Phantasm Maze   作:生鮭

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 今回めっちゃ短いです。
 切りが良かったというのもあってここで終わりました。

 


長い一日の始まり

「静かね・・・・・」

 

 レミリアは閑散としたロビーを歩いていた。特にどこかに行くあてがあるわけではないが、少し早起きだったので暇を持て余しているのだ。故に意味もなく館内をぶらついている。

 階段を上り、ふとテラスの近くを通ると沈みつつある夕焼け特有の儚く、淡い光が窓から差し込んでいる。

 この光は吸血鬼が苦手としている太陽のものだが、これくらい弱いとあまり弊害は感じられない。むしろ本来見る事が出来ない為レミリアにはとても価値のあるものに見えた。

 

「綺麗・・・・・」

 

 レミリアの口から思わずというように感動が漏れる。滅多に見る事が無いとはいえなにも早起きしたのが今日が初めてというわけでもない。しかしこの光景はいつ見ても変わらず美しい。

 そういえば、とこの貴重な景色を見る事のできない病弱な妹はどうしているのかとレミリアは思った。

 最近また見なくなった。最後に見たのは一週間以上前だったか。

 

「あれだけ体調に気をつけろと言ったのにまた研究に没頭しているのかしら・・・・・?」

 

 全く、一つの物事に夢中になると回りの物事が見えなくなる癖はどうにかならないのだろうか。むこうは気にしなくてもこっちが心配になるのだ。いくら多少食事をとらなくても大丈夫とはいえ、一週間も食べないと身体のどこかに不調として表れるのだ。現に前は額の傷にまで妖力が回らなくなっていたではないか。

 

「はぁ・・・・・」

 

 レミリアはどこにいるでもない妹に向かって溜息を吐く。

 

「身体とか壊してなければいいけど・・・・・」

 

 少し思案顔を見せた後に目的も無く散策していた足を図書館に向ける。図書館は一階にあるので今さっき上った階段を下りるというのは少し面倒だが、時間はさほどかからない上に暇を持て余しているのだ。ちょっとぐらい出不精な妹の様子を見に行ったって大した手間では無いだろう。

 

 そう結論付けて図書館を目指すレミリアの頭には二つの事が欠落していた。

 一つはフランの事。フランの部屋はレミリアやカルラと同じ二階にあるのだが、フランの部屋のドアが僅かに開いていたのだ。少しでも部屋の方向に目を向ければ違和感を覚えたかもしれないが、生憎とそんなことは無かった。

 

 暫く歩くと図書館の両開きの扉が見えてきた。それにしても静かすぎる。図書館に来るまでに誰にも会っていないどころか、もう日が暮れると言うのにだれも起きてくる気配がない。レミリアは不審に思ったがカルラに会いに行くことを優先する。

 軽くノックしてから図書館の扉を開こうとするが開かない。扉に向こう側からなんらかの重さが掛っているせいで、開かなくなっているのか。

 

「・・・ふんっ!・・・・・結構重いわねっ・・・・・!」

 

 かなりの力で押しているのだが、少しづつしか開かない事からかなりの重さが掛っていると分かる。

 

「・・・・・くっ、んぐっ、ぬおぉっ、・・・・・よいしょっと」

 

 やっとのことで一人が入れるぐらいの隙間を作るとそこから図書館に入り込む。少し狭すぎたせいでおよそ少女らしからぬ声が出たが気のせいだろう。

 ずれたナイトキャップを直しつつ、扉をふさいでいたものに目を向けると、そこら中にある本棚だった。

 なぜ本棚がこんな邪魔なところにあるのかと思うと同時、レミリアは周囲の異常を察知する。

 

 図書館にある百を優に超える本棚という本棚のほとんどが倒れていた。

 

 魔法や魔術の研究というのは危ない手法も存在する。これもその一環なのだろうか。

 

「カルラー?・・・・・・どこにいるのかしら?」

 

 呼んでみたが、来る気配は無い。大方寝てでもいるんだろう。

 

「・・・・・・」

 

 レミリアは錆びた鉄のような微かな匂いに顔をしかめる。

 

 血の匂いがする。それも同族の。吸血鬼の五感を持ってしても微かにしか分からないものだが、長年一緒に過ごしてきた妹の匂いは間違えることは無い。

 ・・・・・なんかすごく危ない人に自分が一瞬思えたが、そんな事無いと思いなおす。たぶん家族の血の匂いぐらい誰でもわかるものだろう。たぶん。

 

 以前なら匂いを感じ取っても自身の血を触媒とした魔法や術式を使っているのを見た事があった為それほど焦らなかった。ただ今回は違う。父によって防護魔法まで仕掛けられた本棚が倒れたのだ。あまりにも危ない研究だったら止めさせなければならない。

 

 今日もいつも通り、何のことはない、研究に没頭して図書館に引きこもっている妹にチェスをしながら、少し説教して次は気を付けるようにと言い残して此処を出る。

 

 大丈夫―――心配無い―――

 

 そう自分に言い聞かせながら歩を進める。

 

 

 しかしレミリアは忘れていた。一週間前に見たっきりというならその時、つまり一週間前に何かしらの要因があると考えても良かったはずだ。

 

 慢心していた。油断もしていた。心が緩みきっていた。

 

 自分の中に湧水の様に細々と、しかし延々に湧く不安や恐怖に似た感情に気付く事さえ無かった。気付く事が出来ないような僅かなものが湧いてきたのは自らが所有する能力故か、はたまた妹思いのレミリアが無意識のうちか。

 

 

 図書館をあらかた見て回ったがカルラの姿はどこにもなかった。

 ふと、レミリアは違和感を覚えた。

 

「・・・・・ん?何か違うわね・・・・・」

 

 レミリアは何か図書館にあったはずのものがない気がしたがそれがなんなのかは分からなかった。しかし今はそれほど重要な事には思えない。

 それにしてもどこに行ったのか?カルラを図書館以外で見たことが無かったし、血の匂いはそこらじゅうから漂ってくる。図書館にいることは確実だ。もう一回周りを探してみようと思った時、ふと見知らぬ赤い扉がある事に気付いた。

 

「いつからあったのかしら・・・・・?」

 

 少なくとも前にパーティをやった時には無かった。あれだけ騒いでいたのに目に留まらないという事は無いだろう。

 カルラがいるかもしれないと扉に歩み寄る。

 

 グジュ

 

「へ・・・・・?」

 

 カーペットまで赤いせいで気付かなかったが、よく見ると扉の隙間から広がるように濡れているのが分かる。そしてその液体は呆けているレミリアの鼻腔を妖しく刺激する。

 

 ーーー血液だったーーー

 

「カルラッ!」

 

正気に戻ったレミリアが焦った声でカルラに呼びかけながらドアノブを掴んで、回し、扉を開け放つ。そこに見えたのはーーー

 

 

 真っ赤な部屋だった。 

 まるで芸術作品でもあるかのような鮮やかな色だったがいかんせん目に悪い。赤は確かに綺麗だが、一面赤だらけというのも考えものだ。

 そしてその部屋の中央にはいつか見たソファーがあった。それは本来図書館にあるものでレミリアの『何か違う』という感覚はここからくるものだった。

 なぜ図書館にあったはずのソファーが此処にあるのかはわからないが、そこから崩れ落ちるように寄りかかっている少女の姿はレミリアを驚愕させるには充分だった。

 

 

 

 

 

 

 

そこには銀髪の少女ーーーカルラ・スカーレットではなく、

 

 

 

金髪でもう一人の妹ーーーフランドール・スカーレットがいた。

 

 

 

 レミリアの頭に欠けていたもう一つの事とは、

 

 

 レミリアがいつか見た運命という名の災厄がその身に降りかかるのは今日かもしれないという事だった。

 

 




 前書きでも書きましたがめっちゃ短いです。
 いつもの半分以下ですね(笑)
 後書きでは投稿が遅れたとか、次回はもっと遅くなるとか書いていたんですが、もう開き直って言い訳と読者さんにとって誰得な近況を書いていきたいと思います。

 というわけで今回はこの文字数を書くのに二週間近くかけましたね(笑)。
 他の作者さん達がいかにすごいかがよくわかりました。
 ただこれ以降の展開はかなり固まっているのでGW中に二話目標で頑張っていきたいと思います。

 それと作品紹介の部分に注意書きを付けたしました。
 この作品は東方projectの二次創作となります~~~って奴です。最初から入れておけばよかったですね。

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