Phantasm Maze   作:生鮭

23 / 40
昨日がちょうど投稿一周年。
いやーあっという間ですね!
まだ幻想入りしない亀更新に自分でびっくりしてます。

今後もよろしくお願いします。


中華系美人隠れ強キャラさん(前)

ーーーーバッドエンドとは何か。

 

 

ーーーー物語が不幸な形で終結することを指す。

 

 

 

 

 

 

ーーーーハッピーエンドとは何か。

 

 

ーーーー物語が幸福な形で終結することを指す。

 

 

 

 

 

 

今回選んだのはその2つのうちの1つ。

 

 

ーーーーベストエンドとは何か。

 

 

ーーーー物語が最高な形で終結することを指す。

 

 

 

 

 

 

『ハッピーエンド=ベストエンド』という関係は絶対か。

『バッドエンド≠ベストエンド』という関係は成立不可か。

 

そうとは限らないであろう。ハッピーエンドを選択すればバッドエンドが回避できて、バッドエンドを迎えてしまうことがベストエンドから最も遠くなる訳ではない。

 

最も良い結末(ベストエンド)はどちらからも生まれるのだ。

 

 

 

しかし俗世に存在しているほとんどの生命体は片方しか味わうことはできない。そりゃそうだ。人生は一度きりだから。過去に戻ることもできなければ未来を見てくることもできない。

 

そう、()()()()()()()()()

 

数少ない、もしかしたら唯一、世界の(ことわり)を超越するほどの存在である私の姉は、知っていたのだ。

この結末を。

 

姉と違い何も知らない私は分からない。これが最も良い結末であるのかなど。他に方法があったのではないかと思う。

 

別の結末を知る由もない私は口を挟めない。

 

 

 

 

ーーーーただ私に言えることは、この結末は間違いなくバッドエンドであることとーーーー

 

 

 

 

 

 

ーーーー私はこの結末を選択したレミリアに少なくない怒りを覚えているということだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

めっちゃ眠い。

 

レミリアにスカウトに行って来いと言われてから出発するまでの猶予は大体丸一日ほど。準備には十分な時間だ。

 

久しぶりの外出にあたって用意するべき事。それは武装だった。前回の外出で失敗した私は学んだのだ、外は恐いと。

 

さしあたり今の私には能力がある。フランの狂気と同じように使用できるのであればこれほど心強いものは無い。

 

月が見上げるほど真上に来た頃、試しにレミリアにちょいちょいっとお願いして血を貰ってきた。そしてそれをある程度能力を意識しながらくいっと小瓶一杯分くらい飲んでみる。すると魔訶不思議なことに見る見るうちに力がーーーーという事はなかった。

 

どうやらただ血を飲むだけでは能力は使えないらしい。血には濃過ぎるほどの十分な魔力が含まれているからいけると思ったのだがダメだった。マズい。あっさり行くと思っていたばかりに不安になった。

 

少し考察。一種の感染症である狂気は普通に魔力を取り込むのとは勝手が違うのだろう。狂気は私の中で薄れてしまうはずのものを無理矢理能力で押し留めている。そこだけは理解していたが以降さっぱりわからん。

故にレミリアと別れてからずっと自分自身の能力の研鑽に明け暮れていた。そして寝不足。

 

「あー眠い眠い眠い眠い。」

 

頭がろくに働かず思ったことがそのまま口から出てしまう。先程レミリアから早いうちに行くよう言われた。ふと窓を見ればまた月が真上にくるくらいの時間帯。

 

「五月蝿いわよ。早く行きなさい。」

「……魔女って寝なくていいのずるくない?」

 

一緒に図書館で話し合っていたオウレットの苦情を聞いてふと思った。なーんだって魔女は寝なくたってくまができる事も無ければ腹を空かせることもないのか。

 

得意げな顔でオウレットが鼻を鳴らす動作が癪に触る。

 

「魔女の特権ね。先人たちが残した叡智があってこそこんな無茶ができるってもんよ。ずっと研究してても疲れを感じないなんて、感謝してもしきれないわ」

 

オウレットが言うところの捨虫の術。これははるか前から魔界に存在する魔法であり体の成長を止めることができるのだとか。体が成長するのは寝ている時、体を休めている時なのでこの魔法を使うと寝る必要がなくなる、らしい。

 

取り留めもないことを考えているとまた欠伸が出かけた。

人前で大口を開けるのは躊躇われたので噛み殺して、今にも閉じそうな両目をゴシゴシ擦る。

 

「はぁーー…、ちょっと待ってなさい。」

 

呆れた顔のままなにやら言い残して奥に引っ込んでしまった。初対面の時は気付かなかったが意外とオウレットは表情のバリエーションが豊富だった。表情筋がピクリと動く程度だがみてればわかる。

 

数分後に戻ってきたオウレットが片手に持っていたのは赤黒い液体の入った小瓶。それを押し付けられた。

 

「……なにこれ?」

「これを飲めばたちまち魔力を補給できるわ。疲労も吹っ飛ばせるし研究の合間に私がよく飲んでいる奴。」

 

へー。何というか飲ませる気のない色をしたドリンクだこと。一番近い色で言ったらさっき飲んだレミリアの血液に当たるのだろうが、あれもかなり飲むのに抵抗があった。口に入ってしまえば甘酸っぱく、とても美味しいのだが。

 

というかこういう類のものーー栄養ドリンクーーとかはあまり信用していない。前世でも時々飲みはしたが効果としては疲労を飛ばすというより、先送りにするとか誤魔化しているに近いからだ。

 

人の身体は筋肉で動いている以上稼働量の限界値があるわけで、底が見えているものを多少誤魔化した程度では根本的な解決にはならない。

 

「んっ、んっ、ごくっ」

 

まぁ飲むけど。効果はあまり期待していないが、不安を和らげるくらいにはなる。

お外怖いからね、しゃーなしやね。

 

おおー、若干力が湧いてこないこともないような。そもそも私の疲労は魔力の枯渇ではなく単なる寝不足と知恵熱から来ている。あまり意味のあるものでもないが要は気の持ちようだ。

 

「ほら、飲んだならさっさと行きなさい」

「なんか冷たくない?」

「気のせいよ。」

 

どことなく素っ気ない態度を取られて少しだけへこむ。まぁほとんどつきっきりで研究の方を手伝ってくれたしそのせいだろう。時間を束縛されるのはストレスが溜まる。

 

「はぁーー……」

 

行きたくないなぁ。凄く行きたくない。

前世ではこんな時風邪とかインフルとかにかかるよう祈るのだけれど、生憎この身体では満足に病気になる事すらできやしない。

 

「魔道書よし、紙もよし、血も持った。」

 

いざという時の戦闘の要となる魔道書、目的の人物がいる座標の入った紙と契約書、レミリアから貰った血の入った小瓶。一通り確認したら出発するための魔法陣を展開。

 

「いってらっしゃい。良い報告を待ってるわ。」

 

気楽なもんだよなぁ。こちとら久々の外出で変に緊張してるのに。

 

まぁただの話し合いだから。スカウトに行くだけだから。まさか話がこじれまくって首を掻っ切りにくるとかあるわけない。

 

……まさかね。

 

……はぁー、どうか穏便に済みますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

転移した先は森の中。急に現れてはびっくりさせてしまうだろうし、失礼だから少しずらした場所に指定した。

礼儀を気にするなら真夜中に行くのもどうかと思うけれど。

 

周りには鬱蒼とした木々が生い茂り、時間も相まって真っ暗だ。耳を澄まさなくても虫の声が聞こえる程には静か。

というかこんな時間帯は人ならざるものが跋扈している筈なのだが、幼獣1匹見かけやしない。

 

ある程度足下は見えるものの少し怖い。

四方の安全を確保できていない中を歩くというのはどうも恐怖を煽る。物音が聞こえたかと思えば気のせいだったり、落ちている枝を踏み砕く音に敏感になってしまったり。

 

あーあ、行きたくないったら行きたくない。でも行かなかったら行かなかったでレミリアにどやされるし、何より1日帰ってくるなと言われている。今更引くにも引けない状況なのだ。

 

「行くか……。よしっ!……はぁ。」

 

自分を奮い立たせるために少し大きな声を出す。

しかしその声が森に吸い込まれて響く様子がないのでやる気も萎えてしまう。むしろ今ので腹を空かした獣がやってくるかもしれないことに気づく。

 

「んっ、んっ、ぷはぁっ」

 

景気付けではないけれど小瓶の中の液体を一気に飲む。甘美な味わいと共に能力を使えば体内に異物があることが確認できる。これを自身に馴染む前に隔離し、自分を近づけて()()にする。

 

これを飲む意味は単なる戦闘力の増加もあるが、初対面で舐められないためという意味もある。今の私は紅魔館の『顔』なのだ。

 

準備万端。目標に向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

「あれかな?」

 

目的の座標と思われるところに巨大な岩があり、その上で誰かが仰向けになっているのが見える。

 

めっちゃでかい。

最初の印象はそれ。私の身長が低いこともあるが、父と同じか少し大きいくらいのスレンダーな女性だった。茶髪に暗い色の服を着て鼻ちょうちんを膨らませている姿は、あまりに無防備で折角美人なのに少々勿体ない。

 

腹の辺りに手を置いて、規則正しく上下している。それさえ無ければ死んでいるのではないかと思う程度には微動だにしない。

少し近くによれば微かな寝息も聞き取れることから完全に熟睡しているのだろう。

 

見た感じ我が家で雇うメリットがあまり見当たらないように思うのだが。貴重な種族というわけでもなさそうだし、強キャラっぽくもない。

 

もっと顔をよく見ようと近づき、残り数メートルで身体に触れることができる程度の距離になる。

 

……ん?茶髪かと思っていたが、よくよく見れば若干赤に色素が寄っているな。だからなんだという話だけれども。

 

突然吹いた微かな風によってその髪がなびく。するとなびいた間から白く健康的な肌が見えた。本能的に思わずごくり、と生唾を飲んでしまう。

 

もっともっとよく見ようと、獲物を逃さないようにと忍び足で近づく。極上の食事は既に目の前。

 

 

……美味しそう。

 

 

だ、ダメだ。すごい失礼だとわかっていても食べたくて仕方がない。まぁ味見程度なら?しっかり熟睡しているっぽいし?起きたら謝ろう。……許してくれなかったらお詫びに一片も残さず頂こうかな。

 

「……いただきます

 

目をしっかりと閉じ、僅かな興奮に熱くなった頰をそのままに震える犬歯を近づけ首筋にーーーー

 

 

 

 

「ぐがぁっ!?」

 

 

 

 

次の瞬間、顎から後頭部に衝撃が抜け、世界が変わっていた。

 

森の中にいたはずが空に打ち上げられていた。

 

 

 

 

遅れてくるのは激痛。頭が揺れ、脳が揺れ、視界がぐるんぐるんする。

 

身体の中心を軸にくるくる回る。

 

遠心力で四肢が投げ出されるような勢いで引っ張られる。

 

上も下もわからず胃が浮遊する感覚ともに飛ぶことさえ忘れて落ちていく。

 

ーーーーは、吐きそう。

 

回転しながら猛スピードで落下するのは胃に優しくないな。いろんな物がリバースしそうだ。

 

って馬鹿馬鹿。今はそんなことを考えている時間じゃない。どの程度上空にいるのか不明だがいくら丈夫とはいえ致命傷は避けられないだろう。というか死ぬ。

 

えーと、瞬間的にさっきの場所まで転移ーーーー却下。そんなトンデモ技出来ないし万一出来ても落下速度のまま叩きつけられるだけ。重力には何人たりとも逆らえない。

 

自身の羽を広げて滑空ーーーー却下。方向もわからないまま広げたりしたら更に悪化しかねない。あと変な方向に曲がったりしたら絶対痛いからやりたくないし。

 

空中で身体をなんか凄い具合に反転させて地上で受け身ーーーー無茶言うな馬鹿。

 

 

 

あー無理。はい終わったー。第3部完。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまでは私だったらの話。

 

でも、そう言えば今だけ私はレミリアだった。魔力が、身体能力が段違いに跳ね上がっている。そしてそれは普段なら出来ないことも出来ることを示唆していて。

 

「……っ!止まれぇっ!」

 

ただの魔力だけ。なんの指向性も持たさずに全方位へクッションになるように放つ。

七曜の魔法が火や水、風に存在するように魔力は多ければ多いほど物質に干渉することができる。だからといってこんな使い方は非効率を象徴するようなものでしかないわけだが、今回ばかりは仕方ない。

 

「へぶっ」

 

結果として一瞬ふわっとした後に顔面からの着地に成功。

したのはいいが、魔力のクッションに乗っかった時のGで吐きそう。てか吐く。気を抜いたら吐く。

 

「おっ?久々に見る骨のある奴だね。」

「骨は大体の脊椎動物にあると思うな。」

 

鼻を強かに打ちつけたせいもあり顔全体がジンジンする。取り敢えず他人であっても初対面の人に見っともない姿は見せれないと、軽く服についた土を払う。

 

「……そういう意味じゃないんだけど。」

「ジョークだよ流して」

 

馬鹿真面目に対応されると恥ずかしいからやめて。

あらかた土を払いのけ、声のする方へ向けばそこには美人さんがいた。今さっきまで寝てたせいか半目なのが分かる。

 

……ん?自分の指でほっぺたをツンツンしている。可愛らしい。何か伝えたいのか?

 

「土、土」

「……あっ」

 

しまった。服にばっか意識がいってて顔を忘れていた。すぐに顔を背けて、近くの空間と紅魔館の洗面台を繋ぐ。そして転換。顔を洗いタオルで拭いて元の空間に戻す。この間実に30秒ッ!……遅っ。

 

「へぇー、妖術が使えるんだ。」

「……?」

 

したり顔で言われたが意味がわからない。

ヨウジュツ?どういう字を書くんだろう。こっちで言う魔法のようなニュアンスなのかな?

 

「あんまり子供を食べるのは趣味じゃないんだけどね。若い肉は美味いんだよ、特に生が。」

「そんな殺生な」

「……あのさぁ。」

 

なんだなんだ。そんなに呆れた顔を向けられる謂れはどこにも無いと思うのだけれど。

 

「ギャップが激しすぎない?」

「ギャップ?」

「例えば白虎がニャーって鳴いたら威厳も何もあったもんじゃないでしょ?外見相応にガオーって行くべきだと思うんだけど。貴女、外面と内面が違いすぎて調子狂うんだよね。」

 

外面……?あぁ、レミリア(仮)なったせいか。まじかー、今後交渉ごとに使うんだったら振る舞いも一々気にしてなきゃいけないのか。面倒くさい。

 

「しょうがないかー。」

 

目を瞑って言い聞かせる。私はレミリア、私はレミリア、私はレミリア。紅魔館頭首に相応しい振る舞いを。……よし。

 

「今までの非礼は詫びよう。私は紅魔館頭首代理、カルラ・スカーレットだ。」

「おぉ!」

 

好感触の感嘆詞が聞こえ興に乗ってきた。

 

「今宵貴公のもとを訪れたのは勧誘するのが目的だ。

現在紅魔館は深刻な人材不足に悩まされている。このままではいつ死にゆく恐怖から解放されるのか、いや、敵に滅ぼされることを想うのは頭首として可笑しいことだろうか。

 

私はそうは思わない。我が家の安全を、家族の安泰を望むのならば心配など尽きるはずはない。万策尽きるわけもない。

 

故にーーーー私はどんなことでもしよう。頭を下げよう。地に額をつけよう。足蹴にされても微笑んでいよう。

 

ーーーー問おう、我が紅魔館の一員になってくれないか?」

 

終始真面目な顔で話すのは疲れるな。でも放心したような惚けた顔を見れて満足している。良かった。これで痛いものを見るような目をされたら逃げ帰ってるところだ。

 

ふふん。なんたって私のカッコいい言葉の集大成だ。正直ノリで言っているだけなので多少は盛ってるし、もう一回は言えないだろう。でもカッコいい。ここ重要。

 

「……なんか多重人格かってほど別人みたいですね。おっと気がついたら敬語に」

 

ごめんそれ煽ってる風に聞こえる。

 

「それで、返事は?」

 

断られるともうどうしようもない。無理だったと言ってレミリアに謝ろう。ん?でもレミリアがここに送ったのは私が契約を取り付けたからなのでは?

 

「貴女のもとで余生を過ごすのも悪くないかもしれない。」

 

キター!!

 

「だが」

 

あ、ダメなやつだこれ。

今までの真面目な顔が獰猛な笑みへと塗り替わる。

 

「生憎と私より弱い主人を持つ気は毛頭ない。私を部下にしたいならば私より強者であることを証明して見ろ。」

 

そしてフラグは収束する。

 

「そして私は今腹が減っていてね。悪いけど私が勝ったら夜食になってもらうよ。」

「ここで散るのならば所詮私はその程度だったという話。望むところよ。」

 

お命頂戴(ガチ)ですね分かりません。

 

「そうそう、名乗るのを忘れていた。冥土の土産にでも覚えておくといい。私はーーーー紅美鈴という。

 

 

 

 

ーーーーいざ尋常に……勝負ッ!」

 

 




くれないみすずさんをいけめーりんにするかぬけめーりんにするかすごい迷った挙句真ん中になった。


ちなみに『貴公』は男が、対等以下の男の相手を指す語。なので使うときは間違った使い方をしないようにしましょう。
カルラは前世に聞いたことのあるノリで話してて、みすずさんはノリに飲み込まれているのでよく意味をわかっていません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。