで一瞬で移動できる。ゆくゆくは全世界にまで移動距離を広げてみたいのだが、まだ道のりは遠そうだ。

 閑話休題。

 

「小悪魔~お茶にしましょ~。」

「強く殴りすぎじゃないですかね?まだ痛むんですけど・・・・・」

 

 思わず小悪魔を見る。

 

「結構強くやったのにその程度で済んでるの?私の魔力への抵抗が薄まっているのかしら・・・」

「なにしれっと恐ろしいこと言ってんですか!手加減はどこに行ったんですか!」

 

 小悪魔が必死に何か訴えかけているが知ったことではない。

 小悪魔が魔力への抵抗を失いかけてるとしたら少しまずい。魔力への抵抗を失うということはそれだけ他の魔力を受け入れやすくなってしまうことになる。こうなってしまう前に小悪魔を魔界に帰したかったのだが・・・。一年あたりが限界だろうと思っていたが、魔力に何らかの適性があったらしく半年で()()()しまった。これは私の落ち度だろう。

 地上に住む者なら何の問題もないのだろうが、小悪魔は魔界で生活している。魔力が体外に漏れ出てしまうほどの強者と会う機会が無いとも言えない。その時に魔力が浸透しやすい小悪魔の体がどうなるかは想像に難くない。おおかた内部に魔力を抑え込めずに爆発四散か、耐えきれずに発狂死だろう。

 ・・・紅魔館で雇えば解決するだろうがこんな悪魔が住んでいる酔狂なところで過ごそうとは思わないだろう・・・。

 私とて種族は悪魔だが、内面まで悪魔というわけではない。他者の意見も尊重するし、一回契約して床まで共にした(別に深い意味はない)従者の心配をすることもある。私と契約したことが原因で死なれたら寝ざめも悪い。

 

 手合わせは今回で終わりにしよう。

 

 結論が出たところで顔を上げると背もたれに体を預けて寝ている小悪魔の姿があった。

 よほど疲れていたのだろうか。口の端からはよだれが垂れ、表情も完全にだらけている。

 そんな顔を見ているとこちらの頬も緩んでくる。

 

「ふふっ、・・・・・おやすみ小悪魔。」

 

 そう言うと温くなったティーポットを変えるため図書館をあとにした。

 

 

 

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